中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

30.冒険者編 高難度クエスト(4)

 ガタンゴトン、と馬車の音をBGMに、流れていく景色を眺める。今日はいい天気だ。

 現在、平原を馬車で走行中。乗っている馬車はグースト公爵家のものだ。正六面体で豪華な彩色がしてあり、魔法のクーラーも付いている。真雫は酔っていない。やはり、真雫の酔いの原因はクーラーの有無だったか。どういう原理でそうなるのかは分からないが、対処法が分かっただけマシだろう。

「そう言えば、あなたがたは転移者様……なのですよね?」
「えぇ、そうですよ」

 ジェニさんの質問に、笑顔で返す。何となく、この人には嫌われたくないので、好印象を持たれるように動こう。

「なら、『チキュウ』から来たのですよね?」

 続いた彼女の質問に首を縦に振る。

「『チキュウ』のこと、教えてくれませんか?」
「地球に興味がおありなのですか?」
「えぇ、神話並みに古い話しか知らないのです。だから、今世紀の転移者様に会ったら聞きたくて」

 神話並みに古い話?今世紀?今周期ではなくて?

 ジェニさんの話では、邪神は死んでも15年で復活はするが、力を蓄えるのに70年必要なので、一世紀に1度しか転移者は表れないらしい。決まって日本人ということはあっているのだが、何せ転移者でも人間なため、会うことは難しいそうだ。

 おかしいな、俺がオンケル陛下に聞いた話と違う。そもそも、15年周期で復活し、すぐに暴れると聞いていたのだが。真雫もそう思い至ったみたいで、首を傾げている。

「あの、聞かせてくれますか?」

 その言葉に思考を打ち切られ、彼女に俺の知っている限りの地球のことを話す。

 意外にも、彼女が最も興味を示したのは、アニメ文化だった。俺もアニメとかラノベとか創作物が大好きだったので、非常に話しやすかった。彼女とは、趣味が合いそうだ。

 真雫も、積極的に話していたが、俺とジェニさんが仲良くアニメの話をすると、少しむくれていた。何故むくれる。

 それから、とても快適な車内で、俺達はだべっていた。が、そんな平和も唐突に終わる。

「おっと」

 馬車が急ブレーキをした。目の前にいたジェニさんが、俺の元に飛んできた。避けるわけにもいかないので、軽く抱きしめる形で受け止める。

「大丈夫ですか?」
「…………」
「あの、グースト公爵令嬢様?」

 ジェニさんがかたまって動かない。おーい、そんな事されると、真雫の視線が痛いんですけどー?

 俺が引き剥がすよりも先に、真雫が彼女を引き剥がした。ジェニさんの頬は赤く染まっている。

「ジェニと……」
「……は?」
「……ジェニと、お呼びください」

 あの、分かったんでその桃色雰囲気を醸し出すの、やめてもらえませんかね……?というか、この状況で何言ってるんだこの娘は?真雫の視線が刺さってしょうがないから本当にやめて欲しい。

 色々戸惑っていると、このカオスをこわすようにバンバン!と馬車をノックする音が響き渡った。

「おら、早く出てこい!!」

 野太く、どこか汚い感じがする男の声が響く。また、何かにつるまれたみたいだ。アニメの主人公ばりに面倒事に絡まれるな、今日の俺達。

「はい、なんでございましょう?」

 そう言いながら、執事さんが馬車から降りようとする。俺は真雫と目を合わせて、魔眼の準備をした。そして、目に見えない神速で、執事さんのポケットに極小の自動盾モルガナを入れる。

 直後、ガキイィィンという音が響いた。執事さんに飛んできた矢が、自動盾モルガナの部分障壁に当たったのだ。執事さんが驚いている。

「ほう、魔法障壁とは……」

 違うところに驚いていたようだ。矢については全く関心を持っていない。

「チッ、ジジイかよ、この死に損ないが!!」

 執事さんの発言を聞こうともせず、その野太く汚い声の男は襲いかかった。しかし、ジェニさんは平然としたままだ。

 これは、まさかテンプレかな……?

 執事さんが死ぬ。誰もがそう思っただろう。脳裏に彼の死に様が映らないよう、真雫は目を瞑った。しかし、想像したことは現実にはならなかった。

 執事さんが男の手を握り、自分に引き寄せたかと思うと、男の溝に拳を入れた。グハッ、と男が呻きながら遠くへと飛ばされる。やはりテンプレのように、この世界の執事も相当お強いようだ。

「ふん、他愛ない」

 眼光を鋭くして、いつの間にか出した白いハンカチで手を拭いている。いや、手袋つけているから意味無くね?

 奥には、男の仲間らしき人が数人いる。執事さんの目がギラっと光り、その視線の先には男の仲間が。

 瞬間、執事さんがブレた。物凄いスピードで、ヤツらの元へと駆けたのだ。

 一番近くにいたカエルみたいな顔のヤツの顔面に、執事さんが掌を押し当てた。

「──ハッ」

 ドンッ、と螺旋状の衝撃波が可視化された。空気が振動し、ヤツが吹き飛ばされる。また、ヤツが飛んだ先には他の仲間がおり、そいつがヤツから逃れようと、左に移動する。しかし、更にその先にはまた他の仲間が。

 ゴチンッ、と頭と頭がぶつかった。それなりに強い衝撃を受けたようで、「痛ってぇ!」と喚いていた。

「チームワークがなっていませんな」

 そんなことを言って、頭を抱えた2人に横一閃の鋭い蹴りを入れる。2人は轟沈した。

 そこで、今まで息を潜めていた残りの仲間が、執事さんに襲いかかる。おっと、あの体勢じゃ避けるのは難しい。

 咄嗟に拘束鞭アインシュレンクンを出して、襲いかかったヤツを拘束する。

 執事さんは振り向くと、ヤツが紐に巻かれて地面をのたうち回っていたことに驚いた。すると、その犯人を見破ったかのように、俺を見て、一礼した。俺も仕草で「当然のことをしたまでです」的なことをした。

 執事さんがヤツらのまだ意識があるやつとほんの少し話して、気絶させた後、また馬車に乗り込んだ。

 護衛として、気になる点があるので、執事さんに聞く。

「先程のヤツらは?」

 俺がそう問うと、執事さんは快く教えてくれた。

 どうやら、グースト公爵家をよく思わないヤツらの下っ端らしい。ジェニさんを誘拐して、グースト公爵に脅迫する腹だったらしい。なんて雑な計画だ。流石に、その計画を企てたヤツの名前までは聞けなかったらしい。

「それよりも先程のご助力、感謝致します」
「私からも、救って下さり、ありがとうございます」
「いえいえ」

 先程も一礼して礼を言っていたのに、この人達は人がいいのだろうな。

 それはともかく、ヤツらはどうしよう?放置で良いのだろうか?

「彼等は後ほど私の部下に処理させますので、心配はいりません」

 俺のそんな考えを見透かして、執事さんがそう言った。彼が言うのだから、俺が心配することでもあるまい。

 もしかしたら、また襲ってくるかもしれないので、ジェニさんにも自動盾モルガナを渡しておこう。

「グースト公爵令嬢様、この──」
「ジェニ……」
「……ジェニ様、この──」
「ジェニ」

 これは、もしや呼び捨てを所望しているのか?

 執事さんをチラッと見ると、無表情で、何考えているか分からない。ちなみに、真雫は少しムスッとしていた。

「ジェニ、この──」
「お嬢様を呼び捨てとは、不敬極まりない!!」
「最後まで台詞を言わせろよ!!」

 俺にどうしろと!?どうしろと!!?思わずツッコンでしまった。いや、これはしょうがないだろう。

 車内で俺と執事さんの視線が交わる。緊迫した雰囲気だ。……どうすんだよ、このカオス。

「ゼバス、やめなさい」
「し、しかし……」
「私が許します。それでも良いでしょう?」
「……承知致しました。ノア様、先程は失礼しました」
「いえ、俺も大声出してしまって申し訳ない」

 このカオスをぶち壊したのは、ジェニだった。って、このカオスを作ったのもこの娘じゃん。俺は巻き込まれただけだ。

「ふぅ、とにかく。ジェニ、この自動盾モルガナをつけてください」
「これは?」
「あなたを守る、お守りです」

 詳しい情報は教えない。そうすると、彼女が安心しきって、油断してしまう可能性があるからだ。

 そして、一度落ち着いた車内を、またジェニがカオスを呼び起こそうとした。

「タメ口でもよろしいのですよ?」
「いや、これは公然の仕事なので、クエスト中は敬語を使わせてもらいます。プライベートでだったらそうさせてもらいます」
「そうですか……。ゼバス、呉々もお父様にこのことは言わないこと」
「はっ」

 はぁ、ギリギリカオスを回避した。この娘達の相手をしていると疲れる。

 今気づいたが、公然の仕事ということで、呼び捨ての件も不問にできたんじゃね?いや、時すでに遅し、か。少し失敗した。

 久々に訪れた静寂に、身を浸らせる。改めて思う。平和が一番だ。




 それから時は過ぎ、フリーラン国間近。もう少しで検問に着くところだ。しかし、まさかここで面倒事とはな。

 この馬車は何もなく平然と進んでいるが、今、この馬車を囲うように人が複数人いる。全員俺達に敵意を持っているヤツだ。

「あの、ノア様……?」

 ジェニが、途端に真剣の顔になった俺に困惑する。無理もないな。

「執事さん」
「ゼバス、でよろしいですぞ」
「では、ゼバスさん。今、この馬車を複数人が囲んでいます。恐らく、先程の誘拐犯の仲間でしょう」
「……ほぅ」

 ゼバスさんが、感心したように相槌を打つ。ちなみに、ゼバスさんのフルネームはゼバス・チャンらしい。なんか惜しいな。

「それで、如何がなさいますか?」

 手袋をキュッ、と聞こえのいい音を出しながら、眼光をギラりと鋭く光らせて俺に問いた。……カッコえぇ……。

「はい、俺の殺気で一掃します。いちいち相手にするのも面倒くさいので」
「殺気を放てるのですか?」
「えぇ、まぁ、そういう能力を所持しているので」

 また感心するように相槌を打つゼバスさん。すると、彼はその殺気はジェニ達にも及ぶのか、と聞いてきた。勿論、【気配操作】で及ばないようにしている旨を伝える。すると更に彼は、

「なら、一瞬でいいので、私にその殺気を放ってもらえませんか?」

 と言ってきた。まさか、ジェニの執事さんにそんなことする必要も無い。

 しかし、彼は転移者の実力が知りたいと言ってやまなかった。仕方ないので、彼と同時に、周囲のヤツらにも当てる。

 一般人なら泡を吹いて倒れるレベルの殺気を出したので、周囲のヤツらは恐らく倒れているだろう。現に、俺の【感覚強化】では俺達を攻撃しようとしてくるヤツらの場所は分からない。つまり、ヤツらは意識を失っている。

 対するゼバスさんは、普通にしていた。いや、少し冷や汗をかいているので、普通ではないだろう。

「流石は転移者。見事な殺気です」

 彼は冷や汗を白いハンカチで拭いながら、俺の殺気に賞賛を送った。俺に攻撃してこないからイマイチわかりずらいが、少なくともリターさんと同じぐらいの強さを誇るのは確かだ。最近思うんだが、リターさん級のヤツって、思いの外よくいるよね。

 対して真雫とジェニは首を傾げていたが、流石に彼女等に殺気をあてるわけにもいかないので、口頭で説明した。

 ちなみに、俺が殺気で夢の世界に旅立ったヤツらも、後ほどゼバスさんの部下がどうにかするらしい。優秀な部下だな。

 検問にようやく辿り着いた。検問はやる気がないのか、椅子の背もたれに大いに腰掛けて、帽子を顔に被せて寝ている。

 仕方ないので、軽く殺気を出して起こす。検問の人は飛び上がって起きた。

「よ、ようこそフリーラン国へ。み、身分証明書か、また身分を証明できるものをお見せ下さい」

 彼は冷や汗を流しながら、ゼバスさんに身分証明書の提示を催促した。ゼバスさんは、そんな彼に公爵家の紋章を見せる。

 検問の彼は、相手が公爵家だったことに驚きながら、「入ってどうぞ」と中に入れてくれた。冷や汗流したり、驚いたりと忙しいやつだな。

 そんな彼を尻目にフリーラン国へと入国する。

 フリーラン国は、年中寒い国で、家や城には必ず雪が積もっている。いろんな説があるが、昔の人が魔法の作成に失敗し、その副作用でこのような気候になったという説が、この世界で最もメジャーである。午前は暑い国、午後は寒い国に行くとか、今日はついていないな。

 ちなみに、寒い国と聞いていたので、俺と真雫はいつもよ厚着である。俺はコートの下に色々着込み、真雫は大人っぽいコートを羽織っている。背伸びしている感がしないでもないが、似合っていると言っても過言ではない。

 護衛はジェニのお父さんのいる館までなので、まだしばらく護衛は続く。

 馬車で大通りを進む中、時々、俺達に完全な敵意を向けてくるヤツがいるが、今のところ攻撃はしてこないようだ。【感覚強化】に引っかかっている分、攻撃してくる可能性はゼロではないが。

 それから何もなく、無事に館に着いた。大きい和風の館だ。あったのな、和風の家。この世界では初めて見る。

 ゼバスさんが、馬車から降車して玄関のインターホンを鳴らした。スッペの軽騎兵が流れる。……どんぐりころころよりマシだけど、あっていない。

 館から体格のいい執事が現れる。年齢はゼバスさんと同じぐらいだ。

「久方ぶりだな、ゼバス」
「そうだな、バトラー」

 どうやらバトラーさんと言うらしい。バトラーさんが、俺達を招いて館に入れる。俺と真雫のことは、護衛だと瞬時に見抜いたようだ。グースト公爵家の執事、優秀すぎるだろ。

 彼に導かれるままに移動する。暫く経って、居間らしき場所に出た。中央のソファには、威厳に満ちた中年男性が座っている。

 この人は見たことあるな。確か、舞踏会の時にも来ていた。一番最初に俺に礼を言った人だ。

 ジェニが、その人に向かって駆けていく。

「お父様、私、来ちゃい──」
「馬鹿者!」
「──ひっ!?」

 男の怒声が部屋いっぱいに響く。突然でた大声に、俺と真雫がビクッとする。

「ここに来るなと言っただろう!聞いていなかったのか!」
「う、それは……」
「言い訳無用!!」

 男が立ち上がり、上方に上げた手を振り下ろす。

「……なんの真似ですか、ノアさん?」
「あ、いえ、これは、その……」

 気づいたら、体が勝手に動いており、男の手を掴むことによって、ジェニへの危害を防いでいた。

「これは親子の問題です。関わらないでもらえますか?」

 彼の鋭い眼光が俺を射抜く。一刻も早く立ち去りたいが、ジェニの怯えた顔を見ると、そういうわけにもいかない気持ちになってきた。

「俺は今、ジェニ様の護衛という立場です。俺の目の前でジェニ様に危害を加えるのは避けていただきたい」
「……減らず口を」

 ふん、と鼻を鳴らして彼はまたソファに座った。彼はグースト公爵。言わずもがな、ジェニの父だ。

 それよりも、頭よりも先に体が動いていたなんて初めての経験だな。

 空気が重く、物凄く喋りにくいが、俺は彼に問いかける。

「何故、そんなにジェニ様をこの場に連れてきたくなかったのですか?」
「……顔を見たくないからです」
「嘘が下手ですね。嘘をつくなら相手の目を見た方がいいですよ」

 彼が目をそらしたのを理由に、彼が嘘をついていることを見破る。言い当てられたことに驚いたのか、彼は少し目を見開いた。そして、おもむろに語り出す。

「実はですね──」

 グースト公爵家は昔から悪事を暴く探偵のような仕事をしていたのだが、ある日、自分の組織員の1人が捕まったのを口実に、ジェニをさらおうと目論んでいるらしいのだ。その組織の名は「オーガニザチオン」。

 オーガニザチオンは、昔からある中規模の犯罪組織で、犯罪を犯しては逃げ切り、また犯罪を犯しては逃げ切る、ということを繰り返していた。ある日、それが失敗して、組織の構成員が捕まった。そいつを捕まえたのは、グースト公爵家だった、とのことだった。

 勿論、ジェニには内緒だ。しかし、それが裏目に出て、ついてきてしまった、というわけだ。冒険者に護衛を依頼したのは彼女を守るためか。

「アジトもわかっているのですが、中々突入が出来なくて、困っているんです」

 アジトが分かっているのか。それなら……。真雫に視線を向ける。その目は、俺が思っていることと同じことを、何よりも雄弁に語っていた。

「公爵様」
「どうしましたか?」
「もしよろしければ、俺達に依頼してみてはいかがでしょう?」
「何を?」
「犯罪組織『オーガニザチオン』の壊滅です」
「──!?」

 本当ですか!?と言う声が彼から聞こえてきそうだ。

「勿論、報酬は頂きますが……」

 本当は報酬はいらないのだが、利益で行動した方が、彼らに不信感を煽らないと思ったので、報酬は頂きたい。

「いくらでも払います!娘の安全を確保してくれますか!?」
「もちろんです」

 そうして、俺と真雫は、殲滅クエストを引き受けた。

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