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全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

38話 猛虎起つ

 

 昨日さくじつ鳳従姉弟おおとりきょうだい二人の見事な勝利によって幕が上がった月島学園“BOS”校内選抜戦。二日目からは、第二訓練場以外に第三から第七までの訓練場も使って円滑に行われる。


 -“BOS”校内選抜戦二日目、月島学園第二訓練場-


「本日二日目の第二訓練場では全10試合を予定しております。その中でも注目なのは、なんと言っても三年生きっての実力者二人、校内ランク第2位神代 遥かみしろはるか選手と同じく5位冷泉寺 風月れいぜんじかずき選手です!神代 遥選手は、会長や水川みずかわ学園の茅戸かやと選手などと共に一年時から“BOS”本戦に出場するなど、この世代最強の一角と言っても過言ではないでしょう!一方の冷泉寺 風月選手は、先ほどの三人にも匹敵する程の実力者で、昨年の“BOS”バトルオブセマナでは、本戦ほか一族戦にも出場するなど名門冷泉寺家の中でもその実力は折り紙つきだそうです。では、そろそろその注目選手の一人、冷泉寺 風月選手の試合を始めさせて頂きます!」


『let’s strike on』フォーン


「冷泉寺流固有魔法“冷却フリッジ”より、<青蓮地獄アセチドウバラ>」

「…」カチカチ

 結界魔法によって守られている展望テラスと術者である冷泉寺 風月の周辺を除く、訓練場の大半の空気が一瞬にして冷気に包まれた。やられた相手がピクリとも動けなくなるほどに…


『ピー』


「しゅーりょー!勝者、冷泉寺 風月選手!なんと、二日目の校内戦は昨日よりも早い決着での幕開けです。昨日の会長に引き続き実力の差を見せつけました。まさに圧倒的!これは、本日最終戦の神代 遥選手への期待も上がってしまいます」


 -同刻、第四訓練場展望テラス-


「ねぇ、三年生の一試合目もう終わったんだって」

 その訓練場での試合結果は他の訓練場にも知らされる。丁度今、『第二訓練場、冷泉寺 風月選手勝利!』の文字が映された電光掲示を千鹿が指を指した。

「冷泉寺 風月か…さすがにランキング上位なだけはあるな」

「随分と上から目線だね。月島」

「そんなのいつものことだろ。それにしても、こっちは全く試合が進まねぇな。早く次の撫子の試合が見てぇのに」

 第二訓練場が早くも二試合目を行おうとしているのに対して、第四訓練場では両者が全く仕掛けようとしないダラダラとした試合が行われていた。


 -同刻、第三訓練場-


「三年生、もう終わったのか。じゃあこっちもそろそろ…かがり流固有魔法灼熱バーニングより、すべてを燃やす炎プロミネンス

「水属性放出系魔法<飛燕水簾ひえんすいれん>」

「「「うおぉー!」」」

 第三訓練場ではまだ試合が行われていたが、第四訓練場とは違い展望テラスも盛り上がるほど熱い試合が繰り広げられていた。

「炎属性放出系魔法<火球ファイアボール>、炎属性変化系魔法<追尾する剣スネークソード>合技、<火球爆散コスモブレイク>」

「ガハッ!」


『ピー』


 炎による範囲攻撃で水属性魔法を誘い煙幕を作り、そのままタイムラグ無しの剣での攻撃。
 相手はCランク上位の強敵な上に魔法属性が水で相性最悪だったが、蓋を開けてみれば試合運びで常に主導権を握り続けた篝 愛紅美かがりめぐみの圧勝と言える試合だった。


「「「うおぉー」」」

 一方その頃第四訓練場では、なんと、第二試合の撫子の試合が終わって第三試合が始まろうとしていた。
 なんでも、『遥先輩の試合に間に合うようにちゃっちゃと終わらせよう』だとか。
 対戦相手に敬意を払いなさい!…これまた失礼しました。


 ・


 ・


 ・


「さぁ、一番最初に最終戦が行われることとなった第四訓練場まで移動しまして実況しますのは、もちろん私桜田 香華さくらだきょうかでございます。一年生の皆さん、あと二、三人募集中です!」

「「「あはは」」」

「今はとりあえず実況しろ!」バシッ

「「「あはは」」」

「イタッ…さぁ、気を取り直していきましょう!」

(((なんだその切り替えに速さは…)))

「二日目一年生の最終戦はなんといってもこの人。風早 千鹿選手!言わずと知れたあの“ミラージシュバリエ”です。今日はどんな剣術を見せてくれるのでしょうか。」


『let’s strike on』フォーン


「合技、魔法剣術<追えない斬撃メルシュナイデン>」

「ガハッ!」


『ピー』


 千鹿ちゃんまで…ゴホン

「まさに一瞬。実況をする間も無く試合は終わってしまいました!」


ハルちゃん、入隊試験の時の椎名君覚えてる?」

「あぁ」

「とにかく速攻。あの魔法を発動させる前に決着つけないとどんどん厳しくなるよ」

「わかってる。じゃあ、行ってくるよ」

「うん。気をつけて」

「はぁはぁ…とうとう二日目も大詰め。三年生最終戦は、校内ランク第2位神代 遥選手とCランク第2位椎名 大牙しいなたいが選手の一戦です」


『let’s strike on』フォーン


「(神代流固有魔法電流ボルトより、)<雷の舞いかずちのまい>」

「“地鎚ボルムニル”起動」

 <茶筅魔法サーセン>を警戒した遥の速攻を完全に読んでいた椎名は、魔法発動よりも圧倒的に早く起動できる“武器ヴァッフェ”で対応した。その“武器”はなんと…


「あれって…月島、もしかして椎名先輩にあげたの?」

「あぁ、会長には悪いが、椎名先輩は会長よりも強くなる素質がある。だから“武器”もそれなりのものを渡さないと勿体無い」

「じゃあ、月島はこの試合遥先輩が負けると思ってるの?」

「さぁな、それは椎名先輩次第だ」


「<雷の舞>」

「<土壌双璧ガンベルグ>」

「神代選手の攻撃を椎名選手が全てに対応。試合は全くの膠着こうちゃく状態です」

「相当幻舞君に気に入られてるようだな。大牙」

「またその名前か…俺はあの生意気なガキが気に食わない。あいつの言う通りにするとことごとく上手くいく。軍の入隊試験の時もこの試合も。正直、本来の俺の戦い方をしてたらそうはいかなかった。この試合だってもう決着がついてたとさえ思う。」

「そんなふうに思ってるなら、普通は感謝するもんなんじゃないか?」

「それはわかってる。でも、俺のプライドがそれを許さないんだ。そんな俺の弱さを露呈されたと思うとどうしたらいいか…」

「そういうことか。だったら無理に感謝もしなくていいんじゃないか?どうせお前の性格だ。今は知らんが、最初は無理やりだったんだろ?そんな奴に礼なんかくれてやる必要ないだろ」

「それもそうか…<茶筅魔法>発動」ピュー

「<大滝の壁インガレフ>」

「正直良くわかりませんが、椎名選手のもの凄い速攻だと思われます。神代選手もそれをよく防ぎましt…いや、被弾しています。なんと、両者合わせて初の被弾は先ほどまで攻戦一方だった神代選手です!」

 毎回被弾しながら詠唱なんて運が良くなければできないと教えてもらった幻舞の十八番おはこ。しかし、それを完全に読んでいた遥は防御魔法の発動を間に合わせた。<茶筅魔法>には…
 <茶筅魔法>による魔法発動の体感速度が、観てたものとは比べ物にならないほど速かった為に多少<突風エアフィスト>を受けてしまった。

「残念ながら、私もそのクソガキに教えを請いてるんでね。それは何度も見せられたよ。」ハァハァ

『バシャーン』

 二撃目以降の攻撃に対応するため発動されたままの<大滝の壁>。それに空気が激しくぶつかる音が訓練場内に何度も木霊する。

「耐久戦かよ。そんな身体でやるとか気が狂ったとしか思えないけどな」

「そんなはずないだろ。<放電スパーク>」バチバチ

「おっと。あっぶねー」

 裏に何も無いただの滝に気を取られている隙に幻覚系魔法を使い近づいていた、遥の超近距離での攻撃を、大牙は何事もなかったかのように軽々しく避けた。

「まだまだ!」ビリビリ

 遥は、両手の間に漂っている電流を足元の水へ向けた。

「お前と同じゴム製の靴を履いてるから効かねぇよ」

「ならこれは効くんじゃない?」

 幻覚系魔法によって偽られていた水位は、みるみる内に増していきくるぶし付近で止まった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛」

 大牙は感電して気を失った。

「さっき、排水溝は私の服で塞いでドアは両方閉めといたの。ドアの下から抜ける量以上の水を生成するのなんて出来なきゃこの学校にいる資格ないしね。あと、ちなみに私はゴム製のスパッツね。聞こえてないか」


『ピー』


「勝者、神代 遥選手!最後はランキング上位者としての意地にも見えましたが、それも含めて見事な戦いでした。惜しくも負けてしまった椎名選手ですが、あと一歩まで神代選手を追い込んだ能力は見ていて驚きを隠せませんでした。さて、他でも最終戦が終わったということなので、本日二日目校内戦はこれにて閉幕いたします。今日試合を行なった選手の皆さんお疲れ様でした。」


 大牙が最後に見せた一戦。それはまさに、眠れる獅子が牙を剥いた決定的瞬間だった。

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