ケーキなボクの冒険

丸めがね

その159

ブラックを大空に見送るリーフたち。
リーフがもらったブラックの羽を見て、商人ロバートは酷く羨ましがった。「いいなぁ、いいなぁ、神獣ブラックファイアードラゴンの羽なんて、お目にかかるだけでもたいしたモンなのに、本人から直接もらえるとはね!ブラックの羽は勝手に抜け落ちることはないんだよ、何故なら新しく生えることがないから。羽を抜くということは、自ら治らない傷をつけたっていうことだ。」
「え・・・そうなんだ・・・ブラック・・・。」
「どうだい、リーフ、オレにそれ、譲ってくれないかい?もちろんただとは言わねえ、オレの持つ金なら全部差し出すし、お望みなら商売道具の武器も宝石もくれてやる!」
「あらまあ、ふとっぱらねぇ!」ロザロッソが感心する。「ロバートの財産全部って言えば、死の武器商人と言われている父と並ぶほどの物よ!そこいらの国の王様より持ってるでしょうね・・・。まあ、もしそれを譲ってくれるのなら、父もそれ以上出すでしょうけど。」
リーフは笑いながら言った。「はは・・・残念だけど、これはあげられないよ。ブラックの気持ちがこもってるもんね。きっと、ジャックさんにあげたかったと思うんだ。だから、こんどジャックさんに会ったら渡そうと思ってる。・・・それに、お金をそんなにもらっても困るよ、ボク。」

「お話の途中申し訳ありませんが、先をお急ぎください。まずは町に行き、寒冷地用の服を買いませんと。ブラックではありませんが、このような寒さでは凍えてしまいます。」ルナもブラック同様に寒さが苦手な様だった。
服を買いに立ち寄った、ヒョウガの国最大の町であるむらさきの町で、ブルー王の容態が良くないことを聞いた。「ハエの化け物になった時のエリー姫の毒に犯されて、ずいぶん酷いけがをしていたけど・・・治ってなかったんだ・・・。エリーが元に戻れば、きっとみんなよくなるって思ってたのに・・・」白い正装、蒼いマントでリーフを見送るブルー王の姿を思い出す。「早く・・・、ブルー王に会わなきゃいけない・・・」

ヒョウガの国の城。変わらず青白く美しい城壁がそびえている。
「リーフ様!」門番に取り次いでもらい、リーフの到着を知った召使頭のバニイが駆けつけてきた。「リーフ様!よくぞご無事で・・・!よく、よくいらしてくださいました!・・・ああ、どれだけお待ちしておりましたことか・・・!」「バニイさん・・・」リーフは、母親のようなバニイに抱き付いた。
暖炉が燃え暖かい広間で、熱いお茶を飲む一行。「ま~、ホントに美しい、センスのいいお城ねぇ・・・!あちこちにある調度品の一つ一つ素晴らしくて、よくお手入れされてるわ!」ロザロッソがきょろきょろ見回して興奮している。
お茶のお代わりを注ぎながら、バニイが言った。「ありがとうございます。・・・代々の王をはじめ、ブルー王はたいへん細やかな感性をお持ちですから、すべてご本人がお選びになります。我が国のように極寒の地では、建物の中で過ごす時間が長くなるものですから、家の中の物にこだわるようになるのでしょうね・・・。」
いつものようにキリッとした姿勢でテキパキ仕事をするバニイだが、顔色が悪く元気がなかった。「あの・・・バニイさん、大丈夫?・・・あの、とても大切な質問なんだけど、このお城にアリスという女の子が来なかった?もしかしたらシャルルさん、ヒューさんという男の人と一緒だったかもしれないんだけど・・・。」
ガシャン!!
バニイは持っていたお茶のポットを落とした。「失礼を・・・・!」手が震えている。
「バニイ様、何かあったのですか?」鋭い目でルナが聞いた。
「・・・隠し立てしても仕方ありません・・・。お話します。リーフ様、アリスという少女は、おととい確かにこの城に来ました。男たちも一緒でした。ブルー王の体調は、その日までは大変良くなられていておりました。アリスの口からリーフ様のお名前をお聞きになられたので、3人にお会いになられたのです。ブルー様たちはずいぶん長い間、お人払いをし、お話になられておりました。そしてその夜・・・王は、アリスをご寝所にお呼びになられたのです・・・。」
「えっ・・・」心臓が冷たくなるようなショックを受けるリーフ。「ブルーさん・・・。」
ルナは「遅かったか・・・!」と舌打ちし、ロザロッソとロバートは顔を見合わせた。
「お許しください、リーフ様・・・!ご存じでございましょう、ブルー王が一身をささげ愛してらっしゃるのはリーフ様ただおひとりなのでございます・・・!わたくしは王をお止めしたのですが、そうすることがリーフ様のためであるとおっしゃられ・・・それ以上何も言えず・・・。そして翌朝から、ブルー王は酷く体調を崩されたのです・・・。」
「あの、ブルーさんに会えますか?」
「・・・王は・・・会えないとおっしゃっておりますが・・・いえ、お願いいたします、リーフ様!どうか王にお会いになって・・・王をお助け下さいませ・・・!」


リーフは一人、ブルー王の寝室に入る。
薄暗い部屋の中央に、大きな天蓋付きのベッド。
暖炉は燃えているのになぜだか部屋がとても寒い。
ベッドの薄絹の中に人影が見えた。しかし生気がしない。
「ブルー・・・さん・・・?」なんだかとても嫌な感じがして、恐ろしかった。心臓が不規則にドキドキする。リーフはゆっくり近づいて、そっとのぞき込んだ。
「!!!」そこには変わり果てた姿のブルーが横たわっていた。

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