全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる
16話 初陣
「千鹿…お前にこれはまだ早い…」ボソッ
「ん?月島なんか言った?」
「いや、俺もこれからは修行に加わるって言っただけだ」
「加わるって、そんな身体でどうやって…」
「そんな身体、ねぇ…そんな身体っていうのはこれのことか?」パシッ ガシッ
「「「え!?」」」
「「「えーーー!」」」
遠くに置いてあった鞄から出てきたのはなんと義手と義足だった、そしてそれらは、あろうことか幻舞の右手と左足にくっついたのだ
「驚かそうと思って今日のために黙ってたんだけど予想以上の反応だったな…これは見ての通り機械だ、さっきの全てを見通す眼同様ちょっとした仕掛けはあるが、基本的にはただの義手と義足と同じだ…この体にはだいぶ慣れてきたからそろそろ実戦でも慣らしておきたくてな、みんなも今手に入れた武器を試したいだろ?俺にかかってきていいぜ!もちろん殺す気でな」
「いやぁ、確かに試したいは試したいんだけどこいつとの初陣がお前ってのは…」
「そうだよね、いきなり幻舞君ってのはちょっと…」
「そうですよね、僕もちょっと…」
「はぁ、会長まで…僕の修行のためにもきてくれなきゃ困るんですが…」
「やったー、みんなやんないなら私とトムが最初にやっちゃおーっと」
(トムって…なんかいきなり武器にニックネームつけちゃってるし)
「待って撫子、私もやる!どうせ私は今までとなんも変わってないんだし…あぁむかつく!」
(って、こいつやっぱ怒ってんじゃねぇか)
「よーし、行こう千鹿!」
「オッケー!」
「はぁ、やっと来たか…よっしゃ、どっからでもかかってこい!」
「合技、魔法剣術<止まない剣の嵐>」キン キン
「(水属性放出系魔法<水鉄砲>、皇流固有魔法纏より、<凝固>)合技、<氷の雨>」
「ちょ、ちょっと撫子、危ないじゃない!」
「あはは、ごめんごめん、考えてなかったー」テヘッ
「テヘッ、じゃない!」
幻舞と剣を交えていた千鹿は、幻舞の周囲一帯を狙った撫子の考えなしの攻撃の巻き添えを食うとこだった
「今度は合わせて行くよ!あんたまだ武器使ってないし」
「トームー!」
「わ、わかった、トムね…トム」
「よーしじゃあ行こう千鹿、トム!」
「はぁ…」
「おい千鹿、隙ありすぎな」
「つ、月島」キーン
「千鹿!」
「終わりだな…」
撫子といささかなやり取りをしていた千鹿の背後に回っていた幻舞は、千鹿が持っていた訓練用武器を払い飛ばし、訓練用の刀を千鹿の首元に突きつけて続けた
(この状況で<氷の雨>を打っても今の千鹿には避けれない、それに月島君には…どうしよう)
「千鹿、俺は前に一度お前に『お前は待ちの一辺倒だから自分から攻めていける技を身につけるべき』と言ったが、それはお前の剣術を変えろというわけじゃない…お前の剣術の根本は“奪う”ことじゃなく、魔力が武器に“奪われない”ということだ」
「魔力が武器に奪われる?月島、急になに言ってるんの?」
「“武器”は、魔力を流すことで武器そのもののステータスを強化することができる“成長武器”と、元々のステータスがそれなりに高く魔力を流す必要がない“定常武器”の二種類に分けられるんだ、そんでお前の剣術は後者に当たるから同じ定常武器の訓練用武器で俺に勝てるぐらいになれば、お前もその頃には相当強くなってると思うぞ!」スッ
「はぁ…」ガクッ
(死ぬかと思った…月島に勝つ、か…)
幻舞は、話を終え千鹿の首元から剣をどかすと、千鹿は腰が抜けたように膝から崩れ落ちた
「さて…あとは撫子か、どうする?まだ俺は肩慣らしすら済んでないんだから降参なんてするなよ」
「まさかー、私とトムの息の合った連携もまだ見せてないのに終わらせるわけないじゃん!千鹿ー!月島君から離れてて…合技、<氷の雨>行くよ、トム…はーーー!合技、魔法剣術<氷鋭時雨>!」
「ほぉ、考えたな、これじゃあ避けるのは無理そうだ…」
<氷の雨>によってできた雨粒ほどの大きさの氷塊をさらに細かく砕くことで、より鋭くなった氷塊が人一人が避けれるだけのスペースを余すことなく無くし、幻舞に向けて降り注いだのだ
「なら、“視覚補助”すべて見切る!」キン キン キン スパッ キン
「そ、そんな!?」
「なかなかいい考えだったな…でも、これで終わりだ撫子」シュン
「まだまd!」バタッ
「一発頬をかすったか…まだまだだな」
「幻舞君、その傷まだ満足いかないんじゃない?今度は私たちが相手してあげる」
「おう!」
「はい」
「では今度はこちらからいきますよ」シュン
「んっ、やっぱ速いわね」キン
「くっ、今度はこっちかよ」キン
「訓練用のだったら今のでこれ折れてたぞ」
「くっ、こっちにも来ますか」キン
「当然ですよね、わかってましたよ…合技、魔法拳術<業火の鉄拳>」スカッ
幻舞が飛鳥に攻撃すると、飛鳥はそれを読み幻舞の攻撃を防ぐと同時に魔法の発動をさせたのだった、しかしそれは幻舞にあと少しのところで避けられてしまい決まらなかった
「ふぅ…あぶねぇあぶねぇ、惜しかったな飛鳥」
「ありがとうございます、次こそは当てて見せます!」
「おい飛鳥、楓は距離を取らせて援護に回したから、俺たち二人で幻舞の速さぐらいは何とかするぞ!」
「はい、わかりました」
「<大地の牢獄>」
「単調だな、そんなんじゃ俺は捕まえられないぜ!…なに!?」
「ふっ、かかったな…もういっちょ<大地の牢獄>!」
「甘いな、拓相<空中散歩>…でもまあ危なかったな、捕まったら多分やばかったし…なに!?また囮かよ」ヒョイ
「ふぅ、今のは本当に危なかったな…やるじゃねぇか拓相」
「へへっ、まあ楓の加速系魔法あってこそなんだけどね」
今何があったかというと、まず一発目の<大地の牢獄>によって幻舞を浮かし、その着地地点にもう一発の<大地の牢獄>を発動することで幻舞を捕まえようとしたが、それを察知した幻舞は<空中散歩>により空中での移動を可能にし避けることに成功した、しかしそこに拓相の移動系魔法と楓の加速系魔法によってものすごい速さで一直線で向かって飛んで来た拓相の武器“ネルイダーラ”を幻舞は間一髪でなんとか避けたのだ
「はぁ…はぁ…さすがにやべぇな、負けるわけにもいかねぇし…次で決めるか」
「おっ、さっきと雰囲気が変わったな…っ!?」バタッ
「拓相k!?」バタッ
「拓相!信楽君!」
最初に幻舞が見せた素早い動きは完全なる体術だったため、それにすらぎりぎりの反応しかできない相手に魔力消費が激しく何発も連発できない<見えない斬撃>を使うまでもなく、拓相と飛鳥は、ただの<超速>でも反応できていないようだった
「はぁ…はぁ…あとは、はぁ…会長だけですね、はぁ…はぁ…どうしますか?」
(前もそうだったけど、これだけでなんでこんなに息切れしてるんだろ…でも!)
「今の幻舞君にこれを避けれる?」ビュン
「無属性複製系魔法<無数の矢>、魔法弓術<矢の雨>…」ビュン ビュン ビュン ビュン
(ムキになってやり過ぎちゃった…避けてね、幻舞君)
「月島、危ない!」
「はぁ…はぁ…確かに殺す気でとは言ったけど…これは流石にまずいな…」
(会長の魔法詠唱的に、これらは全て付与魔法のかかってないただの矢、それなら残りの魔力量でも俺一人が収まるスペースを確保するぐらいなんとかなる)
「ふぅ…<風の真剣>」シャキン
「はぁ…はぁ…ギリギリだっ…t」クラッ バタッ
「幻舞君!」
「月島!」
一呼吸置いて幻舞が発動した魔法は<風の真剣>だった、<風の真剣>は風属性加速系魔法の中でも初歩的な魔法で、魔法属性が風属性であれば加速系魔法の得手不得手に関わらず誰でも発動できるほど簡単である、それ故魔力消費量も少ないためあの場面で幻舞は<風の真剣>を選んだのだ
しかし実質魔法系統を魔法の発動に必要としない放出系魔法の方が魔力消費量は少ない、ならなぜ幻舞は放出系魔法を発動しなかったのか、その理由は『幻舞に向かってきた矢と放出系魔法のベクトルが全く逆』と言うことである、気流などを用いずただの向かい風で運動している物体を止めるのには相当な量の魔力を必要とする、つまりこの場合においては放出系魔法より加速系魔法の方が魔力消費量が少なかったということである
幻舞はあの刹那な時間にこれらのこと以外にも多くの可能性を考慮しその中から的確な答えを導き出しそれを正確に発動したのだ、これは修行で身につくものではなく確実に実戦経験の多さによるものである
「ごめんね幻舞君、私…」
「心配いりませんよ、こうなったのは会長のせいじゃありませんから」
「でも…」
「この義手と義足は粘着から動作まですべて魔力を必要とするんですよ…ほら、もう外したからこれ以上魔力が減ることはありません、患部の魔孔もちゃんと動作してますしね」
「でもやっぱりごめんね、私は幻舞君を殺そうと…」
「そうですか…それなら僕も前にそんなことしてしまったのでお相子でいいですか?」
「幻舞君…ありがとう」ギュッ
「会長、それはさすがにまずいですよ、離れてください」
「月島、何やってるの?!」
幻舞が楓を引き剥がそうとしていたところにタイミング悪く千鹿が来てしまった
「いやぁなんか会長が抱き着いてきちゃってな…助けてくんね?俺もうクタクタなんだけど」
「知らない!せっかく車椅子持ってきてあげたのに…自分で乗れば!」
「なに怒ってんだよ、それに、こんな状態で魔法も使えないのに一人で車椅子に乗れるわけねぇだろ」
(だから手伝ってあげようと思ってわざわざ持ってきたのに…)
「知らない!なら会長にでも手伝ってもらえばいいじゃん!」
「って言っても、会長はこの調子だしなぁ…手伝ってくれよ、お願い!」
「しょ、しょうがないなぁ…今回は特別に手伝ってあげる」
「おぉ、サンキュ…じゃあまずは会長を引き剥がすとこからな」
「そこもやんのね…」
千鹿は幻舞の懇願する姿 にどこかときめきを覚え、断ると言うことが頭から抜けていた
少年が女心を理解できるあたまを手に入れるのはいつになるのだろうか、たぶん随分先のことだろう
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