Lv.1の英雄

さささくら

第5話 祭の合間に

いかにも初夏らしく澄み渡る空の下で明日に迫る祭りの準備が着々と進められていた。
例の事件から数ヶ月が過ぎ、村も折れた木などを除けば元どおりの姿を取り戻していた。

「ライ、明日の夕方にタロットの家の前で集合だ」
「わかったけど、明日はあいつどこもいかないよな⋯」
「流石に懲りただろ。俺なら絶対無茶したくない」
「たしかにそうか」
「うん、じゃあまた後で」

そう言ってライと友達は別れた。
ライは事件の後、あのグレアウルフを一人で倒したと聞いた村中の人から質問攻めにあった。特にハンターに至っては「俺と勝負だッ!」と言ってたいきなり戦いを挑まれ、結果は案の定ぼろ負けで、それを聞いた村人たちはライへの興味次第に失って行った。
 その華麗な掌返しには嫌がっていたライも少々の寂しさを覚えたほどだ。

「やばッ、早く帰んなきゃ」

道端の木の影を見たライが駆け出した。
時間を知らせるものが、朝と夜の鐘以外ないこの村では影が時間を判断する材料だ。

ーーー家に戻ると頬をぷくっと膨らませたリアナが玄関先に立っていた。

「お兄ちゃん遅いよ!クミア祭で屋台やるから早く帰ってきてって朝言ったじゃん!」
「ごめんって、影確認してなくて気づかなかったんだよ」
「どーせ友だちと遊んでたんでしょー」
「うっ⋯⋯」

図星である。
リアナはそんなことだろうと思ったと呆れ顔でため息をついた。そしてライの首根っこをひっ掴み強制的に屋台の準備させるのだった。


ーーークミア祭は村の人々に豊かな自然と恩恵を与えるクミアの森への感謝と豊作を願う祭だ。
毎年初夏の頃に村人総出で行われ、日頃の仕事に疲れた人々が唯一楽しみにしている行事である。

ライたちカイムン一家は毎年、普段肉が食べられない村人たちへ、バローダとライの狩った小動物の肉を使った料理を格安で提供する屋台をしている。
もちろん大繁盛で、祭は昼過ぎに始まるが夕方には予備の肉も全て完売しているという有様だ。

「よし、今日の作業はここまで」
「⋯⋯お兄ちゃんが遅かったから完成しなかったじゃん」
「いや、まじごめん、許して」

空が茜色に染まる頃。
父のバローダの言葉にリアナとライは作業の手を止めた。
先程のことでリアナがジト目でライを見ている。なんども誤っているのだがなかなか許してくれない。
バローダによるとリアナは1ヶ月前から屋台を出すのを楽しみにしていたらしい。
昨年までは幼いという理由で母が許してくれなかったが、今年から解禁になったためである。

ーーちなみにライはというと、

「獣人より身体能力高いバローダと狩とか鬼畜の所業過ぎてほんとヤダ」

ということらしい。
気のせいかもしれないが彼はいつもより目が開いていない。

「ライは明日、影が出る前に起床!屋台の最終工程終わらせておくように」
「えぇ⋯⋯父さんほんと鬼畜」
「ポキッポキッ⋯⋯なんか言ったか?」
「⋯⋯いえ、なんでもないですお父様」

バローダに更なる鬼畜の所業を押し付けられたライはぐったりしながら家の中へと入った。




クミア祭当日。
空は雲ひとつなく澄み渡っていた。
例年通りライ達の屋台は祭り開始からわずが三時間でクミアウサギ五十匹分を完売させるという驚異の記録を叩き出した。
そのおかげか、ライは暇を持て余していた。

「なあ、あの揚げ物美味しそうじゃね」
「よく見ろよ、『青キノコのパリッと揚げ』ってまんま青キノコ入ってんじゃねーか」
「俺はそんなに青キノコ嫌いじゃないから挑戦してみる価値はありそう」

友人二人と村中の屋台を巡りあるき、目につくものを片っ端から食べているのである。
ライは肉を毎年祭に届けてくれるという理由でほぼ無料ただで譲ってもらっている。ついでに友達も無料ただである。
全て物々交換で成り立っているこの村では王国で使われる通貨は存在せず、たまにバローダが行商人から弓や解体用ナイフを購入するくらいだ。

「よし、三人で食べるぞ」
「え⋯⋯まじ?」
「ほーらタロットも男なんだから。ライは余裕そうだな、じゃあいくぞー、せーのっ」


ーーーうまい。


わずかな渋みと苦味、だがそれを打ち消すほどの甘みが後から押し寄せる。さらに揚げ物のパリッとした食感、いや快感が青キノコの食としての価値を大きく引き上げている。


ーーーやればできる子だったんだな、青キノコ。


三人は完全にこの『青キノコのパリッと揚げ』に魅了されてしまった。
その後、三人の食卓にこの料理が常に上がるようになったことは言うまでもない。

「よし、そろそろロン婆のところ行かなきゃな」
「だいぶ暗くなったもんなー。そろそろ来てるはずだろ」
「今年は仕事ジョブわかるといいなぁ」

三人はそう言いながら村の中心にある広場を目指す。
ロン婆は普段森の奥に一人で住んでいる老婆で、【選定士セレクト】の仕事ジョブを持ち、毎年祭の時期に村に現れて10歳を超えた子供達の仕事ジョブを見てくれるのだ。
ライ達三人も10歳の頃から毎年仕事ジョブを診てもらっているが、未だ誰も発見できていない。

「うわぁ、もうかなり集まってるよ。ロン婆帰る前に診てくれるかなぁ」
「タロットが予定時間に遅れるからだよ⋯⋯」
「うっ、ごめん⋯⋯」

村の広場には大勢の子供達が集まっており、すでに長蛇の列ができていた。
ライ達は仕方なく列の最終尾に着いた。

しばらく待つと、ようやく三人の順が回って来た。

「おやおやあんた達、まだ仕事ジョブ見つかってないのかい」
「まぁ、あんたしか選定できないしな」
「今年は見つけてくれよー!」
「見つけようと思って見つかればこんな苦労はしないさね、ひとまず見てやるから一列にお並び」

そう言われ三人は一列に並ぶ。
ロン婆が呪文パロールを唱えると彼女の持つ水晶がぼんやりと輝き始めた。

「クミアの神よ、我が水晶クリスタルへ、迷い子の宣託せんたく選択せんたくし我に与えたもう。」

ゴクリと唾を飲み込む。

「ーーー選定センテイ!!」

その瞬間、ライの視界は急に奪われ、暗闇へと入り込んだ。


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