全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

26話 海凪の勘


 -月島学園、1‐Bいちびー


「なぁ、幻舞のやつ少し遅くねぇか?」

「そうですね」

「どうせまた、軍の仕事で呼ばれてるんでしょ」

「そうだといいんですが…」

「なんだ飛鳥、なんか気になることでもあるのか?」

「うーん…」

「どうしたの?何でもいいから話してみて」

「僕の気のせいかもしれないんですが、昨日の月島君、風早さんのご飯を食べてから様子がおかしかったような気がするんです」

「え!?まじ?」

「おい、千鹿!この国の、いや、この星の大事な戦力になんてことしてくれてんだよ」

「うぅ…どうしよう、もし、今頃入院なんてことになってたら私の腹切りだけで許してくれるかな、月島」

「いやいや、お前ごときの腹切りだけで済むわけねぇだろ」

「うぅ…どうしよう、どうしよう、どうすればいいかな」

「いや、まだ、原因がそのご飯って決まったわけじゃありませんし…それに、僕の勘違いって可能性だってまだありますから」

「神様仏様、どうか飛鳥の勘違いでありますように」スリスリ

 今の千鹿のあたまの中では、幻舞を殺したということは、地球このほしを滅ぼすことと同義であるということだけがあたまに浮かんだ、これは、幻舞の話が本当だと思考をめぐらせていたのではなく、思考をめぐらせていたのだ、これは、千鹿が幻舞を信頼しているためではなく、今回に限ってはそこについて考えることを放棄した、放棄せざるを得なかったためである、この原因が拓相の言動にあるのは明らかだった

「拓相君、風早さんを煽るのはその辺にしてください」

「へいへい」

「風早さんも、いったん落ち着いてください、全部拓相君の悪ふざけですから…あと、僕も風早さんのせいと勘違いをさせるような発言をしてしまったのは申し訳ありません」

「うぅ…」

『キーンコーンカーンコーン』

「うわっ、やべっ、飛鳥、俺達はそろそろ教室に戻ろうぜ」

「はい」

『ガラガラ』

 拓相と飛鳥が、自分たちのクラスへ急いで戻るために千鹿のクラスを走って出ようとした時、ちょうど、千鹿の担任である凪塚 海凪なぎつかみなぎが入ってきて、拓相達と鉢合わせになった

「うわっ!」

「なんでそっちが驚いてんのよ、こっちの方がびっくりしたわよ、急に飛び出してきて、そもそも、なんであんた達がここにいるのよ!」

「すいません、すぐに戻ります」

「いや、戻らなくていい」

「え、もう予鈴も鳴ってしまったのですが、本当にいいんですか?」

「今日、月島 幻舞が欠席する理由を話しておこうと思ってな」

「「「け、欠席!?」」」

「まさか本当に…」チラッ

「拓相君、そろそろ冗談では済まされなくなりますよ」

 そう、途中まで口に出して、拓相が視線を千鹿の方に移すと、飛鳥は真剣に説教した

 拓相には、未だにいたずら心を持つ子供のようなところがある、新入生の首席である拓相のこんな一面は、新入生の代表として、その代の代表として、一人でその学年の全てを図られる立場にある人間には、不必要でかつ周りには決して知られてはならない一面である

「わかったわかった、すまなかったって」

「僕にではありません、風早さんに謝ってください」

「千鹿、すまなかったな…これでいいか?」

「はい…風早さん、大丈夫ですか?」

「うぅ…うん」

「それでは先生、月島君の欠席理由を話してもらえますか?」

「あぁ…あいつは今、病院に行ってる」

「「「え!?」」」

「ちょ、ちょっと先生!」

「な、なんだよ、急にそんな大きい声出したらびっくりするだろ」

「そんなの、当たり前じゃないですか」チラッ

「ん?千鹿がどうかしたのk…」

 拓相が千鹿の方に視線を向けると、海凪もそれに続き千鹿の方に視線を向けた、するとその視線の先には、顔を覆った手の隙間から涙を見せる千鹿の姿があった

「タイミングが悪すぎますよ、先生」

「タイミング?詳しく教えてくれないか?なんで千鹿が泣いてるんだ?」

「そ、それはだな…」

「それはですね……」

「そういうことか…拓相、放課後職員室な」ニコッ

「はぁ…」

「覚えてろよ、飛鳥」ブツブツ

「なにをブツブツ言ってる、ちゃんと来いよ」

「はぁ…」

「それじゃあ、教室に戻れ」テクテク

「ちょっと待ってくだい、先生」

「なんだ?」

「なんで月島君が病院に行ってるかは教えてくれないんですか?」

「それなんだがな…あたしも知らないんだよ、何回聞いても風邪だって言い張られたんだ」

「じゃあ先生は、月島君は風邪じゃないと思ってるんですか?」

「当たり前だ、バカは風邪ひかないらしいしな」

「月島君がバカですか…」

「あぁ…あたしからしたらみんなバカだ」

((こういう人のことをバカっていうんだろうな))

「今、なんか失礼なこと考えただろ」

「いえいえ、失礼なことなんてなにも…そんなことよりも、本当にそんな理由なんですか?」

「そんなわけないだろ…あいつが色々話したときお前はあの場にいたか?」

「えぇ、いましたけど」

「そうか、影が薄くて記憶になかったわ」

「いちいち言わなくていいですから、話を続けてください」

「続けるって言ってもそんなにないんだがな、あたしはあのときのあいつの話を信じ切ってはいないだけだ、というより、あいつはまだ隠してることがある気がするんだよ、特に、あいつ自身のことについて」

「それが今回の欠席の理由と関係があると思うんですか?」

「あいつは、千鹿と楓に持病があると言ったらしい、それが気になってしょうがないんだよ」

「どこがですか?」

「そんなこといちいち言う必要があるか?あたしは、それが本当のことを隠す為の嘘のような気がしてならないんだ」

「なるほど…それは何か理由でもあるんですか?」

「女の勘だ!」

「は?」


-同刻、月島家-


「ハックション…風邪でも引いたかな」

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