中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

11.ネイヒステン王国編 舞踏会(1)

「よし!」
「ああ、またババだ……」
「どんまい、ノア」

 ここは俺と真雫の部屋。外はもう既に日が落ちている。

 俺達は現在、リーベと共にババ抜きで遊んでいた。何故、リーベが部屋にいるのかというと、昼間のことがあったからだ。サイスさんにも、背に腹はかえられぬ、ということで今日部だけ部屋にいることを許可をもらっている。つまり、今夜はお泊まり会、だ。まぁ、明日は舞踏会なので、7時出発だから言う程長くないが。真雫もリーベも喜んでいるからいいか。護衛ということもあるが、折角出来た友達なので、守りきりたい。

 そういや、リーベの両親は外国にいると言っていたが、舞踏会には参加するのだろうか?

「丁度行かれている国がネイヒステン王国なので、来られますよ?それがどうかしたんですか?」
「いや、なんとなく気になっただけだ。気にしないで」

 本当になんとなく気になっただけだ。別に何か思案を巡らせているわけではない。

 ちなみに、今やっているババ抜きは、俺、リーベ、真雫の順で回っている。リーベは初めてなのに、5戦中5勝している。リーベ強すぎ。何故ババ抜きをしているのかというと、俺的にはポーカーがしたかったが、真雫もルールを知らなかったため、トランプゲームの代表格、ババ抜きになった。

 トランプは、前の転移者がこの世界に持ち込んだもののレプリカを使っている。あの時は驚きで気づかなかったが、通学途中だったため、バッグを持っていたが、この世界に転移した時には消えていた。ならトランプはどうやって持ち込んだのだろうか?確かめる術はないから気にしても無駄だな。

 結局10戦したが、全てリーベが1位をかっさらっていった。駆け引きとかにはそれなりに自信があったのに。まぁ、楽しめたから良しとしよう。

 さて、明日も早いから、もう寝るとしよう。

「ベッドは2人で使ってくれ。俺はソファで寝るから」
「「ダメ」」

 なんでだよ。思うがままに問うてみたが、理由は言わず、俺だけ別はダメ、と2人は言い張った。解せぬ。

 結局、俺が真ん中、左に真雫、右にリーベ、という形で寝ることになった。ベッド自体は大きいので、まだ面積には余裕がある。2人ともすっかり眠っているが、俺の手を包み込むように抱いているので、年相応な柔らかい2つの双丘の感触がよく伝わる。

「ん……ノアァ」
「なんだ?」

 真雫から声がしたので問いかけてみたが、返事なし。見ると真雫はまだ眠っていた。なんだ、寝言か。

 状況が状況なために、ゆっくりと眠ることができないから、考え事をして、心を落ち着かせるとしよう。

 国王陛下の話によれば、この世界には俗に言う『犯罪組織』という勢力が大きいので3つあるらしい。

 1つ目は、表向きは慈善団体だが、裏では人身売買を行い、この世界では禁止されている犯罪奴隷以外の奴隷(何の罪もなく奴隷にさせられた人)を用いて娼館をひらいている『フレ』。

 2つ目は、世間には知覚されていない、一般人だけでなく、貴族や王族への暗殺依頼も引き受ける『エモードン』。

 3つ目は、一般人は禁止されている武器の所持だが、様々な国から秘密裏に武器を仕入れ、関係の無い一般人にすら売り渡すという『ユープト』。

 名前が分かっていながらも、全てまだ残存している犯罪組織だ。他国からの刺客とかを考えなければ、この犯罪組織らが、今回リーベを襲った犯人の可能性が高いと、国王陛下と俺は推察している。おそらく3人で王都をまわった時に付けていたのもコイツらの中の誰かだろう。理由は、プリンゼシン家はこの3勢力の消滅に特に力を入れているからだ。

 一番楽なのは、これがこのうちの一つだけの犯行ということだと思う。心配なのは、この3つが結託している可能性だ。未だにリーベを襲った理由は明らかになっていないが、これが国に反旗を翻すとかそういうもののために行われたのなら、俺もリーベを守るだけでは済まなくなるだろう。今のうちに対策を立てるべきか。

 結局俺は、朝日が昇る直前まで対策を考えていたのだった。




「うぅ、ノア〜」
「ほら、喋るな。こんな所でリバースしたくないだろう」

 真雫が馬車苦手なのを忘れていた。なんで車は大丈夫だったのに、馬車は駄目なんだろう?

 俺達は現在、ネイヒステン王国に馬車で向かっている。朝7時ぴったりにケーニヒクライヒ王国を出て、ざっと2時間進んだのだが、休憩を挟みながら進むと、午後3時ぐらいに着くらしい。真雫にとっちゃ、まさに地獄だな。

 この馬車に乗っているのは、俺、真雫、リーベ、国王陛下、操縦者、そしてフルプレートから兜を取ったような装備の中年のワイルドな男性だ。あれはもしや……。

「あの……」
「……なんだ?」

 うわぁ、声渋っ。なんか見た目通りの声なんだが。

「パラディン、ですよね?」
「ああ、そうだ」

 やはりな。他の騎士達とは、風格?というのかどうかは知らないが、纏っている雰囲気が違う。

「初めまして、俺は──」
「知っている。カミジキ ノアだろう」

 まぁ、知っているだろうな。国最強の騎士が転移者の俺を知らないわけがないか。

「俺はリター・ハイリグンだ。よろしく頼む」

 少し話しずらいが、悪い人ではなさそうだ。

「はい、よろしくお願いします」
「ところでお前、今までの転移者で最強なんだな?陛下がそう、仰っていたぞ」
「俺なんかとてもとても……。日々精進するだけですよ」
「ふん、謙遜しなくていい」

 謙遜して、話題を俺の強さから逸らそうとしたが、無駄に終わったみたいだ。

「どうだ、ここでひとつ、手合わせをしないか?」

 出たよ、バトルジャンキー。途中からなんとなくそんなのを感じていたんだよ……。

「やめてくれよ、リター。そんなものはネイヒステンに着いてからにしてくれ」
「……分かりました。ノア、命拾いしたな」

 いや、その言い方だと俺はデスバトルをしなければならないのだが?国王陛下もやめるよう言って欲しかった。はぁ、ネイヒステン着いたら戦わなければならなくなりそうだ。

 ちなみに、俺の現在の基礎能力は以下のよう。




基礎能力
《普通状態》
攻撃:201
防御:173
俊敏:259
体力:265
魔力:5126

《魔眼覚醒時》
攻撃:2010
防御:1730
俊敏:2590
体力:2650
魔力:51260

《魔眼共鳴時》
攻撃:6090
防御:5190
俊敏:7770
体力:7950
魔力:153780




 相変わらず魔力が飛び抜けている。鍛錬したお陰か、全ての基礎能力が上昇しているが、特に俊敏の伸びがいい。ただ、防御も上げるべきだろうな。もう少し防御重視の鍛錬をしよう。

 確か、国王陛下が言うにはパラディンの基礎能力はおよそ2500だったから、ある程度は戦えるな、うん。あとは埋めるのは経験の差だけれど、それは今からではどうしようもないな。作戦立ててどうにかするか。

「世界がデストロイ~」
「ああもう、マジで喋るな」

 世界を破壊しないでくれ。




 真雫がスゥー、スゥー、と寝息を立てて、俺の膝で寝ている。馬車酔い?を治すために寝たみたいだ。本来は俺の膝で寝させないが、この前の減速魔法陣は助かったので、このくらい許してやろう。

 向かいに座っていたリーベは、国王陛下と談笑をしていた。談笑と言っても、経済の話だが。難しい話をとても面白そうに話している。正直、俺には何言っているか分からない。時々、会話に強制的に入れられるリターさんが不憫だ。

「……リターさん」
「ああ、分かっている」

 流石だな。王国最強と呼ばれるだけはある。

 この馬車は今草原のど真ん中を走っているのだが、俺から向かって左の方から、魔獣の群れが近づいてきている。数およそ20。

「どうします?」
「ふむ、ここはお前に任せて実力を知りたいところだが……」

 目だけをリターさんが真雫に向ける。すると、軽く一息ついて、

「ここは俺がやろう。見た感じお前は無理そうだしな」
「分かりました。ではお願いします」
「なるべく遠くに行くなよ」
「承知しております、陛下」

 バッ、とかっこいい音を響かせて、馬車から飛び降りるリターさん。ものすごい速さで、草原を駆け抜けていく。その速さは、既にこの馬車の速さを超えた。

 向かいからやってくるのは、イノシシに酷似した姿の魔獣。大きさはざっと2mだろうか。大きいな、

攻業こうごう・横薙ぎ」

 イノシシが間近に迫ろうかとしたところで、腰に差した長剣を抜いた。同時に何か技名?のようなものを口にしている。攻業?

 次の瞬間、剣が光を帯びた。剣が横薙ぎに振るわれる。横に並んだ約5体の魔獣が真っ二つになる。辺りに血が吹き出し、リターさんも返り血を浴びている。

 しかしそれを気にもとめない様子でバッタバッタとイノシシを切り倒していく。あっという間に片付いてしまった。

「さっきのは、魔法なのですか?」
「いや、さっきのは攻業といって、体内の気というものをものに纏わせる、格闘術の一つだよ」

 へぇ、そんなものも存在するのか。俺も習得してみたかったが、それには少なくとも1年かかるらしいので、諦めた。

「よっ、と」

 飛び乗った反動で、馬車が揺れる。そういや、こうした天井がない馬車ではなく、密室のような馬車だったら、この人はどうしていたのだろうか?少し気になった。

「お疲れ様、リター」
「この程度、どうってことありません」

 たしかにあの程度は全然話にならない強さだった。基礎能力2500ある彼にとっては、赤子の手を捻るようなものだろう。

 何気に、血が出ている死体を見るのは初めてだ。それなのに、それほど嫌悪感を感じない。グロい、とは思うのだが、吐き気を催すようなそんな感覚はない。【精神強化】の所為か……。真雫が寝ていてよかった。

 リターさんは何事もなかったかのように、血で濡れた顔や鎧をタオルで拭いている。うぅ、血なまぐさい。

「……またですね」
「チッ、わらわらと湧き出てきやがって、あの害獣共が」

 その顔でそんなこと言われるとめっちゃ怖いんですけど……。

 さっきとは逆方向から魔獣の群れが寄ってきた。今度はハイエナみたいな姿をしている。速い。

「今度は俺がしますね」
「頼む、面倒くさい」

 おいおい。

「”我が身に眠りし虚構の魔眼フィクティバー・デーモンよ。ここにその力を示し、我が力の糧となれ!”」

 あえて聞こえるように詠唱をする。久しぶりにはっきり声に出して詠唱をしたかっただけである。

「”複数ミーラレ武器ヴァッフェ召喚フォーアラードゥング : 自動剣フラガラッハ”」

 ハイエナ魔獣の数がおおよそ15体ぐらいだったので、1本5体で倒せると思い3本の自動剣フラガラッハを出す。

 自動剣フラガラッハ達が草原を駆け抜ける。リターさんの走った時の速さよりも遅くしたが、この速さでも充分に勝てるだろう。

 殺すと嫌な予感がしたため、柄の部分を使って峰打ちで済ませた。殺しても罪悪感を感じなかったら、俺はもう人間をやめた、みたいな考えが浮かびそうだからね。俺はまだ人間でいたい。

「あれがお前の能力か?」
「まぁ、そんなものです」

 ここで全貌を明かしてしまうと、リターさんと交戦する時、痛い目見そうだ。

 それから何事もなく、平和に30分経過。

「お、見えたぞ。最初の休憩場所だ」

 国王陛下の指が指した方向を向けば、小さな村が見えた。もうすぐ着くぞ、と真雫を起こす。

 そして【感覚強化】で気配を感じ取れる範囲に村が入ると、猛烈な悪意を感じた。悪意の向いている先は国王陛下だ。これはおそらく面倒事だな。

 この先起こる面倒事に対して、不安を隠せない俺であった。

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