ケーキなボクの冒険

丸めがね

その68

「クルクル・・・?」
リーフには、人間になったクルクルが少し大きくなったように見えた。
「ねえブルー、リーフを傷つけない約束でしょう?」
クルクルはリーフの横にひざまづき、突き立てられたナイフを抜き取る。そこから血があふれ出てきた。リーフの声にならない悲鳴があたりに響く。
クルクルがその傷をペロリと舐めると、すぐに痛みが消え、傷口がふさがり、どんどん治っていった。
「あ・・もう痛くない・・・」リーフは驚いてクルクルを見た。彼の口の周りは、リーフの血で真っ赤に染まっている。それをぐいぐいとと手で拭う。
「もう大丈夫だからね」ニッコリと笑うクルクル。ブルーは茫然と、側に転がっている血の付いたナイフを見つめていた。
リーフは自分の足の傷がふさがったのを確認し、脱がされたズボンを履きなおした。
「クルクル、君は一体何者なの?」
「森の大賢者だ」クルクルの代わりにブルーが答えた。
森の大賢者・・・それは、不死鳥のような存在。ヒョウガの国やその周辺の国に伝わる伝説の存在。彼らには死も生も存在しないと言われている。永遠に生きるが、100年に一度体が転生する。100歳になると体が硬くなり、さなぎのようになり、3年ののち生まれ変わって出てくるのだ。その知識は継続され、何万年もの知恵を持っているという。
「森の大賢者は魔法も使え、未来も読めるし、このように変身もできる。ただしここにいる大賢者は転生して日が浅いらしい。まだ力を使いこなせないようだ。」
ニコニコしてリーフにひっつくクルクル。ほんの子供のようで、とても大賢者には見えない。
「どうして・・・クルクルはブルーにボクのことを話したりしたの?」「見えたの、未来が。リーフはブルーと来なければいけなかった。でないと、死んでいた。」
(ここにいても死にかけましたけど?)と思うリーフ。しかし何万年も生きてきたという森の大賢者、正しいのかもしれない。
「ボクはリーフのことが大好きなんだよ。リーフのお菓子も大好きなんだよ。」
「・・・お菓子が好きなだけでしょ・・・」
「お菓子?」
「いいでしょ、ブルー。ボクは食べたいんだよ」ブルーも大賢者クルクルには逆らえないらしい。「わかった」とだけ言った。
お腹もすいたし、クルクルの強いリクエストもあり、リーフはお菓子を焼くことにした。寒い中生真面目に働く家来の人も集めて。
リーフはカスタードパイとアップルパイを焼いた。男たちは最初は恐る恐る、でも一口食べればどんどん食べた。クルクルは壺の前で焼きあがるのを待ち構えて、一人でカスタードパイをワンホールも食べる。
ブルーも食べた。「美味しいな・・・。我が国は北の大地、なかなか作物が育たず、食生活は貧しいものだ。皆に食べさせることが出来たらな・・・。」民を想う王の、やさしい表情だった。
もしかして、あのかわいそうな姉のことがなければ、ブルーは優しい王様だったのかもしれないとリーフは思う。
その夜は湖のほとりで休み、夜を明かす一行。
翌日は晴れて、リーフはブルーの馬に乗せられ山越えをするのであった。
恐ろしい影が後ろから迫ってきているとも知らずに。


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