ケーキなボクの冒険

丸めがね

その163

「心配なのはね・・・」ロザロッソは、オリオンにロバートとともに乗っている。大の男2人をその背に乗せているというのに、全く疲れを知らず、信じがたい速さで走り続けるブルー王の愛馬オリオン。
しばらくは振り落とされないように苦労していた二人だがやがて慣れて、急スピードで移り変わる景色の中、話が出来るまでになった。
「アタシが心配してるのは、実はルナの方なの。」「ああ、あのコッペルトの巫女さんね。」ロバートは意外でもなさそうに言った。
「リーフのことはね、守ってくれるモノがたくさんあるからそんなに心配してなかったりするのよ・・・。ほら、結局はあの子天然だし。でもルナは、何かすごく思い詰めている部分があるじゃない?そのまっすぐな感じが心配で不安なの・・・。」
「・・・そうだな。でも、オレは、お前も心配だけどな。」「え?アタシ?」「気づいているんだろう?」「・・・・・・」
ロザロッソは親友ロバートの問いには答えなかった。


大空を飛ぶジャック。その手にリーフとルナを握っている。
「ルナ、大丈夫?」ジャックの飛行に慣れているリーフはルナに気を遣う。「はい」ルナは思い詰めた顔をして言葉少なく返事をした。その目は瞬きもせず地上を見ている。
「もしかしたらアリスたちに追いつけるかもしれないね・・・。そろそろホシフルの国の国境だから。」
一面雪だった山を越えると、ぽつぽつと緑が増え始める。山の表と裏で様子が全然違うことにリーフは驚いた。
(ああ・・・シャルルさん、無事かな・・・。あの、血だらけになって倒れているシャルルさんの映像が頭から離れないよ・・・。あれは今起こっていることなの?これから起こることなの?それとも、もうすでに起こってしまったことなの・・・?)
リーフの気は焦るが、休まず飛び続けるジャックをこれ以上急かすことはできない。
そのうち、大きな川が見えてきた。何人かの人間が川沿いの大きな道を歩いている。
ルナはますます身を乗り出すように地面を眺めた。「・・・いた!」リーフには見えないはるか先を見据えて、ルナがつぶやく。「え?アリスが?どこどこ?」
「ジャック、早く私を下ろしてくれ!!」ルナがジャックに向かって叫んだ。「ダメだ、今はまだ早い、まずは近場に降りて様子を見ないと危険だ・・・!」
「それではおそい!!奴は逃げる!」ルナは無理矢理ジャックの手から逃れようと暴れる。「ルナ!危ないよ!」リーフは止めようとするが怪鳥ジャックの右の手と左の手に掴まれているので、どうにもできない。
ルナはナイフを取り出して刃先をジャックの手に突き刺した。「ルナ!なにするの?!」「くっ・・・」
ルナの本気を感じたジャックが高度を下げると、ルナは怪鳥の手から素早く飛び降りた。
「ルナー!」低くなったとはいえ高さは5階建てのビルくらいはありそうだ。心臓が止まりそうになったリーフをよそに、ルナは大木の枝に絡みつき、その勢いで体を回転させながら地面に着地した。そしてすぐに走り出す。アリスの方に向かって、まっすぐに。
「ルナ・・・・!!ジャックさん、急いで追いかけて!!」「うう・・・」急にジャックがよろめく。「・・・どうしたのジャックさん・・・?」「ルナがさっきのナイフに何か塗っていたみたいだ・・・すまないリーフ、早く下りないとお前が・・・」「えっ大丈夫?!ジャックさん!ジャックさん・・・・!!」
ジャックは気力で飛びながら降下したが、茂みが見えた辺りで完全に意識を失い、リーフを抱えたまま落下した。リーフはその大きな羽に守られて無事だったが、ジャックは所々出血し怪我をしている。
「ジャックさん!ジャックさん!!」怪我は酷く意識もないが、呼吸が落ち着いていて命に別状はなさそうに見えた。
「ジャックさん・・・。前のケガもまだ癒えてないのに・・・。またボクをかばってくれたんだね・・・。崖の下の町に落ちた時もきっとこうやって、自分のことを考えずに・・・。ボクに、本当に癒す力があるなら・・・。」
リーフは怪鳥のままのジャックの傷口にキスをした。リーフの服や口の周りは血だらけになる。
ジャックの瞳が薄く開き、頭をあげたかと思うと人間の姿に戻った。そしてリーフの身体を抱きしめ、優しくキスをする。
「もう一度こうしたかった・・・。オレを許してくれるのか、リーフ・・・。」「許すも許さないも、ジャックさんは悪いことなんてしていないよ。ジャックさんはいつだって優しくて、誠実だったよ・・・。今日だって、来てくれて、助けてくれた。ありがとう、ジャックさん。」ジャックはもう一度リーフを抱きしめた。
「ああ・・・それにしてもルナは、どうしてこんなことをしたんだろう・・・?アリスを止めるという目的は一緒なのに、どうして一人で行ってしまったの・・・?」「たぶん、復讐だよリーフ。ルナはアリスを殺す気だ。」「そんな、1人で、ルナ・・・!」
リーフは気が付かなかったのだ。ルナが抱えるアリスに対する憎悪の炎の大きさに・・・。


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