全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる
31話 悪魔の一族
「さて、あなたの希望通り二人きりにしてあげたわよ、ここからはちゃんと本気でやってくれるんでしょ?」
不知火 麓姫は、1-Aの皆が体育館から避難している間1-Aの誰にも、もちろん幻舞にも手を出すことはなかった、確かに、手を出そうとすれば幻舞が邪魔をしただろうが、自分も一対一を望んでいたにも関わらずそれをしなかった麓姫の、避難を許したと言わんばかりのその言葉はあながち間違っていないのかもしれない
しかし、その場にいる魅鵜瑠を除け者とする意味にも取れるその麓姫の発言は、勝手に魅鵜瑠を主人としたもののその分従順だったはずの麓姫に、もう主への忠誠心など影も形も残っていないことを表していた
「まぁなんにしても、今のお前相手に出し惜しみができないのは十分にわかった…全力でいく!」
そう言うと、幻舞の脚は見る見るうちに禍々しい雰囲気を漂わせ始め、形態もとても人の脚の見た目ではなくなっていた
「ふふっ、そうこなくっちゃね」
麓姫も、いや、麓姫は、その雰囲気を体全体にまとわせ、爪が鋭くなり、牙や羽を生やし、顔以外はもはや人の見た目を失っていた、そう、その姿はまるで、神話などに出てくる悪魔のような見た目だった
そしてよく見ると、幻舞の脚も悪魔のような見た目をしていた
これこそが、幻舞と麓姫を含めたクーウィル家共通認識の本気であり、その名に“魔”がつく武器の共通効果である
(少し情報収集するか…<魔法破棄>発動)
「風の噂を耳にしてまさかとは思っていたが、そんな膨大な魔力どこで手に入れた、いや、どうやって手に入れたんだ?」
“魔剣クラウディアス”や“魔鎖ケヒチェル”といった魔のつく武器は、武器の形態変化により武器の性能が格段に上がる“成長武器”ではなく、武器の元々のステータスが高い“定常武器”ではあるが、成長武器の特徴も持つとても希少な武器で、その武器の本領を発揮するには幻舞の言った通り膨大な魔力が必要なのである
幻舞はまだ一部だが、全身に<化け悪魔>を使っている麓姫の魔法力は、それを使うのに麓姫の思考を読む光属性魔法を解かなければならなかった幻舞の比ではないことは明らかである
「それって、どこで手に入れたかはわかってるってことよね?じゃあどうやってかもわかるんじゃない?」
「いいから答えろ!」
「そう怒らないで、ちゃんと答えるわよ…どうやって手に入れたのかだったわよね、それはあなたと同じよ」
「なっ!?」
「あれ、そんなに驚くことかしら?あぁ、もしかして独り占めできなくてそんなに驚いてるのかな?」
「そんなことはどうでもいいだろ、それより、お前はどこに障害をきたした」
「あはは、障害?あなたの時と同じなわけないでしょ」
「まさか…」
「そう、魔力増強装置の人体許容実験…聞いたことあるよね?」
「お前もあれを!?」
「そう、と言いたいところだけど、私だけじゃないんだなぁ、それに、あなたのような後遺症は一切ないの…あなただって、あんなことさえしなければ今頃は何不自由ない生活を送れたのにね」
魔力増強装置とは、それに魔力を流すことで同種の魔力が何倍にも増幅して放たれるという画期的な魔工具である、さらに、放たれるとはいっても“魔力放出”を行うわけではなくただ空中を漂うだけであるため、実質的に自分の魔力を増強することができるのだ
つまり、魔力増強装置の人体許容実験とは、その空中の役割を体内が担うというものである
しかし、限界のある体内で許容できる魔法力は、極限魔法力という形で記される通りどんなに多くても空中と比べればたかが知れている、しかも、体内には元々魔力が漂っているので、魔力コントロールが疎かになれば、その魔力が直接魔力増強装置に触れて半永久的に魔力が増え続けてしまうことだってあり得るのだ、魔法を使ってない間も魔力コントロールを強いられる上に、少しでもそれを怠れば魔力の暴走をきたすという
これらのことから、魔力増強装置が体内で使う代物ではないということは明らかである
さらに、魔力増強装置は、あくまでも魔法を発動する魔工具に過ぎず、その魔法も“連続性魔法”ではないため、時間がくれば魔法が解け、増えた魔力は消える、その時に、元々自分の所有していた魔力を全て消費してしまっていた場合、その者は魔力浪費過多によって死ぬ
魔力増強装置の魔法を使用した後では自分の魔力を正確に把握できないため、たとえ死にはしなくとも、固有魔法力や汎用魔法力などがなくなり、その魔力が一生使えなくなることも十分にあり得るのだ
そして、その名に“魔”のついた武器とは、元々この実験の被験者を対象として作られたもので、シンツウの者が人間性にかけていることをこの狂った実験からも垣間見える
とはいえ、なぜ幻舞の中に取り込まれた魔力増強装置には、極限魔法力過剰による人体への影響以外に、神経遮断という副作用があるのだろうか
それは、勝手に魔力が暴走した際にシンツウへ害を及ぼさないよう扱い易くするために、シンツウ側が枷として一つ機能を追加したためである、魔力を消費した量に応じて一種類の神経伝達系を遮断するという枷を…しかもそれが、七個も埋め込まれているのだ、枷としては十分すぎるほど役にやっている
しかし、麓姫の持つそれは、外に一層の再生可能な魔工具でできた壁を設けることで、その壁を破壊しなければ自動的に発動することはないという、なんとも杜撰な設計ではあるものの勝手に魔力が暴走することは防ぐことができ、さらにシンツウでは、その実験の際同時に、ある程度時間に猶予のある場合の魔力暴走者への対策魔法が作成されたことで、枷を設ける必要がなくなったのである
つまり、シンツウからすれば幻舞はもはや麓姫達の劣化でしかないのだ
「くそっ!」
そう言って、幻舞は固く握った拳で床を強くたたいた
それは、幻舞が麓姫には敵わないという意の表れなのか、はたまた…
-月島学園、第二演習場-
「なにあれ…」
「月島君…」
モニター越しに、幻舞のいかにも禍々しい姿を見た千鹿と撫子は言葉を失っていた
-同施設、体育館-
「さぁ、やるわよ」
「殺す!」シュン ザクッ
“魔”のつく武器に共通する魔法<化け悪魔>とは、武器を身体にまとわせることで体の形態を変化させるだけでなく、まとわれた身体の一部の身体能力を何十倍にも増幅するというものである
幻舞は、魔剣クラウディアスのその魔法により身体能力が強化された脚で、今までの比ではないほどの速さの<見えない斬撃>を使い、クーウィルの者でさえ反応できないその速さで懐に忍び込み、次に、脚にまとわりついた魔剣クラウディアスを腕に転移させ、またもや反応できない速さで剣を振り身体を一刀両断した
「ふぅ…やれやれ、さすがの魔力コントロールね」
かに思えたが、なんと、身体を真っ二つに切断したはずの麓姫の姿が幻舞に背後から出現した
「なるほど、虚像か」
さっき切断した麓姫の身体は塵と化した
「正解、さすがに同じ光属性魔法使いなだけあるわね」
「なぜ今捕まえなかった」
幻舞のその言葉は、自分に、クーウィルの者ならば見逃さずにつけるだけの隙があったことを示唆していた
「うふふ、そんなにすぐ終わっちゃったらつまらないじゃない、久しぶりの再会を楽しみましょ?」
「そんな余裕かましてていいのか?捕まえれるときに捕まえなかったことを後悔させてやるよ」
(合技、<戦場全域支配>、<魔法破棄>解除)
幻舞は、目を閉じ触覚に集中した
これは、入学試験の時に相性が悪く一瞬だけではあったが使った、久しぶりの幻舞の本気である
「目を瞑るなんて、あなたこそ余裕そうじゃない」タッタッタッ
「…」ザクッ
目を瞑った幻舞に対して舐めた態度で向かってきた麓姫に、幻舞は頬へ一撃与えた
「なっ!目を瞑ってるのに…そうか、耳ね…なら、光属性幻覚系魔法<感覚障害・耳>」タッタッタッ
「…」ザクッ
次はももへの一撃が入った
「なっ!ど、どうして」
「もう終わりか?」
「あなた調子に乗りすぎよ!」
「くだらないことを話してる暇があったらとっととかかってこい」
幻舞に麓姫の声は聞こえていない
しかし、その場にとどまり口を動かしていることはわかったために、自分がもつ時間も考え挑発したのだ
「このやろぉ!」シュン
「…」ザクッ
とうとう魔剣クラウディアスは麓姫の身体、それも胸部に風穴を開けた
「ガハッ…どうして」
「そんぐらいじゃ死なないだろ?とっとと回復しろ」
「あんたに言われなくたってそうする!」
さっきまで二人称が『あなた』だった麓姫だが、いつしか幻舞への憎悪によって幻舞のことを『あんた』と呼んでいた
「なんで、なんで私の動きがわかるの?!」
「ふん、何回でも殺してやるよ!」シュン ザクッ
「うわぁぁ!」シュゥ
幻舞の<見えない斬撃>によって身体を斬り刻まれ、麓姫はただただ悲鳴をあげながら、身体は自動的に回復していた
「…」シュン ザクッ
「うわぁぁ!」シュゥ
「…」シュン ザクッ
「うわぁぁ!」シュゥ
幻舞が麓姫の身体を斬り、麓姫が悲鳴をあげ、麓姫の身体は再生する、そんな光景が体育館では幾度となく続いていた
-第二演習場-
「おい、あれやばくねぇか?」
「きゃぁぁ!」
「いやぁぁ!」
「月島くん…」
「…」
その光景を見ていた1-Aの皆は、涙を流す者や、モニターから目を背ける者もいれば、騒ぐ者もいて様々ではあるが、全員に共通していることは“恐怖”だった、皆がモニターに映された光景に対して、その中の幻舞に対して、恐怖を感じていた
このことに気づいていない幻舞
幻舞が知られたくない一面を、幻舞の知りたくなかった一面を知ってしまった1-Aのクラスメート
この両者が次顔を合わせた時どうなるのだろうか
見られていたことを知った時、幻舞は一体どんな反応をしどんな行動を取るのだろうか
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