中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

10.ネイヒステン王国編 護衛(3)

「よし、準備完了」
「上に同じく、準備完了」

 現在朝5時。今からリーベのいるプリンゼシン宅に向かう予定だ。

 3人で外出した日から3日。俺達は毎朝リーベを迎えに行っていた。リーベが俺達の部屋に行く、と聞かなかったため、サイスさんと国王陛下と相談して決めたからだ。毎朝5時に迎えにいくことになっている。一応護衛という形なので隠密に行っているが、最近バレても意味がないと思ってきた。バレても転移剣ウヴァーガンで転移すればいいからな。

 しかし、今日は別。迎えにいく、のではなく、お邪魔する、のだ。プリンゼシン宅へ。許可はとってある。

 流石に5時とかは早すぎるため、早くても8時に行こうと思っていたのだが、これもリーベの我儘で結局5時になった。この世界で初めてできた友人だし、このくらい大目に見てやりたい。

 そういえば何気に女の子の家に入るのは、真雫の家以来か。確かあの時はまだ小学生だったな。もうあれから4年経っていたのか。意外と長いな。

「ノア」
「ん?ああ、分かった」

 真雫の手を掴み、転移剣ウヴァーガンをもう一つの手で握る。呪文を唱え、俺達はリーベのところに行った。




「ようこそおいでくださいました、ノア、マナ」

 門前に転移すると、リーベが1人玄関で待っていた。まだ5時だというのに、眠気を感じさせない。

「おはようございます、リーベ様」
「ん、おはよう」
「はい、おはようございます!」

 にこやかな笑顔が眩しい。相変わらず綺麗な顔立ちをしている。この顔を見るのも慣れたつもりだったが、やっぱりすこしドギマギしてしまう。……真雫よ、何故そんな顔をしているんだ?察したくない真雫の行動理由がなんとなく分かりかけたので、それを忘れてスルーする。

「リーベ、いつからいたの?」
「うーん、覚えてないですね」

 覚えてないくらい前からいたのか?全くこの娘は……。

「外では誰かに見られてしまうでしょうし、中に入ってください」
「了解」

 リーベと真雫がトトトッ、と足音を立てて走って中に入っていった。出遅れたか。

「まぁ、そんなことはいいや。それで?何か俺たちに用ですか?」
『!!?』

 この場に転移してきたときから気づいていたが、ここにはリーベを囲むように人が隠れていた。だから俺はあまり話さず、口調もいつものから敬語に変えたのだ。

 少し待つと、気配が遠ざかった。逃げたか。

 なんとなくの強さも【感覚強化】で分かるのだが、先程のヤツらは俺が魔眼を発動させれば余裕で倒せる相手だったが、少なくとも王宮にいた一般騎士よりかは強かった。それが国王陛下の手下とか、そんな感じだったらまだ良かったのだが……ヤツらは完全に悪意を持ってこの場にいた。なんだか、面倒事の気がするな。

「「ノアー、はやくー」」
「……はいはい」

 今となっては追うことも出来ないので、真雫達に返事をし、俺も家の中に入った。

「……ん?」

 中に入ると、薄ピンクの布がいたる所に張ってあり、奥には『ベッドルーム』とか書いてやがる部屋があった。

 ……誰だよ、こんな悪ふざけしたやつは。

「ノア〜」

 奥の部屋から、真雫の声が聞こえてきた。この館には、【感覚強化】によれば、俺達しか居ない。サイスさんも執事達も出かけているようだ。

 はぁ、と溜息を吐いて、ゆっくりとドアを開ける。

 中には、ネグリジェ姿の真雫とリーベが、大きなベッドで座っていた。真雫は青色を、リーベは桜色をそれぞれ誇張させている。非常に扇情的で、男から言わせれば、眼福と言わざるを得ない風景だ。

 俺は……ゆっくりとドアを閉めた。が、寸前で真雫に止められる。

「ノア、逃げないで」
「いや、アホか。というか何やっているんだよ」
「……ご褒美?」
「疑問形で言うな」
「……ご褒美!?」
「自分で驚くな!」

 いつもにまして、俺のツッコミが激しい。状況が状況だからだろうか?

「大体、このセットどんだけ気合い入っているんだよ……?」
「3時ぐらいからセッティングしました」

 気合い入れすぎだろう!?

 というか、これがご褒美とか、どこから得た知識だよ。

「いつも朝食を運んできてくれる侍女」

 いつの間に……。あの人、見た目は清楚なのに、中身は肉食系とか……?俺的に肉食系は勘弁だ。

「つか、なんでご褒美?」
「……この前助けてくれたお礼」
「バフォメット?」
「そう、バフォメット」

 リーベは面白そうだったから、らしい。なるほど、そういうことなら……って、ヲイ。

「ああもう、やめだやめだ!これとっとと外すぞ!お前らも私服に着替えろ」
「そんな、ここで脱げなんて……」
「そんなこと言っとらんわ、意訳しすぎだ!ここでボケかますな。あとリーベ、肩の紐はずらさないでいい……!」

 くっ、こいつらこんな所で似るなんて。

 真雫とリーベを全力で部屋から出して、俺は自動剣フラガラッハを最大限活用して、布やアロマの匂いを出している芳香剤を片付ける。5分で終わらせた。

「ノア〜」
「今度は何だ!?」

 次から次へと……。この短時間で何回もした溜息をもう一度吐く。

 真雫達を追いやった部屋のドアを確認してから開けると……今度は紐に絡まった真雫とリーベがいた。

「……頑張って解いてね」
「待って!これはわざとじゃない」
「……(ジーッ)」
「……うぅ、そんなに見られると……」
「……(ギィィ)」
「待って、ドアを閉めないで!」

 自動剣フラガラッハで紐を切る。2人とも、一気に脱力した感じを見せた。脱力したいのは俺だ。

「……一応聞くが、何があった?」
「そこにあった紐を使って、リーベと共同でノアを拘束しようとしたら、手元が狂って何故か体全体に……うにゃ!」
「キャ!」

 またよからぬ事を考えていた真雫とリーベにチョップ。これがこいつらの友情表現なのかもしれないが、それだったらまだ贈り物とか、そういうのでいいだろう。まだ午前6時前なのに疲れたよ……。




 なんやかんやで今7時。俺は厨房でオムライスを作っていた。リーベに作ってくれと懇願されたのだ。さっき、少し雑に扱いすぎたな、と少しばかり罪悪感に苛まれていたから、その償い、という訳でもないが、作らせてもらっている。

 久しぶりに作ったものだから、1個だけ形が崩れてしまったので、これは俺が食べようと思う。あとの2つは非常によく出来たと自負しているので、満足だ。

 食事場は厨房から近いので、お盆を使って持っていくことにする。部屋に入ると、真雫とリーベは『後出しジャンケン』で盛り上がっていた。あれ意外と難しいよな。

「ほら、オムライスできたぞ」
「ん!いい匂い」
「ですね!」

 少し大きいスプーンを使って、料理を口に運ぶ。店とかで出るほどではないが、充分上手い。真雫達も美味しそうに食べてくれている。今度はコロッケとかも作るかな。

「とりあえず、何をする?」

 食べ終わり、皿も洗い終えたので、暇になった。いつもは街へ行っているのだが、今朝のヤツらのこともあり、外へ行くのは気が引ける。ゲームとかがあるわけでもないし、庭で鍛錬するわけにもいかないし……。

「そういえば、南区画を探索するのはまだでしたね。行きましょう」

 まだリーベ達に今朝のヤツらのことを伝えてないのを忘れていた。

 一瞬迷ったが、このことを伝えるのはやめにしよう。心配させたくないからね。

「あ、うん、今日は一日中家で過ごさないか?」
「どうしてです?」
「護衛とかの為にもさ、詳しくこの館のこと、知っておきたいんだよ」

 我ながら、よくもこんな息するように嘘をつけたものだ。ちょっと自分に感心。真雫は少し目を細めて俺を見ていた。真雫にはバレたかもしれない。

「分かりました、では案内します。ついてきてください!」

 ルンルン、という感じで歩いていくリーベ。少なくとも、午前中はこの館にいることができそうだ。

「ノア、何があった?」
「ああ、実はな──」

 あのことを真雫に話す。真雫もリーベに話さない、ということには同意した。最大限の警戒にあたってくれるらしい。仲間がいるって、心強いな。




「まず、この部屋は──」

 リーベが各部屋一つ一つを、丁寧に紹介してくれる。今紹介している部屋は、リーベのお父さんの、つまりこの南区画(公爵領)の領主の趣味の部屋だ。

 貴族というのは永続的な国会議員のようなもので、社会主義であるこの国では貴族の給料も一般国民より少し高いぐらいだ。でも、この部屋を見ると、高そうなものが沢山ある。金のやりくりが上手な人なのだろう。

 ちなみにその趣味は絵画収集だ。ピカソみたいな俺にはあまり価値のわからない絵から、モナ・リザみたいな思わず感嘆の声が出てしまうような絵まで、色々な絵が飾ってある。真雫は特に興味がないようで、適当にぶらついている。

「お父様、いつもどこかへお出かけになった時、帰ってきたらこんな絵画を持ってくるんですよ?そしてそれをまず私やお母様に見せるんです」

 懐かしい思い出を語るように話している。家族思いの人なのだろう。話を聞いただけでも好感が持てる。ただ、絵画ばっかり見せられるのはごめんだな。

 そのまま15時まで、少しずつ休憩を挟みながら部屋を案内してもらった。流石公爵の館。広い。昼ご飯も、俺が作った。作った料理は牛丼である。A5ランクの肉なんて初めて食べた気がする。

 ピンポーン、とチャイムがなった。【感覚強化】によれば、相手は1人だ。サイスさんや侍女の可能性もあるが、念の為魔眼を発動。

「俺が出てくる」
「いいのですか?」
「念のため、ね」

 頭にハテナを浮かべたリーベだったが、心配させないためそれ以上は黙って俺は玄関に向かう。

 そしてドアを開けると、矢じりが飛んできた。相手が俺だと知ってか知らずか、顔面にまっすぐだ。マジかよ、危な。軽く左に避けて右手で矢を掴む。

 矢を放ったのは、あからさまに黒いフードを深く被ったヤツだ。朝のヤツらの1人だろうか。少し距離が遠いな。【感覚強化】でぎりぎり察知できない遠さだ。まず近いヤツからやるか。

 ドアに隠れていたヤツの後ろに加速魔法陣も使って一瞬でまわる。とりあえず殴って気絶させた。

 次は向こうの弓矢使い、と庭のど真ん中に歩いて出ていく。今度は8方向から矢が飛んできた。罠だったか。

「”減速魔法陣ファランザモン、展開”!」

 薄緑の魔法陣がすべての矢の正面に現れる。矢がその魔法陣を通り抜けると、急激に速さが遅くなった。その隙にその場から離れる。

 声のした方向へ振り向くと、真雫がリーベと自分を囲むように防御壁を展開していた。ナイスタイミングだ、真雫。

 【感覚強化】を使い、大体のヤツらの居場所を捉える。よし──!

「”武器ヴァッフェ召喚フォーアラードゥング : 転移剣ウヴァーガン”」

 片手に元からコートに隠していた転移剣ウヴァーガン、もう片手に今召喚した転移剣ウヴァーガンを持つ。そして右手のそれを1番近いヤツのところに投擲する。あっさり避けられたが、それでいい。

「”転移ファシーベン”」

 投擲した短剣のところへ転移。そこにいたヤツは、驚く暇もなく俺の拳によって気絶させられた。次は左手の短剣を投げる。そして同時に刺さっていた短剣を拾う。また転移し、気絶させ、剣を投げ、剣を拾う。それを9回連続で繰り返した。掛かった時間、約20秒。

 終わったので、真雫達のところへ転移した。

「ありがとう、真雫。助かった」
「お易い御用」

 全く、頼もしいかぎりだよ。

「あの、さっきのは……?」
「俺にもわからない。でも、明確な敵意と殺意があった」

 そして、正確に弓矢を使う。現に俺に飛んできた最初の矢は、そのまま行けば目に刺さっていた。

「何か、狙われるのに心当たりは?」
「……ごめんなさい。公爵家とは、多かれ少なかれ恨みや妬みなどを買うものなんです」

 まぁ、そんなことだろうと思っていた。どの世界でも、身分が高い人は狙われるなぁ。

 ただ、何故この時期なのか気になる。この舞踏会が開かれる数日前に。もう少し情報が欲しい。

 このまま護衛を続けていたら、また相見えるだろう。これからより警戒するようにするか。

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