ケーキなボクの冒険

丸めがね

その151

その晩、ロザロッソとリーフは同じ毛布にくるまって、一緒に眠ることにした。
暖かい季節になったと言ってもまだまだ夜は寒い。アーサーとジャックという荷物の持ち手がいない今、持ち物を最小限にしたために、寝具は薄い毛布一枚しかないのだ。
「もう、狭いわねぇ!ほらアンタ、ちゃんと毛布を腰まで掛けときなさい!風邪ひくわよ!」「うわ~、ロザロッソさんって、なんかいい匂いがする~!」ロザロッソの胸のあたりを嗅いで驚くリーフ。
「そりゃそうよ!アタシは最高級品の香油しか使わないんだから!」「香油?」「やだアンタ香油も知らないで生きてきたの?ホントに教養がないったら・・・。ちょっと待ってなさい、今見せてあげるから。」
ロザロッソは起き上がり、自分のカバンから黒い皮の包みを取り出した。皮を広げると、小さな瓶が五つ並んでいる。中には色のついた液体が入っているようだ。
「これが香油なの?綺麗だねぇ」リーフは目を丸くして眺める。
「そう。これらは、この大陸で手に入る限りで一番珍しいものなのよ。ただの匂いが付く液体じゃないわ。様々な効果があるの。」「えっ、どんな効果?!おもしろそう、ボクもつけてみたいなぁ」「お子様にはもったいないわよ!だいたいこれらは、そんじょそこいらの庶民が拝めるような品ですらなくてねぇ、まあアタシならいつでもどうにかなるけど・・・って!!おい!!」
ロザロッソが自慢話をするのに少し目を離したすきに、リーフは紫色の香油を一滴ピッと出して自分につけていた。
「おお~、フルーティ~な香り~」「アンタ!ちょっと勝手になにしてんのよ!どれ?どれつけちゃったわけ?」「えへ。これ。」紫の瓶を差し出す。
「アンタこれ・・・アタシでさえめったに使わないのに・・・」「どういう効果があるの?」リーフはトロンとした瞳でロザロッソを見ている。
(そういえば、さっき夕食でこの子にワインを飲ませちゃったのよねぇ・・・ぐっすり寝てくれるかと思って・・・)目の前でニコニコ座っている黒髪の巨乳チビが、ちょっとした酔っ払いであることにやっと気が付いた。
「も~なんでもいいでしょ!香油講座はこれでおしまい、早く寝なさい!」ロザロッソはリーフを毛布に押し込む。
リーフはモニュモニュ言いながらすーっと眠りに落ちた。
「ホントに面白い子ね、世話が焼けるというか・・・もう。どうしようかしらねこんな香油なんかかけちゃって・・・まあ、あたしたち二人なら何にも起こらないか。」ロザロッソも道具をしまってリーフの隣で横になった。
マシュマロのように全身柔らかなリーフから、ムラサキの香油の匂いが立ち込める。暖かくなった体温のせいでその匂いは一層広がった。ロザロッソは眠れない。
「やばいわ・・・アタシ、この香油のせいで・・・。」リーフを起こさないようにそっと起き上がった。
その時外から物音がして、洞窟に二人組の若い男が入ってきた。男たちはロザロッソと眠るリーフを見て、丁寧に言った。「これは失礼、先客がいらっしゃったとは知りませんでした。しかしもう日も暮れています、我々も今晩、ご一緒してよろしいでしょうか?」
(しゃべり方といい、身なりといい、身分の高いやつらみたいね)ロザロッソは男たちを値踏みしつつ、「ああ、どうぞ。ここは誰のものでもない旅人の洞窟だからな。」と言った。
こんな時にはロザロッソはあえて男らしく振舞う。面倒を避けるためだ。
男たちは会釈をしてマントを脱ぎ、ロザロッソたちと適当に距離を取って座った。
(だが・・・まずいかもしれない・・・)実は、さっきリーフが付けてしまったのは「誘惑の香」。世にも珍しい紫の猫から取れるという幻の香油だ。
その香油をつければ、どんな男も虜にしてしまうという・・・。(このアタシでさえこのチビにグラグラしちゃったのに、この男たちなら・・・)
リーフから放たれる甘い香りは、体温と焚火の熱で洞窟中に広まっている。
岩にもたれて眠ろうとしていた二人の男たちが、ゴソゴソとして何だか落ち着かない様子になってきた。
(う~ん、これは・・・何か起こる前に出ていった方がいいわね・・。)ロザロッソが荷物をまとめ始めた時、男たちが立ち上がった。
「なんだ・・・?」無言で近づいてくる男たちの目は、何かに支配されているように異常な感じがした。
ロザロッソはリーフを背中にかくまう。
一人の男が剣を抜いた。「おい・・・その女を渡せ・・・。」
「バカなことを言うな」すごむロザロッソ。
「俺たちは戦士だ。ケガしたくなかったらおとなしく女を寄越せ・・・。外で終わるまで待ってるがいい・・・。」
ロザロッソはフッと笑う。
「そのセリフ、そっくり返してやろう。」
「なにっ?!」もう一人の男も剣を抜き、2人でロザロッソに切りかかる。
ゴリッ
次の瞬間、男たちは倒れ込んだ。本人にも何が起こったか理解できない速さで。
「ごふっ」鼻から大量の血を流している。
いつの間にかナックルをこぶしにつけたロザロッソだけがその場に立っていた。「鼻をつぶしておいた。しばらくしたら香油の効き目も切れて正気に戻るだろう。悪いが、ここから出ていってくれ。」
敵わないと悟った男たちは、折れた鼻を押さえて転がるように洞窟から出ていった。


「死の武器商人の息子がやすっぽい戦士にやられるわけないっつーの!・・・はあっ、もう、つかれた~」いつものロザロッソに戻る。「男らしくするのって疲れるから嫌なのよね~」
そんな騒ぎにもまったく気づくことなくグウグウ眠るリーフを苦笑しながら眺めた。

あらためて、リーフの隣に横になる。小さな体から甘い香り。
ロザロッソはリーフの豊かな乳房をそっと触ってみた。「ん・・・」敏感なところに触れるとわずかに吐息で反応する。その声が、ロザロッソをさらに狂わせそうだった。

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