皇太子妃奮闘記~離縁計画発動中!~
6話 大事なことを忘れてました!
私とネネはあまりにも驚いて息をするのを忘れていた。
「ぷはぁ!」
とりあえず深呼吸をした。
そして、改めて猫ちゃんを見た。
いや、猫ではなく
「黒ヒョウ····」
キース隊長は私の言葉に頷いた。
「そうです。野生の黒ヒョウです。黒ヒョウ自体が希少ですね。普段は森林の奥深くに生息しており、めったに見かけることもありません。」
「·····」
「多分、そのこは仔ヒョウでしょう。」
「赤ちゃんなの?それにしては大きいわ。」
私の言葉にキースはクスリと笑い
「黒ヒョウの成体は三メートル近くにまで大きくなります。私も実際は一度しか見たことはないのですが、かなり大きいです。それにしても小さな仔なので、恐らくは親を殺されたのかと····」
「まあ!」
親が殺されたなんて!
「それは分かりませんが、こんな小さな仔ヒョウを一匹で歩かせることなどないと思いますので。足のケガは親を探して歩き回っている時に襲われて出来た傷でしょう。」
「·····」
可哀想に····
「アリア様、黒ヒョウは野生に帰すべきだと思います。それに、もしかしたら親は生きていて、その仔を探しているかもしれません。」
キース隊長は私の手を取り、キース隊長の大きい手で私の手を包み込むように握ってきた。
「で···ですが、この仔の親が本当に居なかったら····」
確かにキース隊長の言う通り、本来なら野生に帰すのがいいのだろうけど····。
私が悩んでいると、キース隊長は握っている手に力を入れた。
そして私は決断した。
「キース隊長、私はやっぱりこの仔を飼うわ。」
「アリア様!」
キース隊長は困惑した顔で私を見つめた。
「やはり、親がいるか分からない状態で、森に帰すことはできないわ。」
私は真剣な目でキース隊長を見つめた。
しばし、私たちは見つめ合って···キース隊長から目を反らした。
「····分かりました。アリア様がそこまで決意が固いのであれば仕方がないですね。」
「ありがとう!」
私は笑顔になり、今度は私からキース隊長の手を握った。
キース隊長は少し驚いた目をして、すぐにうっとりした顔になり、ゆっくりと自分の顔を私の顔に近づけてきた····
「ウホン!」
ネネが咳払いをした。
キース隊長は、ハッと、我に返り
「では、これで失礼します!これから出発しますので!」
馬車からそそくさと出て行った。
さっきのは何だったのでしょう?
「キース様はもしやアリア様狙い?」
ネネは何かぶつぶつと独り事を言っている。
「ミィー」
黒ヒョウの赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。
私は急いで黒ヒョウの赤ちゃんの元へ行った。
黒ヒョウの赤ちゃんは一瞬ビクッとして
「グルルゥ」
唸ってきた。
「大丈夫だよ。これから一緒に居ようね。私がそばいてあげるよ。」
私は脅かさないように揺りかごの手前で止まり、じっと黒ヒョウの赤ちゃんを見つめた。
黒ヒョウの赤ちゃんは徐々に唸り声を小さくしていき、そのタイミングで噛まれる覚悟で目の前に手を出した。
黒ヒョウの赤ちゃんはしばらく私の手を見ていたが、クンクンと臭いを嗅ぎ、舌を出してペロッと舐めてきた。
やった!
私は嬉しくてもう片方の手で頭を撫でた。
黒ヒョウの赤ちゃんは気持ち良さそうに、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「アリア様、良かったですね!もっと暴れて、慣れるまで時間かかると思ってました!」
「ええ!」
それから後は、私たちは黒ヒョウの赤ちゃんに振り回された。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
黒ヒョウの赤ちゃんは「ピューマ」と名付けた。
ピューマの食べ物は何か分からないので、肉をあげたが食べず、乳も牛のをあげたら一口舐めて飲まず、最後にヤギの乳をあげたら、一心不乱に飲んだ。よほどお腹が空いていたらしく、「ミィーミィー」と催促され、何回もお代わりをした。
コイル村に着いたらヤギの乳を分けて貰わないといけないわ。
かなりの量をもってきたが、そんなにもたない気がする。
ピューマは私の膝の上で寝るのが好きらしくしょっちゅう乗ってくる。
私はピューマを撫でながら観察した。
耳は丸い。猫の耳の先はとんがっているから確かに猫とは違う。舌はざらざらしていて舐められたら少し痛い。
まだ小さいのに身体に見合わない牙をもっていた。よく見ると手足もがっしりしていてとても太い。
成体になったらかなり大きくなりそうだわ····。
そんなことを思い耽っていると、
「アリア様、そろそろコイル村に到着するそうです。」
「そう。分かったわ。ありがとう。」
コイル村は我が国の領地。なので、キース隊長やランクス副隊長は有名で、特にキース隊長は顔が知れ渡っていた。
国を逃亡した流れものや、所謂盗賊などをよく討伐部隊で各地に回っているからだ。
キース隊長は我が国では5本指に入るくらい剣術が強くて有名なのだ。
急に馬車が停まった。
どうしたのかしら?
私が小窓を覗くと、キース隊長がこちらへ向かっていた。
私はすぐにネネに馬車のドアを開けるように指示をした。
「失礼します。」
入ってきたのはキース隊長とランクス副隊長だった。
二人が座るのを見て話かける
「どうかしたのかしら?」
「はい。確認をしたく。」
「???」
私は分からずネネを見たが、ネネも首を傾げた。
「一応商人の一行となってますが、アリア様か、ネネ殿のどちらかが、商人登録をされてるのでしょうか?あと、商人の商会の名前もコイル村に言わなければなりません。それで····どうかなさいましたか?」
私とネネは、きっと真っ青な顔をしているに違いない。
「····してないわ····」
「え?」
キース隊長が前のりになり聞き返してきた。
「····商人登録してないわ···そもそもそんなの必要なんて知らなかったわ。」
「「はああ!?」」
キース隊長もランクス副隊長ものけ反って驚いていた。
「ア、アリア様!それは本当ですか?」
ランクス副隊長が我を思い出したのであろう、聞いてきた。
「ええ。そもそも、そんな仕組みがあるなんて知らなかったわ。」
キース隊長もランクス副隊長も呆れた顔をした。
だが、キース隊長はすぐに真顔になり対策を言ってきた。
「とりあえず、コイル村なら何度も行っているので交渉してみます。」
頼もしいわ!キース隊長!
「本来なら村に入る為には身分証明になる商人ギルドカードが必要になります。まだ我が国の領地だから良いものの、リンカーヌ王国には通用しません。コイル村で商人ギルドに行き登録しましょう。」
「ええ、そうね。ごめんなさい···」
私はシュンとした。
落ち込んだ私を見て、キース隊長はオロオロしはじめて
「いや!その!知らなかったのですし、仕方がありません。コイル村で登録すればいいことなので!」
手振り素振りで慰めてくれた。
ランクス副隊長は私の元へきて、私の肩を抱き
「大丈夫ですよ。確認して正解でした。コイル村に着く前にわかって良かったじゃないですか。」
満面の笑顔を私に向けて、反対の手で私の手を握ってきた。
「ありがとう····。」
「では、行きましょう。ランクス副隊長。」
キース隊長はさっきとうって変わり、むすっとした顔でランクス副隊長が私の肩に置いていた手をぐいっと持ち上げ離した。
ランクス副隊長も不機嫌そうにキース隊長を睨む。
「やだ!火花散らしてるぅ!」
ネネがぼそっと呟いて面白そうにニヤニヤしている。
····ネネ····貴女はキース隊長狙いではないの···?
二人は馬車から下り、馬車が動き始めた。
「はあ。」
またやっちゃった。
私が落ち込んでいると、
「ミィーミィー」
ピューマが私の足元にきた。私が手を出すとペロペロと舐めている。
「ピューマ、慰めてくれてるの?」
私はピューマを抱っこし、もふった!
ちょっと埃くさいけど、
「柔らかーい!気持ちいいー!」
ピューマのお腹に顔を埋める。毛は凄く柔らかくて気持ち良かった。
ピューマは最後の辺は嫌がっていたが、私はコイル村に着くまでもふもふを満喫していた。
おかげで落ち込んだ気持ちを浮上したわ!
ありがとう!ピューマ!
落ち込んでいても仕方がない!コイル村に着いたらやるべき事をやらなくちゃ!
私は気持ちを新たにコイル村へと向かった。
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