中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

36.冒険者編 パレードとパーティ

 高らかに鳴るトランペット。リズムよく叩かれる太鼓。そして、馬車を取り巻く兵士らしき人達。

 絶賛、パレード中。

 周りに湧く人集りは俺達を祝福し、同時に感謝した。みんな、清々しい笑顔だ。

 対して俺達は、それはもうぎごちない笑顔だった。人に向けるような、自然な笑顔ではない。苦笑いに近い笑顔だった。

 ガタゴト、と馬車が揺れるも、騒音に掻き消される。人が多い……!

 本日の日程。
午前中:パレード(馬車と歩き)
午後中:パーティ(礼服のまま)

 と、いった感じである。完璧に英雄扱いだ。嫌と言ったらありゃしない。

 龍とは、そもそも最強の種族であって、歴史上、彼らを撃退、まして討伐など、指をおって数えられるほどしかない。

 それを2人で、それも2匹を倒すなど、まさに前代未聞。

 当然、嘘ではないのかと疑惑の声があがったが、ギルドが公式に発表してしまえば、疑いの余地はないわけだ。しかし、このパレードを心よく思わない者もいる。分かるよ。龍倒して、パレードを開くなんて、ただの目立ちたがりだもんな。別にやりたくてやっているわけではないんだが。

 頭の中で言い訳(というか、本当のことなんだけど……)をしながら、笑顔で手を振り続ける。オリンピック選手とかも、こんな感じだったのかね?

 ルートはプリンゼシン公爵家が統治する南区画以外は馬車で、南区画は歩きだ。嫌すぎる。控えめに言って、面倒くさい。

 景色が過ぎ去っていき、尚も手を振っている俺達だが、そんな中で何故か【感覚強化】が反応した。確かにいるのだが、魔法でも使っているのか、どこにいるかが分からない。何となくの強さでは、常人よりも弱いので、今は放っておこう。

 ヤツの存在を感知したことをおくびにも出さず、手を振る。はぁ、もう、帰りたい……。




「ふむ、きゃつ、今我に感ずきおったな」

 建物と建物の間。そこに、怪しいローブを纏った何かが水晶を持っていた。水晶には、龍殺しで話題の転移者2人が映っている。

「龍殺し、か……。確かに面倒じゃの。の邪魔になるの」

 すると、その何かは、おもむろに踵を返し、呟く。

「クックック、まずは色々試すのもいいかもしれん」

 1つ、呪文を唱えると、何かの前に魔法陣が現れる。何かはそれに足を踏み入れながら、

「狂乱の、始まりじゃな」

 その謎の言葉は、その場の誰にも届かなかった。




「──っ」

 【感覚強化】から反応が消えた。敵意を持つヤツがいなくなったみたいだな。結局何もしないことにしたようだ。一応まだ用心しておこう。

 南区画に差し掛かったので、馬車から降りる。何故か歓声が沸き上がった。俺ではなく、多分容姿端麗な真雫への歓声だろう。おそらく、きっと。

 南区画の大通りを歩く。しかし、人が多いなぁ。それほどの偉業を成し遂げてしまったのか……。本来なら嬉しいのかもしれないが、俺的にはあまりいただけない。

 ついでに、国王陛下も参列している。やはり、企画者として出ないといけないそうだ。クラーさんもまた然り。

 その中でも、真雫は人気があるようだ。あちらこちらから、真雫に男からの黄色い声援が聞こえてくる。若干女性の声も混じっているのは……気のせいだ、きっと。

 真雫は、主に男性からの声には、あまり快く思っていないみたいだ。証拠に、顔が曇っている。もしかしたら、女性からの方も含めて、もしくは女性の方だけ、かもしれないが。

 俺にはどうにも出来ないので、頑張って耐えてもらおう。すまんな、真雫。

 対して、俺の方は……若干だが、いてくれるみたいだ。大半が女性だが、気のせいかな男性の声もする。まぁ、気のせいのはずだ。別に現実逃避ではない。

 そして、最終ゾーン。わずか10mの短い場所だが、唯一、俺達にのみ、警護を無くす場所だ。警護が消えたらダメだろう、と思わんでもないが、国王陛下とクラーさんからの頼みなので、断れるはずもなかった。

 どしどし、とみんなが詰め寄ってくる。

「ノア様、サインください!」

 は!?サイン!?んなもん持ってるわけないじゃん!!突然のサインの要求に俺はたじろぐ。いや、本当にないから、サインなんて。マジ勘弁。

 サインを要求したのは、まだまだ幼子だったので、日本語の行書で『神喰 希空』とだけ書いておいた。うん、この世界ではない文字だし、サイン要求されたら、これを使おう。

 それから、まぁ、色々な要求をされたのだが、とりあえず、できるのだけやっておいて、後は無視した。

 真雫の方は、サイン要求は無論、「マナちゃーん!」とか、「付き合ってください!」とか、「結婚してくれぇ!」とか、挙句「マナ、今夜も一緒に……」とか色んな連中がいた。悲しいかな、真雫は異世界ではモテるな。別に羨ましくない。ないったらない。

 【感覚強化】が嫌という程反応していたが、そいつらにのみ、殺気を放っておいたので、今は大人しい。

 あと10mもない道のりなのに、ひどく遠く感じる。いや、考えるのはよそう。嫌になる。

 その後の俺達にどんな事が起きたかは……推して知るべし。




「はあぁぁぁぁ……疲れた」
「激しく同意」

 パレードが終わり、休憩にと自室に1度帰してもらった。パレードって、こんなにキツイものなのか……。もう、やりたくない。今後こんなのが来たらすぐに断ろう。心の中で、揺るぎない決心のついた俺だった。

 フカフカのベッドに礼服のまま倒れ込む。もう、少しくらいシワができてもいいや。

 ベッドに、心身ともに癒される。無性に眠りたいが、今寝てしまうと、パーティに間に合わない気がする。しょうがない、顔洗って目を覚まそう。

 そう思い、洗面台へと向かう。

 ふあぁ、と欠伸をしながら、洗面台への戸を開けた。するとそこには。

「は?」
「……あ」

 メイドさんがいた。真雫とリーベに変なことを吹き込み、おれが朝ごはんを作るのが習慣になる前まで、俺達の朝食を運んでくれた、見た目草食系中身猛獣並み肉食系のメイド(希空の偏見が入っています)だ。

 なんとなく分かるが、敢えて聞こう。

「何してるんですか?」
「えと、てへ」

 可愛らしい仕草でいるが、背に隠された左手には、俺達の下着が見えた。俺や真雫、どちらか一方なら、百歩譲って分かるとするが、何故か俺と真雫の両方ともだ。

「……オンケル陛下にちょっと用事を思い出したので、精々ごゆっくり」
「あぁ、ちょっと待ってください!待ってぇ、クビにしないでぇ」

 クビが飛ぶほどのことをやっている自覚はあるんだな。

 もう少し探りを入れるために、戻る。

「改めて聞きます。何してるんですか?」
「うぁ、あ、え、えと」

 人差し指と人差し指の先をつついて、とても、それはもうとても言いづらそうな顔をした。踵を返そうとすると、彼女は全力で止めに来た。

 そして、嫌々ながらも真実を話した。

「実は、趣味に必要で……」

 俺は黙った。なんかもう、それ以上聞きたくない。何、俺達の下着が趣味に必要なの?怖いんだけど、その趣味を聞くの。

 追求すべきなのだろうが、聞かないことにした。

「はぁ、とりあえず、不問にしますので、それ返してください」
「え、あ、はい」

 渋々、もうこれ以上ないってくらいに渋々と彼女は下着を返した。そして、数瞬遅れて、不問という言葉に反応する。

「え?不問にしてくれるのですか!?」

 グイグイ来た。あまりの勢いに、間近まで近づいてきた顔を手でおさえる。

「はいはい、不問にしますから、もう絶対やらないでください!次やったら本当に言いますからね!」
「ありがとうございます!」
「とりあえず、用事があるので、お暇してください」
「Yes,sir!」

 惚れ惚れするような敬礼と、英語を用いて、彼女は颯爽と出ていった。……この世界、英語なんて存在したんだ。ほとんどドイツ語で構成されている気もしないでもなかったから、ほかの言語はほぼないかと思っていた。

 そんな彼女をバカを見る目で見送りながら、俺は振り返った。そして、そこには、

「その手に持っているものは、何?」

 真雫がいた。顔を真っ赤にして、ワナワナと震えている。嫌な誤解を招いた気がする。

「おい、真雫?別にこれは事情があってだな」
「誰の?」
「……真雫の」
「……ッ!」
「うおう!ちょっと待て!見られたり触られたくないのはわかったから、待て、落ち着け。防御壁マウアーを展開するな。ちょ、マジで防御壁マウアー衝波ショックウェルは洒落にならねぇから!」
「”防御壁マウアー衝波ショックウェル”!」
「話を聞け!」

 ピカっと光り、俺が飛ばされる。眠るまいと思っていたけど、気絶してしまいそうだ。

 とにかく、あの手この手で真雫の説得をした。数十分かかって、漸く説得完了。もう、疲れた……。

「すまない、私の早とちり」
「いや、いい。どうせ元凶はあのメイドさんだし」

 悪い人ではないのに、俺、あの人苦手だ。真雫は、部屋には配慮していたようで、部屋は壊れてはいなかった。

「とりあえず、パーティに行くか」
「……(コクッ)」

 そうして、俺達はパーティ会場へ向かった。




「龍2匹を討伐した2人に、乾杯!」
『乾杯!!』

 賑やかになる会場。

 俺達は普通にパーティを楽しんでいた。恥ずかしい俺達の説明や、スピーチこそあったものの、それを乗り越えた今、完全にパーティを楽しむ所存である。

 ちなみに、パーティはバイキングのような方式で、皆立ち食いである。

 今日のパレード、もとい龍殺しで、より一層有名になった真雫は、やはり貴族のご子息達につるまれていた。そして、俺の背中に隠れる。そんなことされると、俺、この場に結構居ずらくなるんだが?無論、真雫を守るためにもなんにも言えない。

「よぉ、一気に有名になったな」
「!リターさん」

 いつもは食べない珍しい料理に舌鼓を打っている俺達に話しかけたのは、これまた珍しく礼服のリターさんだった。体格が良すぎて、礼服がパツパツである。あれ、全身に力を入れたら破けるとかじゃないよな?

「しかし、龍殺しか。転移者はすごいな」
「あはは、そんなにですかねぇ」

 パラディンにもお墨付きを貰ってしまった。心底いらねぇ。本当に失敗した……。

 リターさんはそう言い残したまま、陛下に呼ばれたので、その場から立ち去った。

「ノーアッ!」
「おっと、やめてくださいリーベ様。貴族達の目が光ってますよ?」
「あら、ちょっとふざけただけですよ」

 俺の背中に乗ったリーベは、蠱惑的な笑を浮かべ、スススッ、と彼女は引き下がった。リーベも参加していたみたいだ。まぁ、公爵家の一員だから、当然といえば当然だな。

 それよりも、リーベは本当に人間恐怖症が薄れてきたな。こちらとしては、嬉しい限りだ。見た感じ、彼女も多くの貴族のご子息に狙われているみたいだ。多分、身分的にアタックするものは少ないみたいだが。

「ご一緒してもよろしいですか?」
「えぇ、大丈夫です」
「平気」

 最近思うのだが、この3人の面子でいるのが増えた。この世界で唯一無二の友人だから、特別扱いしているのかもしれない。別に、だからといって雑に扱う気もないが。

 それから暫く、言葉を交えながら料理を口に運ぶ時間が続く。

 お腹が満杯になった頃、近くで花火が上がった。会場は外なので、良く見える。見たことのない色の花火が打ち上がっていく。魔法なのだろうか?

「綺麗ですね」
「綺麗」
「だな」

 それ以上、言葉は出なかった。否、出さなかった。必要なかったのだろう、俺達には。

 辺りを、花火の光と轟音が響き渡る。花火なんて、一年ぶりだな。まぁ、夏にしかないけど。多分。

 あぁ、今日も疲れた。でも、いい日だった。色々経験できたし、ケジメをつけるとかには最高だったと思う。

 でも……明日は、ゆっくり休もう。

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