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全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

32話 違う感情と同じ状況

「…」シュン ザクッ

「うわぁぁ!」シュゥ

「…」シュン ザクッ

「うわぁぁ!」シュゥ

 幻舞の一方的な状況にも関わらず、幻舞の顔には焦りの表情が浮かび上がっていた
 それが一体何からくるものなのか…幻舞が身体的疲労によって見せた一瞬の隙、とはいっても、クーウィル一族だからこそ見逃すことがなかったであろう、隙ともいえないほどの一瞬の隙で、それはわかることとなった

「はぁ…はぁ…<見えない斬撃マッハシュナイデン>」シュン クラッ

「ふっ、そろそろか…不知火しらぬい流固有魔法焔魔ヴェーダより、<衆紫炎換陣ブレイズインフェルノ>」

「うわっ、まぶっ!」

 直接太陽光が入らない午前中の体育館、しかも、闘いの激しさゆえ蛍光灯は全滅し、視覚以外での情報収集能力の差で戦況が左右する、幻舞の断然優勢な状況となっていた
 しかしそれもいっとき、そんな薄暗い体育館に突然一筋の光が差し込んだ
 その強烈な光に幻舞は目を焼かれ、反射的に顔を手で覆った

「…厄介だnって、後ろかよ」クルッ ブォン

 幻舞が顔を覆った手をどかしてみると、さっき目の前に突然現れたはなく、背中に何かを感じたため後ろを振り返ると、そこにはさっき目の前にあったはずのがあった

「…っ!また背後に」クルッ ブォン

 <衆紫炎換陣>、それは、炎自体に魔法陣が組み込まれているために、初めに変換生成された炎が周りにあるものを無作為に炎に換えていき、その効果範囲を半永久的に拡大していく最上級の高等魔法
 そして、不知火一族を“上位一族”へと伸し上げた炎属性類最強の魔法である


 -月島学園、第二演習場-


「も、戻った…」

「さっきのは一体なんだったんだ?」

「レベルがまるで違いすぎる!は人間じゃない!」

 1-Bの大半は、幻舞と麓姫の闘いを見て恐怖しか感じていなかった、いや、それも正しくない
 皆、恐怖以外の感情を抱く余裕がなかった

「月島…」

 しかし、そんな中で千鹿はただ一人悲しんでいた


(広域魔法は、有利属性もしくは有効魔法での対処がセオリーではあるが、この魔法こいつの場合は多少だが勝手が違う、それに…)

 幻舞の視線の先には、未だみぶるいを解けていない彌鵜瑠の姿があった

「はぁ…めんどくせぇ…」シュー フワフワ

 なにかを察すると、幻舞は足元に風をまとって身体を宙に浮かせた、姿で…
 それを見ていた千鹿たちからしたら善かれども、それを使うことで幻舞は魔力が足りなくなり、たとえこの炎をどうにかできたとしても最悪な状況にされたのは言うまでもない

(たしか、この魔法の対象物リストに“影”なんてなかった気がするんだが…あいつはいったいなにを炎にしたんだ?単なる俺の見落としか?)

「うーん…くそっ、考える時間が足りねぇ!」

 幻舞が今何を考えているのかをさておいても、この魔法を対処するには、どんな方法を取ろうとまずは時間をつくるために炎と距離を置かなければならない
 しかし、今回、最初に炎に変換されたのは幻舞の影、それを避けるべく後退した幻舞だったが、元々の影の性質を持った炎からはいくら逃げても逃げきれない

「ほらどうした?あんたもそのまま炎になっちゃう?!」

 麓姫ろきは、幻舞がこの魔法を苦手としていることを見越していたのか、それとも、今ここで確信したのかは定かではないが、余裕の態度で幻舞に煽りの言葉をかけた

「情報は持っときたいがしょうがねぇ…」

(こんな短時間じゃ全部は考えてられねぇな、これはもう影ってことにするか…それならまずは実験だな)

「これが決まれば相当でかいんだがな…光属性放出系魔法<閃光フラッシュ>」

 幻舞は、魔力光源を自分の背後に設置し、麓姫、、幻舞、その光源が一直線上になるようにした
 すると、見る見るうちに炎は伸びていき、麓姫の足元まで到達した
 しかし、その炎が幻舞の時みたく麓姫を攻撃することはなかった

「ちっ、そううまくはいかねぇか」

(光によって伸び縮みしたことからしてこの炎が影ってのは間違いないようだが、術者麓姫には干渉しないように組み込まれてる、か…)

「ぬかりねぇやつだな、まったく…ほんと、どうしたもんかねぇ」

 今まで通り、幻舞の戦闘スタイルは一貫していて、闘いながらも分析を一切怠らなかった
 それにより、どんな相手でも、どんな魔法でも、得られる最大限の情報を暴き出し自分のものとしてきた
 しかし、今幻舞の目の前にいる麓姫の情報は、彼女の使う魔法も含めて全くといっていいほど得られていない、得られた情報とすれば『麓姫が最上級の高等魔法が使えること』と『<衆紫炎換陣>が影を対象にとれること』の二つのみ、しかも、前者に関しては情報と呼べるほどのものでもなく幻舞自身と比較すれば予測など簡単にできるものだった
 つまり、不知火 麓姫とは、たとえ魔法を含め戦闘の実力で勝っていたとしても、幻舞にとっては天敵と呼ぶに相応しい人物だったのだ

(しかし、なんであいつも来ないんだ?魅鵜瑠といい…)

「やれやれ、でなにを教わったんだか」

「挑発のつもり?幻舞…残念だったね、もうすでに私の役目は終えてるのよ」

(さすがはクーウィルといったところか…俺の<思考掌握イマジンドール>が全く効かねぇ)

 耳も聞こえない、読唇術も会得していない、そんな幻舞が情報を方法はただ一つ、そう、思考を読み取ることである
 幻舞は、自分の聞きたいことに麓姫の思考を巡らせる事で、脳から直接聴取を試みたが、幻舞のその思考が読めていたかの如く麓姫によってされた

「どう?私の<多層防護壁パーフェクトロック>は」

「いい術だ…聴くには至らなかったか」

「な、ん、だと…破ったというのか、私の<多層防護壁>を…」

「破ってなんかねぇよ、深層意識にはアクセスできなかったからな」

「…殺す!」シュン

 耳が聞こえなかったはずの幻舞だったが、いつのまにか普通に麓姫と会話をしていた

「くっ!」キン

 今までにはないほどの殺気のこもった麓姫の攻撃を、幻舞はかろうじて受け止めることしかできなかった

(魔法を絡めないでこれかよ…)

「はぁ、やるしかないか」スタッ

 幻舞は、再び覚悟を決めたように空中から降り、炎の中に足をつくとともに目を瞑った

「…<無影斬撃剣キルシュナイデン>」シュン スパッ

「な、なに!?いつのまに…」プシャァァ

 <見えない斬撃>を使った時は、砂埃が立つなど幻舞がそこを通った跡が少なからずあった、しかし今回は違った、床がきしむ音、風を切る音、僅かな風の流れの変化など、今回はそれらがなに一つ起こらずに麓姫の胴体が真っ二つに切断された

「はぁ…はぁ…もういっちょ…」

「や、やめ…t」スパッ プシャァァ

 麓姫が口を開くのを許さないと言わんばかりに、幻舞は間髪入れずに二撃目を入れた

「はぁ…はぁ…がはっ…」

 今までの闘いで蓄積した疲れ、さらには、明らかに今まで以上の大技の使用、幻舞が限界間近なのは、いや、とうに限界を迎えているのは明白である

「はぁ…はぁ…よくもやってくれたわね」シュゥ

「回復する隙を与えずに、回復できないほど粉々にする、か…分かってはいたんだがな、やっぱり今の俺には不可能らしい」ヤレヤレ

 幻舞は、改めて麓姫には敵わないと悟り降参とも取れるポーズをした

「ふっ、あなたはよくやったわ、だから、それに敬意を表して一撃で葬ってあげる」

「はぁぁ、<無影斬撃剣>!」スパッ スパッ スパッ

 幻舞は、残っているかもわからない最後の力を振り絞り、今度は一瞬の隙も与えず攻撃し続けた

「な、なんでまだ動けるの?!」

「まだ…まだ、死ぬわけにはいかねぇんだよ!この先には絶対行かせねぇ!キルシュナイd」

「…」トン

「よく頑張ったな、ゲン」

「そう…き…おじ…さん」バタッ

 総紀に肩に手を添えられると、正気を失っていた幻舞は今までの疲れを一気に思い出し倒れてしまった

「おっと、遅くなってすまなかったな」シュゥゥ

 総紀は、幻舞を抱き寄せると同時に幻舞にまとっていた炎は消した、というより影に変えた元に戻した

「総紀、相変わらず速いな」

「まったく…軍の施設になんてことを、一体どこのどいつよ」

「紫羽、前」

「うっさい、分かってるわよ!」

 そこに集まったのは、軍の中でもりすぐりの精鋭、それ程緊急時だと軍は判断したのだ
 確かにその判断は当たり前といえるだろう、なぜなら、厳重な結界と佐官以上の護衛付きの施設で暴動騒動があったのだ、しかも、外部からの侵入者によって

「先生たちは一体なにやってるんだ?!」

「さぁね、それよりどうするんだい?勇」

「うーん…幻舞の有り様から見て迂闊うかつには動けんのは確かだな」

「僕的には、数的不利と判断して退却願いたいんだけどね」

「はぁ…はぁ…」クルッ タッタッタッ

 なんと、総紀の願いが通じたのかはたまた本当に数的不利と感じたのか、麓姫はその場から退いていった

「お、追え!」

 突然の出来事に勇も動揺し、一瞬指示が遅れてしまった

「「はい!」」タッタッタッ

「幻舞がここまで…」

「医務室に連れてかないとね、あそこの妹さんも」


 ・


 ・


 ・


 -同施設、医務室-


 そこには、春先の襲撃事件の時同様ベッドの上で横になっている幻舞の周りを数人が取り囲んでいた

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