ケーキなボクの冒険

丸めがね

その76

暖炉の前、ブルーはリーフを毛布でくるんで話し始めた。
「私は27年前、ヒョウガの国の第2王子として生まれた。その時には5歳の兄と、2歳の姉がいた。」
ヒョウガの国は北の大地。十分な作物も家畜も育たない。ただ鉱山と芸術品、兵力が豊かで、それを資源にして他国に輸出し、外貨を稼いでいる。
他国とは主に南端のグレンの国、そして大国ツバサの国。
そんな国の王子として生まれたブルーは、幼い時に養子という名の人質としてツバサの国に行かされた。それが7歳の時だった。
すでに姉、カナシャは同じ理由でグレンの国で生活しており、5歳年上の兄は次期王としてヒョウガの国を父王、母女王とともに守っていた。
だからブルーはあまり本当の家族と暮らしていない。

ブルーの行ったツバサの国には王女が3人いて、ゆくゆくはそのうちの一人の姫と結婚する予定だった。姉カナシャも、グレンの国の王子と結婚することになっていた。
そのカナシャの、グレンの国第一王子との婚約が決まった翌日、事件が起きた。
ヒョウガの国にいた王、女王、兄王子が暗殺されたのだ。

急遽ブルーとカナシャはヒョウガの国に帰り、調べた結果、ツルギの国とホシフルの国が関係していることがわかった。

「・・・あとは、お前も見たとおりだ。ホシフルの国に話し合いに言った姉上は、あのような無残な姿になって帰ってきた。そこで今度は私が、ホシフルの国に潜入したのだ。布商人になり、ムラサキの町で店を買って、様子を探っているときにお前が来た。あの時店を襲ってきた5人組の男たちは、私の正体に気付いたホシフルの国の兵士たちだった。」

リーフは少し長くなった話をじっと聞いていた。「そう・・・。色々大変だったんだね、ブルー。でもボクが・・・」
ボクが知りたかったのは、もっと違うことだった。ブルーが何が好きか、嫌いか、悲しい時どう思ったのか、嬉しかったのはどういうときなのか、そういうこと。そしてリーフのことをどう思っているのか。
でも聞けなかった。
聞くのも女々しい気がするし、ブルーが自分のこれまでを話してくれただけでも凄いことだし。
しばらくの沈黙の後、ブルーはリーフを毛布ごと抱き上げてベッドに運んだ。(もう、覚悟を決めるしかないのかな・・・。)ギュッと目を閉じる。
ブルーは小刻みに震えるリーフに言った。「ここに、眠りの薬がある。これからのこと、お前がつらければ、これを飲みなさい。次に目覚めるのは朝だ。」
「眠ってる間に・・?」それなら、何も感じなくて済むかもしれない。
「ください、それ」リーフは魔法の瓶のような薬を受け取って、飲んだ。
「しばらくしたら意識がなくなるだろう」
「・・・」まず目がトロンとしてくる。ブルーはリーフを寝かせてキスをした。いや、とか、いやじゃない、とかいう感情も薄れてくる。
ボーっとする頭でリーフはしゃべり始めた。「ブルーさん、今度はボクのことを話しますね・・・。ボクは、本当は日本という国で生まれて・・・・・・・・・・・・」


ここからリーフが覚えているのは、ブルーの綺麗な髪だけ。裸になった自分の胸の上で彼の頭が揺れていた。



朝。朝が来た。目が覚める。洞窟の中なのにどうして分かったかというと、白い小鳥が籠の中でで鳴いたから。「コケコッコー」
「コケコッコ?」
白い小鳥はよく見ると、小さなニワトリだった。

「おもしろいなぁ、インコみたいなニワトリがいるんだ。」
リーフがもっと近くで見ようとベッドの上で起き上がる。
「あ・・・」リーフは裸だった。ブルーはいない。あの、眠りの薬の瓶だけがベッドの横の小さな机に置かれている。
「そうか・・、うん。終わったんだろうな」泣かないと決めたからか、実感がないからか、不思議と悲しくはならなかった。太ももにある妖精の紋章が熱く感じたので見ると、形が少し変化していた。
「ブルーのドラゴンの欠片を吸収したんだ・・・!」リーフは確信した。
こうなったら、もう男(?)リーフ、腹をくくるしかない。欠片を集めて赤のドラゴンを復活させ、黒のドラゴンから世界を救う勇者になろう!と決心する。「そういえば、この世界はもともと”ファイナルドラゴンファンタジア”のゲームの世界だったなぁ」ちょっとおもしろくなるリーフ。こんな形でも世界が救えるならいいじゃないかと思う。
振り切った気分のリーフがインコニワトリの籠まで歩いたとき、扉が開いて、ブルーが入ってきた。小鳥を見るリーフに微笑む。「それは朝告げ鳥だよ、リーフ。結婚の翌朝に夫が妻に送る風習が我が国であるのだ。」
「ふーん・・・。ん?結婚?」
「お前を、ほかの男に触れさせない方法があるかもしれない。だから私の妻になりなさい、リーフ。」

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