中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

幕間話3 稽古

 これは、まだ俺達が冒険者になる前の話。

「もっと力を抜け。かたい」
「は、はい」

 ここは、いつもの鍛錬場所ではない。国営の訓練場だ。朝早いためか、訓練兵は見当たらない。真雫は、まだ寝ている。隣にいるのは、リターさんだ。

 今、俺はリターさんに剣術の指南を受けていた。ネイヒステン王国で彼と手合わせした時に交わした約束があるためだ。

 ちなみに、時間はまだ午前4時30分。

 リターさんの稽古は基本、剣を振るだけだ。まずは基礎、ということだろう。まぁ、別に応用から入られても困るからね。

 一応魔眼は発動していないので、流石に剣を振ってものすごい風圧が出るわけがない。ビュン、という音は出るが。

 かれこれ1時間、剣を振っているが、リターさんのお眼鏡に叶う剣は振れていないみたいだ。

「うむ、大分様になってきたが、まだ、少し足りんな」
「何が足りないんでしょうか?」

 うーむ、と少し考え込んだ。俺はなんか面倒くさいところで詰まっているのかもしれない。

「背、か?」
「心を抉る気ですか?」

 別に、平均身長より低いことを気にしているわけではない。だって、ラノベの主人公は身長低い人多いし。

 だが、だが!そこまでナチュラルに背が足りないとか言われたら、流石に傷つく。こんなに嘘をつけない人が、心を抉るのに特化したヤツとは……。

「なら、見た目か?」
「それ絶対関係ありません」

 見た目が重要なら、パラディンは皆あなたみたいな見た目が怖い人だ。

「グダグダ言わずにどうにかしろ」
「無茶言うな!」

 顔や背はどうにもできないじゃん!どうしろと?俺にどうしろと!?

「冗談はともかく、お前には力がありすぎる」
「力?」
「あぁ、ろくに剣も振れないのに、お前はその魔眼を手に入れた。今のお前は、それが仇になっている。どうにかして、基礎を身につけなければならない」

 力が、仇?力が強すぎて、体が追いついていないみたいな?

「恐らくだが、お前はその力を半分ぐらいしか引き出せていないだろう」
「え!?半分!?」

 俺は、半分の力だけで、1万の軍勢を一掃したらしい。恐ろしい、俺の力。

 とにかく基礎、ということで、俺はリターさんの指導の元、鍛錬に励んだ。




 そして、1週間後。

「流石、転移者だな」
「どうですか?」
「あぁ、基礎は上出来だ。完璧、とは言い難いが、1週間でこれは凄い」

 それなりの鍛錬の末、俺は剣術の基礎をおおよそできるようになっていた。多分、リターさんの稽古とともに、自分だけでの鍛錬を怠らなかったからだろう。単に、飛来する自動剣フラガラッハを避けたり、真雫に防御壁マウアーを出して貰って、それを不壊剣デュランダルで切ったりしたりしただけなのだが。別に後者は八つ当たりではない。鬱憤を晴らすためでも、ストレス発散でもない。鍛錬だ。断じて鍛錬だ。

「それでは、次の段階に移ろう」
「次?」
「あぁ、次は弓矢だ」
「……は?」

 確か、教えてもらうのは剣術のみだったはずだが?それに、教えてもらうのなら、まだ俺の武器にある槍の扱い方の方がまだ知りたい。

「弓は便利だ。今後も使えるかもしれん。覚えておくに越したことはないだろう」

 まぁ、それもそうか。折角だし、今度弓矢の武器の開発もしておこう。

「まず、持ち方はこうだ」
「こうですか?」
「違う、右側を通るんだ」

 まず、彼の稽古で意外だったもの。

 この世界の弓矢は、効率を最優先としており、連射性が高い。

 よく映画などでは、背に筒をかけて、その中に入った矢を取り出してから矢を放つ。だが、この世界では、それは非効率的だ、とされ、基本的に使う分だけ手に持つそうだ。矢を入れるところも、腰に下げてある筒で、取りやすくなるよう設計されてある。

 また、撃ち方も意外だった。矢はてっきり弦の左側から放つと思っていたのだが、この世界では右側らしい。左がいいか右がいいかは、俺にはイマイチ分からない。

「じゃあ、それから弦を引いて」

 言われた通りに弦を引く。もっと、手が震えるものかと思っていたけど、全然ぶれなかった。【身体強化】のお陰かもしれない。

「あれを狙って撃て」

 そう言って彼が指さしたのは、いつの間にか用意されていた的だった。本当にいつの間に用意したのやら。

 ググッ、と力を入れて、弦を離す。矢は直進し、見事に的のど真ん中……より少し下に命中した。

「お前、弓矢の才能があるな」
「そうですか?」

 この体になった以上、これが一般的とは言えないのかもしれないが、言うほど難しくはない。こうも簡単に出来てしまうと、なんか物足りない感がする。

「2日もあれば、お前は100m先の的にも当てられそうだな」

 妙に今日はリターさんが俺を褒める。別に人間不信ではないが、裏があると思ってしまう。思い過ごしだろうけどね。

 それから、また暫く弓矢の鍛錬。的には当たるが、真ん中には当たらなかった。今後の目標は、的のど真ん中に当てることにしよう。

「さて、今日の稽古はこれで終わりだ」
「え?あ、はい」

 いつもより早く終わりの宣言をされた。いつもは6時に終わるのに。時刻はまだ5時30分だ。

「流石に俺も暇じゃなくてな。今後1ヶ月は稽古をつけさせてやれん」

 まぁ、暇ではないのは知っていた。なんせ王の護衛から、兵士の指導や教育まで、色々大変と聞いたからな。その分、見合った給料を貰っているらしいが。

「よし、だから、手合わせするぞ」
「またですか?」
「次は1ヶ月後だ。その時までに、今より強くなっていろ」

 なるほど、意図はわかった。ただ単に戦いを求めているだけだ。建前は立派だが、目が早くしろと疼いている。改めて思う。バトルジャンキーめんどくさい。




「「はぁはぁ──」」

 俺とリターさんの首筋に汗が滴る。服はもうびしょ濡れだ。

 彼と手合わせをしたのだが、彼は前より強くなっていた。というより、本気を出したようだ。

 前回は、彼の常時魔法は使っていなかったため、あのような結果だったが、その時の俺なら、この人の本気には勝てなかっただろう。

 こっそり見せてもらった彼の行使魔法と常時魔法がこちら。




リター・ハイリグン
所持魔法
・行使魔法
【──】

・常時魔法
【敵感知】
 発動内容
 ・敵を感知する。魔力消費なし。




 まさかの行使魔法を持っていないことが判明。これでパラディンなのだから、彼の化け物っぷりが良くわかる。

 常時魔法は俺の【感覚強化】による効果と近いようだ。無論、敵以外も俺のは感知するが。

 基礎能力は見せてもらえなかった。まぁ、無理に見るものでもないか。彼にとってマイナスに近づくかもしれないしね。

「じゃあ、当分は多分会えん。鍛錬を怠るな」
「了解です。ありがとうございました」

 朝日を前に、彼は俺に手を振って帰っていった。さて、俺もそろそろ帰るか。真雫も起きるだろうからね。

 自室へ転移。

「ん、おかえり、ノア」
「ただいま」

 真雫は既に起きていた。まだ少し寝惚け眼だから、いまさっき起きたのだろう。

「どこ行ってたの?」
「リターさんに稽古をつけてもらってた」
「そう」

 ふあぁ、と盛大に欠伸をして、真雫は寝室に戻っていった。また寝るつもりだろうか?

 俺の予想は外れたようで、髪ゴムを取りに行っただけのようだ。

 真雫は基本、ストレートに髪を下ろしているのだが、歯磨きや風呂の時は、ポニーテールに変化する。ただ、風呂の時は団子みたいなあれじゃないのか?よく分からんけど。

 とりあえず、起きた時に作った朝ごはんを食卓に運ぶ。魔法レンジで温めたので、冷めてはいない。

 少し経ち、真雫が帰ってくる。眠気は吹き飛んだようだ。

 朝ごはん♪みたいな感じで、真雫は席に座った。真雫は俺の料理を気に入ってくれているみたいだ。こちらとしても、嬉しいね。

「ノア」
「ん?」
ひふもほんないつもどんな稽古をひているの稽古をしているの?」

 口をモゴモゴさせながら、真雫が聞いてきた。行儀悪いからやめなさい。可愛いから何も言わないが。

「剣術とか、弓矢とか?」

 ゴクンッ、と音がするような感じで、真雫が喉に朝ごはんを通す。

「弓を射て楽しい?」
「いや、楽しいかどうかじゃなくて、必要かどうかなんだけどな。あと、射るのは弓じゃない、矢だ」

 真雫が自分の失言に気づき、あうあうしている。頬を染めながらあたふたしている姿が微笑ましい。

「んっ、んっ!……また明日もやるの?」

 咳払いと共に、話題転換を図ってきた。意外と恥ずかしかったのか、まだ顔が赤い。

「いや、次は1ヶ月後だって。仕事が詰まっているんだと」
「ふぅん」

 真雫が少ししょんぼりした。まさか……。

「今度は真雫のことも見てくれるよう頼んでみるか?」
「いいの?」
「あぁ、強くなるって言ったからな」

 あの日交わした『魔眼契約』で必要なことだ。連れが強くなることに不満はない。

「フフッ、ありがと」

 真雫は、ここ最近で1番の笑顔を見せた。嬉しそうで何より何より。女子が鍛錬できることに喜ぶことに、若干違和感を感じないでもないが。

 今後の予定を話しながら、俺達は朝食を済ませたのだった。

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