中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

31.冒険者編 殲滅クエスト(1)

 数多くのクエストが存在する中、殲滅クエストというものがある。名の通り、殲滅を目的としたクエストだ。

 このようなクエストの多くは、犯罪組織の殲滅や魔獣の大量発生時の魔獣の殲滅が主だ。大抵が指名依頼で、名のある冒険者しかクエストを受注できない。

「ノア様、気をつけてください」
「えぇ、すぐに帰ってきます」

 ジェニにそう言い残し、真雫とともにアジトへ向かう。どうもアジトは貧民街にある娼館の地下らしい。また娼館かよ。舞踏会の時は、時間が時間だったために娼館は開いてなかったけど、今はまだ夕方。娼館はバッチリ開いている。俺も少なからず男だ。ドキドキしてしまうのも無理はないだろう。

 妙にそわそわしていたのが真雫に伝わったのか、真雫から鋭い視線を頂戴する。……別に何も考えてないからな?

 無言の圧力を突きつけられながら、貧民街へと歩いていく。

 視界の端に、骨だけのような体つきの少年や、横たわって動かずに、空腹を抑えている少女がいる。見ているだけで心苦しい。真雫もそんな感情を抱いているのか、不愉快顔だ。

 しかし、俺達は見て見ぬふりをした。そうせざるを得なかった。今の俺達に、彼等を救う手立ては存在しない。オンケル国王陛下に問い合わせれば何とかなるかもしれないが、少なくとも今は無理だ。こういう時は歯がゆい思いをしてしまうな。

 【精神強化】を得て尚痛む心を感じながら、更に貧民街の間を進む。

 それからしばらくして、とある建物の前に着いた。あたりに人気はない。ここが娼館、つまりオーガニザチオンのアジトだ。壁が薄いのか、うっすらと嬌声が聞こえてくる。子供が立ち入ってはいけない場所が醸し出す大人の雰囲気に、俺と真雫は赤面で硬直した。なんだろう、一刻も早くここから去りたい。

 そんな考えを振り切って、顔面着用の防具を創造する。

 偽りの仮面ゲフェルシュタ

 完全にオリジナルの防具だ。口元と右目だけを隠すように作ってあり、ちょっと洒落た感じの黒色だ。危険察知が出来る他、この仮面を被った者は、他人の記憶に残らないという、スパイにうってつけの能力付きだ。

 なぜこのような仮面を被るのかと言うと、目立って行動しないためだ。意外と大きい組織なので、顔を見られた時に面倒なことに巻き込まれはそうな気がしてならなかったので、その対策である。

 そもそもこのクエスト自体公表すると目立つものなのだが、引き受けて数秒後に自分の犯したミスに気づき、報酬と引き換えにこのクエストのことは内密にしてもらったのだ。

 真雫にも偽りの仮面ゲフェルシュタを渡す。真雫の偽りの仮面ゲフェルシュタは俺のとは違い、白で左目の部分と口が隠れている。そう、お互いの虚構の魔眼フィクティバー・デーモン真実の魔眼ヴァンラ・オウゲンが見えるようにしたのだ。俺も真雫も。まだ中二が完治してないな、とつくづく思う。

「か、カッコイイ……!」
「グダグダ言ってないで早くしろ」

 目を輝かせて仮面を眺めている真雫に早くするよう催促し、【感覚強化】で俺達に敵意を持つヤツがいないか確認。今のところでは、俺達に気づいているヤツはいないみたいだ。

 仮面を装着し終えた真雫と目を合わせ、娼館の中に入る。壁から聞こえてくる声が艶かしい。かつてないほど俺の顔面は赤く染まっていた。真雫も、意識してしまっているのか顔面がめちゃくちゃ赤い。とっとと終わらせて、ここから早く抜け出そう。

 決意新たに、さらに奥へ進む。どこから地下に通ずるのかは分からないが、進まないことには見つけることもできない。

 やがて、受付らしき場所にたどり着く。中央の椅子にはおっさんが仰け反っていた。

 彼が俺達の存在に気づき、チラリと俺達に目をやる。すると、再度仰け反って、

「ここはガキが来ていいようなところじゃねぇ、さっさと失せろ」

 と言われた。別に来たくて来ているわけじゃねぇんだよ……。

 いい嘘が思いつかなかったので、彼を気絶させる前提で、正直に話す。

「オーガニザチオンを壊滅させに来ました。アジトに通じる道を教えてください」
「……!」

 おっさんの目が細く鋭くなる。彼は初めて俺に敵意を持った。強さは大体リターさんに手も足も出ないくらい。見た目だけなら強そうな人種だ。

 彼が椅子から飛んで俺に襲いかかる。俺は背負い投げの要領で後方に飛ばす。ガハッ、と肺の中の空気を強制的に吐き出され、苦しそうに顔を歪めた。そこに、追い打ちをかけるように拘束鞭アインシュレンクンで拘束する。

「はい、これであなたには何も出来ません。さっさと道を教えろください」

 にこやかに、されど冷めた言葉で彼に道を聞く。

 彼には組織への忠誠心が少ないのか、あっさり教えてくれた。どうやらこの部屋の四隅にあるらしい。複数隠し扉があるなんて、面白い組織だな。

 四隅それぞれに植木鉢が置いてあったので、それをどけると、隅に取っ手らしきものがあった。恐らくこれを引くと開くのだろう。周囲を警戒しながら取っ手を引く。すると、上階から男が数人落ちてきた。全員黒装束に身を包んでいる。……『黒服』、か。

 何も言わずに俺と真雫に襲いかかってくる。が、真雫の防御壁マウアーに防がれていた。直後の防御壁マウアー衝波ショックウェルで彼等に気絶してもらう。今の衝撃で、一応起こしていた受付のおっさんも眠りの世界に旅立ってしまった。まぁ、保険みたいなものだったから、別にいいか。

 ただ、黒装束か……。もしかしたら、ゴット・ストゥールが関わっている可能性がある。確か、ゴット・ストゥールの元の三大犯罪組織の1つ、『フレ』は人身売買と娼館に関わっていたはずだ。考えすぎかもしれないが、視野に入れておこう。

 警戒しながら、扉のすぐそこにあった階段を降りる。

 中は松明の明かりがやけに明るく輝いていた。俺達の足音もカツカツ、と空間に響かせて耳に届く。

 それから進むこと数十秒。俺の【感覚強化】が反応した。どうやら追っ手が来たようだ。【感覚強化】によれば、挟み撃ちになりかけている。

 目的は殲滅だし、殺さないにしても少し痛ぶってもいいよね。

 先に到着した下階からの黒装束の男達に、俺一人で走る。真雫は上階からのヤツらを頼んでおいた。

 一番前に先行していたヤツが、手のナイフを俺に振り下ろす。俺はヤツの手首を掴んで引き寄せ、ヤツのみぞおちに膝を入れた。あまりの痛さに失神して倒れる。

 それを見た後ろの1人が、一瞬だけビクッと慄いた。その一瞬の隙を見逃さず、すかさずヤツの懐に潜り込み、掌底をヤツの顎に突き上げる。彼は宙を舞った。

 宙を舞ったヤツの下をくぐり抜け、いまいち状況がのめていない次の後ろのヤツのみぞおちに拳をねじ込む。

 更に拳をねじ込んだヤツの肩を掴み、足を蹴りあげ、回転してヤツの背中に跳び、その後ろにいたヤツの脳天に踵落とし。

 ギャフン、と変な声を出して、ヤツは脳天に踵の跡を残し、地面に伏せた。そして、一番後ろのヤツに、肩を掴んだヤツを放り投げる。

 後方から、バタン、と2番目の宙に舞ったヤツの背中が叩きつけられる音がした。はい、これで下階からの黒装束のヤツらは殲滅終了。他にまだいないか警戒しながら真雫のいる所へ戻る。

 真雫は防御壁マウアー衝波ショックウェルで全員気絶させたようだ。周りの屍の中央に真雫が佇んでいる。やはり、真雫も人を傷つけるのに慣れてきたみたいだ。

「終わった?」
「あぁ、下に行こう」

 そう言って、階段に転がるヤツらを避けながら、さらに奥へ進む。

 奥に小さな光が見えた。次第にその光が大きくなり、やがてワンルーム程度の部屋に出る。誰もいないようだ。

 罠への警戒を高めながら、中に入る。十中八九罠があるからな、こういう部屋は。

 引き返すわけにもいかない。意を決して真雫とともに足を踏み入れる。ガコンッ、とあからさまに罠の音がした。ほらな。

「あら、まだまだウブな子供じゃない。こんな子達が侵入者なんて、うちもナメられたものね」

 字面だけ見れば、完全に女性口調だが、声は野太いというか、男の渋さを感じさせる声だった。猛烈に嫌な予感がする……!

 ここに来た階段の出口のシャッターが一瞬で降りる。安全なんて知るもんか!と言いたげにパシーンッ、という音が響いた。

「うーん、男の子の方は好みの顔だけど、しょうがないわね。ポチッとな」

 何かのボタンを押されたようだ。1秒も経たずにゴゴゴッ、と音が響く。何が起きた!?

 【感覚強化】が反応しないことから生物的な罠ではないのだろう。と、なれば何か物理的なものなのかもしれない。

 尚もゴゴゴッ、という音は響いている。段々と、音が近づいている……?

 色々思案を巡らせる中、結論に達した。天井が、落ちてきていたのだ。ゆっくりと。このままでいると、俺達は2次元の存在になりそうだな。

 とりあえず、大棍棒ダグダを数本召喚して、天井の動きをせき止める。

 同時に斬滅剣カラドボルグも召喚して降りていたシャッターを切り刻む。大棍棒ダグダがいつまでもってくれるか分からない。真雫の手を引き、即座に階段へ向かって走り出す。

 案外余裕で階段にたどり着いた。大棍棒ダグダはまだ天井をせき止めている。

 階段に来た理由は、天井から逃げるため、というのもあるが、実はもうひとつある。先程、天井が落ちてきた部屋を見渡したのだが、扉らしきものが見当たらなかった。なのでもしかすると、俺達を襲ってきた、下階からの黒装束のヤツらは、あの部屋からではなく階段から来たのでは?と考えたのだ。つまり、階段に残りのヤツらの居場所に通じる道があるかもしれない、ということだ。

 なので、壁をトントンと叩いて、空洞があるか確認する。近場は少なくとも壁に扉はないようだ。

 ふと、俺の視線が階段に向く。……もしかして、のか……?そう思い、足元を叩いてみる。しかし、普通に埋められていた。空洞はないみたいだ。俺の予想が尽く外れたな。

 消去法で、天井を叩いてみる。流石にないだろう、と思っていたが、コーンコーン、と音が響いた。まるで中に空洞があるかのように。まさかの天井だったか。階段に道はある、という予想は当たったな。

 魔眼共鳴をして、空洞があるだろう場所を斬滅剣カラドボルグで切り刻む。魔眼共鳴は、念の為の保険だ。

 パラパラと天井の残骸が肩に乗る。俺はそれを手で払って、空洞の中に飛び込んだ。罠はなかったようだ。

 真雫も引き上げて、空洞の中を進む。所々に松明があるので、暗くはない。

 しばらくして、【感覚強化】が敵を察知した。ふむ、これは人ではないみたいだ。恐らく魔獣だろう。1匹1匹の個体の強さはさほどではないが、如何せん数が多い。その数、この狭い空間に100匹。幅10mもないこの空間では、少しキツいかもな。相手は数の利で攻めるらしい。勿論、共鳴状態の俺にはあまり関係ない。

 一掃しようと思い、火焔剣フランベルジェを構える。ところが、真雫に止められた。

「任せて」

 防御壁マウアー衝波ショックウェルで、その場の100匹を一気に倒す。威力も範囲も大きくなっている。よく俺と鍛錬している成果だろう。

 ちなみに、俺達を襲ってきた魔獣は狼のような魔獣だった。種類名は覚えていないが、確か大量発生しやすい魔獣だったはずだ。

 狼の魔獣の屍を越えて、さらに奥へ進む。

 数分後行き止まりに着いた。これ以上は進めないようだ。空洞がないか確かめる。うん、ここに空洞があるな。

 斬滅剣カラドボルグでまた木っ端微塵にする。すると、数本のくないが飛んできた。ここは罠がついていたみたいだ。

 全て手で掴み、落とす。チートなこの体に、この程度の罠は効かない。

 壁の奥にあった横穴に入る。すると、真雫と共に転移した。俺が転移したのではない。強制的に、転移のだ。

 転移先は、謎の部屋だった。拷問器具みたいなものが、あちこちに転がっている。

「とうとう、ここまで来ちゃったみたいね」

 その声が後方から聞こえ、途轍もない悪寒が背筋を走る。また、ぎこちなく後ろを振り向くと。

 男がいた。2mはあろうかという身長に、尋常じゃないほどに大きい腹。頭には大きめのうさ耳があり、着ている服は露出度高めの服。世間的に言うバニーガールの服装だった。ヤバい、なんかリバースしてしまいそうだ。

 死にかけながらも、オネエ口調のヤツと対峙する。

「近くで見ると、本当に私の好みね♡」

 勢いよく目をそらす。照れたのではない。吐き気と悪寒、そして冷や汗が止まらず、思わず目を背いてしまったのだ。視界に入れるだけで拷問化するとか、どんな野郎だよ。

「せっかくだから、そっちの娘も捕まえてペットにしてあげようかしら。みんな!出ておいで!」

 【感覚強化】に反応あり。すぐに黒装束のゴツイ男たちが降りてくる。

「やっちゃいなさい!」

 ヤツの命令で、俺達にヤツらが襲いかかる。俺と真雫は、戦闘態勢に入った。

 こんなクエスト、早く終わらせよう。なんかもう、帰りたい。

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