Lv.1の英雄

さささくら

第6話 【英雄】Lv.1

闇が開けると、そこは様々な文字が浮かぶ別空間だった。よく見るとその一つ一つに仕事ジョブとその説明が書かれている。

ライがキョロキョロと辺りを見渡していると、視界の端からこちらへと近づいてくる文字があった。

それはライが得る最初の仕事ジョブだった。



仕事ジョブ 【歩兵ほへい
Lv.5
戦場の最前線で敵と相対する軍の最弱戦力。基本的な剣の使用が可能。まれに初級魔法を使える者もいる。




ライは真顔である。生まれてからこの12年間の中でも稀に見る真顔である。

幼い頃から楽しみにしていた自分の仕事ジョブ、それが所謂いわゆるハズレだったのだから無理もない。

「しかもLv.5というのがまた微妙⋯⋯」

思わず独り言をつぶやいてしまう。よほど辛いらしい。
仕事ジョブにはLv.というものがある。各仕事ジョブの最高がLv.100まであり、Lv.30からが使い物になる能力を扱うことができる。ライが獲得したLv.5というのは【歩兵】でいうと一般人より少し体力が上がる程度の効果しかない。要するに、少しの努力で誰でも得られる効果しかないのだ。

「まじかよぉ⋯⋯」

ライの声は寂しく暗闇に木霊こだました。


ーーー気がつくと、闇が晴れてきた。辺りが徐々に明るくなり、仕事ジョブの選定が終わったことを告げる。
このままでは両親な『【歩兵】の仕事ジョブを得たよ!」という、とても悲しい報告をしなければならない。
また、心配なのはこれだけではない。

「ほんと、どうしようかなぁ」

今後どう生きようか。ライは本気で悩見始めたのだ。せめて農耕系の仕事ジョブであればこの村で裕福に過ごすことができたが、【歩兵】では王都にいって捨て駒として戦争に送り込まれるだけである。いや、Lv.5であれば軍に入れるかも怪しい。


ーーー絶望感に浸っていると、視界が歪み、また暗闇へと落とされた。今度の場所は先ほどより暗く、文字がほとんどない。

「次はなんだよ、まさか出られないとかないよな⋯⋯」

その心配は杞憂であったらしく、ライの目の前に文字が現れた。今度は全体的に文字が大きく、暗闇の中でもよく見えるぐらいは明るかった。



仕事ジョブ英雄えいゆう
Lv.1
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※。




「え?ん??【英雄】?」

ライは目をこすり、もう一度見てみるが間違いではないようだ。『まさか本当に【英雄】の仕事ジョブがあったとは⋯⋯』と、そんなことしか考えられず実感がわかない。なぜか説明を見ることができないので実際にどのようなものかもわからない。

そして喜べない点がもう一つ。

「Lv.1って⋯⋯あってないようなもんじゃん!!」

仕事ジョブのレベルが1だったのだ。
【歩兵】で言えば、早起きが少し得意になる。ほどの効果である。

ライは叫んだ。生まれてからこの12年間の中でも稀に見る叫びである。


ーーー今にも泣きそうなライには目もくれずと行った様子で今度こそ闇が晴れ始め、あたりが明るくなった。
すると、視界がぼやけ身体カラダが浮遊感に包まれ、ライは再び意識を失った。


気がつくと、ライは元いた村の広場に立っていた。

「おお、やっと三人揃ったね。ライは随分遅かったじゃないか、何か特別なことでも?」
「いや、まぁ、特別っちゃ特別なのかな、とにかく泣きそうだ」
「パッとしない返事だね、まあ良い、一人ずつ何があったか聞こう。あたしは水晶クリスタルで見てたんだが一応ね」

ライの横には頬を上気させた二人の友人の姿があった。
すぐにでも言いたいらしく、二人同時に口を開きかけ、タロットがゆずった。

「よし、まずは俺からだな!暗くて文字がたくさんある空間に行ったのは⋯⋯みんな同じなんだよな」
「うん」
「おう」
「じゃあそこの説明は省いてと、俺の仕事ジョブなんと【傭兵ようへい】Lv.27だ!強そうだろ、羨ましいだろ!」
「おお、Lv.27の戦闘職とはなかなか良いじゃないか、そこにいる王国騎士どもがあんたを欲しがるよ」

ライが首を傾けると、そこには二名の王国騎士の姿があった。優秀な仕事ジョブ持ちを探しにきたらしく、早速こちらを気にしているようだ。

「次は僕だね、僕の仕事ジョブは【薬剤師】Lv.32さ!ちっちゃい頃から夢だったんだ⋯⋯早く父さん母さんに報告しなくちゃ!」
「すげーじゃねーかよタロット、Lv.32なんてもう【薬剤師】として働けるじゃないか」

薬剤師は他の仕事ジョブに比べて、圧倒的に数が足りず、重宝される人材だ。
おそらくタロットはこのまま村で薬剤師としての仕事を担うことになるだろう。

「さて、最後はライの番さね、あたしは一つ目の仕事ジョブしか見てないからそれ以外のことはわからんよ」
「えーっと、俺の仕事ジョブは【歩兵】Lv.5、⋯⋯みんな、悲しい顔しないでくれ、泣きそうになる」

前の二人が優秀な仕事ジョブだったせいもあり、近くにいた王国騎士までもが同情の念を送ってきた。

「まぁ⋯⋯そんなこともあるさね、気を落とさんな、【歩兵】でもできることはある【歩兵】でもな」


グサッ


ーーライの心はズタボロである。


「さて、今年はここまで、良い仕事ジョブが見つかってよかったさね。ライは⋯⋯。ーーーとにかく皆の者今年の祭りも楽しかったぞよ。来年もまた来るぞよ」

そう言って、ロン婆が帰る支度を一瞬で済ませて、他の子供達と一緒に広場を後にようと思った矢先。

「いやまてまてまて、俺の仕事ジョブ一つだけじゃないっつーの。てかロン婆、地味じみに俺を流そうとすんじゃねえ、傷つくだろ」

ライは慌ててロン婆と子供達を呼び止めた。皆、【歩兵】が頭にこびりついているのかなんとも微妙な顔だ。『一つ目が【歩兵】じゃ二つ目があっても対して違いはない』と顔が語っている。
ロン婆に至っては泣きそうな顔でライを見つめてる。

「みんな揃ってそんな顔すんなよ、ほんとに泣くぞ。まぁ気を取り直して俺の二つ目の仕事ジョブを発表する。それは⋯⋯

【英雄】

だッ!」

ライへ向けられる視線が同情から軽蔑へと変わる。友達は自分達は関係ないとばかりにライから視線を外した。

「⋯⋯信じてないな、よし、ロン婆、水晶クリスタルで見ることはできないか?」
「一応できるが⋯⋯無駄なことで魔力まりょくを使いたくないんじゃ」
「良いからやってくれよ、今度クミア兎家に持ってくからさ」
「仕方ないのぉ」

そう言ってロン婆は水晶クリスタルを取り出し、中を覗き込んだ。


ーーー十分な時間が過ぎたがロン婆は水晶を覗き込んだまま、なかなか顔を上げない。
流石に待ちくたびれたのか、ライがロン婆を無理矢理水晶クリスタルから引き剥がした。
すると、ロン婆が蒼白になった顔で言った。

「こやつ、本当に【英雄】の仕事ジョブを会得しておるぞ⋯⋯」

「な、言っただろ」

その場にいた全員がロン婆の放った言葉の意味を理解するのに10秒を費やした。

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