ケーキなボクの冒険

丸めがね

その179

瞬の唇が、大ちゃんの唇に重なった。
お酒の香りが敏感になった嗅覚を支配する。
「ん・・・」瞬がすることは乱暴だが、キスはその見かけ通り甘くて優しい。
(体が動けば・・・逃げられるのに・・・!)大ちゃんは必死で手足を動かそうとしたが、少しピクリとするだけでほとんど動かなかった。
無駄な抵抗をしている間に、瞬の唇と指は徐々に下に下がっている。大ちゃんの体に垂らしたお酒をすべて舐め取るように唇を這わす。
「気持ちいい?」甘い声で瞬がささやく。耳元に鳥肌が立つほどゾクッとしたが、大ちゃんは潤んだ目でキッと睨みつけた。
瞬はクスリと笑った。「さあ・・・今から本番だよ。今日は助けは来るかな・・・?」
(助け・・・)頭の中に大ちゃんの記憶が通り過ぎる。
”オレの名を呼べ!!”誰かが叫ぶ声。
”リーフ!”
「アーサーさん!!」大ちゃんは叫んだ。
「アーサーさん!助けて!」

「リーフ」と呼んだのは、瞬だった。「助けは来ないよ、リーフ。ボクは思い出したんだ。ボクたちがこうしないと、世界を救えないからね。」「世界を・・・?何を言っているの、瞬さん・・・?」

その日、助けが来ることはなかった。


朝、大ちゃんが目を覚ますとすでにそこに瞬の姿はなく、ベッドの横に着替えと、テーブルに朝食が残されていた。「あ・・・動く・・・」手足は自由を取り戻しているが、心の奥、気持ちが重い。体中に瞬の跡が残されている。
大ちゃんはシャワーを探した。大きな部屋かと思ったバスルームに、花を浮かべたジャグジーと金色のシャワーがあった。熱いお湯で体の隅々まで洗う。
男とは違う体、そして昨夜のことを考えると涙がこぼれた。「どうしてこんなことになったんだろう・・・これからボクはどうしたらいいんだろう・・・。」そして「どうして・・・あの赤毛の人は昨日は助けてくれなかったんだろう・・・」くやしい、そう思ってまた泣けた。
泣いている姿が鏡に映るのは白い肌の女の子。肩ぐらいの綺麗な黒髪、ピンク色の唇、大きな乳房。
大ちゃんは、もう二度と男に戻れないんじゃないかと思った。


真っ青な顔をした小次郎が、その部屋に飛び込んできたのは、大ちゃんが着替えを済ませて朝食を食べ、大きなソファーに膝を抱えて座り込んでいた時だった。
「大くん・・・!」「小次郎さん・・・。」
小次郎は、自分が用意していなかった白色のワンピースを大ちゃんが着ているのを見て、すべてを悟ったようだった。無言で近づいてきて、茫然と大ちゃんの前に立ち尽くす。
「小次郎さん、ボク考えたんですけど、これからはバイトでもしながら一人で暮らそうと思います。この体のままだと・・・学校にも戻れないし。あ、でも両親が心配するだろうから・・・病気ってことで納得してもらって・・・」無理に笑顔を作る大ちゃんの言葉が終わらないうちに小次郎が抱きしめた。
「キミは何も心配しなくていい・・・!すまない、すまない大くん、辛い思いをさせて・・・!キミを必ず守ると言ったのに・・・!今すぐ、ボクの妻になって欲しい。お願いだ!もう二度とこんなことはさせないから!」「小次郎さん、結婚なんてできません。ボクは・・・もう・・・」「言わないでくれ!」「いえ、聞いてください。ボクは昨日瞬さんに抱かれました。薬を使われて、何度も。だから、小次郎さんのお嫁さんになる資格なんてないんです。」「関係ない!大くんの責任じゃないんだ!」「でも・・・ボクは・・・」「大くん、ボクは多分、生まれて初めて本気で人を愛している。キミが誰に何度抱かれていようが、関係ない!ただ、キミを、愛している」「小次郎さん・・・」
小次郎は大ちゃんを強く抱きしめた。自分の腕の中におとなしく抱かれたままの大ちゃんを見て、自分の思いを受け止めてくれたのだと思う。そっとキスをした。大ちゃんは、瞬と違う硬くて大きい唇を震えながら感じていた。


「だってさ、姉さん。」カメラの映像を見せながら、瞬が美紀に話しかけた。「あの二人、ていうか小次郎さん、あの子と結婚するんじゃない?あそこまでして決心が変わらないんだったらもう無駄だって。」
モニターには、今まさに抱き合う小次郎と大ちゃんが写っている。小次郎はキスをしながら角度を変え、カメラを睨みつけた。
「うわ、小次郎さんこのカメラに気付いてるし!さすがだなぁ!だいたいこのホテルを一晩で突き止めるってのも神業だよ?!世界最高峰のセキュリティーで秘密厳守のトコなのにねぇ。」
「・・・ったく、小次郎相手にこんな舐めたことして、アンタ知らないわよ。神奈川家をもってしても厄介なことになるでしょうね。私は関係ないから!マジで!」ずっと黙って画面を見ていた美紀が口を開いた。「で、どうするの、姉さん。このまま小次郎さんがあの子と結婚するのを、黙って見ているわけ?」「まさか。」美紀がニヤリと笑った。「このアタシが夫と決めたのは小次郎ひとり。あんな娘一人どうとでもするわ。」部屋を出ようとして時、美紀は振り返り弟の顔をマジマジ見た。「アンタも結構本気に見えるけど?あの子の体、どうだった?」
瞬は天使のような微笑みで返した。「最高だったよ、姉さん。一度抱いたら忘れられない。小次郎さんがあの子を抱く前にどうにかした方がいいだろうね。あと、そう、ボクは本気だ。」


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