ケーキなボクの冒険

丸めがね

その193

もう日も落ちるというのに、ダグラスはサンゴの町から出てすぐ横の山道に入る。「あの・・・もう山に入るには遅い時間だと思うんですけど・・・。明日にしませんか・・・?」不安そうにダグラスのマントを引っ張るリーフ。ダグラスは大きなたいまつと小さなランプしか用意していない。
ニヤリと笑ってダグラスは言う。「気を付けろ、俺から離れるな。町に近い低い山だが、時々狼も出るからな。お前なんか一口で食われるぐらい大きな奴だ」「ええっ・・・嫌ですよ!町に帰りましょうよ~」「ははは・・・ま、大丈夫だろう。それに、日が落ちてないと都合が悪いんだよ。」「え?」ダグラスは意味深なことを言いながらズンズン山道を歩いて行った。
30分も歩くと日は落ち、辺りは真っ暗になる。街灯の一つもない山道は想像以上に恐ろしい。
「ほら、あそこだ」怯えるリーフにダグラスは声をかけた。
すぐ目の前に、大きな木がある。「この木・・・ですか?」「そこだ」ダグラスが指さした方を見ると、木の根元に赤いキノコがあった。ダグラスはそのキノコに向かってなにか呪文のような言葉をつぶやく。
すると、キノコの中から小人が現れた。「わっ・・・!」驚くリーフ。大きさはスマホほどで、おじいちゃんみたいな顔をしている。「小人さんだ!初めて見た・・・!」小人は酷く不機嫌な顔をしてリーフを睨んだ。その小人がマッチ棒のような杖を振ると、今まで大木だったものが同じぐらいの大きさの塔に変わった。とても古く、てっぺんから鉄の棒が出ている細長い塔に。
「やれやれ。今年は騒がしいな」小人のおじいさんがしゃべったので思わずビクッとするリーフ。(しゃ・・・しゃべるんだ・・・)「じいさんありがとうよ。リーフ、これが”隠れ塔”だ。屈強な小人族に守られている、決して普通の人間が立ち入ることのできない塔さ」ダグラスが小人に金貨を1枚渡すと、小人はまたキノコの中に消えていった。

隠れ塔・・・
「あの・・・まさか今から、ここに入るんですか・・・?」ぎこちなく笑いながらダグラスを見るリーフ。「当たり前だ。何のために来たと思ってるんだよ。」しかし、塔の入口には頑丈そうな鍵が掛かっていている。「ダグラスさん、鍵とか持ってます?」「持ってない」「ですよね!じゃあまた後日・・・」とリーフが言い終わらないうちに、ダグラスは氷ネズミの手袋を脱ぎ、右掌のドラゴンアイから大剣を出した。「あっ・・・!」自分以外に、体から剣を出す人を初めて見るリーフ。リーフの青い風のレイピアとは逆に、燃えるような紅い大きな剣をダグラスは確かめるようにブンッと振った。熱い風がリーフの身体をかすめる。「よし」ダグラスはそのまま振り下ろし塔の入口の鍵を壊した。まるで小枝を手折るようにポキッと軽い音を立てて崩れる。
ギギギ・・・小さなランプをつけ、2人は地下に続く階段を下りていく・・・。

「そういえば・・・」狭いらせん階段を慎重に下りながら、恐怖を紛らわせるようにリーフが声をかけた。「そういえば、ダグラスさんは、囚われのアトラスさんがボクの救世主になるかもしれないって言ってましたよね・・・。それはどういうことなんしょうか・・・?」先を歩くダグラスは振り向きもせずに答える。「アトラスがここに幽閉されたのは、いまから200年前だ。」「200年!200年も生きてるんですか?!」「その前からずっと生きていたから、実際はもっと長生きしているはずだ。300年か、400年か、それ以上か・・・」リーフの頭には、さっき出会った小人のおじいちゃんがイメージで浮かんだ。「ずいぶん・・・おじいちゃんなんでしょうね」ダグラスはフッと笑ってリーフを見る。「あいつは、見かけは年を取らない。なぜなら吸血鬼だからだ。」「吸血鬼・・・・?!」リーフがこれ以上進む気が全くなくなった時、階段は終わり、頑丈な1の扉が現れた。

そのころ、アーサーとジャックはグレンの国に着いていた。怪我が治りきらないジャックだったが、アーサーを運び不休で飛んできた。
リーフたちが宿を取ったサンゴの町より北、シンジュの町で今夜過ごすことにする二人。「まずは・・・宿を探しつつ、リーフのことも聞き込んでみるか。ジャック、ご苦労だったな。お前はそこのバーで休んでいてくれ。」アーサーはハゲワシから人間の姿に落ち着いたジャックを、賑やかな酒場の隅の席に座らせた。「すまんな。オレは酒場の連中に聞いてみよう。あいつは良くも悪くも目立つから、いればすぐにわかるはずだ。」アーサーはうなづいて店を出る。ジャックは少し強い酒を頼んで一人飲んでいた。
その一杯を飲み終わらないうちに、すぐ横のテーブルが騒がしくなる。「オレの酒が飲めねーっていうのか!」「スミマセン…困ります・・・わたしお酒なんて飲めないんです・・・」下品な男の声とか細い女の声。ジャックが見ると、酒場で働いている女の子が男に無理にお酒を勧められているようだった。
女の子は金髪だが、気の弱そうな感じがどことなくリーフに似ている。「おい、その子嫌がってるだろ。無理強いは止めてやれ」ジャックは男に言う。男は酔いに任せて「うるせー!」とイキナリ殴りかかろうとしてきた。
いくら疲れているとはいえ、ツルギの国の王子アーサーと並ぶ剣士でもあるジャック、椅子から立つこともなく酒瓶一つで男を床に倒した。「あ・・・ありがとうございます・・・」涙目の女の子がペコペコ頭を下げる。そんな感じもリーフに似ていて、ジャックは思わず微笑んだ。「あの、お礼をさせてください・・・!わたし、フェイリーといいます!」


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