中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

5.叙爵式とその後

「おはよう、ノア」
「あ、おはよ……う!?」

 変な挨拶の返し方になってしまった。しょうがないじゃないか。だって目が覚めたら、目の前に真雫の顔があったんだから。あれからずっとそのままだったのか、手を繋いだままで。驚くなという方が無理だ。

「え?」

 ゴンッ、と鈍い音が部屋に響く。後ろに下がる勢いで地面に落ちてしまっていた。【身体強化】があるお陰でそれほどではないがあえて言わせてもらう。痛い。

「大丈夫?」
「大丈夫。ありがとう」

 真雫に手を引かれて起き上がる。

「今何時だ?」
「7時ぐらいだと思う」

 確か、10時からだったな、叙爵式。

 朝食や歯磨きその他諸々を終え、今日着る服に着替える。

「なんでだよ……」

 リビングにあった鏡に映る自分の姿にツッコミを入れる。青いラインが入った黒いジョガーパンツに黒いTシャツ、そしてアニメとかでよく見る黒いコートだ。これ以上ないほどの中二病装備だ。十字架とかが入っていないことが、唯一の救いか。この世界はことある事に俺を中二病に戻したいようだ。まぁ、コートなら色々隠し持てるから便利なんだけどね。そう思いつつ、必要なものをコートの内側のポケットに入れる。

「ノア、どう?」

 なんか真雫がドヤ顔を決めている。おそらく似合っているかどうか聞いているのだろう。

 真雫の服装は白い長袖のブラウスの上に少しばかり大きいリボンが目立っており、下は黒いミニスカートを履いている。真雫の雰囲気と相まって、非常に似合っている。なんで真雫は普通なんだよ。

「似合ってるよ。可愛い」
「うふふっ」

 確かに似合っているので、正直に褒め返しておいた。頬を染めてもじもじしている真雫が可愛い。

「ノアもカッコイイ。闇の炎とか使えそう」
「そりゃどうも」

 使えなくていいよ、闇の炎なんて。

 この世界にも時計はあるようで、壁には少し洒落た時計がかかっている。今はざっと8時30分ぐらいだ。式場は王宮の広間なので、そう遠くない。5分あればつける距離だ。だから、まだここにいても大丈夫だろう。

 少し読書でもするか、とリビングに置きっぱなしだった本を取りに行こうとしたら、真雫に呼び止められた。

「どうした?」
「ノア、あのね──」

 真雫の口から、驚きの提案が出た。念には念を入れて、ということらしい。しかしそうした場合だと、後が大変になる。最悪国王陛下に頼むか。

「分かった。特に異論無し」
「良かった」

 そして最後の打ち合わせをする。ありとあらゆる可能性を考慮したいところだが、俺たちの脳では、到底無理だ。だから、今考えられる範囲で最善を尽くそうと思う。

 思いの外打ち合わせに時間がかかり、終わった時にはもう9時を切っていた。もうそろそろ準備をしないといけないな。

 真雫と1度目を合わせる。真雫が頷いた。俺も応答するように頷く。そして二人同時に部屋を出たのだった。




「これより、第36回、転移者授爵式を取り行います」

 威厳に満ちた声が大広間に広がる。この進行役の人、この国の宰相らしいのだが、なんだろう、近所に住んでいた老人クラブの会長さんと同じ雰囲気を感じる。あの人は普段は気さくな人なのに、何かの司会とか主賓とかになると、ああいった風な声をするんだよな。

「カミジキ ノア、ホシミヤ マナ。両者、前へ」

 俺ら2人は少しぎこちない感じて席を立ち、国王陛下の前に立つ。こういうの全然慣れていないんだよ。

 周囲には、貴族階級を持っている人が席に座っている。誰も彼も、高そうな服を着ている。国王陛下の隣に並んで座っているのは、この国で2番目に高い階級の、公爵家の人達だろうか。

「今より、貴殿らに貴族階級、子爵の位を授ける」
「感謝致します、陛下──」

 もう一度、こっそり真雫を見る。俺は意外と心配性のようだ。

「しかし、私たちには過ぎた身。謹んで、お断り申し上げます」
『!!?』

 式場が、先程までの静かさが嘘のように五月蝿くなる。

 そう、この叙爵を断ることが、真雫の提案だ。その理由として挙げられるのは、俺たちを口実に使われ、派閥争いなどに巻き込まれていく可能性があるから。別に貴族にならなくてもその可能性はあるが、俺ら自身が貴族か貴族でないかで、また巻き込まれ方などが違ってくるだろう。要するに面倒ごとに巻き込まれたくないから貴族にはならない、ということだ。邪神を退治してすぐ帰還できれば帰還するつもりだから、貴族階級を持っていても意味がなくなるだろうしね。名付けて『叙爵ドタキャン計画』。……ダサいというか、ネーミングセンスがない。

 ギャラリーは非常に喧しかったが、対して国王陛下、宰相を含めたこの国の重鎮達は、平然としていた。

「ふむ、ならば──」

 と、国王陛下が代わりの提案を出す素振りを見せる。俺たちの行動は既に計算内と言わんばかりだ。過去に同じことをやらかしたヤツがいたのかもしれない。俺的に勝手に叙爵式を計画されたから、少し頭にきてお返しに、とこうした行動を起こしたのに、これではその意味は消えるではないか。別にいいけど。

「貴殿らに王宮の一室を無期限で貸し与えよう。一日三食もつけて、だ」

 叙爵の次は部屋か。確かに働かずして一日三食はおいしいかもしれない。

 というか、叙爵と王宮に住まうのが同列なのは、何故だろうか。確か王宮に住まえるのは、王族階級を持つもののみだったはずだから、貴族より位が高いとされる王族と一緒に住めるのは、この世界では誉なのかもしれない。

 結局反論しようにもできず、そのまま部屋を借りることになった。異世界でも借り部屋暮しとは。

「そして、皆に紹介しておこう。彼らが今周期の転移者、カミジキ ノアとホシミヤ マナだ」

 パチパチパチ、と拍手喝采が聞こえる。見る限り、皆清々しい笑顔だ。少し不気味だな。

「以上をもちまして、叙爵式は閉会となります。ケーニヒクライヒ国、万歳!!」
『万歳!!』




「なぁ、真雫」
「何?」
「……いや、なんでもない」

 本当にこれでよかったのか、そう聞きたかったが、やめておく。確かに、子爵の地位を手に入れていたら、こちらの世界で幸せに暮らせたかもしれない。でも、俺たちは地球に帰ると決めた。決意をいちいち変更していては、この先不安だらけだ。

 俺たちは叙爵式(というより、借家式の方がしっくりくる気がする)が終わったあと、用意された昼食を食べながら、この国の貴族と雑談をした。真雫は顔立ちがいいために若い男貴族たちが寄ってきたが、真雫は俺の後ろに隠れてしまい、何故か真雫を守る騎士みたいな立ち位置になってしまっていた。貴族たちの恨みがましい顔と言ったら……。

 サイスさん以外の外交官とも会えて、ケーニヒクライヒ国だけでなく、世界情勢のことまでそれなり知ることが出来た。外交官が話していいのか、という話もいくつか聞けた。全ては記憶できなかったが、そこら辺は【記憶強化】のある真雫に頑張ってもらったので抜かりはない。

 王宮魔術師の方にも話ができた。この世界にはきちんと火属性魔法などの魔法(基礎魔法というらしい)が存在するようだ。しかし、努力すれば手に入る、という訳ではなく常時魔法によって、つまり才能がなければ使えないらしい。こうなると俺らは2人とも使えないな。ちょっと残念。また空間魔法も同じで、才能がなければ無理、らしい。

 色々な情報が手に入り、俺たちは満足して暫定俺たちの家にいるわけなんだが……暇だ、言っちゃなんだけどすることがない。邪神退治に向けて訓練とかしたかったのだが、清掃だとかなんとかで、今日は一日訓練場は使えないらしい。どうにかして訓練や実験などをできる場所はないのだろうか。もう何度目か分からない『二人の英雄の夢想曲トロイメライ』を読みながら考える。

「ノア、暇。上級魔族も何も襲ってこない」
「物騒なこと言わないでくれ。俺も暇だから」

 俺の頭の上に真雫が自分の頭を乗せる。背中にあたる柔らかい双丘の感触が伝わってくるが、気にしたら負けだ。コイツのこういうベタベタ癖は治らないのかね?

 特に悪い気もしなかったので、そのまま考える。何の気なしに、俺は窓の外を見た。あっ、そうだ。

「真雫」
「何?」
「今から街に行かないか?」
「行く!」

 即答だった。興味があったんだろう。確かに、王都というか、街自体まともに観光みたいなことしてないからな。ついでにこういう訓練場が使えない場合に備えての仮訓練場を見つけておこう。

 あまり関わらなかったからか、あまり不思議に思っていなかったけど、あと半年で邪神が復活するというのに、この国の人達はそういうのを感じさせない。皆、おかしいまでに笑顔だ。そしてどこも活気がある。やはり15年周期で邪神が復活するから慣れているのかもしれない。

「ノアー、早くー!」

 角からひょこっと可愛く出す真雫が、嬉々とした感じで俺を呼ぶ。「はいはい」と言って、俺は歩き出した。




「ノア!あれ見て、あれ!」
「痛い痛い。分かったから裾引っ張るな」

 やけに真雫がハイテンションだった。珍しい建物や品を見つけては、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。

 ちなみに、今見ているのはイルカの形を模した建物だ。水族館かと思ったが、看板には『絶対当たる!?占い屋』と書いてあったので、名の通り占い屋なのだろう。絶対当たる!?とか書いている時点で、なんか胡散臭いが。現に真雫も、その胡散臭さに気づいたのか、それ以上の反応を示さなかった。

「わぁー!」
「どうだい?嬢ちゃん。1個食ってみるかい?」
「いいの?」
「ああ」

 真雫が謎のお菓子を売っている屋台を見ていると、気前の良さそうなおっさんがそう言ってくれた。真雫もちゃっかり貰っている。

「いいんですか?俺達お金持っていませんよ?」
「だってお前ら、見ない顔だし、旅人なんだろ?俺も鬼じゃねーし、これぐらいさせてくれ。ほれ、兄ちゃんも1つどうだ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

 屋台のおっさんは、マジで気前が良かった。折角なので、俺もひとつ貰うことにする。

 爪楊枝についたそのお菓子を、飴を舐める感覚で口にほおりこむ。……甘い。甘すぎる。見た目は全面青いルービックキューブを豆サイズにまで小さくしたものなんだが、味がありとあらゆる甘いものを凝縮したものに、さらに砂糖とチョコをかけたもの、と言われても納得してしまいそうだ。それほどまでに、甘い。胸焼けしそうだ。

 対する真雫は、とても美味しそうに食べていた。おっさんに渡された2個目も、幸せそうに食べている。俺は真雫の食べ物への耐性に戦慄した。

 そのまましばらく街中観光をしていると、後方約10m先に、違和感を感じた。これはもしや、【感覚強化】の効果ではないだろうか。もっと感覚を研ぎ澄ませてみる。ん?これは俺へ、ではなく真雫へ向けた感情みたいだ。あまりいい感じはしない。

 建物の近くに寄ると、丁度裏路地への入り口を見つけた。あそこに入っておびき寄せるか。

「真雫、ちょっと付いてきて」
「え?あ、うん」

 真雫の手を引き、裏路地に入る。従って後ろのヤツも付いてきた。さて、どんなやつかな?

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