中二病たちの異世界英雄譚
38.妹、誕生せし編 おいおい、冗談だろう?
「……ん?」
俺は気づくと、ベッドの上で起きた。
前日は意外と早く制作が終わったので、寝ることが出来たのだ。
まぁ、それはいいのだが。問題は、俺の上にいるものである。
まぁ、これが真雫だったら、まだ良かっただろう。いや、良くはないが納得はしただろう。しかし、上に乗っていたのは……
「むにゅう……」
「おい、起きろリーベ」
そう、乗っていたのはリーベだったのだ。全くもって意味が分からん。
というか、ドアに鍵かけたよな?完全に不法侵入なんですけど。俺の【感覚強化】にも引っかからないとかどういう事だよ。謎だわ、謎すぎるわ。
「にゅ?……お兄様?おはようございます」
「は!?」
リーベにお兄さんはいないだろう!?寝惚けてるんだ、きっと。そうに違いない。
「とりあえず、どいてくれ」
「……はい」
渋々、といった感じで、リーベは退いた。お願い、その顔やめて。余計混乱するから。
「とりあえず、状況説明」
寝ていた真雫も起こして、ベッドの上に3人、正座をする形で座ることになった。
「はい、実は──」
リーベが語り出す。どうやら、俺の料理を食べたいそうだ。それも今日限定ではなく、半永久的に。まぁ、それだけなら良かったのだが……。
「──なので、毎日ノアの食べ物を食べられるよう、妹になろうかと」
「何でだよ!?」
発想がぶっ飛びすぎだ!?流石の俺も意味が分からない。というか、それなら普通に一緒に住みたい、とかでも良かっただろう。
「嫌です。妹がいい」
「何故!?」
何故か意地を見せた。ほんっとに意味が分からない!
そりゃ確かにリーベは顔立ちはとても整っているし、性格的にも妹なら寧ろ理想と言えるだろう。だけど、だけど!それでも本当にそうなろうとするのは、理解できないのですが!?
「マナはどうです?」
「いいと思う」
「良くねーよ!!」
何故か真雫がリーベに賛同していた。何この娘達。揃いも揃って謎すぎる。
「いきなりでしたので、多分おふた方は混乱されているでしょう。ここで、朝ごはんにしませんか?」
それを元凶たるお前が言うか。
俺は、キッチンにて朝食を作っていた。残り少なかったベーコンと卵を全て使ったサンドイッチを作っている。
思ったんだが、こういう時って、ああ言う発言をした人が作るんじゃないのか?勝手な先入観だけど、やっぱりなんか違う気がする。別に作るの楽しいから良いけどさ。
愚痴なのか、なんなのかよく分からんことを心で呟きながら、具材を三角のパンで挟む。これで完成。後は昨日作ったコーヒーを持って、真雫達が待つリビングへ向かう。
真雫達は、向かい合って『指戦』をしていた。2人組で、お互い人差し指2本伸ばした状態から始まり、交互に自分の片方の手で相手の片方の手を攻撃することができ、攻撃することで自分の攻撃した指の本数分、相手の指の本数を増加させることができるゲームで、相手の両手を5本全て先に開かせた方が勝ちの、あのゲームだ。
あのゲーム、名前はネットで知ったけど、友達とやる時は、『これ』っていって指で示していたんだよね。
ていうか、この娘達、この状況でそれやるの?呆れたような、ほっこりしたような。まぁ、いいや。彼女らに朝食ができたことを伝える。
「ん、美味しい」
「美味しいです」
彼女らの感想に、少しばかりほっこりしながら、俺も朝食を口に入れる。
うん、普通なサンドイッチだ。特別良いわけでも悪いわけでもなく、普通なサンドイッチだ。だから、別に妹にならなくてもいいだろ、リーベ?雰囲気を壊しそうだったので、口には出ていない。顔にも出さないよう、必死に堪えている。
朝食を食べ終わったところで、皿を洗い、2人に言う。
「とりあえず、バータ公爵のところに行こう」
彼に話さないと、このカオスを逃げることは出来ない。でもあの人、親バカ臭がするんだよね。殺されなければいいのだが。
「ここにはバータ公爵に断って来たんだよね?」
「いえ、無断です」
ヲイ……。なんで言っていないんだよ……。これは、死ぬ覚悟で行った方が良さそうな気がしないでもないな。
とりあえず、3人でプリンゼシン公爵家の館へと転移する。するとそこには、まるでここに来るのが分かっていたかのように、バータ公爵が威厳を出して佇んでいた。顔がこれ以上ないほどに無表情。
「た、ただいま戻りました、お父様」
「……どこに、行っていたんだい?」
「それは……ノア様の家です。てへっ」
バータ公爵から、主に俺に向けられた殺意を感じる。いや、俺何もしてないし、寧ろ俺がなんかされたんですけど。被害者なんですけど。
「すこし、話そうか?」
「は、はい……」
嫌なことになった。
事は意外と大きくなり、サイスさんからリーベのお母さん、ムター公爵夫人まで介入してきた。
「さて、まず状況を整理しよう」
まるでエヴ〇ンゲリオンの主人公の父親のように指を組んで、バータ公爵は俺達に語りかける。
「リーベはノアさんの妹になりたいがために、彼の家に侵入した。本当か?」
「はい。間違いありません」
「ノアさんは妹になることを受諾した。本当か?」
「はい。全くもって違います。つかどこをどうしたらそうなった!?」
バータ公爵はご乱心のようだ。発言の一つ一つに私情が入っている。主に、俺への負の感情が。
「そもそも、なんで妹なんですか?」
おずおずとムター公爵夫人が尋ねる。
彼女は、先程も言ったように、リーベの母親である。艶やかなリーベそっくりの金髪に、偉く整った容姿。着ているドレスすらも、気品溢れている。見た感じ、おっとり系だ。
彼女の質問に、リーベが答える。
「妹ポジションに憧れていたからです」
どういう理由だよ。質問と噛み合ってない気がしないでもない答え方に、俺は心の中でツッコミを入れる。
俺の内心を無視して、話は進む──。
「そもそも、君たちの年齢は、二人とも15歳だろう?」
そういえばそうだ。なら、妹にはなれまい。俺の誕生日は3月1日だからな。
ちなみにこの世界は、年は違えど、1年は12ヶ月で、季節を除けば同じだ。まぁ、なら大丈夫だろう。
「ノアの誕生日はいつですか?」
「3月1日だよ」
「なら、大丈夫ですね」
何故?俺は地球では、クラスの中で割と最後に歳を重ねる側だったんだけど?
「だって私、5月21日ですから」
……あ。そうか、俺は地球の学生時代の感覚でいっていたから最後らへんに歳をとると思っていたのだが、この世界は学校や仕事の始まりは1月から。だから、実質俺が年上……ん?というか、地球とか関係なく俺は年的に最初に歳とる方じゃん。
「まぁ、年齢的には大丈夫だろう。あとは親の問題だな」
いや、俺まだ1度もリーベを妹にして欲しい、なんて一言も言っていないんですけど!?
「ノアさん、君に、この家を継ぐ覚悟はあるかい?」
「ないですし、妹が欲しいなんて1度も言っていませんよ!?」
「なるほど、覚悟はあるわけか」
「ないって言っているでしょ!?」
何この親子。俺の話聞けよ。このカオス、どうやって抜ければいいんだ?
すると、バータ公爵がおもむろに語り出す。
「兄が無理だというのなら、リーベの婿になってもらうが……」
「何故そうなる!?」
意味わからねぇよ!!なんで兄の次は婿なんだよ!!……カオスがさらに深まっていく……。
「あぁ、もしマナさんも欲しいのなら、彼女も妻に迎えればいい。この世界は一夫多妻が基本だからな。私は違うが」
なんで真雫が出てくるんだよぅ。なんで俺の未来は独身という選択肢がないんだ……。
確かに真雫は好きだよ?でも恋愛的な好きじゃなくて、友愛的な好きなんだよ。だって、もう10年以上一緒にいるんだぞ?そりゃ恋愛感情も湧くのも湧かないじゃん?
「それで、どうなんだ?」
「いや、その、結婚は無理、というか、なんというか……」
別に無理ではないのだが、なんかしっくり来ないというか……ていうか、俺叙爵を断った身なんですけど。今更爵位を手に入れると色々白い目でみられそうだなぁ。
ガタンッ、と誰かが席を立つ音が部屋に響く。その正体は、リーベだった。
「ッ──」
リーベが駆けて部屋から出ていく。続いてこの館から出る音もした。何か、ミスった?
「……やっちまった?」
「……ノアのバカ」
真雫から言外にやってしまったと言われた。言葉のチョイスが悪かったのだろうか。聞く人のことを考えないなんて、俺らしくもなかった。
「追いかける?」
「…………あぁ」
執事と俺達総出でリーベを探す。しかし、そう簡単には見つからなかった。何故だろうか。それから数刻したがリーベは見つからなかった。
「ノア」
「ん?」
「なんで、転移しないの?」
「…………」
俺達はまだ、リーベを探していた。現在は館から少し離れた場所を探している。
「リーベには転移剣を渡していたはず。なんで使わないの?」
そう、実はリーベには転移剣を渡してある。ネイヒステン王国での一件以来、リーベにはずっと渡したままにしていた。いつでも守りに行けるようにだ。
「……なんて声をかければ、分からなくてさ」
俺には分からなかった。今まで中二病だったことが仇となり、こういう時の女性への接し方がよく分からない。リーベは悲しんでいるかもしれないのに、俺は何をすべきか分からない。そんな状況だ。心底情けない、と思わざるを得ない。
「ねぇ、真雫。俺はどうすればいい?」
投げやり気味に、真雫に考えることを押し付ける。ほぼ、無意識でやってしまっていたことだった。
「ノアが、やりたいようにすればいい」
「…………」
今の俺が、やりたいことか……。難しいな。かつてないほどの難題だ。これに答えがあるのかすら、怪しい。
あぁあ、なんでこんなことになったんだか。俺はただ、この現実から目を背けただけなのかもしれない。
悩んでいると、向こうから人影が見えた。確かあれは、プリンゼシン公爵家の執事だ。
「どうされましたか?」
「至急、館にお戻りください!」
やけに彼の顔は焦燥に満ちていた。嫌な予感がする。
館に戻ると、バータ公爵が非常に困った、という顔で紙を見ていた。
「……来たか」
「何が、あったのですか?」
「……これを見てくれ」
彼が差し出したのは、先程読んでいた紙だった。
その紙を受け取り、目を通す。
「…………」
紙には、リーベを誘拐した、という内容が書いてあった。交換条件は、俺と真雫。指定の場所に二人きりで来いとのことだ。
「どうする?」
「助けに行きます。真雫」
「……(コクッ)」
真雫と手を繋ぎ、転移の準備をする。どんな言葉をかけていいのか分からない、なんて言っている場合ではなくなった。リーベの安全が最優先だ。
少しの焦燥を覚えながら、俺達は光に包まれた。
俺は気づくと、ベッドの上で起きた。
前日は意外と早く制作が終わったので、寝ることが出来たのだ。
まぁ、それはいいのだが。問題は、俺の上にいるものである。
まぁ、これが真雫だったら、まだ良かっただろう。いや、良くはないが納得はしただろう。しかし、上に乗っていたのは……
「むにゅう……」
「おい、起きろリーベ」
そう、乗っていたのはリーベだったのだ。全くもって意味が分からん。
というか、ドアに鍵かけたよな?完全に不法侵入なんですけど。俺の【感覚強化】にも引っかからないとかどういう事だよ。謎だわ、謎すぎるわ。
「にゅ?……お兄様?おはようございます」
「は!?」
リーベにお兄さんはいないだろう!?寝惚けてるんだ、きっと。そうに違いない。
「とりあえず、どいてくれ」
「……はい」
渋々、といった感じで、リーベは退いた。お願い、その顔やめて。余計混乱するから。
「とりあえず、状況説明」
寝ていた真雫も起こして、ベッドの上に3人、正座をする形で座ることになった。
「はい、実は──」
リーベが語り出す。どうやら、俺の料理を食べたいそうだ。それも今日限定ではなく、半永久的に。まぁ、それだけなら良かったのだが……。
「──なので、毎日ノアの食べ物を食べられるよう、妹になろうかと」
「何でだよ!?」
発想がぶっ飛びすぎだ!?流石の俺も意味が分からない。というか、それなら普通に一緒に住みたい、とかでも良かっただろう。
「嫌です。妹がいい」
「何故!?」
何故か意地を見せた。ほんっとに意味が分からない!
そりゃ確かにリーベは顔立ちはとても整っているし、性格的にも妹なら寧ろ理想と言えるだろう。だけど、だけど!それでも本当にそうなろうとするのは、理解できないのですが!?
「マナはどうです?」
「いいと思う」
「良くねーよ!!」
何故か真雫がリーベに賛同していた。何この娘達。揃いも揃って謎すぎる。
「いきなりでしたので、多分おふた方は混乱されているでしょう。ここで、朝ごはんにしませんか?」
それを元凶たるお前が言うか。
俺は、キッチンにて朝食を作っていた。残り少なかったベーコンと卵を全て使ったサンドイッチを作っている。
思ったんだが、こういう時って、ああ言う発言をした人が作るんじゃないのか?勝手な先入観だけど、やっぱりなんか違う気がする。別に作るの楽しいから良いけどさ。
愚痴なのか、なんなのかよく分からんことを心で呟きながら、具材を三角のパンで挟む。これで完成。後は昨日作ったコーヒーを持って、真雫達が待つリビングへ向かう。
真雫達は、向かい合って『指戦』をしていた。2人組で、お互い人差し指2本伸ばした状態から始まり、交互に自分の片方の手で相手の片方の手を攻撃することができ、攻撃することで自分の攻撃した指の本数分、相手の指の本数を増加させることができるゲームで、相手の両手を5本全て先に開かせた方が勝ちの、あのゲームだ。
あのゲーム、名前はネットで知ったけど、友達とやる時は、『これ』っていって指で示していたんだよね。
ていうか、この娘達、この状況でそれやるの?呆れたような、ほっこりしたような。まぁ、いいや。彼女らに朝食ができたことを伝える。
「ん、美味しい」
「美味しいです」
彼女らの感想に、少しばかりほっこりしながら、俺も朝食を口に入れる。
うん、普通なサンドイッチだ。特別良いわけでも悪いわけでもなく、普通なサンドイッチだ。だから、別に妹にならなくてもいいだろ、リーベ?雰囲気を壊しそうだったので、口には出ていない。顔にも出さないよう、必死に堪えている。
朝食を食べ終わったところで、皿を洗い、2人に言う。
「とりあえず、バータ公爵のところに行こう」
彼に話さないと、このカオスを逃げることは出来ない。でもあの人、親バカ臭がするんだよね。殺されなければいいのだが。
「ここにはバータ公爵に断って来たんだよね?」
「いえ、無断です」
ヲイ……。なんで言っていないんだよ……。これは、死ぬ覚悟で行った方が良さそうな気がしないでもないな。
とりあえず、3人でプリンゼシン公爵家の館へと転移する。するとそこには、まるでここに来るのが分かっていたかのように、バータ公爵が威厳を出して佇んでいた。顔がこれ以上ないほどに無表情。
「た、ただいま戻りました、お父様」
「……どこに、行っていたんだい?」
「それは……ノア様の家です。てへっ」
バータ公爵から、主に俺に向けられた殺意を感じる。いや、俺何もしてないし、寧ろ俺がなんかされたんですけど。被害者なんですけど。
「すこし、話そうか?」
「は、はい……」
嫌なことになった。
事は意外と大きくなり、サイスさんからリーベのお母さん、ムター公爵夫人まで介入してきた。
「さて、まず状況を整理しよう」
まるでエヴ〇ンゲリオンの主人公の父親のように指を組んで、バータ公爵は俺達に語りかける。
「リーベはノアさんの妹になりたいがために、彼の家に侵入した。本当か?」
「はい。間違いありません」
「ノアさんは妹になることを受諾した。本当か?」
「はい。全くもって違います。つかどこをどうしたらそうなった!?」
バータ公爵はご乱心のようだ。発言の一つ一つに私情が入っている。主に、俺への負の感情が。
「そもそも、なんで妹なんですか?」
おずおずとムター公爵夫人が尋ねる。
彼女は、先程も言ったように、リーベの母親である。艶やかなリーベそっくりの金髪に、偉く整った容姿。着ているドレスすらも、気品溢れている。見た感じ、おっとり系だ。
彼女の質問に、リーベが答える。
「妹ポジションに憧れていたからです」
どういう理由だよ。質問と噛み合ってない気がしないでもない答え方に、俺は心の中でツッコミを入れる。
俺の内心を無視して、話は進む──。
「そもそも、君たちの年齢は、二人とも15歳だろう?」
そういえばそうだ。なら、妹にはなれまい。俺の誕生日は3月1日だからな。
ちなみにこの世界は、年は違えど、1年は12ヶ月で、季節を除けば同じだ。まぁ、なら大丈夫だろう。
「ノアの誕生日はいつですか?」
「3月1日だよ」
「なら、大丈夫ですね」
何故?俺は地球では、クラスの中で割と最後に歳を重ねる側だったんだけど?
「だって私、5月21日ですから」
……あ。そうか、俺は地球の学生時代の感覚でいっていたから最後らへんに歳をとると思っていたのだが、この世界は学校や仕事の始まりは1月から。だから、実質俺が年上……ん?というか、地球とか関係なく俺は年的に最初に歳とる方じゃん。
「まぁ、年齢的には大丈夫だろう。あとは親の問題だな」
いや、俺まだ1度もリーベを妹にして欲しい、なんて一言も言っていないんですけど!?
「ノアさん、君に、この家を継ぐ覚悟はあるかい?」
「ないですし、妹が欲しいなんて1度も言っていませんよ!?」
「なるほど、覚悟はあるわけか」
「ないって言っているでしょ!?」
何この親子。俺の話聞けよ。このカオス、どうやって抜ければいいんだ?
すると、バータ公爵がおもむろに語り出す。
「兄が無理だというのなら、リーベの婿になってもらうが……」
「何故そうなる!?」
意味わからねぇよ!!なんで兄の次は婿なんだよ!!……カオスがさらに深まっていく……。
「あぁ、もしマナさんも欲しいのなら、彼女も妻に迎えればいい。この世界は一夫多妻が基本だからな。私は違うが」
なんで真雫が出てくるんだよぅ。なんで俺の未来は独身という選択肢がないんだ……。
確かに真雫は好きだよ?でも恋愛的な好きじゃなくて、友愛的な好きなんだよ。だって、もう10年以上一緒にいるんだぞ?そりゃ恋愛感情も湧くのも湧かないじゃん?
「それで、どうなんだ?」
「いや、その、結婚は無理、というか、なんというか……」
別に無理ではないのだが、なんかしっくり来ないというか……ていうか、俺叙爵を断った身なんですけど。今更爵位を手に入れると色々白い目でみられそうだなぁ。
ガタンッ、と誰かが席を立つ音が部屋に響く。その正体は、リーベだった。
「ッ──」
リーベが駆けて部屋から出ていく。続いてこの館から出る音もした。何か、ミスった?
「……やっちまった?」
「……ノアのバカ」
真雫から言外にやってしまったと言われた。言葉のチョイスが悪かったのだろうか。聞く人のことを考えないなんて、俺らしくもなかった。
「追いかける?」
「…………あぁ」
執事と俺達総出でリーベを探す。しかし、そう簡単には見つからなかった。何故だろうか。それから数刻したがリーベは見つからなかった。
「ノア」
「ん?」
「なんで、転移しないの?」
「…………」
俺達はまだ、リーベを探していた。現在は館から少し離れた場所を探している。
「リーベには転移剣を渡していたはず。なんで使わないの?」
そう、実はリーベには転移剣を渡してある。ネイヒステン王国での一件以来、リーベにはずっと渡したままにしていた。いつでも守りに行けるようにだ。
「……なんて声をかければ、分からなくてさ」
俺には分からなかった。今まで中二病だったことが仇となり、こういう時の女性への接し方がよく分からない。リーベは悲しんでいるかもしれないのに、俺は何をすべきか分からない。そんな状況だ。心底情けない、と思わざるを得ない。
「ねぇ、真雫。俺はどうすればいい?」
投げやり気味に、真雫に考えることを押し付ける。ほぼ、無意識でやってしまっていたことだった。
「ノアが、やりたいようにすればいい」
「…………」
今の俺が、やりたいことか……。難しいな。かつてないほどの難題だ。これに答えがあるのかすら、怪しい。
あぁあ、なんでこんなことになったんだか。俺はただ、この現実から目を背けただけなのかもしれない。
悩んでいると、向こうから人影が見えた。確かあれは、プリンゼシン公爵家の執事だ。
「どうされましたか?」
「至急、館にお戻りください!」
やけに彼の顔は焦燥に満ちていた。嫌な予感がする。
館に戻ると、バータ公爵が非常に困った、という顔で紙を見ていた。
「……来たか」
「何が、あったのですか?」
「……これを見てくれ」
彼が差し出したのは、先程読んでいた紙だった。
その紙を受け取り、目を通す。
「…………」
紙には、リーベを誘拐した、という内容が書いてあった。交換条件は、俺と真雫。指定の場所に二人きりで来いとのことだ。
「どうする?」
「助けに行きます。真雫」
「……(コクッ)」
真雫と手を繋ぎ、転移の準備をする。どんな言葉をかけていいのか分からない、なんて言っている場合ではなくなった。リーベの安全が最優先だ。
少しの焦燥を覚えながら、俺達は光に包まれた。
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