ケーキなボクの冒険

丸めがね

その3

 正座する小さいおじさん。50代と思われるその表情は 、空腹で苦渋に満ちている。
大ちゃんの手には 焼きたてのクッキー。
そして大ちゃんは、お腹がすいてる小動物に弱かった。ハムスターから金魚まで、ちょっとでもお腹がすいたような顔をしたらすぐにエサをあげてしまう。 
大ちゃんはクッキーを一枚、おじさんに手渡した。
「あちっ」
案の定焼きたてチョコチップクッキーは熱かった。
しかし小さいおじさんはハフハウしながらクッキーにかぶりつく。 おじさんの口元からクッキーの粉がポロポロこぼれるのを見るにつけ、大ちゃんは正気に返った。
「あの、おじさんだれですか?ていうか、なに ですか?!」
「お茶。」
質問をまったく無視してお茶を所望するおじさん。クラスの雑用が体に染みついている大ちゃんは、すばやく冷蔵庫から麦茶を出して、コーヒーミルク用の小さいピッチャーに入れてあげた。 
小さいおじさんは、あらかたクッキーを食べ、口に残ったチョコチップを麦茶で流し込むと、大ちゃんに向き合って話し始めた。

「わしゃ 神様だ。」

どっかで聞いたセリフである。そう、YOU TUBE あたりで見たドリフの動画で… は、いいとして、

「かっ、神様???!!!!」
大ちゃんは小さいおじさんを凝視した。神様・・・は、こんな休日のサラリーマンみたいな恰好をしているのだろうか。そもそもお腹がすいて困るだろうか。てか、ウチのキッチンで行き倒れるだろうか。
「わしに気にせず、クッキーの続きを焼きなさい。超美味しかったからお土産に持って帰ろうと思う。」
神様おじさんは超図々しいことを言い出した。が、大ちゃんは言われるままクッキー第二弾をオーブンに押し込む。そしてまた振り向いて確認・・・やっぱり神様はテーブルに座っていた。今度は、心なしかさっきよりふんぞり返っている。
神様おじさんは大ちゃんをじっーーーっと見て言った。
「クッキーの礼じゃ。お前が望む、願い事をかなえてやろう。」
「ほんと?????」
大ちゃんは内心恩返しを期待していたので喜んだ。そして、昔から考えていた、「こんな時、こう聞かれたらこう答えよう」というお願いを急いで言った。
「魔法使いにしてください!」   オールインワンな願いである。
「無理」   即却下された。
「それはお前、スーパーでお母さんに、おやつを一つ買ってあげるよーって言われて、じゃあスーパー買って~って答えるみたいなもんだぞ」
「うっ」
わかったようなわからないような正論で神様に諭される。大ちゃんはう~んと考えた。この質問に第二案はないが・・・何か言わなければもったいない。

いやいやまてまて、それなら男らしくカッコよくなりたい。うんうん。勉強やスポーツは頑張ればそこそこ出来るが、外見は変えられない。背が高くて細マッチョで、ハンサムなのがいいな。
具体的なイメージは・・・今スマホのアプリゲームではまっている、ファンタジーRPG「ファイナルドラゴンファンタジア」の主人公、アーサーがいいな。強くて優しくてイケメン、仲間が多くて女の子にモテモテだし。
アーサーの周りにはたくさんのヒロインが出てきて、ユーザーに人気の女の子が何人かいるが、大ちゃんが一番好きなのは、ヒロイン人気投票でいつも20位以下という地味な姫だった。
チビで童顔でおっよこちょいで、どこか自分に似ていたから。でも優しいいい子なのである。どうせ主人公のアーサーや、人気の剣士ダグは、メインの人気ヒロインとくっつくんだろうけど、大ちゃんはこの小さい姫にも幸せになってほしかった。常にパーティーに入れてレベルを上げてあげたり、可愛い装備を買ってあげたり。
いつの間にか大ちゃんの頭の中は、小さい姫リーフのことでいっぱいになった。
その間およそ2分。相手は神様。
「よしわかった。」
「へ?」
大ちゃんが何も言わないうちに、神様は分かったことにした。
「そなたを、小さい姫リーフにしてやろう!」
「へっ?????」
心を読むならもっと奥まで読んでほしい所。神様はちゃちゃっと済ませたかったのか、さらっしか読まなかった。

「姫じゃなくて・・・・・・・」
否定する間もなく、大ちゃんの周りに竜巻のような空気の渦が巻き起こった。何かが起こっている!神様が本物なら、アーサーじゃなくて、リーフになろうとしている?!
ドジで間抜けでおっちょこちょいの、何のとりえもない可愛い姫・・・自分に似た・・・

「せめて!せめて巨乳にしてください!!!」
大ちゃんはとっさに叫んだ。

 

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