ケーキなボクの冒険

丸めがね

その142

「どういうつもりだ・・・」ジャックはいきなりキスしてきたエレーヌを睨みつけた。
エレーヌは余裕の表情でふふっと笑う。
ジャックはさっさと階段を上がり、カウンターに酒樽をドンッと置いて店を出ようとした。
「待ちなさいよ、ジャック。あら、怒った顔もいいわね・・・。あたしあんたのことすごく気に入っちゃった。キスのこと、奥さんにばらされたくないならまたいらっしゃい。」
何も答えず足早に立ち去るジャックを、店の隅のテーブルで医師クロードが見ていた。

さて、宿屋にいるリーフ。
ジャックにキスされた唇を押さえていた。
(ジャックさんが旦那様・・・。思い出せないなぁ・・・。)さっき鏡で自分の姿を確認してみた。チビの巨乳・・・とりたてて美人と言うわけでもない。
(ジャックさんはハンサムで強そうだし、どうもボクと釣り合わないんだよなぁ・・・)すごく不安になる。

リーフは記憶は失ったものの、体の傷はたいしたことなかったので、なんだか退屈になってきたのだった。
起き上がって、手足指先体全体を動かしてみる。「良かった!全然大丈夫!」ついでにジャンプしてみる。体は軽いが胸が揺れて重い。「いてて・・・。」
リーフがドタバタしていたせいで、ミナが様子を見に来た。「あんた、起き上がって大丈夫なのかい?ジャックはちょっと外に行ってるみたいだけど・・・。」
「あ、ごめんなさい、ミナさん。ボクは大丈夫です。というか、元気になったから体を動かしてみたくて、つい暴れちゃいました。」「そうかい!良かった良かった!」「ミナさんには随分お世話になってますよね・・・。ありがとうございます!あの、なにかお手伝いできることがあればさせてください!ずっと寝てるわけにもいかないし。」「まだいいよ、無理しなくて。今後のことはジャックと相談しな。あ、子供が泣いてるから行くね!」
バタバタと子供のところに行くミナ。リーフは追いかけるように初めて部屋から出てみた。
リーフがいたのは宿屋の二階の部屋。木造二階建てで、二階部分の廊下沿いにあと4部屋あった。1階は宿泊客に食事を出す簡単なレストランと、ミナさんたち家族が住む部屋があるようだ。
ミナは1階の家族の部屋から赤ん坊を抱えて出てきた。赤ん坊は火が付いたように泣いている。「よしよし、可愛い坊やはどうしちゃったのかな~。おっぱいもおしめもちゃんとしましたよ~」忙しいミナはぐずる赤ん坊に困っている。
「ミナさん、よかったら赤ちゃん、ボクが抱っこしましょうか?」リーフが近寄って顔を覗き込むと、赤ん坊はきょとんとしてすぐに泣き止んだ。「あらっ?まあ、この子あんたが気に入ったみたいだね!じゃあちょっと抱いてみてくれるかい?」リーフが赤ん坊を受け取ると、可愛い声を立てて笑い始めた。「あらあら、まあまあ。あんた、意外な才能がありそうだね。じゃあ、悪いけど少しだけ見ていてくれるかい?あ、疲れたらすぐに言っておくれよ。無理はしないでね。」
そう言うとミナは宿屋の仕事を始めた。「そうそう、その子の名前はボルトよ!」
「ボルトくんかぁ。強そうな名前だね。」リーフはミルクの匂いがする赤ちゃんを優しく抱きしめた。
もやもやした気分のまま宿屋に帰るジャック。
「あ、ジャックさん、お帰りなさい!」赤ん坊を抱くリーフを見て腰を抜かしそうになる。「リーフ!お前、キスで赤ちゃんができたのか?!」「ええっ?」
それを聞いていたミナが、息も出来ないほど笑い始めた。「あ~っはははっ!!!ジャック、あんたおもしろいねぇ!!あんたの国じゃキスしただけで赤ちゃんができるのかい?そりゃ大変だ・・・あ~っはははは」
リーフもよく分からなくなって、あせって真っ赤になった。(き、記憶喪失のせいかな?!)「あ、あの、ジャックさん、この子はミナさんの赤ちゃんで・・・その・・・」「あ、そうか、そうだな!すまない、ついびっくりして・・・。」もじもじする二人。
ミナは笑いが収まらない中、リーフからすっかり眠ってしまった赤ちゃんを受けとって、「いいねぇ、新婚さんって感じでさ。さあさ、まあ2人で2階で休みな。あとでお茶でも持っていってあげるから。・・・本当に赤ちゃんでも作るっていうならお邪魔はしないけどね。」「やっ、もうミナさんってば!」リーフは2階に駆け上がった。

「調子がいいなら、明日は町を歩いてみるか?」ミナさんが持って来てくれたお茶を飲みながらジャックはリーフに声をかけた。なんとなく気恥ずかしいリーフはティーカップから口が離せない。
「・・うん・・・。」
沈黙・・・・。

「あのう・・・ジャックさん・・・。」
「ん?」
「ボクたち、いつ結婚したの・・・?」
「さ、最近だ。」
「あの・・・その・・・・」聞きたいことをうまく聞けないリーフ。目の前にいる優しそうな大きな男の人。茶色の瞳と髪、たくましい体。こんな人と自分が結婚したということが想像できないでいる。
「あの・・・結婚したってことは・・・ボクたちその・・・。あの・・・愛し合ったんでしょうか・・・。」
「それはもちろん・・・、え?あ・・・」リーフの言いたいことが、体を重ねたのかどうかということだとジャックはようやく気付いた。
「・・・それは・・・・。それは、徐々に思い出してくれ!!」
ジャックは取りあえず答えを逃げた。真っ赤になって目を潤ませ、自分を見つめるリーフが可愛すぎて何も言えなくなってしまったのだ。
嘘も、真実も。
ただ、「リーフ・・・」と名前を呼んで、自分の腕に抱きしめとことができる、その喜びを体中で感じていた。

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