全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

14話 緋離と幻舞の母


「幻舞君、大体はわかったんだけど、あなたの言動は矛盾してるように思えてならないの、いったい何を考えてるの?」

「そのことについては幻舞に聞いても意味がないと思うよ、本人も自覚してないみたいだしね…だから僕からでいいかい?」

「えぇ、別に…」

「ありがとう…今回、こんな話を幻舞にさせたのは僕なんだよ、このまま一人にしてたら幻舞は何も得られずに死んじゃってたかもしれないしね」

「「「えっ!?」」」

「し、死ぬって…」

「あぁ、本当に死ぬんじゃなくて、人としてね…幻舞の命を狙う奴らは幻舞に近しい存在のだれかを人質に取るらしいんだ、夏恋がその実例だよ…だから幻舞はずっと一人で闘わなきゃいけなかったんだ、誰からも同情されないように、それが幻舞の理性だよ…でも前に、楓ちゃんや千鹿ちゃんたちに自分の病のことを話しちゃったらしいね、多分そこら辺から、幻舞は理性がだんだん働かなくなちゃったんだけど、それを無理やり抑え込んでたんだろうね、そしてこの前の事件で、夏恋に会って理性は完全に働くなちゃったんだと思うよ…さっきの幻舞の話にちょくちょく主観的な話が入ってたのはわかったかい?それが幻舞の本心だよ、普段は絶対主観的には話さないからね…もしかしたら、入試のときにあんな大勢の前で力を出したのもそうなのかもしれないね、本気を出さなかっただけまだ理性は働いてたみたいだけど」

「総紀お前、いったいどんだけ見てるんだよ」

「まぁまぁ」

「まさか、総紀おじさんがそんな説教くさいことを言ってくるとは…心外です、僕はただ、総紀おじさんに話せと言われたので話しただけですよ!」

「またまた…君の、夏恋や僕の前での態度をここにいるみんなに言ってもいいのかい?」

「勝手にしてください…僕はこれで帰らせていただきますので」

「幻舞!僕がこのまま帰らせるわけないだろ?本当は君が一番わかってるんじゃないのかい?自分はもう限界だってことが…」

「そんなことありません!僕は全然…」

「じゃあ君は、みんなの前でその上着を脱ぐことが出来るかい?」

「えっ!?急に何言ってんのよ!ここには女子もいるんだよ!」

「千鹿ちゃん、ちょっと黙ってて貰えるかい?…さあ幻舞、早く脱ぐんだ!」

「みんなの前で上裸になるなんて、そんなこと出来きるわけないじゃないですか、そもそもそんなことしてなんの意味が…」

「意味がないと本当にそう思ってるのかい?その質問にこそなんの意味があるんだい…とにかく、君が自分で脱がないんだったら僕が無理やりにでも脱がせるけど、それでもいいのかい?」

「…はぁ、わかりましたよ」スルッ

 露わになった幻舞の上半身は、とてもガタイがいいとは言えないものの、腹筋も割れすごくたくましいものだった、ただ一つを除いては…
 幻舞のその身体には、最近のものからすごく古いものまで、数えきれないほどの無数の切り傷や火傷など様々な傷跡があった

「な、何これ…月島?」

「このうちの半分ぐらいは、多分幻舞が自分でやったものだと思うよ…僕も付き合いは長いけど、これは最近知ったばかりだから、なんでこんなになってるのかまではわからないんだけどね」

「ねぇ幻舞君、よかったら教えてくれない?なんでそんなになってるのか」

「…見せてしまったからには話すしかありませんね、そうですね…まず、僕が夏恋に近づいたのは利用するため、僕は夏恋を、シンツウの奴らと闘えるだけの魔法闘士ストライカーにしようとしました、このことは総紀おじさんにも話してなかったですね…すいません」

「別に、僕は君に謝って欲しいわけじゃないよ…それに、そのことは夏恋から聞いていたから知っていたしね」

「そうですか…」

「でも、それがその傷とどうつながるの?」

「僕が夏恋に近づいたのは、夏恋が持っていた魔法力が理由です…それは僕の数十倍にも及ぶ量で、この星では魔法力においてはダントツでした…なので夏恋ほどの魔法力を持った素材ひとは、夏恋が死んだ後も探してはみましたが見つかるわけありませんでした…正直、この闘いは僕一人ではどうすることもできないのはわかっていました、だからこそ夏恋に頼ったんだと思います、なので夏恋が死んだあと僕は絶望していました、死にたいとも思いました、この傷跡の半分ぐらいはそのとき出来たものです…死ねば楽になれると思ったんでしょうね、それまではそんなこと一度も思ったことがなかったのに、急に、今までの恩も忘れて、この星のことなんか考えれなくなることは多々ありました…でも生まれもった“一族の呪い自己治癒力”によって死ぬことは叶いませんでした、なのでこの傷跡は自分への戒めなんです、完全に治すこともできますが、あえて残してあるんですよ」

「幻舞君…」ギュッ

「え、ちょっ!?」

「幻舞君すごいね…本当にすごいよ、そんなになるまで自分を追い込んで、それでもまだ一人でやろうとしちゃうんだもん、夏恋ちゃんよりも頼りにはならないと思うけど、もっと私たちを頼って、もっと私たちをこき使ってよ、幻舞君はこれから一人じゃないんだから!」ポロポロ

「なんで会長が泣いてるんですか」

「だって幻舞君…辛かったんだよね?」

「僕は今日どこまで話すかは決めてなかったんです、どんなことでも話すのが怖かったんです、どんな反応をされるのかとか色々考えました、でも結局は『僕から離れられても別にいいや』と思ってしまいました、こんな僕のことで涙を流してくれる人がいるのに…今日話してよかったと今は思います、本当にありがとうございます!」

「お兄ちゃん…私は一番近くにいたのに何も気づいてあげられなかった、ごめんなさい…」ペコリ

「顔をあげてくれ緋離、俺の方こそ、お前に謝らないといけないことがあるんだ」

「そんなこと…私はお兄ちゃんのこと何も知らずにさっきはあんなこと言ったりして」

「いいから聞いてくれないか?こんな時に言っても、本当に反省してるのか疑われてもしょうがないとは思うんだけど…


 ー十年前、幻舞が夏恋を殺したあとー


「な、なんだこの胸の痛みは…俺に何をした、柚鶫ゆつぐ!」

「は?俺は何もやってない、やったのはその女だよ…いや、それも少し違うかな」

「どういうことだ!」

「俺にそんなことを説明する道理はない、そもそもこの闘いにそんなことは関係ないからな!」

「…それにしてもよくやった幻舞、俺じゃあんなバケモン止めれそうになかったからな、危うく巻き添えを食らうとこだったが、まさかお前に助けてもらう日がくるとは…そのお礼といってはなんだが、お前もそこの女と同じとこへ連れてってやるよ、感謝しな」

「なんで関係ない夏恋を巻き込んだんだ!俺を殺したきゃ俺とやればいいだろ!」

「関係ないだと?!俺は関係ないやつなど巻き込んじゃいない、もしお前にとってそこの女が関係ないって言うなら、柚季ゆづきも関係なかったのか?!お前は関係ないやつを二人も、いや、何十人も殺したってことになるんだぞ!お前を殺すだけで、俺のこの怒りが収まると思うなよ」

「確かにそうかもな…なんとなくわかった気がするよあの時のお前の気持ちが…柚季か、懐かしいな…」

「なに今さら抜かしたこと言ってんだ!始めるぞ…来い、“神槍しんそうピレグルヴィア”!」

「ふん、遅い!」シュン

「なに!?」ガハッ

「ふっ…直接手をかけてはいなくとも…自分の好きな人を…殺した相手にさえ情けをかけるとは…やっぱりお前は甘いな…」バタッ

「別に甘くなんかないさ、俺がお前に“死”なんてそんな生ぬるいことするわけないだろ、合技、<抜け殻の人形パペットエンプティ>…惑星シンツウ、クーウィル一族の元へ帰れ!」

「はい」

 幻舞は、柚鶫に限らずこの星の人以外は、戦闘中に<抜け殻の人形>を発動するほどの隙をつくる相手ではないと知ってたため、一旦気絶させたのだ、なぜなら<抜け殻の人形>は気絶してようが関係ないからである

「ふー、終わった…夏恋戻るよ」

『ガシャン』

 幻舞が柚鶫との戦闘を終え、緋離たち施設の子供達のところに戻ろうとしていた時、さっきの夏恋の暴走攻撃によって少し欠けていた教会が崩壊した

「くそっ、みんな避難してるといいんだが…」

「緋離、みんなは無事か?」

「それが

『ケント君を探してくる』

ってお母さんが中に…」

「わかった、お前たちはここから離れて待ってろ、ここにもなにか飛んでくるかもわからないからな」

「わかった、気をつけて、お兄ちゃん」

「あぁ!」タッタッタッ

「母さん、どこだー!」

こっち、早くこの子を…」

「か、母さん!」

 声のした方に幻舞が行ってみると、そこには一人の子供が泣いているその隣で、瓦礫の下敷きになっている幻舞や施設の子供達が揃って『お母さん』と慕う教会のシスターがいた

「泣くな、母さんは絶対に死なせねぇ、だから、お前は早くここから離れてみんなのとこに行ってろ!一人で行けるな?」

「う…ん」テクテク ガシャン

「くそっ<進行阻害ストップモーション>…走れ!」

「う…ん」

「はぁはぁ…これであいつはもう大丈夫だろう、母さん今…」クラッ

「大丈夫?ゲン、あなたがそんなに疲れてるとこ初めて見たわ、なにがあっt…危ない、上!」ガシャン

「<進行阻害>…はぁ…はぁ…今助けるから待っててよ母さん…はぁ…はぁ…<空中散歩サーキュレイション>」

「ゲン、そんな状態じゃ、たとえこの瓦礫をどけれたとしてもあなたがここから逃げれなくなっちゃうわよ…私のことはもういいから早く逃げて!」

「はぁ…はぁ…ふん、俺だってやるときはやるんだから見ててよね!」

「私だってやるときはやるんだから!」

「私も」

「あたしも」

「うちも」

「お兄ちゃんばっかいっつもいいとこ取ってずるい!私たちだっていること忘れないでよね…お母さん、今絶対助けてあげるから待っててね!」

 幻舞がシスターの救助に苦戦していたところに駆けつけたのは、さっき幻舞が逃げるように言った緋離を含めた施設の子供たちだった

「おい緋離、それにお前らも!なんでこんなとこに来たんだ、危ないだろ!」

「あなた達、今すぐここから離れなさい!ここがどんなに危険なとこかわかってるの?!」

「だ、だって私たちもお母さんを助けたくて…」

 いつもは温厚なシスターの怒声に、子供達は声がだんだん小さくなってしまった

「それはありがとね、でもね、あなた達が死んでしまったら意味がないの、幻舞だってそうだからね!『母さんだけでも』なんて考えてたら承知しないよ」

「私は絶対に死なない、お母さんも助けて、生きてみんなでここを出るの!」

「はぁ…じゃあ早く瓦礫をどかしてくれ、俺は上のを支えるのでさえちょっときt…」

『ガシャン』

 なんと、幻舞が支えてた瓦礫の上にさらに瓦礫が乗っかり“阻害”で支えるのは、今の疲弊しきった幻舞では不可能な状況になってしまった

「おいお前ら、今すぐここから離れろ!もう俺じゃ上のこれは抑えきれねぇ、母さんは俺がなんとかするからお前らは早くここから離れろ!」

「お兄ちゃんそんな!」

「もっと頑張ってください!」

「そんなこと言われなくたって分かってるよ!」

「ゲン…」

「なに?まだ『自分だけおいてけ』なんて言うつもりじゃないよね」

「ありがとね、この子達を頼んだわよ」

「っ!…くそっ、まだだ、あきらめるな!」

「もういいの…あなたのこんな頑張る姿を見れて満足よ、それと、最期・・にこれだけ聞いてこれを受け取ってほしいの……」

「え!?」

「すべて事実よ、今まで黙っててごめんなさい…だからあなたに頼んでもいいかしら?」ハイッ

「そうか、分かったよ母さん…お前ら、全員俺の腕に掴まって目をつぶってろ!」

「え?いったい何をするの?」ガシッ

「うまく発動するかどうか少し不安だが、これしかねぇ…<超速オーバースピード>!」

「ちょっ、ちょっと離して!まだお母さんが」ペシペシ

「間に合ったか…はぁ…はぁ…」

『ガシャン』

「お、おか、おかあ…お母さーん」ポロポロ

「なんで、なんでよ!なんでお母さんを助けなかったのよ…」ペチペチ

「すまん…」

「なんでうちだけ助かったって…」ペチペチ

「すまん…」

はあたしたちのお母さんを殺した人殺しだ…」ペチペチ

「すまん…」

「お兄ちゃん…」ペシン

「すまん…」

 幻舞は間違ったことをしただろうか、いや、あのまま続けていればあの場にいた全員瓦礫の下敷きになっていた、そこで一人でも多く助けようとした幻舞の判断は正しいと言える、その場にいた他の四人もそれはわかっていながら、それでも悲しみを幻舞にぶつけるしかできなかったのだ

「夏恋、俺これからお前のおじさんにもこんなことされるんだよな…お前に言ってもしょうがないか、俺が起こした不祥事だもんな」バタッ ポロポロ


 …これが俺たちを育ててくれた母さんの死の真相だ、俺はお前の中のこの記憶を書き換えた…すまない、騙したりして、それに母さんを助けられなくて」

改竄・・したのは俺じゃないが、これは言う必要ないだろうな…)

「お兄ちゃん…ごめんね、私お兄ちゃんにそんなことまで…本当にごめんね、お兄ちゃんだって辛ったもんね、悲しかったもんね、それなのに私は…」

「緋離、責めないのか?俺のこと…」

「なんで?お兄ちゃんこそ私のこと責めないの?」

「それは…俺のせいで母さんが、それに夏恋まで、俺はお前の大事な人を二人も…」

「お兄ちゃん…」ペシン

「緋離、おまえなにして…」

「これでおあいこになるとは思ってないけど、少しでも私のことを許して欲しかったの、でも私からも一つ言わせて…これからは隠し事をしないでほしい、今までの私だったら、確かにそんなこと言う権利はなかったと思うけど、今の私ならお兄ちゃんのことをちゃんと理解できる、それも証明しようがないんだけどね…でも、お兄ちゃんのことを信じてる私を信じてほしいの」

 なんと、緋離は幻舞の手を取り自分の頬を叩いたのだ、そして、その後の緋離の言葉は一見自己中心的なものに見えるが、それは幻舞のあまりに自己主張をしない性格を理解しているからこその発言だろう

「緋離、ありがとう…正直、全てをいっぺんにさらけ出すのは難しいから少しずつでもいいかな?」

「うん!これから一緒に頑張ろうね」

 この時、少年にとって妹が本当の“家族”になった

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