ケーキなボクの冒険

丸めがね

その88

一方ブルーは、エリー姫に監視されたような生活を送っていた。着替えと寝る以外、四六時中側にいる。
ブルーが国の政治にかかわることをしているときも横にいて、さらに口を出してくるので皆困っていた。しかし大国、ツバサの国の姫だと思えば、強く言える者はいない。
エリーは困り果てているブルーにこう言った。「早く婚儀のことを決めて下されば、わたくしその準備に忙しくなって、このようにお側にばかりいることもなくなりますわ。」
ブルーはリーフに会いたかったが、ここ数日、顔さえ見ることができないでいる。ベイドから、リーフが馬小屋で働いて寝起きしていることは聞いていた。
「エリー姫、気分転換に明日は馬に乗って、ご一緒に遠出でも致しましょう。」「まあ、嬉しい!ブルー様からお誘い下さるなんて!では早速、衣装と馬の手入れの手配をいたしますわ!」エリーは大喜びだった。ブルーはただ、リーフに会いたいだけなのだが・・・。


「おつかれさま、リーフ!ちょっと休憩しよう!」「は~い」
馬小屋のリーフ、思ったより楽しく働いていた。そもそも動物好きの世話好きなので、性に合っていたらしい。気難しいと言われているエリー姫の金馬でさえ、リーフにはなついてくれた。
「リーフ、キミは本当に一生懸命働いてくれるね。助かるよ」「ううん、クルトの半分も役に立ってないよ。ボク、馬に乗るのは全然ダメだったけど、お世話するのは大丈夫みたい。」
2人は乾いたわらの上に腰かけておしゃべりをしている。ちゃんと働いて、同い年ぐらいの子と話したりして、すごく充実してるなぁと思うのだった。
クルトはとても素直で優しく、そして多分頭もいいのだろう、友人としては最高の男の子だった。いつもリーフと目が合うとニコッとしてくれる。
クルトはリーフの顔をじっと見た。「リーフ、キミは買われてここに来たって聞いたけど、家は貧しかったの?」
「う、うん。兄弟が多くて、小さい弟や妹が食べるのが大変だから、少しでもお金を稼ぎたくて。」この設定はクルクルが考えてくれていた。
「そっか、えらいねリーフは。まあ、ボクも似たようなものだけどね。でも君はとても可愛いんだから、どこかのお金持ちと結婚すればいいのに」「え~無理無理、じょうだんっ・・・ボクは馬の世話のほうがいいや・・」2人はケラケラと笑い合った。
そこに、エリー姫の召使がやって来た。馬小屋の匂いが嫌いなのか、くさそうに鼻を押さえて、あからさまに嫌な顔をしている。「明日、姫様がサンダーにお乗りになります。きちんと調子を整えておくように」ツンツンした女の人はクルトに言うことだけ言って去っていった。
いい機会だと思い、リーフは聞いてみた。「ねえ、クルト、エリー姫ってどんな人なの?」
クルトは黄金の馬、サンダーを撫でながらちょっと考えた。「うーん・・・。リーフも会ったことあるなら分かると思うけど、いつも不機嫌で怒りっぽくて意地悪で、難しい人だよ。」
そこまで言っていいの、ってほどはっきり言うクルト。
「でもね、ボクは、そんなに悪い人でもないと思うんだ。ボクは馬の世話をしてるから分かるけど、サンダーは姫様のことがとても好きみたいなんだ。馬は正直だからね、本当に悪い人には心を許さないもんなんだよ。少なくとも動物には優しい方だよ。」
「ふーん・・・。」意外な一面だった。でもそうだとすれば、呪われた”泉の者”にならなくてすむ方法があるかもしれない。リーフに光が見えてくる。

さてどうするかと考えていると、リーフの背中をツンツンつつくものがいる。「ん?」先日生まれた仔馬だった。「仔馬ちゃん、どうしたの?遊んでほしいの?」そうだ、と言わんばかりにリーフに鼻を摺り寄せてくる。
黒い仔馬はリーフにとてもなついて可愛い。「はは、遊んであげなよ。それはそうと、その子に名前を付けてあげなきゃね。リーフがつけてあげて」「えっ、いいの?」大喜びで仔馬とじゃれてはしゃぐ。
「馬に名前を付けられるなんて、夢だよな~。どうしようかな~。黒いから・・・。」
「黒いから?」
「クロちゃん!」
まんまである。クルトは笑い出した。「リーフらしいなぁ。でも、クロちゃん、いいんじゃない?覚えやすいし。クロちゃん、早く大きくなってリーフを乗せてあげて。」
クルトはクロちゃんの頭をナデナデした。ついでにリーフの頭もナデナデする。
リーフは思わず顔が赤くなった。心臓が・・・ちょっとドキドキする。
(なんだろう、この気持ち・・・。)初めての感情だった。


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