全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる
12話 師のかたき
「はぁ…はぁ…」バタッ
幻舞はとうとう倒れてしまった、疲労からか、闘いが終わったことによる安堵からか、それとも最愛の人の死による悲しみからなのか…多分その全てだろう
「大丈夫か、幻舞!」タッタッタッ
『ボカーン』
倒れた幻舞に総紀が駆け寄ろうとしたその時、再び夏恋が爆発した
「げ、げんぶ、幻舞ー!」
目の前で起こった出来事に、ただただ絶望を味わった総紀に追い討ちをかけたのは、爆風で足元に転がってきた右手だった
「これが私の最高傑作、爆発と再生を繰り返す対月島 幻舞用無限爆破兵器<最愛の恋人>、操縦可能な自立式兵器よ!きゃはは、まさかここまで上手くいくとわね」
「お前は…さっき神代 琉が行ったはずだが」
「あぁ、さっき来たわね、それでこれがいったいどうかした?」
「っ!せんせい…これが本当にさっきの先生なのか!?」「まぁね、ちょっと私好みに手を加えさせてもらったけど、あんたの言う先生は確かにこの私の<獅子の足軽>よ、きゃはは、これが私の魔法<獅子孫々>」
奥から現れた女と一緒にいたのは総紀に頼まれ、その女と闘っていたはずの琉だったがその姿はさっきまでの凛々しい姿ではなく、まるで操り人形のようだった
「お前なのか?」
「あ?」
「最近起きた事件は全部お前がやったのか?!なぜこんなことを?!なにが狙いだ?!」
「事件ねぇ…そんなの私は興味ないのよ!私の目的は師匠の仇ただ一つ、私は、10年前に私の師匠を殺した月島 幻舞を殺すためにここまで来たんだから」
「ならもういいだろ…なぜ幻舞以外も狙うんだ!?」
「きゃはは、無様な命乞いね、確かに目的は奴を殺すことだけど他の奴を殺すのも私の自由、あんたは私の気まぐれで殺されるのよ」
「ならお前が殺されるのも俺の気まぐれだな!」
なんと、さっき爆発に巻き込まれ死んだと思われた幻舞が、右手左足のない状態で左手に自分の左足を持って、敵の背後から現れたのだ
「なにっ!?ど、どうして貴様が生きてる!?さっき目の前で…」
女の声は当然、初めは驚きから大きかったが、実力差を悟ったのか段々と小さくなっていった
「師匠が勝てなかった相手に、弟子が勝てるとほんとに思ってるのか?俺は爆弾なんかじゃ殺せない、でもまぁ、俺をここまでにしたのはお前が初めてだ、強くなったな彌鵜瑠」
「強くなったってなによ、私の何を知ってるっていうの?!そもそもなんで名前を知ってるのよ?!」
「あぁ知ってるさ、なぜなら」
「……」コソコソ
「え!?ち、違うあんたは敵、柚鶫さんを殺した憎むべき相手なのよ!」
「これは事実だ、しかしお前が言ってることもあながち間違いじゃない…柚鶫を殺したのもそうだけど以前僕は魅鵜瑠、お前も殺そうとしたことがある、だから魅鵜瑠が僕に、憎しみや恨みといった感情を抱くのは正しいことなんだよ」
「こ、こ、このぉクソガァー!」
「生きてたのか幻舞、でもあんなに敵を挑発してどうする、そんな姿でほんとに勝てるのか?そもそも闘えるのか?」
「心配ありませんよ、そこにある右腕もらいますよ…合技、<操り人形>」
「「か、体がつながった!?」」
確かに切断された腕や足がつながったように見えるが本当につながったわけじゃない、風属性変化系魔法<風のささやき>により神経を簡易的につなぎ、光属性幻覚系魔法<思考掌握>によって切断された手足まで神経を通し操っているのだ
「ふっ、体がつながったところで五割の力も出せない今の貴様なんて相手にならないのよ!」
「じゃあやってみるか?魅鵜瑠…この“蒼天”と」
「上等よ!そもそも、最初から武器に頼ってる時点で、魔力が残り少ないって言ってるようなものなのよ、そんな奴に私が負けるわけないわ、行きなさい私の<獅子の足軽>!」
幻舞は相手が自分の通う学校の先生で、しかも武器を持っていなかったため刀を鞘のしまったまま応戦した
(あいつのことだからろくな鍛え方はしないと思ってたが、まさか奴隷兵に闘わせるとはな…)
「魅鵜瑠も来て数的優位で闘いはしないのか?」
「敵にアドバイスとは余裕ね…貴様の言うとおりにするのは癪だけど、お望み通り数的不利にさせてあげるわ!<最愛の恋人>も行きなさい…あれ?早く行きなさい!なんであんだけ時間あったのにまだ再生できてないのよ!」
「無駄だよ、夏恋はもう再生できない、俺の<進行阻害>によって再生を止めさせてもらってるからね」
「ふざけるな!私との闘いをどれだけ愚弄すれば気がすむのよ!…絶対に負かしてやる」
「それは多分無理かな、でもまぁ、魅鵜瑠は殺さないでいてあげるから、早く俺の視界から失せてくれないか?もちろん先生と夏恋を開放してからね」ニコッ
「…はい、<獅子孫々>解除…」テクテク
また幻舞のお得意の<思考掌握>と<思考遮断>の合わせ技、<抜け殻の人形>だが、楓に使った時も今もいつ詠唱をしたのだろうか…
「まったく…魔法の威力は言わずもがなだけど、君の思考詠唱の精度はすごいな、会話しながら同時に魔法を発動する準備を整えるなんて、とても真似なんてできないよ」
「ははっ」バタッ
「やっぱり無理してたんだね、君のその優しさは人を突き放すものじゃなく、惹きつけるものってことにいつになったら気づくかな、まぁ気づいてももう遅いけどね」
ー月島学園、医務室ー
「はぁ…はぁ…カケにい!」
「あら海凪先生、ここにはけが人がいるんですから、もう少しお静かにお願いします」「す、すいません…それでカケn、琉先生は?!」
「ふふ、琉先生は無事ですよ…でもこっちはとても危険な状態ですね、止血はなんとか間に合ったんですが、このままだと魔力浪費過多で死んでしまいます」
医務室の先生長月 杏が琉から別の場所へ目を向けたその先には、右手左足がなく衰弱しきった幻舞がベッドに横たわっていた、そしてその周りには千鹿や楓達がいたがそこに総紀の姿はなかった
「お前ら、これはいったいどういうことだ…なぜ月島はこんな姿になって…いる…」
『なんとか間に合ったな…』
『じゃあな…海凪…』
海凪の頭の中に、ふとこの二つの言葉が再生された
「はぁ…はぁ…」
「先生!落ち着いてください!」
「はっ!す、すまない…聞かせてくれ、どうしてこんなことになってるんだ?」
「まず、校門で爆発があったときすぐに会長が駆けつけてくれたらしいんですが、そのときには月島はもういたらしくて……それで、会長のお父さんがやられて大怪我を追ってしまって今隣で寝てるんですが、私たちはさっきまでずっと、そっちについていたので詳しくはわからないんです、でも少しなら聞きました…月島は、間近で爆発に巻き込まれたそうです」
「そ、そんな!…でも、さっきの話だと勇さんも間近で受けたんだよな?なぜこんなにもダメージが違うんだ?」
「そうなんですよ、そこが私たちにもわからなくて…」
「それは爆発の威力が違かったからだよ、幻舞が受けたときの爆発は明らかに勇の時よりも衝撃が強かった…それとこれは僕の予想だけど、勇が衝撃を受ける瞬間、幻舞が勇を飛ばしたんじゃないかな、それで衝撃がさらに少し減ったんだと思うよ」
「なんなことが…ありがとう、幻舞君」
楓は幻舞の左手をそっと握った
「てかおじさん今までどこ行ってたんだよ!」
「まぁまぁ…それじゃあ幻舞を助けるからちょっと離れてて」
「“魔力流動”」クラッ
「ちょっとどうしたの?急に倒れちゃって大丈夫?」
「ああ…心配いらないよ、僕も幻舞も…」
「でも月島はさっきと何も変わってないように見えるけど…」
「まあ明日になればわかるわよ、だから今日はこれで解散!はい帰った帰ったー」
「…もういいわよ、無理しなくても」
「ありがとう…ございまs」バタッ
「まったくこの子、人の魔力を吸いすぎよ」
杏先生を残してみんな帰ったあと、総紀はそのまま倒れてしまった、それもそのはず“魔力流動”とは、自分の魔力を他の対象物に直接流し込む“SOS”の一種で、使い方は様々だが同じSOSの“魔力放出”同様、魔力消費量が直接その効果に比例するのである、つまり、軍のトップである勇とやりあえるだけの力を持った総紀の魔力を、総紀が倒れるまで要したということは、幻舞の魔力浪費がそれほど酷かったということである
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「はっ!いてて…こ、ここは」
「起きたか、幻舞…」
「すまない!僕は、とても歯が立たないと悟って逃げようとまでしてしまった、知り合いが目の前で二人もやられたのに、僕は戦意を喪失してしまった…本当にすまない、そしてありがとう」
総紀は誠心誠意幻舞に土下座いて謝罪した
「顔をあげてください、総紀おじさんは、話では聞いててもあいつらを見たのは初めてですよね?それならしょうがないですよ、それよりも僕は夏恋と約束をしてしまったので、それをちゃんと守りますね…今まで本当にすいませんでした、これからはちゃんと他人と向き合っていこうと思います」
今度は幻舞が総紀に誠心誠意謝罪した
「ありがとう…それにしても本当に夏恋はすごいな、まさか君をこんなにしちゃうなんてね…じゃあ今回はおあいこでいいかい?」
「僕に異議を唱える権利はありません、今までのことを考えたら僕の方が迷惑かけてきたんですから」
「ありがとう…それで夏恋とどんな約束をしたんだい?大体は想像がつくけど…」
「夏恋以外の人にも素直になることだそうです」
そう言った幻舞はどこか神妙な面持ちだった
「ん?どうしたんだい、また夏恋に会いたいとか考えてるのかい?」
「いえ、そうじゃないんですが…約束したからには破らないように心がけますが、正直言って守れるかどうか不安です、自分で言うのもなんですが、夏恋と他の人とでは接し方に大分差がありました、その差を急に埋めるというのはなかなか難しいです」
「まぁそれはだんだんでいいんじゃないかな?でも幻舞ならそんなに難しいことじゃないと思うけど…だって幻舞が泣くとこ僕初めて見たし」ニヤニヤ
「そ、それは忘れてください!夏恋が死んだ時でさえ泣かなかったのに、なんであんなとこで…」
「なにを言ってるんだい?夏恋が死んだあと君が人知れず泣いてるのを僕が知らないとでも思ったのかい?僕に修行を頼んできたのもちょうどあの頃だったね、毎日目を真っ赤にしながら頼んできたんだもん、笑いをこらえるので精一杯だったよ、あはは」
「ちょっ、本当に怒りますよ!」
「ごめんごめん…ふー、君はさっきなんであんなとこで泣いたのかって言ったよね、それは間違いなく限界が来たんだよ、自分で許容できる器に入りきんなくなってしまったんだ、15歳ですでにそんなことになるってことは、それだけ君が無理をしてきたってことだよ、今回は器からこぼれただけで済んだけど、もしその器が壊れたら感情が暴走して、どうなるかは本人ですらわからない」
「じゃあ僕はどうしたらいいんですか?」
「それは簡単だよ、他人と共有すればいい…夏恋が言ってた
『もっと他人に素直になれ』
っていうのはそういうことだと思うよ、確かに君という人間を誤解してほしくないっていうのもあると思うけど、夏恋は君を心配したんだと思うよ…いきなり他人に涙を見せろって言ってるんじゃない、少しずつ他人と触れ合っていけば、いつか君の心の傷を理解してくれる人だってできる、まずは君がどういう立場の人間なのか話すところからかな…頑張れ!なにより夏恋は、君がなんでも一人で抱え込まないことを望んでると思うからね」
「はい、ありがとうございます…ありがとう夏恋」
少年は初めて結んだ“誓い”を再び固く、きつく結び直した
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