全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

13話 月島 幻舞とルティアト・クーウィル


 ー月島学園襲撃から約一週間が過ぎたある日の放課後、軍北海道支部ー


 そこには、先日の事件の現場にいた幻舞に少なくとも関わりのある9人と幻舞とその妹の緋離の、合わせて11人が集まっていた

「幻舞、実際にあんなことが起こってしまったからには君の知ってることを話してもらわなきゃね」

 そう言うと、総紀は『ほらほら』と顔で幻舞合図を送った

「ふー、じゃあまずはこの世界のことわりから話します…は勘違いしていますが、他国の人、特に他国の魔法闘士ストライカーは、味方であり大事な戦力です、なので世界大戦というのは他の星の人からすれば仲間割れとしか見えません、この世界の本来の敵は他の星の人なのです、だから星の中で争ってる暇はないんですよ」

「ちょ、ちょっと待って…宇宙人を見たなんて情報はみんなデマばっか、まさか実在するなんて…」

「あなたたちの言う、宇宙人と呼べるものなら今あなたたちの目の前にいますよ」

「目の前って…幻舞君しかいないけど」

「うん、月島しか…って、え!?まさか」

「はい、僕もあなたたちの言う宇宙人に該当します、僕はこの星の生まれではないので」

「じゃ、じゃあ緋離あかりちゃんも…」

「いえ、緋離はちゃんとした地球人ですよ、簡単に言うと、僕には実の一族の血と月島家の血が流れているんです、遺伝子学は詳しくないのでどういう原理か知りませんけど…ちなみに緋離の両親もちゃんとした地球人ですよ、なので僕には親が四人いることになります」

「でもなんでそんなことをする必要があったの?」

「それは…」

 今まで淡々としゃべっていた幻舞が初めて言葉を詰まらせた

「それは、何?」

「楓、そんなに幻舞を責めてもしょうがないだろ」

「それは…この地球を侵略するためです、どちらかというと支配かもしれませんが…」

「え!?じゃあ、幻舞君は私たちの敵ってわけ?今まで騙してたの?」

「騙してたつもりはありませんが、嘘をついてたのは確かです…」

「でもさぁ、月島って異常に他人を遠ざけようとしてたじゃん、もしかしてだけど月島って私たちの味方なんじゃない?敵がわざわざそんなことする必要なんてないし」

「「確かに」」

「いや、僕は別にあなたたちの味方というわけじゃないですよ、ただ、育ててくれたこの星の人たちに危害を及ぼされるのが許せないだけです」

「つ、月島…それを味方っていうんじゃないの?」

「えっ…」

「もしかして月島ってバカなの?天然なの?」

「ちょっ千鹿、それって結局は月島君ってあほってことじゃん、あはは」

「あはは、幻舞お前」

「ぷぷっ」

 幻舞には仲間という感覚がなく、自分がそう認識させたことにこれまた幻舞の中で覚えのない感情が込み上げてきた

「ゴホン、もうそれくらいでいいだろう…幻舞続きを」

「は、はい…ゴホン、それでこの星を狙う理由ですが、それはゲートです、扉とは星と星とを移動するための手段に使われるもので、この星はその数がこの世界で最も多いこの世界の拠点とされています、なのでこの星を狙う星は、僕の生まれた“惑星シンツウ”以外にもたくさんあります、そしていろんな星がいろんな手を使ってこの星を支配下に置こうとするため、5回の世界大戦はそれが原因で起こった、すべて他の星による策略と言われています、ただ分かってるのは、10年前までの第五次世界大戦と今回のを含めた魔法闘士連続殺害事件は、どちらも確実にシンツウによるものだということです、すいません」オジギ

「顔を上げてくれ、それよりももっと知ってることを教えてくれないか?」

「それじゃあ、先日の事件を含めて話します…まず僕の本当の名前は“ルティアト・クーウィル”シンツウでは王族に値する一族の、立場的には次期王候補です、そしてこの星に来ているシンツウの精鋭は、その次期王候補の僕の実のいとこ6人で、今回の事件を起こしたであろう奴らです、そして、先日月島学園を襲ってきたのは僕のいとこの一人“ヴァラチューリ・クーウィル”この星では“楠木 柚鶫くすのきゆつぐ”と呼ばれている、そいつの弟子の“イズミ・クーウィル”この星での名は“楠木 彌鵜瑠みうる”と言います、魅鵜瑠の方は養子として引き取ってもらっただけなので、楠木一族の固有魔法も使えないし楠木一族の魔法属性も持ってはいませんが」

「ちょっと待って弟子の名前…同じ一族でも師弟関係になるの?」

「何言ってるんですか?会長、地球ではただ家族を装ってるってだけのことじゃないですか」

「千鹿ちゃん聞いてなかったの?その弟子の人の本当の名前にも“クーウィル”って入ってた、つまりその人も同じクーウィル一族ってことなんでしょ…幻舞君どういうこと?その人もあなたのいとこにあたるんじゃないの?なんでそれが関係になるの?どちらかというととかになるんじゃないの?」

「楓、そんなに幻舞を責めるな、それにそんなこと聞いてどうする」

「そんなことはわかってる!でも…」

 楓は幻舞とまともに対峙したとき感じた恐怖から、どこか一歩引いて幻舞と接していたこともあり、さらに幻舞が淡々と訳のわからないことを喋っているため、自分でもわかるほどに混乱していた、そのためその質問の意味など関係なくとにかく情報を欲しているのだ、少しでも混乱を和らげるために

「魅鵜瑠は…僕の妹です」

「「え!?」」

「そ、そんな…」ウルウル

 幻舞の告白に一番驚いたのは、当然緋離だった、今まで兄だと思ってた男とのちゃんとした血の繋がりはなく、さらにその男にはちゃんと血の繋がった妹がいたのだから、驚き以上の感情が込み上げてくるのも無理はないだろう

「でも君は確か、先日の事件のとき彼女に『以前殺そうとしたことがある』って言ってたよね、それはいったいどういうことだい?本当にそのままの意味で実の妹を殺そうとしたってことなのかい?」

「クーウィル家はいろんな星に“合格者パス”を派遣します、僕もその“合格者”です、そしてその判断基準は『身内の誰かを殺すこと』大体は妹や弟などの自分よりも力が劣るものを手にかけますが、中には自分の母親を殺す人もいました…僕はそのときに、気づかれない具合に魅鵜瑠を仮死状態にして、その場しのぎで合格したというわけです、なので今じゃ“反逆者ルティアト”なんて言われていて、実は僕の命を狙った先日の事件のようなことは今回が初めてじゃないんですよ」

「じゃあ君は、妹だから手にかけられなかったってことでいいんだね?」

「そういう捉え方もできるかもしれません、どう捉えてもらっても僕は別に…とにかくそういうことだ緋離、俺の妹はお前だけだから心配すんな」ナデナデ

「なんで…じゃあなんでちゃんと縁を切らなかったの?だからこんなことになったんでしょ!あれもこれも全部お兄ちゃんのせいよ!」

「っ!それは…すまん」

「緋離ちゃん…」

「なんて言うわけないでしょ…わかってる、私の大好きなお兄ちゃんは、どんな理由があっても人を殺すことなんかできないすごく優しい人なんだから!」ニヤニヤ

「…」

「…」

 幻舞と総紀はその無邪気な笑顔に何も言い返せなかった

「どうして黙ってるの?お兄ちゃん、それに総紀おじさんまで…まさか、誰か殺したことあるの?違うよね?そんなことないよね?」

「…」

「さっきからなんで黙ってるの?なんか言ってよ!なんも言ってくれなきゃ…」

「緋離ちゃん…」

「月島…何も喋らなかったら肯定って捉えられるよ?」

「幻舞君、まだ隠してることあるんでしょ?!黙ってないで全部話しなさい!」

「勇、一旦楓ちゃんを落ち着かせてもらっていいかい?」ニコッ

「あぁ、すまん…楓ちょっとこっちに来い」

「やめて、離してお父さん!まだ幻舞君に聞きたいことが…」

 勇は必死に抵抗する楓を抑えながらその部屋を後にした

「じゃあ静かになったし、幻舞、話してくれるかい?」

 ある意味楓の言動により、緋離と千鹿を含めそこにいた全員に煽られた形となったため、幻舞は覚悟を決めるしかなかった、緋離にとってはとても残酷であろう、今まで黙ってきた封印してきた夏恋の死の真実を明かす覚悟を…

「いや、すいませんが、会長達が帰って来るのを待ってもいいですか?この話は会長にも聞いておいてもらいたいので」

「はぁ、まったく…わかったよ」


 ・


 ・


 ・


「楓が迷惑をかけてすまなかった…お前もちゃんと頭下げて謝れ」

「ごめんね幻舞君、それにみんなもごめんなさい」

「…」

「幻舞…」

 幻舞の目にはその光景が、十数年前の総紀と夏恋が同じやりとりをしてるように映った

「それで話はどこまで進んだんだ?途中から聞かせてもらえるか?」

「…」

「総紀、どうした?今入んないほうがよかったか?」

「あ、あぁ、いや、別にそんなことはないよ、幻舞が楓ちゃんにも話したいらしくて、帰って来るまで待ってたんだよ、だからまだ何も…」

「そうか…ありがとう幻舞」

「幻舞君、ありがとう」

「じゃあみんな集まったことだし早速幻舞に話してもらおうかな」

「大丈夫、きっとわかってくれるよ」コソコソ

「そこー、何コソコソ内緒話してるんですか?」

「さあなんだろうね…それよりも幻舞、話してくれるかい?」

「…緋離にはずっと嘘をついてたんだけど…夏恋は本当は…事故死じゃないんだ…夏恋は俺が殺したんだ…」

「「「えっ!?」」」

「そんな…お兄ちゃんが、夏恋おねぇちゃんを…なんで!なんでそんなことしたの?!」ポコポコ

「緋離…すまん…」

「ねぇ月島、その夏恋って子はこの前の…その、つ、月島の恋人だったんだよね?」

「あぁ…」

「じゃあ何でそんなこと…」

「十年前まで起こってた第五次世界大戦の終戦直前、僕はある教会横の施設にいたんですが、近くが戦場になったので、施設の子供たちや世話してくれていた教会の人たちを巻き込ませないために、戦場へ行き敵を一掃して帰ったきたら、たまたま遊びに来てた夏恋が柚鶫につかまってたんです…


 ー十年前ー


「柚鶫、近くで戦争を起こしたのはこのためか?!お前も夏恋の魔力を…」

「あぁそうさ、この魔法力は誰だってほしいに決まってるだろ、お前だってそうだろ?幻舞…傍で守ってると見せていつかは自分の奴隷ものにするつもりだった、違うか?」

「違う!俺は…」

「ゲンくん、夏恋知ってたよゲンくんが夏恋の魔力目当てで近付いてきたの…でもゲンくんといるとすごく楽しかったし、夏恋にしか見せないゲンくんの本当の姿は本当に弱かったから近くにいなきゃって思った、それにゲンくんはすごく優しかった、だから夏恋はたとえゲンくんが魔力しか興味なくても夏恋と一緒にいてくれるだけでうれしかったの、ゲンくんのものにならなってもよかった…でもこんな人のものになるなら死んだほうがまs…」

「夏恋、どうした?!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛ー」

「ちっ、こいつ自分の魔力制御もできねぇのかよ!」

 夏恋は莫大な量の魔力を有していた、それもそれは幻舞の数十倍もの量の魔力を、しかしその量はとても5、6歳の女の子が制御できる量ではなかったため、いつもは体が無意識の内に抑えて少量しか使っていなかったが、とうとうその無意識下制御リミッターが外れてしまい、夏恋は感情の持たないただ暴れまわるだけの兵器と化してしまった

「夏恋、落ち着け!このままだとおじさんも殺しちまうぞ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛ー」

 夏恋は、幻舞言うことなど聞かず近くにあった教会を攻撃した

「くそっ、このままじゃみんながやばいな…」

…俺はそのとき夏恋を殺しました、言い訳にしかなりませんがあの状態の夏恋を止めれるのはこの星にはいません、なのであのままほっといたら、あの周辺地域だけにとどまらずこの星の存亡すら危なかったと思います、今考えれば殺す以外にも方法はありましたが、あの場で『殺す』という選択をしたのは、抗うことのできない“殺人一家の血”が流れている証拠なのかもしれません…なので、あなたたちは僕と一緒にいない方がいいと思います、今後僕があなたたちに何をするかわかりませんから」

「お兄ちゃん…ちゃんと話してくれてありがと、これで話してくれなかったらほんとに怒るとこだったけどね」

(すでに怒ってた気もするけど、でも)

「緋離…ありがとう」

「うん!」

「月島、私たち風早一族は何かの流れに抗わず生きてきた一族だけど、月島は違う、抗うことができる、だからとことん抗い続けて見せてよ、あんたはなんでもこなせちゃう、月島にできないことなんかないんだから!」

「千鹿…」

「でもね、それは一人になれってことじゃないよ、確かに月島は私たちよりもできることは多いけど、一人でこなすにも限度はある、でも月島にできないことはない、だって私たち仲間がいるんだから!」

「うん!」

「うん」

「おう!」

「ええ」

「私たち大人だっているしな」

「お前がいても頼りねぇだけだけどな」

「そ、それならカケにぃだって」

「あの、今まですいませんでした」

「顔を上げてくれ、本当に謝らなければならないのはこっちの方だ…今まで本当につらい思いをさせてしまったな、すまない」ギュッ

「うぇー、男同士のハグとか…」

「「「「あはは」」」」

 少年は初めて死んでも守り抜きたい“仲間”ができた

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