ケーキなボクの冒険

丸めがね

その120

そのころ、赤毛のアーサー王子は、リーフたちがいるドゴール村にほど近い山のふもとの、カナン村に来ていた。
農業中心の村なので小さいが、交易が盛んな通り沿いなのでそれなりに大きく、賑やかである。東西のいろんな珍しい商品が店先に飾られているのは見ているだけでも楽しいものだった。
アーサーは適当な宿屋を見付け、馬を置いて、煙が上がった方向に歩いた。
あの煙は、リーフに渡した煙球に間違いなかったのだが、どこを探してもリーフはいなかった。剣を教えてほしければいつでも呼べと、リーフに渡した煙球。
「おかしいな・・・。このアーサー様が飛んで来てやったっていうのに・・・。お前が呼んだんじゃなかったのかよ」
近くに小さな子供が何人か遊んでいる。
「なあ、坊主たち!黄色い煙が上がる草の玉、使ったやつ知らないか?」「しってるよ!だってぼくたちだもん!」「はあ?」「母ちゃんが市場で買ったってお土産にくれたんだ!地面に叩き付けたら黄色い煙が出ておもしろかったよ!」
アーサーは子供たちが教えてくれた市場に行ってみた。所狭しと物が並ぶ、怪しげなお店である。アーサーは、ここが盗品を扱う店だとピンときた。実はリーフたちを襲った山賊が品物を売るのに御用達の店なのだ。
タバコをふかした、浅黒い肌の目つきの悪い痩せた店主の男がじろりとアーサーを見る。一目でアーサーを”タダものではない”と判断したようだ。アーサーは何気ない調子でさびた短剣を手に取った。店主はうすら笑いを浮かべる。
「お客さん、そんなボロボロの役立たずの剣なんかでどうする気だい?」店主は自分のわきに置いてあった幅広の剣を構えた。
アーサーはさびた剣を大きく一振りする。すると剣の錆が吹き飛び、こぼれた刃が修復し、光り輝く美しい短剣になった。
たった今煮えたぎった窯から取り上げたような。
これこそが赤の欠片の一つをその体に持つ者、アーサーの特別な能力だった。
アーサーはあっけにとられている店主の首に素早く刃先を押し付ける。
「オレはツルギの国のアーサー。ツルギとともに生きる一族の男。さあ、聞きたいことがある。明日の日の出を見たけりゃ隠さずしゃべるといい。」
店主は降参した様だった。


その頃リーフたちは、山賊のアジトを出てツバサの国へ向かっていた。
さすが山賊、普通の旅人が通らないような小道を熟知しており、リーフが地図で進もうとしていた道より3日は早くツバサの国へ着きそうだった。
二頭の馬に、リーフとヒュー、シャルルが乗っている。リーフは、本当はシャルルと乗りたかったのだが、ヒューがダメだと言って自分の前に強引に乗せた。
馬に揺られながらリーフがシャルルの方を見ると、いつだってシャルルは天使のような微笑みを見せてくれ、ねぎらいの言葉をかけてくれる。「大丈夫?リーフ、辛くない?寒くない?疲れてない?」
(・・・赤の欠片を持つ人の一人が、シャルルさんみたいな優しい人で良かったな・・・。そして多分、ボクの初めての人になるんだろうな・・・。)そう思うと顔が赤くなる。ヒューは面白くなさそうだった。
「ったく、シャルルがどうしてお前みたいな色気のないガキを抱かないといけないんだよ」そのことに関しては何も言い返せないリーフ。確かに、シャルルとは天使と庶民くらいの次元の違いを感じている。
「・・・スミマセンね、相手がボクで。それにしても、ヒューさんはずいぶん・・シャルルさんがお好きみたいですね。全力で守っているというか・・・。」「守る?オレがシャルルを守るって?」ヒューは馬上で大爆笑した。「あのな、リーフ、そうか・・・、お前はシャルルのことを知らなさすぎる。シャルルは・・・。あいつのこと教えてほしいか?」「はい!知りたいです!」
ウオッホン!
シャルルが隣で咳払いした。「やめなさい」の意味で。
「わかったよ、シャルル。」ヒューは肩をすくめる。しかし小声でリーフに耳打ちした。
「知りたければ教えてやるよ、今夜。」

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