聖女な妹を狙うやつは、魔王だろうと殴ります。

ibis

妹と喧嘩した日―1話

 朝方……おぼつかない足取りで、ギルドの扉を開ける。

「いらっしゃ……あら、アルヴァーナ」
「…………リオン、さん」

 フラフラする……頭が、回らない。

「ど、どうしたの?顔色悪いわよ?」
「リオンさん……どうしよう」
「……何が?」

 心底心配そうなリオンさんに向かって、叫んだけど

「シャルと……シャルと、喧嘩しちまった!」

 涙目の俺の言葉に、『何を言ってんだこいつ』みたいな視線を向けてきた。

―――――――――――――――――――――――――

「ほら、とりあえず水飲んで落ち着きなさい」
「……ありがと」

 冷えた水を一気に流し込み……火照った頭が、少し冷える。

「それで……珍しいわね?あなたたち双子が喧嘩するなんて?」
「……ああ……初めてだ」

 生まれて17年間、喧嘩なんて一度もしたことがなかったのに……

「……なんで喧嘩になったの?」
「……俺が、『クエストに行ってくるから、リオンさんと待っててくれ』って言ったんだよ」
「うん……それで?」
「そしたら珍しく『私も付いていく!』って言い出してさ……『危ないからダメだ』って言っても聞かなかったから……『いい加減にしろ!』って怒鳴って……」

 ああ……思い出しただけで泣きそうだ。

「それで……シャルロットちゃんは?」
「俺が怒鳴った後、どっかに行っちまった」
「……どうするの?」
「わかんねぇんだよ……今まで喧嘩とかしたことなかったから……探して、見つけて……なんて声を掛ければいい?」
「まぁ……今回はお互いがお互いの事を心配して起こった喧嘩だし……どっちかが謝るのもねぇ……」

 ……シャルが危険な目に遭っていないのはわかる。
 なぜわかるか……俺にはそういう『超感覚』があるからだ。
 『妹が今どこにいるか?』『誰かと話しているか?』『疲れているか?』『意識があるか?』『怪我をしていないか?』……こういった事がわかる。

 ちなみに、これは『能力』ではない。シスコンを極めた者だけが辿り着ける『超感覚変態の極地』だ。
 故に―――場所は何となくわかるのだが、話し掛けられないからどうしようか、という状況なのだ。

「……ねぇアルヴァーナ」
「……なんだよ。今はどうやってシャルに話し掛けるか考えてんだけど?」
「あなたはシャルちゃんの事、どう思ってるの?」
「どうって……好きに決まってんだろ」

 血を分けた、この世にたった1人しかいない家族。それをどうやって嫌いになれと言うのか。
 シャルが好きだ。兄妹以上の好意もある。だからこそ心配してしまう。

 俺は血生臭い『大罪人』だ。『七つの大罪』の『憤怒』を司り……人間や他種族のやつらを殺してきた。
 いつ天罰が下るかわからない……そのくらいの悪行を働いてきた。
 血生臭い『大罪人』と、清く美しい『聖女』……本来、こんな2人が一緒に居てはいけないだろう。
 だから……だから俺は、『七つの大罪』を抜けて、正直よかったと思っていた。
 やっと、やっとまともな人間として、シャルの隣に立っていられると、心の底から思っていた。

「そう……好き、ね」
「ああ……嫌いになんて、なれねぇよ」
「それなら、しっかり好きだって言ってあげなさい。まずはそこからでしょ?」
「好きだって……言わないとわからねぇか?」
「あなたねぇ……シャルちゃんはいっつも『アル兄大好きー!』とか言ってるけど、あなたは言ってるの?言葉にしないと、相手は不安になるのよ?」

 ……唖然とした。
 確かに……言っていなかった。好きだって。
 そんな事にも気づいてなかったのか……俺。

「そう、だよな……言わないと、伝わんねぇよなぁ」
「わかったら、早く行ってあげなさい。ご飯を用意しておいてあげるわ……初めての仲直り記念、ってね」
「……ああ、行ってくる」

 ギルドを出て、『超感覚』を発動。
 全神経を集中させ、シャルの場所を探り―――

「……あ?」

 ……国内に、シャルの気配がない。
 おかしい……ギルドに入る前と入った後、この短時間で国外に出るなんて、シャルじゃ不可能―――

「……まさか……?!」

 集中を深め、再びシャルの気配を探る。
 ……見つけた。国外にいる。

「シャルの運動力じゃ、こんなに早く行けるわけがない……って事は……!」

 誰かが、シャルを連れ去った。

 それを認識、理解―――無意識的に『憤怒の上昇アングリー・アップ』が発動。
 足に力を込め、爆発させる。
 地面を蹴り、壁を駆け上がり、屋根を跳び跳ねる。

 ―――シャル!

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