中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

40.妹、誕生せし編 リーベ救出(2)

 前方から襲ってきたやつを、とりあえず避けて、同時に死角から襲ってきた女の顔面を殴る。うん、異性を殴るのは正直気が引けるが、状況が状況だ。仕方がないだろう。

 そして、分かったことがある。こいつらはやはり死んでいる、もしくは強い洗脳に侵されている。

 証拠に、何度か俺の本気の殺気をぶつけているのだが、一切反応していない。理性や本能があるのなら、ありえない行動だろう。

 また、強い洗脳というのは、魔法、つまり洗脳魔法のことだ。中位魔法や上位魔法に広く分布しているが、どれも高い洗脳性を誇っている。全洗脳魔法が、代償を必要とするのも特徴的だ。より低位な魔法ほど、代償や対象人数が少ないが、逆に言えば、より高位な魔法ほど、代償と対象人数が高い。複数行使は不可で、魔力消費も高い。

 閑話休題。

 こいつらとは、対話は出来なさそうだ。隙を見て逃げ出したいところだが、人数も多勢に無勢状態だし、逃げたとしても出口がなければ、最悪詰みになる。故に、こいつらを始末した方がいいのかもしれない。

 真雫に、今から凄惨なことが起きるので、2人共々見ないでほしいと小声で伝えて、防御壁マウアーを張らせる。

 よし、準備は完了か。今から心を殺そう。

 手の衝波籠手ファウストから、装備を片手に不壊剣デュランダル、もう片手に火焔剣フランベルジェを召喚する。割と気に入っている双剣スタイルだ。

 思い切り踏み込み、同時に加速魔法陣ベシュロイニグングを展開。爆発的な加速を生んだ。

 意識がないとはいえ、超人的なスピードが、目に映ることはなかったようだ。追いつけたら逆に困るけどね。

 一人一人、現ステータスを持っての最高の速度で、しかし確実に、やつらの首を刈っていく。その度に血飛沫が舞うが、俺が速すぎて、それらが俺にかかることはない。

 残り30人をきった。早く済ませたいな。ペースをあげよう。

 脳に負担がかかるが、それを無視して自動剣フラガラッハを召喚する。

 鍛錬の成果が出たのか、自動剣フラガラッハ1本なら、己の行動が疎かになることはない。ただ、少しだけ自動剣フラガラッハのスピードは落ちるが。

 少し遠いヤツを自動剣フラガラッハで対処して、手前のヤツを斬る。

 およそ30秒も経たずに完了した。別に魔法を使うわけでもなかったので、案外余裕だったな。

「終わったよ、真雫、リーベ」

 目を塞いでいた2人に終了を宣言する。2人はおずおずと目を開けた。

 極力2人の目に惨劇が入らないよう、ヤツらの死体は隅に置いてある。

 また、扉は向こうは、部屋の向かい側にあるのも確認済みだ。

 駆け足気味に、扉に向かう。と、同時に、転移剣ウヴァーガンを設置した。また調査という名目でここに来るためだ。

 扉の奥には、何やら研究室のようなものがあった。ここに転移阻害の効果を消せる装置があるかもしれない。

 真雫達にも指示を出し、それらしき装置を探す。

「ノア、見て」
「見つかったのか?」

 首をふるふると振る真雫。どうやら見つけたわけではないらしい。が、真雫はこんな時にふざけることは少ないので、それなりに重要なことなのかもしれない。

 真雫に手渡された紙束に目を通す。これは、研究資料のようだ。

 軽く中身を見て、俺は驚愕した。

 中には、魔法の研究だった。それも、死霊魔法や洗脳魔法などの、犯罪系の類の。死霊魔法は、まさに俺が戦ったヤツらの特性と合致していた。

 これで、ここはほぼ確定でゴット・ストゥール関連だな。

 そして紙には、ご丁寧に研究室長の名前まで書いてあった。名は『オンカ・オンニル』。

 オンの2文字か最初に来ていることが、頭の片隅に置いていた記憶が蘇る。

 それは、オーガニザチオンを殲滅クエストで壊滅させた時……。

 あの時、そこの首領は確かに、

『そういう能力をオン──』

 と言っていた。しかし、直後の言葉はなく、ヤツは敢え無く悪魔化してしまった。

 今まで『オン──』は、誰かの名前だと考えてきた。それが名前の先にがつくのが、ゴット・ストゥールの幹部が首領かと思っている。

 そして、見つけた。オンカ・オンニル。こいつは怪しい。これを見ただけでは、幹部なのか首領なのかはっきりしないが、多分、あのオカマが言っていたのはこいつだ。最悪オンケル陛下が暗躍の線を考えていたので、そうでなくて良かった。

 オンカ・オンニルを脳内の重要人物のリストに入れる。そして、その資料を俺の魔法ベルトポーチに入れる。後でバータ公爵とかに調べてもらおう。

 改めて、転移阻害の装置を探す。中々見つからないな。というか、散らかっていて探しにくい。

「ノア、これですか?」
「ん、見つけた?」

 リーベがいる方へ顔を向けると、何やら謎の装置を手にしていた。中央に宝石らしきものが埋め込まれている。これっぽそうだな。しかし、こんな研究室の床とか、適当な所に置いているとは。灯台もと暗し的な?

「多分それだ」
「やった!」

 リーベが軽く飛び跳ねる。そして──。

 その弾みで、リーベが持っていた俺のコートが、パサッ、と地面に落ちる。

 あまりに一瞬のことだったので、動けなかった。リーベの玉の肌、主に一部がさらけ出される。……意外とあるな。って何考えているんだよ、俺!?

「キャ!?」

 顔面をみるみる赤くして、尋常ではない速度でしゃがみ、落としたコートで胸を覆った。そして、目が合う。

「……見ました?」

 …………。……どうしろと?いや、だって、どう見ても不可抗力でしょ?魔眼共鳴していない俺が目をあの一瞬で背けられるわけがない。

「……女の敵」
「何を言い出すんだよ、真雫!?」

 女の子の裸を見たら女の敵なの?だったら、大多数の男が女の敵だぞ?

 何を言っても薮蛇になりそうなので、話を進める。

 えと、前は確かこれを壊せば転移できた。見た感じ、同じっぽそうだし、もし違うのなら、最悪人を殺してでも大棍棒ダグダで天井に大穴を空けよう。

 とりあえず不壊剣デュランダルで一刀両断する。あっさり壊れた。

 そして、試しにリーベ達の手を掴んで転移する。自分たちの自室に転移できたようだ。よし、成功成功。今度正しい転移阻害の装置の解除の仕方をリターさんに教わろう。知らないより、知っていた方がマシだ。

「服用意してくる」
「あぁ、頼んだ。俺はバータ公爵に連絡してくる」

 俺だけ、プリンゼシン公爵の館に転移する。リーベの顔は、前髪で隠れていて、見えなかった。




「ん、リーベ」
「……はい」

 部屋にポツンと残る2人の影。正体は、言わずもがな私とリーベ。

 まず、服を持ってきて、胸元がはだけたリーベの服とその服を交換する。この服は、私の服の代えだ。

 リーベが服を着終わった所で、話を切り出す。

「リーベ、ノアのことが、好き?」
「…………」

 リーベは俯いた。それでも私は、彼女を見つめ続ける。

「好きな人の作ったご飯、美味しい」
「…………」

 それでもなお、リーベは項垂れたまま。

「……昔、小学生……って言っても分からないか。小さい頃、私、いじめられていたの」
「……?」

 リーベの反応を見る限り、この世界にはいじめというものがあまり行われていないようだ。……あるんだ、そんな世界。

「でも、体を張って、助けてくれた人がいた」
「……ノア、ですか?」
「……(コクッ)」

 かつて、ノアは私の窮地を救ってくれた。闇の中にいた私に、光を差しのべてくれた。彼がいなければ、私はここにいないと思う。そこまで、重要な、大切な人。

「リーベだって、そうでしょ?」
「……はい」

 少なくとも、私よりも多く窮地を救ってもらっている。恋心を抱いても不思議ではない。

 世の中は、少なくとも地球では、こういった少女はちょろインと呼ばれた。でも、ちょろインで何が悪い。命を助けてもらった人に、恋心を抱いて何が悪い。私は、ちょろインという言葉が嫌い。

「……私は、ノアが好きです。だから、私を嫁にするのは気が引けると言ったことに、傷ついてしまって……」

 私は黙って彼女の言葉を聞いた。ここで、変な発言をするほど、私はアホじゃない。

「……マナは、ノアが好きなんですよね?」
「…………うん」

 迷った。リーベに嘘をつくかどうか。でも、正直に答えることにした。ここで、嘘をつくのは、間違っていると思う。

「……私、バカです……気づいていたのに、親友の好きな人を好きになってしまった……誰の目にも明らかなのに、そのあいだに割り込もうとした……う、うぅ……」

 リーベは泣き出した。私は、どうすればいいのだろう。なんて、言えばいいのだろう。

 わかるはずもない答えを模索する。当然答えは出ない。だから、私は、

「別にいいと思う」
「……へ?」
「ノアを好きになってもいいと思う。好きな人が被ることだってある。問題は、相手がそれを受け入れてくれるかどうかだと思うの」
「……それは、私が──」
「違う。ノアなら、受け入れてくれるよ。だって、それがノアだもん」
「……マナは、いいのですか?」
「私はノアが好き。でも、リーベも好き。だから、2人とも幸せになって欲しい」

 心からそう思っている。そこに、正義の使者アポステルとかは関係ない。純粋に、一人間として、ノアを好きになった人として、そう思っている。

「う、あ、マナァ」

 私に飛び乗ってきたリーベを抱きとめる。彼女は、私の腕の中で泣きじゃくった。

 そして、数分後。

「ごめんなさい。取り乱してしまいました。先駆者ピオニア=後継人《ナーフォーガ》の名が泣きますね」
「大丈夫。人ならば当然」

 リーベは、目の下に涙跡を残しながらも、私に精一杯の笑顔を見せてくれた。少しは戻ったようで、私も嬉しい。

「私、ノアに気持ちを明かそうと思います」
「……そう。大丈夫、止めはしない。リーベがそれを望むのなら、私に止める権利はない」

 先程も言ったように、ノアならリーベを受け入れてくれると思う。リーベは大切に扱われているから。

 ちょうどタイミングがいい時に、ノアが転移で帰ってきた。

「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい」

 おじゃま虫になりそうだったので、私はそそくさとその場から離れる。

「ノア、話があります」

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