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全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

39話 幻舞vs飛鳥

 

 -“BOS”校内選抜戦三日目、月島学園第四訓練場、展望テラス-


「今日は飛鳥と幻舞の試合以外見所なさそうね」

「だな。つか、なんで俺の試合は受けなかったくせに飛鳥のは受けてんだよ!」

「そんなの、あんたより飛鳥の方が強いから以外ないでしょ」

「なっ…」

 千鹿の揶揄からかいに拓相は言い返そうとしたが、図星だった為に言い返す言葉も見当たらず思わず俯いてしまった。

「えっ…私、そんなつもりじゃ…」アタフタ

 予想外だった拓相のしおらしい反応に、当事者である千鹿は分かりやすく動揺した。

「拓相くん、ほんとは武闘家と戦ってみたいだけだって。月島くんが言ってたからほんとだよー。だから、ねっ」

「そ、そうだよな。わりぃな。こんなしけた空気にしちまって…」

「全く…いつものテンションと落差ありすぎなのよ。おかげでこっちがテンパっちゃったじゃないの」

「千鹿ちゃーん!」ムッ

 空気が読めないどころの話じゃない千鹿の発言に、口調は変わらなかったものの撫子は珍しく憤りを感じている様子だった。

「ありがとな。撫子…俺は大丈夫だから試合観ようぜ!」

「…」

 校内戦一日目。月島学園の全校生徒を唖然とさせた衝撃の出来事が起きた。その張本人である拓相は、結果でしか何が起きたのかを理解できていなくその後は一度も出来ていない為、それが自分の実力ちからとは認められずに今も、いや、以前以上に千鹿や楓達との差にコンプレックスを抱えていた。


 -同施設、舞台-


「<青拳突きブレイズフィスト>」ズドン

「おっと」ヒョイ

「なぜ攻めてこないんですか?試合が始まってからもう10分になります。観てる皆さんもそろそろ飽きてしまわれるかと思うんですが」

「この短期間でここまで仕上げてくるとは…流石にがいいな」

「何のことですか?」

「今までも何人かに“クールカン”を渡してはみたものの結果は散々で正直お前にも期待はしてなかったんだけど。まさか<空隙星ステア>をここまで使いこなすとはな」

「最初から知っていたんですね」

   <空隙星>。有機物、無機物問わずありとあらゆるものの『隙』を星の輝きで大小までもを浮かび上がらせる魔法。この魔法の『隙』に該当するのは、単純な弱点から始まり防御の薄い部位や防御の間に合わない部位など、その数は十数種類にも及ぶとされている。
 つまり、この魔法を食らうということは着ていた防具を全て脱がされるのと大して変わらない事なのである。

「せっかく月島君も知らない事を僕だけが知ってると思っていたのに…最初からハンディキャップを背負っていたんですね。これ以外に僕の勝機はありませんし、もう…ここまでですかね」スッ

「…どうしたもんかねぇ」

 飛鳥は、幻舞が<進行阻害パワーブロック>を使用していない事に賭けて、右手を挙げ口パクで『降参』と言う事で油断を誘おうとした。
 しかし、そんなハッタリが幻舞に通じるはずもなかった。

(こっちとしては困るが、降参ってんだから終わらせてやれb…)

「なるほどね」

 実況・解説者席下の電光掲示板を見た幻舞は、何か分かったかのようにニヤリと笑った。

「どうしたのでしょうか月島選手。急にこちらを向いて不敵な笑みを浮かべました。これは嫌な予感しかしません。試合を止めてもいいですか?かける先生」

「黙って見とけ」

「「「あはは」」」

 つまらなそうな空気が漂っていた展望テラスから、桜田 香華さくらだきょうかの実況によって笑い声が沸き起こった。

「やはり、君相手に小細工は通用しないみたいですね。こんな形で使ってしまうのは惜しいですが、仕方ありません。此岸を漂う生霊いきりょうよ、我に集いし魔の力より、我、信楽 飛鳥の容姿を複写せよ<反魂香影はんこんこうえい>」

 約百年前、物によっては何十字も必要とした長い魔法の詠唱は、壱華家の発見した一種の魔力制御の方法で驚くほど短縮された。
 最初は壱華家の卓越した魔力制御能力でしか使う事ができなかったが、長い年月をかけながらも人は進化を重ね、今では殆ども一族が扱えるまでになった。
 しかしまだ発展途上。古来から伝わる詠唱魔法は、長い詠唱が故に一度に取れる対象物の数やその種類、対象範囲など現代の無詠唱魔法より優れている点も少なくない。

「これは幻影じゃねぇな。こいつ、霊に肉体を与えやがった。どっかの世界じゃ禁忌とか言われてなかったか?それ」

 幻舞は手を広げてやれやれとジェスチャーをした。

「行くぞ!幻舞」タッタッタッ

 分身と本体飛鳥が幻舞の方へ向かっていった。

「隙を確実に狙えるから一発の重さより数で着実にダメージを稼ぐってわけか…やっぱりお前に渡して正解だったみたいだな」スッ   スッ

 幻舞は喋りながら軽々と飛鳥の攻撃を避けた。

「さっきからずっと気にはなっていましたが、今やっと確信に変わりました。月島君、わざと隙を作っていましたね?一人の時でも完璧に避けることは出来ないはずなのに君はそれをいとも簡単にやってみせました。そんな人があんな大きい隙を見せているのはおかしいです。でも、人間誰しもと思っていたかったんでしょうね…」

 それまで飛鳥に見えていたのはが一つだけだったが、分身を作るとそれは二つになった。
 そこで薄々感づいてはいたものの、幻舞と実力がかけ離れすぎている為にまだ確信へと変えることはできず飛鳥は星めがけて攻撃を続けた。しかし、幻舞がそれを軽々しく避け、星は数を変えずに場所を移動するだけ。分身を作る前と全く変わらないこの光景が、飛鳥の疑問を確信へと変えた。

「<風の真剣カマイタチ>」

「…っ!」キン

 一度は笑いが起きたもののその後も試合展開は変わらずシーンとしていた第四訓練場に、金属と金属がぶつかり合うような高い音が響いた。

「“蒼天あおあまつ”起動…本気で来い!飛鳥」

「…分かりました!蒼炎をまとえ“クールカン”」

 飛鳥の分身は消え、二人の手に持たれた得物は共にあおく光り輝いていた。

「<見えない斬撃マッハシュナイデン>」

「魔法拳術<先鋭反撃カウンター>」

 二人の魔法発動タイミングは全く一緒だった。
 幻舞の太刀を左手で受け流した飛鳥がその勢いのまま反対の手で攻撃を試みたが、その手を交わした幻舞が大きく一歩後退して二人の間にはまた空間が出来た。

「「「うおぉー!」」」

 展望テラスの熱気が最高潮に達した。

「<見えない斬撃>」

「<先鋭カウn…>」

 またしても二人の魔法発動タイミングは全く一緒だった。
   <空隙星>の得意とする場面は攻撃ではなく防御。
 隙を見つけることは鍛えればさほど難しいことでも無ければ伸び代も無限と言っていいほどだが、一方でを見つけるとなってもいくら鍛えたところで感覚を掴むことすら出来ない。その為、相手の動きで攻撃の来るであろう方向を予測して構える。
 つまり、自分の隙も踏まえることで相手に依存するしかなかった防御面の予測精度を増す。それこそが<空隙星>の真骨頂である。
 しかし、幻舞ほどの魔法発動速度と攻撃速度で攻めてこられては一点張りをしなければ防ぎきることは出来ない。元々知られていたとは言え、その一点張りによって構えが変わり新しく出来た隙を幻舞に狙われた。

「なぜ最初からしなかったんですか?」

「何回負けてもいいから一回の情報戦に勝て!誰かさんの受け織でな。まぁ、そういうこった」

 知っていながら飛鳥の<先鋭反撃>の一発受けた幻舞の真意とは…


 -“BOS”校内戦三日目終了後、帰路-


「飛鳥。なんでさっき『降参』なんて口パクで言ったりしたんだ?もう終わっちまうのかって一瞬ひやっとしたじゃねぇか」

「あぁ、あの時ね。どうしたのかと思ったらそんなことがあったんだ」

「すみませんでした。あの様な卑怯な手を使うなど、せっかく試合を受けてくれた月島君にも同じ武闘家にも顔向けができません」

「何もそこまで…」

 飛鳥の大袈裟な発言に、その場にいた皆は引いていた。

「なるほどね…まぁ、気にすんなって。闘いなんていかにズルするかみたいなもんだろ」

「そうそう。それに、こんな異次元相手に少しぐらいズルしたってそんなのノーカンよノーカン」

 千鹿は私怨のこもった口調で幻舞に言った。

「まぁ、聞こえてたから幻舞君には意味なかったみたいだけどね」

「前にも言いませんでしたっけ。戦闘時は基本的に耳聞こえてませんよ。無駄に魔力を使いたくありませんので」

「確かに言ってたような…でも、それだったらちょっとくらい動き止まったっていいんじゃない?」

「そう言われましても…」

 確かに、飛鳥がズルそこに活路を見出さざるを得ないのも幻舞との実力差を見ればしょうがないと言える事だった。
 しかし、クーウィルの魔法呪いがかかった聴覚情報を、たとえ普通に聞こえていたとしても不確定な情報として全く信用しない幻舞の抜け目のなさを知っていれば、そこにすら活路が無かった事を飛鳥も分かっただろう。

「それにしても、相当イタいことするわね。飛鳥君」

「「「確かに…」」」ポワンポワン

 皆、頭の中でそのを想像した。

「急に口パクで喋り出すのは」

「相手も『え、いきなりどうした?』ってなるよな」

「ちょっ…笑わせないで」

「あははは」

 そのシュール過ぎる光景に感想を口に出して述べた。笑いが堪えきれずにそれぞれ口やお腹を押さえながら…

「笑わなくたっていいじゃないですか。僕だって一生懸命考えた結果それしかなかったんですから」

「だからこそじゃない…あはは」

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