ケーキなボクの冒険

丸めがね

その134

ツバサの国の王妃は3人の子を産んだが、いずれも女の子だった。そこからこの悲劇は始まったのだと、クルトは語り始める。
「長女カナリア、次女マーガレットはどちらも王妃に似て美しかったが、男子に勝るような才能もなく、いわゆる平凡な姫だ。三女エリーは、リーフ、キミも知っての通り。この大国の跡継ぎをどうしても婿ではなく血筋から残したかった王は、国中から妾となる姫を集めた。
美しく、強く、才能がある者。ある程度の家柄。それが条件だった。
ボクの母は田舎で暮らしていた、落ちぶれた貴族の娘だった。当時18歳だった母は、評判が城にまで聞こえるほど美しく賢く、武術にも優れていたらしい。
妾を探す命を受けていた城の者が、母の母・・・僕の祖母に大金を払って、母のことを半ば無理矢理城に連れてきたという。
自分から進んで妾になった姫、無理に連れてこられた姫、総勢30人が王のもとに差し出された。
それから一年、妊娠したのは母を含めて9人。さすがにその中の一人ぐらいは男子であろうと、王は喜んだという。
しかし。王妃・・・リンゼイ王妃の心中はいかばかりだっただろうか。嫉妬に己を失った王妃は我を失い、王の遠征中に恐ろしいことを実行してしまった。」

「恐ろしいこと・・・?」リーフはゴクリと息をのんだ。

「王妃は妾達を食堂に集めた。王妃は始終笑顔で、妾達に寛大な態度で接していたらしい。
そして豪華な食事が振る舞われた。王妃は言ったそうだ。
”遠慮なくどうぞお食べなさい。私がいては少しもくつろげないでしょうから、私は退席いたしましょう。人が入ってきては気が散るから、ドアも閉めましょう。”
食事会は楽しく進んでいった・・・はずだったが、まず二人、急に苦しみ始めた。ひとりは激しい嘔吐の末自分の内臓まで吐き出し死亡、もう一人は大量出血をして死亡。母を含むほかの妾達は、必死で助けを呼び求めたがドアは閉ざされて誰も来ない。しばらくすると暖炉の煙突から大きな犬が投げ込まれた。口からはヨダレを垂らし、毛は抜け落ち、目は充血していたという。明らかに腹をすかせた狂犬だ。コイツは柔らかな腹から胎児ごと3人の妾を食い散らかした。身重の母が何とか仕留めたのだが、遅かった。そしてやっとドアが開かれたのだが、入ってきたのは助けではなく絶望だった。棍棒を片手にした大男が2人、次々に残った妾を襲い始めたんだ。
口にもできない恐ろしい方法で凌辱された2人の妾は血の海の中死んでいったという・・・。母は、泣き叫ぶもう一人の妾を連れて逃げ出すのに精いっぱいだった。
走っているうちにその妾は、ショックのあまり死産してしまい、産んですぐ死んでしまったという。母はその死体を燃やし、赤子の死体をもって逃げた。
恐ろしい数の追手の振り切って逃げ込んだのは、ある民家の馬小屋だ。母もそこで出産した。
母は僕を隠し、追ってが追いついた時には、死んだ赤ん坊を抱いて狂人になった女を演じた。


母は狂人として城に連れ帰られ、他の妾を殺した罪を擦り付けられて拷問にかけられた。
王に対する言い訳として、妾達が死んだ事件の首謀者が必要だったんだ。もちろん王妃以外のね・・・。
そして母は、女の子を産んだショックでほかの妾に嫉妬し、男子を産ませないように殺したのだと言わされた。
そして処刑の朝・・・・。」
「クルト・・・こわいよ・・・。」リーフは震えた。
「母は憎しみのあまり泉の者になってしまったんだ・・・。」

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