中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

1.異世界転移

「クッ……沈まれ!俺の左目よ!!」

 そう発言した瞬間、空気が死ぬ教室。中には「うわぁ」と言って顔を伏せるものや、吹き出しそうな口を押えて床にうずくまるものもいる。

 中学三年生の時。当時、俺神喰かみじき希空のあは世に言う、そう、「中二病」という、将来恥ずかしい思いを募ってしまうだろう病気を患っていた。特に悪くもないのに眼帯や包帯をつけたり、「ダークサイドかっこいい!」とか思っていたり、更にひどくなれば恥ずかしすぎる言動や行動を常にとっていたりしていた。

   いつも浴びていた奇異の視線。しかし俺はそれを気にもせず、中学一年生から三年間ずっと患っていた。

 ゴンッッッッッッッッ!!

「はぁあああああああああああああああ……」

   自室の壁に頭を思い切りぶつける。非常に痛いが、昔の俺を思い出してしまった俺の羞恥には勝らない。恥ずか死しそう。なんなんだよ、あの時の自分!?お願い死んで!?

「ダメだ、これ以上考えたら、マジで死ぬ」

 とぼとぼとキッチンに向かう。これから夕食をつくるためだ。料理作れる俺カッコイイと思って料理を初めてみたが、意外と才能があったようで、数少ない俺の特技のひとつとなっている。

 明日は、高校の初登校日。中二病の影を見せてしまったら、確実にお先真っ暗だ。絶対に、そんな素振りを見せないぞ!

 夕食の準備を終えるとともに、決意を固めたのだった。



 
 小鳥のさえずりが聞こえてくる。目を開けば、白い天井が目に飛び込んでくる。欠伸をしながら、窓のカーテンを開けると、眩い朝日が部屋に差し込む。小鳥のさえずりで起きるとか、アニメみたいでいいな。

 歯磨きをしつつ、クローゼットから服を取り出す。中学時代までは、弟がいて毎朝五月蝿かったが、今年から一人暮らしなので、朝はとても静かだ。大きさも、普通のワンルームなのだが、俺的に少し大きい。

    着替え終えて、洗面所で歯磨きも終えると、鏡に制服姿の俺が映った。思いの外似合っている……多分。

   ついでに顔をもう一度洗う。よし、絶対にミスれないぞ!と、改めて決意をする。

   支度を終え、ドアを開く。

「うにゃっ」

   うにゃっ?猫でもいたかな?恐る恐るドアの向こうを見ると、少し青みがかった黒髪の少女が、おでこをおさえて、蹲っていた。

「真雫か。ごめん、大丈夫?」
「うぅ、痛い。でも大丈夫。ノア、女の子をいじめるなんて、正義の鉄槌が下る」
「いじめてない。でも悪かった。ほら、見せて」

   前髪を捲り、おでこを確認。結構赤いけど、時間が経てば、痛みも引くだろう。

   彼女、星宮真雫は俺の小学生からの幼馴染だ。そして、俺の中二病発症の原因でもある現在進行形の中二病。まだ素直且つ純真だった俺は、当時の真雫に感化されて、中二病となったのだ。
  
   身長は、俺より約10cm低いから、恐らく150cmぐらいだ。十分なくらい可愛い顔立ちをしていて、スタイルも年相応といった感じなのに、中二病という壁が邪魔して残念なイメージを持たれている。ネットで見た、「中二病は、可愛くても、かっこよくてもモテることはない」というのも頷けてしまう。中二病って、悲しいな。彼女もこのアパートで一人暮らしをしていて、高校も俺と同じ高校に入学する。
  
 俺はアパートの5階に住んでいるのに、真雫はこのアパートの1階に住んでいるはずだが……わざわざ上がってきたのか?

「ノア……行こう」
「ん?あぁ、うん。行こう……って何をする」

   俺が行こうと口にすると同時に、真雫が腕に抱きついてきた。

「もう高校生なんだから、あまりベタベタしない方がいいぞ?」
「……?何で?」
「いや、何でって……」

   正真正銘の天然でもあるから、困ったものだ。このままで行ったら、確実に周りから白い目で見られるだろう。とりあえず腕から引き離す。

   そのままなんやかんやで、1階にたどり着いた。真雫も俺と同じ足取りで、外への一歩を踏み出す。太陽の光が眩しくて、手で目前に影を作りながら歩く。下は、草で覆われていた。

 …………………草?光になれた目で、周りを見ると、俺たちは草原の中央に立っていた。

「……………………………は?」

   まだ寝ていたのか?と思い、目を擦る。何度擦ろうと、目の前の景色は変わらない。後ろを見ても、変わらず草原だ。一瞬で更地になったのか?そんな馬鹿な。隣の真雫も、驚きで固まっている。

   と思っていたが、真雫は別の驚きだった。

「異世界転移キターー!」
「うおう!びっくりした!?」

   突然立ち上がり、両手を勢いよくあげて叫ぶ真雫。あまりに急なことだったから、俺は尻餅をついてしまう。真雫、キャラ崩壊しているぞ。

「それよりも……異世界転移?どういうこと?」
「どうもなにも、そのまま」

   いやいや、真雫、現状を簡単に受け入れすぎだろう。いつも冷静な中二病だった俺でも焦ってんだぞ?

「真雫も、こう、焦るとかないの?」
「先人は言った。子、曰く、焦りは禁物、と」

   いや、その言葉は儒学にはない……はず。まぁ、あまりしっかりと覚えていないが。それでも、言う通りなんだけどさ。

 一旦深呼吸をする。心を落ち着けよう。落ち着いたところで、まず何をすべきかを考える。

「とは言っても、こんな平原のど真ん中じゃなあ……」

   周りは平原が地平線まで続いている。動物どころか木1本を見当たらない。花はところどころ咲いているのに。

「ノア、見て見て。この花綺麗」
「少しは緊張感持てよ!?」

   真雫はどこに行っても真雫だよ、ホント……。キラキラした目で地面に生えている花を見ていた真雫が、おもむろに立ち上がり、俺の後ろ側を指さす。

「急にどうした?」
「街がある」
「え?」
「この先に、街がある」
「……何故わかる?」
「私の能力の一つ。ある程度の場所がわかる」

   要するに勘だろ。でも、行く宛もないし、進むとするか。

「気をつけて。途中に魔王がいるかも」
「何でラスボスキャラが野生のスライムとかと同列なんだよ」

   真雫のキャラがブレなさすぎる。いや、一度ブレたか。

「ほら、変なことやってないで行くよ?」
「むぅ……分かった」




「真雫、あとどれ位が分かるか?」
「今で大体、半分」

   真雫の指さした方向に歩いて約1時間。俺たちはまさに草原で遭難していた。真雫情報によれば、あともう1時間は歩かないといけないらしい。結局勘だから、あまりあてにもならないが。
  
 少し前を歩く真雫から、キュルキュル、と可愛らしい音が聞こえる。

「うぅ、駄目。お腹空いた」
「本当にお前は自由だな!?」

   ここまで我を貫くのも凄いと思うんだが、感心すべきかどうかは悩む。ここまで来てもすべて同じ景色だから、流石に飽きてきたが、精神的には大して疲れてはいない。強いていえば、真雫へのツッコミぐらいだ。対して、真雫は精神的にも体力的にも疲れてきているようだ。真雫に頑張れと言って、さらに先へ進む。


「……マジかよ」

   現在、俺たちは街中にいた。あれから1時間、本当に街にたどり着いたのだ。勘もたまには頼りになるね。

   街には検問がなく、すんなりと入れた。それなりに活気がある。ただ、外国人にしか見えない街の住人が、とても流暢に日本語を話しているのが気になる。見た感じ、この街にはロシア系の人種が多いみたいだ。

 誰かに話しかけて、情報を得たいところだが、皆雑談に花を咲かせていて、会話に割り込みずらい。いっそ、屋台の店主にでも聞いてみるか?

   近くのあまり売れていない屋台のおっさんに声をかける。

「あの、聞きたいことがあるのですが……」
「ん?なんだい?」
「すみません、僕達流れに流れてこの街にたどり着いたのですが、この街のことを教えてくれませんか?」
「放浪者か。すまないね。私も最近ここに来たばかりだから、この街がシュタットという名前、ということぐらいしか知らないよ。ほかを当たってくれないか」

   最近この街に来た人だったか。それでも、この街のことを名前しか知らないのは情勢に疎すぎると思うけど。

   仕方ない。ほかを当たるか。そう思った矢先、後から声をかけられた。

「あの、もしやあなたがたはニホンジンですか?」

   恰幅のいいおじさんが立っていた。想像もしなかった単語が彼から発せられて、少しばかり驚いてしまう。日本人の発音がなんかおかしいが、方言的なものなのかもしれない。

 もしかしたら、いい情報が手に入るかもしれないので、ここは話を聞いておこう。

「はい、そうです」
「あぁ、やっぱりそうでしたか。やっと見つけた」 

   至極安心した顔で、恰幅のいいおじさんが微笑む。慈悲を感じさせるような笑みだ。でも……見つけた?俺たちを探していたのだろうか?

   俺はしばしおじさんとの会話を続けるのだった。

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