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全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

28話 鮫槍イシュタール

 

『let’s strike on』フォーン


「水属性放出系魔法<大津波ディルージュ>」

 魅鵜瑠みうる編入の歓迎会とも言える模擬戦、その第一回戦である海凪VS魅鵜瑠が始まった

「私、先生が戦うとこ初めて見るかも」

「確かにー、かける先生とのわけわかんないのは見たことあるけどねー」

「あはは、あったねー、そんなのー」

 試合開始早々から、目の話せない展開を繰り広げようとしていることなど露知らず、観客席では談笑している者もいるな中で、この試合を真剣に考察している者もいた

「ねー、この試合どっちが勝つかなー?」

「…先生には申し訳ないけどやっぱり楠木 魅鵜瑠かな」

 千鹿と撫子だった

「私達はあいつの実力を二回も目の当たりにしてるんだよ、先生には申し訳ないけど、それでいて先生が勝つとはお世辞でも言えないかな」

 千鹿の推察通り、さっきまでふざけていた者も含め皆が目を見張るような光景が模擬戦場では起きていた

 試合開始の合図とともに、海凪は模擬戦場を水で満たした…はずだった

(<反射板ミラー>)

 なんと、魅鵜瑠の周りには侵食しておらず、しかも、魅鵜瑠の周りには海凪が起こした波に対して逆流が発生していた
 水の届かないとこまで引くことのできないこの狭いフィールドで、広範囲攻撃を防ぐ手段はただ一つ、同じく広範囲攻撃で相手の攻撃を食い止めるしかない
 魅鵜瑠はそれを実行していた、それも、海凪と同じ水属性魔法で…

「っ!だったら、(神代流固有魔法電撃ボルトより、)<雷の舞いかずちのまい>」

「「「え!?」」」

「あれって確か、琉先生の…」

「もしかして二人って兄妹?結婚したいから従兄妹なんて嘘をついて実は禁断の恋を…」

「「「キャー、ロマンチックー!」」」

「違うわ!いいからお前ら試合授業に集中しろ!でないと単位落とすぞ!」

「そんな理不尽な」

 観客席で妄想がはかどっていたところ、体育館中に海凪の怒声が響き渡った

「撫子」

「確か先生の固有魔法ってさっきのとは別にあったよねー、おかしいなー」

「あの二人が兄妹じゃないにしても、先生が琉先生と同じ“神代”じゃなきゃおかしいよな?」

「あぁ」

 妄想はされど、凪塚なぎつかの者が神代の固有魔法を使ったことの対して、本質には気づいてはいないものの、皆疑問には思っているようだった

(まずいな、さっき兄妹って言えば良かったかな…いやいや、それだけは絶対にやだ!)

「おい、なに変なこと考えてる、さっさと次の手を考えろ、それとももう終わりか?」

(<反射板>)

 なんと、今度は魅鵜瑠の周りに目に見えるほど強い電流が発生したのだ、それこそ、海凪が発動した魔法と同じくらいの電流が発生したのだ

「なに!?<雷の舞>は固有魔法だぞ、神代の血を引いてないお前が使えるわけが…まさかこれも、人工的な血脈生成の結果なのか?」

「ふっ、残念ながら俺はその被験者には選ばれていない、シンツウにいた頃の記憶が定かじゃないから、あくまで聞いた話だけどな」

「じゃ、じゃあなぜ…」

「さぁなっ」シュン

「まずっ…いでよ“仁双剣じんそうけんアフト&ノーグ”」

 海凪は、後退りしながら武器ヴァッフェを起動させた、しかしそれは、海凪の得意とする弓の武器ではなかった

「ほぉ、双剣の武器、しかも短剣型の双剣とはこれまた珍しいものを…なら俺も面白いもんを見せてやるよ“鮫槍こうそうイシュタール”」

「面白い、ねぇ」

「なるほど、これがただの槍にしか見えないと言いたそうな顔だな」

「そうね、特に変わったとこも見当たらなさそうだし、ただの槍と何が違うんだか」

「だったら自分で確かめてみな」シュン

「ふっ、その程度の攻撃ならこいつらを使うまでm…うわぁ」

 一気に間合いを詰めた魅鵜瑠の攻撃だったが、一回目と違い準備をしていた海凪には、武器を使って流すでもなく避けることさえもさほど難しいことではなかった
 しかし、掠めることなく避けたはずの海凪の右頬は皮が引きちぎられていた
 切り傷を付けられたのではない、皮を引きちぎられたのだ、いくら戦闘経験の多い大人であってもわめかずに入られるはずがなかった

「どう?これでもまだ普通の槍と変わらないって言える?」

「な、なんで…あたしは確かに避けたはずなのに」

「さぁね、もう一回食らえばわかるんじゃない?」

「うわぁ」ガクッ

 今度は、左太ももに食らった
 足をやられては立つことはままならない、このまま倒れていれば、魅鵜瑠に滅多刺しにされるのは、いや、全身の皮を剥ぎ取られるのは確実である

「いや、いやぁ!誰か止めて、あのままじゃ先生が!」

 観客席では悲鳴が上がっていた
 先生は助けたい、しかし、自分も死にたくない、その気持ちから誰かに助けを求めることしかできない偽善者の叫びである
 しかしそれは、正しいとは言えなくても間違ってるとも言えない選択である
 海凪は、月島学園では五本の指に入るほど魔法闘士ストライカーとしての実力を持っている、それほど者が敵わない相手にたかが高校生が敵うはずなどない、海凪を助けるどころかみすみす犠牲を増やすだけである
 しかし、偽善者ではなく本物の正義感を持っている者というのは、その場の最善の行動など関係なく自分以外の他の者の為に動く、いわゆるバカやアホといわれる類に属していることが多い

「撫子、先生を早く“HPS”のとこまで…頼んだよ」

「うん、千鹿も気をつけてね」

 流石の撫子も、この緊急事態にいつものおちゃらけた雰囲気は無くなっていた

「さぁて、今度は私の番ね」

 そう言って構えたが、収納型武器の進化に伴い、完全な劣化となってしまった常備型武器しか持っていない千鹿に、いくら探しても正気など見つかるはずがなかった

「ねぇ、どうする?このままじゃ千鹿までやられちゃうよ」

「うーん、一応一つだけ策があるんだけど、それは千鹿には有効に働かないし、魅鵜瑠ちゃんに有効に働かないとも決まったわけじゃないんだよね」

「なにそれ、意味ないじゃん…それに、あんなのもうちゃん付けしなくていいよ、あんなひどいことするとは思わなかった」

「それは違うんじゃない?確かに気持ちは分からなくもないけどさ、これから同じクラスで、少なくとも一年間は一緒にやってくんだから、仲間外れにはできないでしょ」

「まぁまぁ、とにかくその策を教えてもらっていい?」

「うん……」

 一方で観客席も、このまま偽善者として収まるつもりもないようだった

「そんな武器でどうするつもりだ?」

「前に、月島がお前の攻撃射程内で戦うなって言ってた意味がやっとわかったよ、これはやばそうだな」グイーン

「なるほどな」

 千鹿の持っていた剣は、少ない魔力でも伸縮可能な“成長武器グラディール”だった

「この前の実践演習のときに見つけて目印を付けといたんだ、まさか育成機関にもあるとは思わなかったけど…まぁ、それだけあって性能も期待してたほどじゃなかったけどね」

「お前、バカだろ」シュン

「まずい…うわぁぁ」

「大剣にはパワーはあっても速さはない、つまり、大剣使いの懐に入るのは簡単なんだよ」

 千鹿は魅鵜瑠の攻撃射程の外で戦うことに意識を取られ、魅鵜瑠の速さを計算に入れるのを忘れていた、そのため、簡単に懐に潜り込まれて首の皮を引きちぎられてしまった

「ま、まずいよ、このままじゃ先生が来る前に千鹿が…」

「ははっ、確かに考えは悪くなかったが、お前は自分の力量をわかってるのか?闘ったこともないし見たことだって数回しかないが、お前が魔力制御を得意としてないのはすぐにわかった、それにさっきの言葉

『性能も期待してたほどじゃなかったけどね』

これは、お前がこの武器の真価を見出せてない証拠だ、そんな、武器との相性すらわかってない奴に俺が負けるわけないだろ」

「相性、ね…確かにそれはあるかも知んないけど、こいつの真価だと?そんなの伸び縮みできる以外になにが…」バタッ

「千鹿ー、先生は無事だy…って、千鹿!?」

 海凪を“HPS”まで連れて行き、完全に傷が修復した海凪と一緒に戻ってきた撫子が見たものは、首から大量の血を流して倒れている千鹿の姿だった

「お前がやったのか?!」

「あぁそうだ、そいつがわざわざやられに来たからな」

「あたしの生徒によくもこんなことをやってくれたな!」

「いや、俺もお前の生徒だし」

 海凪の言った怒る理由は、確かに正しくはなかったかもしれない、しかし、そんなこと知る由もなく海凪は怒りを露わにしていた

「行くぞ“深弓しんきゅうクモミツキ”」

「「「先生!」」」ポチッ

 突如、体育館一帯が森林と化した
 これが、観客席で話していた策である
 遠距離武器は地の利がなければ丸腰も同然である、そのため、さっきは近距離武器を使わざるを得なかったのだ
 海凪は根っからの弓使い、近接戦闘もそこそこできはするが言ってもそこそこである、近接戦闘を得意としている者には良くて五分だろう、しかし今度は地の利を生かした弓での闘いである、模擬戦どころではなかったさっきの試合とは違い、授業として見応えのある試合になりそうである

「撫子、千鹿を頼むぞ!」

「はい!」

「<夢幻の世界ファントムビジョン>さぁ、始めようか」

「なるほどな…これじゃあ懐に入るどころか、姿を捉えることすらできないな」

「<虚像の矢ミラージュアロウ>」

「ふっ、こんなん食らうかよ」スカッ

「なっ!幻影か…今度はこっちか」スカッ

「ちっ、今度はこっちか」キン

「これは本物か…」

 魅鵜瑠は、四方八方から飛んでくる矢の対処をしながらとある準備をしていた

「中でなにが起こってるんだろ…先生、大丈夫かな」

「大丈夫、弓を持った先生は強いよ…まぁ、見たことないんだけどね」

「なんだそれ」

 中が見えないからか、観客席では緊張がだんだんと取れていき再び談笑が始まった

「ふっ、これで終わりだな…」

「よくわかったじゃん、もしかして初めから知ってたのか?」

「食らえ、イシュタール」キン

「な、なに!?」

 魅鵜瑠のとどめの一撃は海凪に届くことはなく、海凪の目の前では剣と槍が交錯していた、一つは魅鵜瑠の“鮫槍イシュタール”で、もう一つはなんと千鹿が使っていたあの伸縮自在の剣だった

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