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全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

29話 不知火 麓姫


「食らえ、イシュタール!」キン

「な、なに!?」

「よっ…やってんなぁ、先生もう“HPS”使ったんだろ?」

「あぁ、さっき運ばれてたな」

「じゃあ、これ以上やらせるわけにはいかないな」

「どうせ治るんだからいいだろ」

「あれは何回も使えるほど便利なものでもねぇんだよ」

 Healing Perfect System略してHPS、それは、魔法闘士ストライカーが使い捨ての駒の様に扱われていた世界に革命をもたらした、そんな世界の中心に居た旧帝国軍を滅ぼした大きな要因である、現日本軍の作った史上最高の魔工具ルーンである
 しかし、そこまで称されるものであってもなど存在しないのが現実である
 HPSとは、最後に情報を登録した時から24時間以内に変化した情報を消去し、登録時の情報に戻すというもので、その情報の中には、生死は含まれないがそれ以外の負傷は含まれているため、実質不死身を量産する機械とも言える
 しかし、24時間以内に受けた負傷しか治せないという目に見えた欠点の他にもう一つ、一日に一度しか治すことができないという致命的な欠点がある
 人間の身体は全てが情報で作られた、いわば一種の情報体である
 HPSとは、その情報の登録と、その登録された情報を複製することを可能にしたものである、そして、情報を複製する際に複製先である人間の身体の情報もまた、登録すると対象である、幾度とない研究の末に、情報の複製と複製体の情報の登録を同時に行うことはできたが、複製体の情報を登録対象から除外することはできなかった、その為、同種の情報は一つしか登録できないHPSは、一度治癒のために使うと登録されている情報が治癒前のものになってしまうのである
 つまり、24時間経つことにより自動的に情報が消えるのを待った後、再度健全な情報を登録してやっと二度目のHPSによる治癒が可能になるのである

「はぁ…終わり終わり」

 そう言うと、魅鵜瑠は自分の持っていた武器ヴァッフェを捨て、降参と言わんばかりに両手をあげた

「いや、まだ終わらせれねぇな」

「なぜ?」

「これは授業だ、そんな簡単に終わらせちゃ面白くない…それ、俺と対等にやり合えば学校での立場もそこまで怪しくはならないだろ」

「俺が貴様と対等になど闘えないのはもうわかってる、いちいち自慢はよせ、耳障りだ」

「だから、簡単には終わらせないって言ってんだろ…まぁ、さっきのあれは流石にやりすぎだし、俺と対等にやりあったらなおさら危険だと思う奴もいるだろうが、その点、俺のことも危険だと思ってるやつにはスゲェって思われるんじゃねぇか」

「ふっ、どうせやらなきゃいけねぇんだろ?」

「当たり前だ」

「だったら、いちいち俺の意見なんて聞こうとすんな」シュン

 さっきまで話をしていた二人だったが、突然とが始まった
 最初に仕掛けたのは魅鵜瑠の方だった、ダラダラと続く幻舞の終わりのない話に痺れを切らし、一気に幻舞の懐へ潜り込むと、幻舞の左腕へ得意の鮫槍こうそうイシュタールの攻撃を食らわせた

「おっとっと…ふぅ、服がボロボロだよ、それでも義手までは引き裂けねぇんだな、だったらお前の間合いに入っても良さそうだな」

「ほざけ」

 幻舞の左腕は、服がズタズタに引き裂かれはしたものの、魅鵜瑠の攻撃が機械皮膚まで及んではいない様だった

「でもまずは、授業なんだからみんなから見えない森の中こんなとこでやっててもしょうがねぇしな…<魔力流動>、風属性付与系魔法<無限の切れ味ヴィルヴェルヴィント>合技、魔法剣術<大円斬だいえんざん>」

 観客席にいた皆が、海凪のために考えついた魅鵜瑠に勝つための秘策を、幻舞はたった一太刀で粉砕してしまった、つまり、体育館の仕掛けで出現させた木々一本一本を切り倒してしまったのだ

「おいおい、森がなくなっちまったぞ!」

「あの魅鵜瑠って子やばすぎだって!」

 観客席では、森を倒壊させたのは魅鵜瑠だと思い焦りが募っていたが、一方その魅鵜瑠はというと、こちらも焦りを募らせていた

「な、なんだと!?貴様、なんつぅパワーしてやがる」

 幻舞が森を倒壊させるのにかかった時間は一瞬、その刹那の時間で、刀身三十メートルにもなる剣を目に見えない速さで振り回したのだ、それも、加速系魔法も使わず自力のみで振るったのだ、魅鵜瑠が驚くのも無理のないことである

(本当に、こいつに復讐なんてできるのか?なにもかも次元が違いすぎる)

「確かに、あなた一人では難しいでしょうね」

「だ、誰だ?!」

(思考が読まれた?いったい誰だ)
「この声、それに口調…めんどくせぇのが来ちまったな」

「あらあら、久しぶりにあった従姉おねぇさんになんて口の利き方なの」

「黙れ、なにしに来た?!不知火 麓姫しらぬいろき

 ここは北海道、月島学園の体育館、そんな軍の施設の一つでもある学校に軽々忍び込んで来たのは、いや、堂々と現れたのは幻舞の六人のいとこの一人で、今は新潟の名家“不知火”の長女である不知火 麓姫だった

「フルネームで呼ぶなんて他人行儀じゃない、前みたいに呼んでいいのよ、ロキねぇだっけ?」

「可愛いとこもあんじゃn…」

「先生」

「ん?なn…」バタッ

 海凪は、幻舞に頸椎への手刀を食らい意識を失った

「あらあら、そんなに怒らなくてもいいのに」

「別に怒ってなんかねぇよ…ただ、お前とやるなら先生は邪魔だっただけだ、それに、そんな数回しか呼んだことのない名で冷やかされたって何とも思わねぇしな」

「そう…でも残念、私一人じゃやらないわよ」

「…まさか」

「そう、私はあくまで魅鵜瑠ちゃんに力を貸しに来ただけだからね」

 そう言いながら、不知火 麓姫は魅鵜瑠の肩に腕を回した、一見おしとやかそうな口調とはいささかギャップのあるその行為と直感から、いつもは反抗的な魅鵜瑠も身を強張らせていた

「いや、俺は一人でやるって決めてるかr…」

「一人で、ですか…私にはあなた一人で敵う相手のようには見えません、それはあなた自身自覚しているのではないですか?」

「な、なにが言いたい」

「そこで、私を使ってはみませんか?」

「は!?」

「あなたは私の従者となるのです、私のことは奴隷の様に扱ってもらって構いません、私はあなたに付き従う従順なるしもべとなるのです、どうですか?いい話とは思いませんか?」

「な、なにか裏があるんじゃないのか?」

「裏だなんて滅相もございません、もしまだ疑われるのであれば、ここで彼を倒して証明して差し上げましょうか?私があなたの味方であるということを」

「わ、わかった…じゃあ早速、あいつを倒してくれ」

 幻舞のいとこ、つまりは実力として幻舞と同等と考えるのが当たり前である、そんな人間が自分の下僕になると言ってきているのだ、まずは疑ってかかるのが当たり前である、魅鵜瑠も最初は疑ってかかったが、相手、つまり不知火 麓姫の存在感や気配といったオーラの様なものに尻込みし、相手の言ったことに従うことにした
 これではどっちが下僕かわかったものではない、魅鵜瑠は自分で復習することが目的だったはずである、その目的すら忘れてしまったのだろうか
 しかし、魅鵜瑠の命令によって動く兵でよって闘う、これは、魅鵜瑠の戦闘スタイルにどこか似ているところがあるようにも見えた

「…よっと、もう話は終わったか?」

 気絶している海凪を観客席に置いた幻舞が戻ってきた

「えぇ、今終わったとこよ、幻舞は随分と遅かったじゃない」

「まぁ、いろいろとあってな」

 幻舞が海凪を観客席に置きに行くと、そこにいた皆から罵倒され、中には殴りかかってくる者もいた、その者たちをなだめるのに時間がかかり、幻舞が戻って来た時には彌鵜瑠と麓姫の話はほとんど終わっていた

「じゃあ、早速始めるか…いでよ、蒼天あおあまつ」シュン スカッ

 さっきの幻舞VS彌鵜瑠とは違い、今回の幻舞VS麓姫、彌鵜瑠は幻舞の突進で幕が上がった
 さっきの試合では得意の開幕速攻をしなかった幻舞が今度はしたのである、これは、彌鵜瑠とったかった時よりも幻舞に余裕がなくなっていることを如実に表している、このことからも、不知火 麓姫という人物がどれだけ恐ろしい力を持っているのかは定かである

「あれ、さっきのは使わないのね」

「さすがに、あんた相手に授業なんて言ってられねぇからな」

「じゃあ本気ってわけね?」

「当たり前だろ」

「そう…」

 そう言った麓姫の目には、初めて見る幻舞の新しい武器が映っていた

「なんだ?」

「いえ、なんでもないわ…早くやりましょう」

「これって二対一なんだよな…こいつら頭おかしいだろ、こんな奴に復讐だと?ばかげてる」

 彌鵜瑠は絶望の眼差しで目の前の闘いを眺めていた

「おい、なんだあれ」

「いったい何が起きてるの?」

 幻舞に逃げるよう促された観客席でも、その闘いの中で時々見える幻舞のほこりを被り出血している姿を見て、事の異常さを理解して腰を抜かすものまでいた

「はぁ…はぁ…腕を上げてねぇか?」

「はぁ…はぁ…そういうあなたは腕がなまりましたね」

「そうか?」

「えぇ…それも相当」

 二人の闘い方が似ているからか、ただ単に実力が拮抗しているためか、二人の闘いはとても白熱していた、二人の実力が拮抗しているのも事実だが、二人の闘いにこれといった動きがないのは前者の要因が大きいためだろう
 その二人の闘い方とは、常に考えながら闘うということである、それは、最大の武器であると同時に最大の弱点でもある
 常に相手の思考の裏を考え、相手の思考の外で闘うことは、主導権を握れるためにどんな相手でも有効なのは間違いない
 しかし、それはあくまで戦闘経験の話を抜きにした場合である、戦闘経験で勝る者の一手は、たとえ何も考えていなくとも戦闘経験で劣った者の意表をついたものとなる、そのため、幻舞の戦闘スタイルは戦闘経験で勝る者には決して勝てない
 その幻舞の戦闘スタイルとは、極められた光属性魔法によって相手の思考を読み、それを元に自分の思考を組み立てるというものである
 もし、幻舞と同じく、もしくは幻舞には劣るとしても光属性魔法を極めた者と戦うことになった場合、幻舞の思考は筒抜けで、裏をかくどころか幻舞の戦闘スタイルそのものが破綻してしまうのである
 これが、幻舞のもう一つの弱点
 とは言っても、光属性魔法に限らず幻舞ほど魔法を極めた者などそうそういるものではない、少なくとも地球には確実に存在しない
 麓姫の敵は目の前の相手だけである、しかし、幻舞が敵に回しているのは地球ではなく宇宙である、その中でも、光属性を最も極めたと言われる“クーウィル一族”彼らを敵に回しているのである、曲がりなりにも幻舞を育てた彼らに、光属性魔法の差だけでなく戦闘経験も数段上の彼らを相手に、幻舞の弱点が露呈しないことなどあるはずがない
 つまり、クーウィル家を裏切り敵に回すという幻舞の決断は、ただの馬鹿な選択に他ならないのだ

 幻舞と同じ“クーウィル一族”の下っ端ともいえる立場の麓姫にこれほど苦戦を強いられている幻舞が、こそ先これ以上に強大な敵と対峙して果たして戦っていけるのだろうか
 幻舞と麓姫の戦いが続く中で彌鵜瑠は何を思っているのか、自分の入る余地などない闘いを目の前にして、その闘いを復習の対象がやっていることを目の当たりにして、彌鵜瑠はどのような選択を取るのだろうか

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