ケーキなボクの冒険

丸めがね

その143

翌日、リーフとジャックは二人で町を歩いた。
崖の下の小さな町なので、観光客相手以外のお店はあまりない。民家は、崖の下を流れる細くて緩やかな川沿いに点在している。今日は霧が少なく太陽がポカポカ気持ちいい日で、散歩日和。リーフは何を見てもキャッキャとはしゃいだ。2人の前をヒヨコが列を作って行進する。「うわぁ!可愛いよ、ジャックさん!」最後尾のヒヨコがコケて、列に戻れず大慌てしている。「お前みたいだな」と言いながら、ジャックはそっとヒヨコを戻してやった。リーフは優しい目でヒヨコを見守るジャックにドキッとした。(ジャックさんって、いい人だなぁ・・)
ニワトリを各家々でたくさん飼っているようで、飼い主不明の野良ニワトリがあちこち歩き回っている。日当りのいい高い土地にはお茶の葉が所狭しと植えられていた。

歩いていると、道行く人が二人にしょっちゅう声を掛けてくる。こちらは知らなくても、相手は全て知っているという感じだ。「もうケガはいいのかい?」「あんたたち夫婦なんだって?」「地下道の工事の様子はねぇ・・・・」
リーフも話しかけてくれる人にいちいち丁寧に答えているので、狭い町とはいえなかなか進まない。
「大丈夫か、リーフ。疲れたりしてないか?」「大丈夫だよ、さっきからそれ聞くの、10回目だよ・・・。ジャックさんは心配性だなぁ。だいたい、ジャックさんの方がケガは酷いんだよ。骨折に弓矢の傷。痛くないの?」
「ああ。特に骨折はだいぶいい。」
ジャックは小さなリーフの肩を抱いた。その大きな手の指先がリーフの胸に触れる。ビクッと反応するリーフ。
ジャックはそのまま人気のない狭い路地に連れて行き、リーフにキスをした。「ジャ、ジャックさん・・・!やめて、誰かに見られちゃうよ・・・。」「かまわないさ、夫婦なんだから。あんな反応されたら、我慢できない・・」
リーフは困っているが、拒否はしない。
真っ赤になるリーフに長いキスをしながら、ジャックは考えていた。(もし、リーフに記憶が戻ったら、この子はオレのことをどう思うのか・・・。夫婦と偽りこんなことをして、軽蔑するだろうか。)
しかし拒まない体の誘惑には勝てなかった。
(リーフが赤のドラゴンの欠片を集めなくていいのなら、オレだけのものにしてもいい・・・)抱き締める腕に力が籠る。
「いっ・・・痛いよ、ジャックさん・・・」リーフのか細い声にジャックはハッと我に返った。
長く、激しいキスでリーフはもうフラフラである。「す、すまない、つい・・・」「あ・・・ううん、いいよ・・。夫婦だもんね」
ニコッと笑うリーフをジャックは抱き上げて大きな通りに戻った。「ちょっ・・・!やだ、おろしてジャックさん、恥ずかしいよ!みんな見てる・・・!」「夫婦だから構わないだろう。お前もう歩けそうにないじゃないか。」
大男にお姫様抱っこされる小さなリーフが、腕の中でバタバタ暴れるのを、道行く人はほほえましく笑いながら見ていく。「ううっ・・・。ジャックさん・・・。」どうしようもなくなってジャックの胸で顔を隠すリーフ。その艶やかな黒髪にもう一度キスをする。
「仲がいいのね」
背後から声がした。
「エレーヌ・・・」ジャックが振り向く。「エレーヌ?」リーフがぴょこっと顔をあげた。目の前に、色気むんむんの美女が立っている。
「初めまして、奥様。わたし、そこの酒場で女主人をしているエレーヌよ。まあ、なんて可愛らしいんでしょう。子供かと思ったわ・・・。」コロコロと笑う。白い指先に赤い爪、髪をかき分けるしぐさも色っぽい。
「は・・・はじめまして。ボク、リーフと言います。ミナさんの宿屋でお世話になっています」リーフはなんとなく照れ笑いした。
「うふふ、そんなこともう町中の人間が知ってるわ。そうそう、昨日、ジャックがうちの店に寄ってくれたのよ。今日は奥様とどうかしら?」
「いや。今日は遠慮しよう。妻も疲れているんだ。」ジャックはその場を足早に立ち去った。残されたエレーヌ、
「ふーん。なに?あのチビの小娘は・・・。全然ジャックと似合わない。あれならどうにでもなるわね・・・。」と言って微笑んだ。


宿屋に帰ると、ジャックは力仕事を、リーフは赤ちゃんの世話を頼まれて二人はバラバラになった。赤ちゃんのボルトは、リーフが抱っこすると始終ご機嫌で全く手がかからない。それどころか、お乳の時間になっても泣き忘れてしまうので、慌ててミナが飲ませることもしばしばあった。
「ほんと、助かるよリーフちゃん!この子は本当にあんたが好きだからねぇ。ずっとここにいて欲しいぐらいさ。」「嬉しいなぁ。ボクもボルト君、大好きですよ!」赤ん坊の甘い香りをかぐだけで幸せな気分になれる。
「アンタたちも、早く赤ん坊作っちゃったらどう?ケガの具合もよさそうだしさ、あんまりジャックさんに我慢させちゃ可愛そうだよ!」「我慢・・・」ミナがリーフの腕をつつく。リーフの顔は耳まで赤くなっていった。
「でも、あの、ボク、そういう記憶がなくて・・・・。あの・・・。」「えっ・・・?そうかい、そういう記憶までなくなっちゃったんだ・・・。うーん。あ、そうだ、あとでお医者様があんたの様子を見に来てくれるって伝言があったから、相談してみると言いよ。」「クロード先生に・・・?でも、男の人にそんなこと・・。」「大丈夫!男ったってお医者様なんだから!」
そこにちょうど、医師クロードが宿屋に着いた。「さあ、リーフさん。診察しますから2階に行きましょう。」

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