孤軍旅団~自分で戦いたくないので大群召喚術もらいました~

いぬもんじ

こんにちは異世界……帰っていい……?

「――うわああああああ!!!」
 地面の中からドラム缶のようなものが飛び出し、世界一有名なきのこおじさんのように一人の男が飛び出した。どんな馬鹿がそんなことをしているのかと思ったらなんと。俺だった。

「ふぐおッッッッッッッ!」
 2 M ほど打ち上がり地面に落下しスライディング。
 それほどスピードは出ていなかったのか顔が地面と擦れてそげ落ちたりなどはしていない。
 それともそれくらいはダメージにならない体になっているということなのだろうか。

 へっぴり腰のような体勢でようやく起き上がった俺は現状を把握し直す。

 場所は森の中。典型的なスタート位置。
 町があるのか人間がどこにいるのか何も情報はない。
 街道もない街灯もない水場もない。
 ないないづくし。

 あの野郎俺に手伝わせたいのか邪魔したいのかどっちなんだ

 俺はブツクサぞ文句を言いながら、たぶんなんとかなるだろうと楽観的な考えと共に先ほどまでの状況を思い出した。






 《二式徹君。君には異世界に行って問題を解決しに行ってもらいたい》
「うおっ! なんだなんだ!」
 夢にしてはあまりにメールをな言葉が頭の中に響いたので夢の中なのにすっかり目が覚めてしまった。
 声の主は中性でどちらかと言うと子供っぽい。姿は見えない。ハガレンの真理くんみたいに、ぼやけた白色で構成されている。
 全体的に子供っぽいがガキっぽいわけではなく、理性に裏打ちされた冷静さが垣間見られた。
 声の質もただの人間が出した声では考えられないほどの圧迫感を感じる。
 これが声のせいなのか存在感のせいなのかわからないが目の前の見えない存在がただものでないことは肌で感じられた。

「ただの子供……じゃないよな」
「――まあね。ホンモノの神様ほど途方もない存在ではないけれど、君の想像力レベルにとっては神レベルの存在だと思って良いよ」
「あー」

 軽くディスられた気がするが、今は置いておく。
 自分が生き延びることに対しては人一倍興味がある俺にとって目の前のこいつの機嫌を損なうことはよろしくないことだと判断した。

自分を神だ、神に近い存在だなどというような奴にまともな奴はいない。
狂信者やキ○ガイなどと比べたらむしろこいつが本物の超常存在の方が無事で済む確率の方が高い。
まあここは順当に素直に従おう。

「――で、俺はなにをすればいいんですかねえ」

「結構冷静だね。それとも諦めているのかな」

「テンション上げて、めちゃくちゃ言ッてたら生存確率減りそうなんでね」

「ふむん。今回は生存欲求が強い個体が選ばれたか」

「聞こえる声量で物騒なこと言わないでもらえますかね」

「ごめんごめんちょっとは裏情報知ってた方が構えられるだろう?」

「まあその通りですけどねえ」

「で話を戻すけど。君にはとある異世界に行ってほしい」

「はあ。それはまたなんで」

「ちょっと人間同士のバランスが崩れちゃった世界なんだよね」

「バランスと言いいますと?」

「強い人間とそうでない人間が凄まじく差が離れちゃってるんだよ」

「強いって戦闘能力のことですかね?」

「そうそう。世はまさに戦国時代。なんだけど。一騎当千とか結構ゴロゴロしてるんだよね。さらに万夫不当も数えられるくらいにはいる」

「うへえ」

「でも一般人は本当に君の世界の一般人と同じレベル。」

「それ怪獣対人間の域まで行ってません?」

「だからだよ。そんな怪獣がいっぱいいたら人間社会がまともな成長なんてできないだろう?」

「まあ頑張ってても巻き込まれて突発的に死ぬだけでしょうね」

「さらに悪いことにその怪獣がもっと強くなろうと地獄の鍛錬をしたりするから目も当てられない」

「努力する天才どころか努力する怪獣ですかぁ。ちょっと関わりたくないですね」

「関わって♡」

「なんで急に可愛く言った」

「チート能力《プレゼント》あげるから関わって♡」

「絶対嫌ですって! というか無理ですよ。何かいいものもらったとしても俺自身が凡人なんだったら野垂れ死にするだけでしょや!」

「よっしゃ! わかったで! とっておきに死ににくいやつあげちゃう!もってけ《階梯召喚術》!!」

「なんでテンション上がってるのか知りたくもないですけど、まあ、もらえるものならもらっときますよ」

「え~~これすごいんだぜ~~理由は言えないけどすごいんだぜ~~」

「そこは理由を言ってくださいよ」

「何も無しだとあれだから、基本的なポイント数点をどうぞ!!」

神的存在は、透明な右手を後ろに伸ばした。

そこに透明な液晶が引き伸ばされ文字が浮かんでいる。


《召喚数は基本的には術者の強さに依存する》
「呼吸がどれだけ止められるかみたいなものだね。訓練したら、慣れてきたら伸ばせる。」

《召喚獣を育てることで次に強い召喚獣を召喚することができる》
「徹君を育てる目的じゃなくって召喚獣を育てる目的で行動するのもありかもね」

《召喚獣は召喚数を絞れば絞るほど強い召喚獣が召喚できる》
「でもその分召喚のきつさは上がってるから気をつけてね。」


その他いくらかの情報が入ってくる。


「後は異世界の知識だけど、言語は伝わるようにしたからあとは自分で情報は集めてね」

「なっ!? 異世界講習とかはないんですかね?」

「本当はしたかったんだけど、僕もそこまで時間に余裕がないんだ。次の事をしないといけないし、パンフレットみたいな固形物は渡せないし、頭の中に情報は書き込めないし。仕方ないね」

「うそだろ――――」

「じゃあもう時間ないから行ってらっしゃーーーーい」

しゅぽ。

そんな変な近未来感が出ている音がして俺の足元が円形状に暗く塗りつぶされていた。

と言うか穴が開いていた。


「うそだろーーーーーーーーーー!!(1オクターブ上)」






「――フ。………………どうじよ……」

 思い出しただけで嫌な情報しか出てこなかった。
 人間の10倍100倍1000倍強い人間がもしくはモンスター的な何かが存在する世界だということが。
 「というか今の俺どれくらい強いんだ? 今はまだ勇者レベル1とかか?」



……。


「なにはともあれまずは召喚だ。もらった情報によると召喚術で身を守れれば生き残れる確率は十分あるはずだ」

召喚の仕方は教えてもらってなかったけど。


「ええいままよ。しぃぃいいいいいいいいいいいいいいょうかーん!!」


俺は走り幅跳びのジャンプするところで身体全体の力を解放するようなイメージで叫んだ。


 体から、何か元気の源といったようなものがサクッと削り取られた感覚がした。
 まだ支障はない。例えるならば 夜中の2時になってちょっと眠たいかなと感じた時くらいの倦怠感だ。

すると。

 ぼわっと目の前に 直径1 mほどの黄色の円形魔法陣が地面に敷かれ、その上にオーロラのようなエフェクトがかかっている。

 数秒した後そのエフェクトが降り切った。

  そこには人間大の巨大な黄色の火の玉が存在していた。


「えええ……。火の玉……黄色いし……。これが…… すごいのぉ……?」

 その不安そうな俺の声を聞いたのかどうかわからないがその黄色の火の玉がブルブルと震えだした。

「おおお!?俺はご主人様だぞ俺を攻撃するなよ!」

 俺の反応を無視するかのように黄色の火の玉はブルブルとし終えた。

 俺はその様子をじっと見ていた。

 瞬間黄色の火の玉は二つに分裂した。

 お!?

 次の瞬間黄色の火の玉は四つに分裂した。

おおお!?

 これまた次の瞬間黄色の火の玉は8つに分裂した。


えええ!?

 またまた次の瞬間黄色の火の玉は16つに分裂した。


まだ!?


 最後にまた次の瞬間黄色の火の玉は32つに分裂した。


分裂が終わったのか黄色の火の玉は従順そうに俺の周りをぐるりと取り囲んだ。


「圧迫感あるわぁ~。と言うか周り見えない」


『――――』

意思疎通ができたのかどうか俺の視界が邪魔にならない4方向に固まってくれた。

「結構融通が利くやつかもな」

『――――!』

今もしかしてこいつら喜んだのか。


「よしそれじゃあお前ら半分残して近くにいる敵を倒してこい」


『――――!!』

すると16体が、目にも留まらぬ速さで四方八方に高速移動していき、残りの16体も瞬間移動のごとく俺の周りを規則正しく並んだ。


「うおっ!!?」
俺が叫べたのも、黄色の火の玉がすべて行動を起こし切った後だった。ワンテンポずれていた。


「でもあいつら大丈夫かな……勝てない敵とか引っ張ってこないだろうな――――」


と言いかけた瞬間。


遠くの方で雷の落ちる音がした。

いや本物の雷ならもっと凄まじいのは分かる。
だからこれは雷っぽい何かだ。

「電撃……か?」
もしやと思い近くに整列した黄色の火の玉を見てみると、みてみてとばかりに電撃をバチバチし始めた。

「まじかー」

ぴっかーーーー!

遠くでえらい光ってる。

――ズガガガガガガガガガガガガガガガ!!

黄色の火の玉たちはフォックス1エンゲージ!フォックス2エンゲージ!(中略)フォックス16エンゲージ!とばかりに電撃連打攻撃を繰り出していた。

「まぶしー」
なんかもうそれしか言えなかった。
でもなんか安心した。


家の火の玉たちが負ける気がしなかったからだ。 



1分もすると巨大な何かが倒れる音と少し遅れてやってきた振動、そこらへんにいた鳥類の逃げ出す叫び声。

そしてさっきまで感じなかった体に強い力を感じられた。


「これ、強くなったって奴か……?」

『――――!!』

同意するように喜ぶように上下に触れている。

「そうかお前らも強くなったのか」

言いたいことがなんとなくわかった。


「じゃあ戦利品から見に行くか」


異世界での生活は順風満帆ではないだろうけど、それなりに楽しそうだと思えてきた。


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