ケーキなボクの冒険

丸めがね

その173

「大丈夫かい、大くん!」
胸を押さえてうずくまる大ちゃんの肩をを小次郎が抱いた。
(まさか・・・また女の子に・・・)嫌な予感と鳥肌が立つような感触に全身が震える。小次郎は酷く心配して、「大くん、すぐに帰ろう・・・。病院・・・いや、ボクの家にでも行って・・・」と言った。しかし、大ちゃんは思う。(こ、こんな高そうなスーツをもらってしまったのに、ボクがパーティーに参加しないばかりか、小次郎さんまで連れて帰っちゃったら美紀さんに申し訳なさすぎる・・・!!)
小心者らしいことを考えている間に胸の痛みは治まってきた。「あ・・・大丈夫そうです、小次郎さん。お騒がせしてすみませんでした。」なんとか自力で立ち上がる大ちゃん。
「どうか無理しないで、大くん。辛くなったらいつでも言ってね。」小次郎は大ちゃんの頭を優しくなでた。
その時。
大ちゃんは パッ と白い空間を見た。その中に、紅い髪の男の人がいる。ニコリと微笑んで、大ちゃんの髪をなでるその人を、大ちゃんはよく知っている。懐かしさと、そのほか不思議な感情が胸の奥に流れ込んできて、大ちゃんの心臓がギュッと潰れそうになつて、涙が出てきた。
会いたい。
そう思った。
「大くん?」茫然と立ち尽くす大ちゃんに小次郎が呼びかける。
「ボク・・・行かなきゃ・・・」「行く?」
「こっちよー!!」美紀の声で我に返る大ちゃん。
真紅のシンプルなドレスを身にまとった美紀が駆け寄ってきた。
「ああよかった、ちゃんと来てくれたのね!さあさあ早く来て頂戴!ようこそ、私のドラキュラ城へ!!」「ドラキュラ城?」気が付くと、目の前には中世のお城のような建物がそびえ立っていた。

「ずいぶん昔に日本に移住してきたドイツ人が建てたという洋館を、父が買い取ったの。海が見えて、しかも森も近くて、眺めが最高でしょう?」美紀は建物の中を歩きながら簡単に説明してくれた。その洋館は、見かけはまさにドラキュラ城のように古めかしくおどろおどろしいが、内部はほとんど改装してあって、細かい設計は当時を再現し素材は最新のもので出来ている。「本当は当時のままで使いたかったんだけどね、水回りは最悪だし劣化は酷いしでこんなになっちゃった。改装にいくらかかったかなんてお父様には内緒だわ・・・」美紀はすっと伸びた足をスカートのスリットから覗かせながらケラケラ笑う。
「・・・ところで・・・」美紀は体ごと大ちゃんと小次郎に向きなおし、腕を組んだ。「あなたたち、引っ付き過ぎじゃない?!」
その通り、小次郎はほとんど恋人のようにピタリと大ちゃんに寄り添っている。いつ何があっても守ろうとするナイトのようだ。大ちゃんは恥ずかしくなってうつむいた。(ボク・・・一応男の子なのに・・・)
「大くんが男の子じゃなかったら、アタシ嫉妬で狂いそうになっちゃうでしょうね。ほんと。まあ、怪我させたんだから、仕方ないか。さあ、今夜はゆっくり楽しんでね!」
バッと大広間の扉が開く。
目もくらむようなまばゆい光のが飛び込んでくると同時に、生演奏のロックが大音量で聞こえてきた。
豪華な調度品や料理の中に、たくさんの華やかな若者が集ってる。お客らしき人が200人、スタッフは50人ほどいるだろうか。大ちゃんはその規模ときらびやかさにただただ圧倒された。
「すごい・・・今日は何の日なの、美紀さん?!」「え?ああ、今日はアタシが小次郎に告白する記念日なの!なんてね!」ようするにたいした名目はないらしい・・・。お金持ちのすることは分からない。

ものの30分もしないうちに大ちゃんはあまりの場違い感に疲れ果てていた。シェフが目の前で作ってくれる豪華な料理も、天井知らずな値段の飲み物も、遠慮しながらも結構食べたり飲んだりしてお腹もいっぱいになってしまった。(大ちゃん以外にがっついて食べる人もいなかったし)いつもそばにいてくれる小次郎がいなければ、10分で逃げ出していただろう。
アホな大ちゃんでも、ここにいる若者たちの凄さはなんとなくわかった。将来各界の一線で活躍を約束されているであろう、超勝ち組エリートたちである。(こんなふうに偉くなる人同士は繋がっているんだなぁ・・・)少し熱くなってきたホールの隅っこで大ちゃんはボーっとしながら考えていた。
そうこうしているうちに小次郎は人に囲まれてしまった。どうやら、というか当然のように、小次郎はこの優秀な集団の中でも一目置かれる存在らしい。
「小次郎さん、ぜひお話ししたいと思っていました!」「お会いできるのを楽しみにしていたんですよ!」「小次郎さんがいらっしゃるって聞いたから帰国しました!」皆が口々に小次郎に話しかけてくる。「申し訳ないが、今日は連れがいて・・・」「ボクなら大丈夫です、小次郎さん、ちょっとバルコニーに出て外の空気を吸ってきますね。ゆっくりお話ししててください。」大ちゃんはぎこちないお愛想笑いつつ、心配そうな小次郎を置いてそそくさ外に出た。
広い広いバルコニーには数人の男女がいたが、中よりマシだった。大ちゃんは少しほっとして深呼吸をする。「やっぱり庶民にはパーティーなんて向いてないなぁ」ちょっと苦笑い。
そして、少し考えたいこともあった。
(あれは誰なんだろう・・・?)白い空間の中に見た、紅い髪の男の人。
「あ・・・」大ちゃんはまた、胸の痛みを感じた。今度はさっきより強い痛み。「ああ・・・どうしよう・・・これは・・・小次郎さん・・・・」背中から冷や汗が流れ落ちる。胸に膨らみを感じた。体の中心が熱い。(女の子になる・・・)なるべく陰に隠れようとバルコニーの端に移動すると、そこに一人の男の人が立っていた。
「どうしたの?」アイドルのような男の子が、大ちゃんに声をかけてきた。

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