聖女な妹を狙うやつは、魔王だろうと殴ります。
ここではない場所へ―4話
「……おいガキ。今のは誰に向かって言ったんだ?」
「ああ?わかんねぇのかおっさん。どう考えてもお前らに言ってんだろ」
「……今のは喧嘩売ってるんだよな?」
喧嘩していたおっさん2人が、頭に青筋を浮かべながら近づいてくる。
……ほう。俺と、ヤると。
俺の『憤怒』に触れる事が、大罪に等しいという事を身を持って思い知らせてやろうか―――
「はい!そこまで!」
―――パンッ、と両手を打ち付ける乾いた音。
音のした方を見ると……ギルドの店員が、俺たちを睨み付けていた。
「もう、いざこざは外でって言ってるでしょ!」
「だがよ……喧嘩売ってきたのはこのガキだぜ?!」
「文句言わない!子ども相手にムキになるあなたも―――あれ?」
ギルドの店員が、俺の顔を見て首を傾げる。
「……あなた、どこかで会ったことある?」
「んだよそれ、新手のナンパか?」
「違うわよ!」
「あー!『リオン』さんだー!」
ギルドの入り口で待っていたシャルが、ギルドの店員に抱きついた。
嘘だろシャル。いきなり抱きつくとかお前―――え?今なんて?
「あなた……シャルロットちゃん?」
「そーだよー!久しぶりー!」
「って事は……あなた、アルヴァーナ?!」
「リオンって……もしかして、あのリオンさんか?!」
目の前に立つ女性に驚愕する。
リオンさんは、7年前からここで働いている……まあ、ベテランさんだな。
当時10歳だった俺は、リオンさんに色々教えてもらってた。
確か、7年前は18歳だったから……今は25歳か。
「わあ!久しぶりねアルヴァーナ!すっかり大きくなってもう!」
「おい、頭撫でんな!」
「ねーシャルはー?」
「シャルも大きくなったわねー!」
乱暴に撫でられる感覚に、少しだけ拒絶反応が出てしまう。
なぜ拒絶反応が出るか……まあ簡単に言うなら、褒められるのに慣れていない、と言うべきだ。
「チッ……まあいいや。リオンさんがいるなら話は早い」
「今舌打ちしたわよね?」
「んな事はどうでもいい……『冒険者カード』を製作し直したいんだが」
7年前の『冒険者カード』を取り出し、リオンさんに手渡す。
「……7年間も更新してないなんて……何があったの?」
「は?なんで?」
「アルヴァーナは冒険者だったわよね?だったら1年に1回『冒険者カード』の更新をしないとダメでしょ?」
子どもを叱る母親のように、俺を見ながら説教を始める。
……いや、俺より身長の低いやつに怒られたって、何も怖くないんだが。
「まったく……更新するから、こっち来て」
「ういうい」
言われるがまま、ギルドの奥へ進む。
「さて……それじゃ、名前書いてくれる?」
「はいよ」
「……よし。それじゃあ待っててね。すぐに作ってくるから」
……これで『冒険者カード』の更新は終了……次にすることは、宿の確保かな。
「アル兄……手」
「ん?ああ。血も止まったし、放っときゃ治るさ」
「もう!そういう所が適当だからすぐに怪我しちゃうんだよ?!いいから手を貸して!」
……心配するシャル、可愛いなぁ。その姿だけで充分癒されるよ。
「いや、本当に大丈夫だって―――」
「―――『癒しよ』」
シャルの小さな呟き……それと共に、淡い光が俺の左手を包み込む。
「……まったく……大丈夫だってのに」
「もー!傷口からバイ菌が入ったら大変でしょー?!」
『聖女』の力……無限に回復ができるわけではないが、ある程度の傷程度なら癒す事ができる、癒しの力。
普通、『魔法』を使うときは『魔力』を使うのだが……『聖女』の力は特殊で、『魔力』ではなく『体力』を使って癒すらしい。
「それに、アル兄には『魔法が効かない』から『回復魔法』が無意味だし……」
「まあ……そうだな」
「うんうん……アル兄を癒せるのは、私だけなんだから♪」
ご機嫌そうに抱き付いてくるシャル……その頭を撫で、ギルドの店内へ引き返す。
シャルはかなりのブラコンだ……まあ、シスコンの俺が言えたことじゃないけど。
この前『シャルは将来どうするんだ?』って聞いたら『アル兄のお嫁さんになる!』って即答してくれた。可愛い。俺もお前と結婚したいよ。
もちろん、兄妹が結婚できるわけがないんだけど。
「にしても……ほんっとここは物騒だな」
さっきの喧嘩が終わった……と思えば、もう別の喧嘩が始まっている。
「……ゆっくりしながら待っとくか」
「何か食べてもいい?」
「さっきの野営食じゃ足りなかったか?」
コクン、と無言で頷くシャル。
……ほんと、俺とシャルは双子には見えないよな。
シャルって、見た目も中身も幼いし……そういう所が可愛いんだけどな!
「好きなの注文していいぞ。俺はちょっと『クエストボード』見てくるから」
「はーい!えーと……すみませーん!注文いいですかー?」
店員に話し掛けるシャルを置き、紙が貼られている木の板に近づく。
『リザードマンの群れの討伐』、『ゴブリンの群れの討伐』、『コボルトの群れの討伐』……どれもこれも、あんまり難しくないクエストばかりだな。
「……ん。これ……『ドラゴンの討伐』……?」
「おうボウズ、このクエストに目を付けるとはな……だが止めときな。死んじまうぜ」
俺の背後に立つ男が、苦笑いを浮かべながら続ける。
「このギルドにはもっと人がいたんだが……みんな、そのドラゴンにヤられた」
「へぇ……ドラゴン、か」
ドラゴン……昔魔王に頼まれて、討伐に向かった事があるが……
「……大したこと、なかったよなぁ」
……あんまり強くはなかったような覚えがある。
もちろん、他の『七つの大罪』の協力もあったが……うん、それでもあんまり強くなかったような……
「まあ、そのクエストに手を出すのは止めときな」
「わかった」
一応、素直に言うことを聞いておく。
この人は親切心で忠告してくれてるんだし……その気持ちを無下に扱う気もない。
それに……普通の『人族』はドラゴンなんて討伐できない。
俺がもしドラゴンなんて討伐したら、確実に目立つ……目立つという事は、俺が『七つの大罪』の1人だとバレる可能性が出てくる、というわけだ。
「……それにしても、さっきは冷や冷やしたぜ」
「冷や冷やって……?」
「ボウズ、『荒くれゴウ』と『壊し屋テッド』に喧嘩売ってただろ?」
ゴウにテッドって……さっきのおっさんか?
「いや、あれは―――」
「わかってるわかってる。ちゃんと見てたからな……でも、あいつらには関わらない方がいい」
「なんで?」
「強いのさ……このギルドの中で、1位2位を争うほどに」
強い?あのおっさんたちが?1位2位を争うほどに?
冗談だろ、と笑いたかったが、この男の顔を見ると……どうやら真実らしい。
「へぇ……あのおっさんたちがねぇ……」
「ああ。忠告はしたからな、気を付けろよ」
そう言うと、男はクエストボードの紙を1枚剥がし、店員に手渡してギルドを出てってしまった。
「……ま、今日はいいか」
金は持ってきているし、宿の確保を優先しよう。
「シャル、そろそろ行くぞ」
「んぐっ、ごくっ……はーい!」
飯代を支払い、俺たちは宿を探すことにした―――
「―――ちょっとアルヴァーナ!待ちなさい!」
「っと……なんだよリオンさん。俺ら今から宿探さないといけないんだけど?」
「あんたはバカなの?!『冒険者カード』を更新してたでしょ?!」
ああそうだった。すっかり忘れてた。
「悪い悪い……てかおい。そんな大声でバカ呼ばわりしなくてもいいだろ」
「言われたくないなら、これからは気を付けることね」
差し出されるカードを受け取り、俺たちはギルドを後にした。
「ああ?わかんねぇのかおっさん。どう考えてもお前らに言ってんだろ」
「……今のは喧嘩売ってるんだよな?」
喧嘩していたおっさん2人が、頭に青筋を浮かべながら近づいてくる。
……ほう。俺と、ヤると。
俺の『憤怒』に触れる事が、大罪に等しいという事を身を持って思い知らせてやろうか―――
「はい!そこまで!」
―――パンッ、と両手を打ち付ける乾いた音。
音のした方を見ると……ギルドの店員が、俺たちを睨み付けていた。
「もう、いざこざは外でって言ってるでしょ!」
「だがよ……喧嘩売ってきたのはこのガキだぜ?!」
「文句言わない!子ども相手にムキになるあなたも―――あれ?」
ギルドの店員が、俺の顔を見て首を傾げる。
「……あなた、どこかで会ったことある?」
「んだよそれ、新手のナンパか?」
「違うわよ!」
「あー!『リオン』さんだー!」
ギルドの入り口で待っていたシャルが、ギルドの店員に抱きついた。
嘘だろシャル。いきなり抱きつくとかお前―――え?今なんて?
「あなた……シャルロットちゃん?」
「そーだよー!久しぶりー!」
「って事は……あなた、アルヴァーナ?!」
「リオンって……もしかして、あのリオンさんか?!」
目の前に立つ女性に驚愕する。
リオンさんは、7年前からここで働いている……まあ、ベテランさんだな。
当時10歳だった俺は、リオンさんに色々教えてもらってた。
確か、7年前は18歳だったから……今は25歳か。
「わあ!久しぶりねアルヴァーナ!すっかり大きくなってもう!」
「おい、頭撫でんな!」
「ねーシャルはー?」
「シャルも大きくなったわねー!」
乱暴に撫でられる感覚に、少しだけ拒絶反応が出てしまう。
なぜ拒絶反応が出るか……まあ簡単に言うなら、褒められるのに慣れていない、と言うべきだ。
「チッ……まあいいや。リオンさんがいるなら話は早い」
「今舌打ちしたわよね?」
「んな事はどうでもいい……『冒険者カード』を製作し直したいんだが」
7年前の『冒険者カード』を取り出し、リオンさんに手渡す。
「……7年間も更新してないなんて……何があったの?」
「は?なんで?」
「アルヴァーナは冒険者だったわよね?だったら1年に1回『冒険者カード』の更新をしないとダメでしょ?」
子どもを叱る母親のように、俺を見ながら説教を始める。
……いや、俺より身長の低いやつに怒られたって、何も怖くないんだが。
「まったく……更新するから、こっち来て」
「ういうい」
言われるがまま、ギルドの奥へ進む。
「さて……それじゃ、名前書いてくれる?」
「はいよ」
「……よし。それじゃあ待っててね。すぐに作ってくるから」
……これで『冒険者カード』の更新は終了……次にすることは、宿の確保かな。
「アル兄……手」
「ん?ああ。血も止まったし、放っときゃ治るさ」
「もう!そういう所が適当だからすぐに怪我しちゃうんだよ?!いいから手を貸して!」
……心配するシャル、可愛いなぁ。その姿だけで充分癒されるよ。
「いや、本当に大丈夫だって―――」
「―――『癒しよ』」
シャルの小さな呟き……それと共に、淡い光が俺の左手を包み込む。
「……まったく……大丈夫だってのに」
「もー!傷口からバイ菌が入ったら大変でしょー?!」
『聖女』の力……無限に回復ができるわけではないが、ある程度の傷程度なら癒す事ができる、癒しの力。
普通、『魔法』を使うときは『魔力』を使うのだが……『聖女』の力は特殊で、『魔力』ではなく『体力』を使って癒すらしい。
「それに、アル兄には『魔法が効かない』から『回復魔法』が無意味だし……」
「まあ……そうだな」
「うんうん……アル兄を癒せるのは、私だけなんだから♪」
ご機嫌そうに抱き付いてくるシャル……その頭を撫で、ギルドの店内へ引き返す。
シャルはかなりのブラコンだ……まあ、シスコンの俺が言えたことじゃないけど。
この前『シャルは将来どうするんだ?』って聞いたら『アル兄のお嫁さんになる!』って即答してくれた。可愛い。俺もお前と結婚したいよ。
もちろん、兄妹が結婚できるわけがないんだけど。
「にしても……ほんっとここは物騒だな」
さっきの喧嘩が終わった……と思えば、もう別の喧嘩が始まっている。
「……ゆっくりしながら待っとくか」
「何か食べてもいい?」
「さっきの野営食じゃ足りなかったか?」
コクン、と無言で頷くシャル。
……ほんと、俺とシャルは双子には見えないよな。
シャルって、見た目も中身も幼いし……そういう所が可愛いんだけどな!
「好きなの注文していいぞ。俺はちょっと『クエストボード』見てくるから」
「はーい!えーと……すみませーん!注文いいですかー?」
店員に話し掛けるシャルを置き、紙が貼られている木の板に近づく。
『リザードマンの群れの討伐』、『ゴブリンの群れの討伐』、『コボルトの群れの討伐』……どれもこれも、あんまり難しくないクエストばかりだな。
「……ん。これ……『ドラゴンの討伐』……?」
「おうボウズ、このクエストに目を付けるとはな……だが止めときな。死んじまうぜ」
俺の背後に立つ男が、苦笑いを浮かべながら続ける。
「このギルドにはもっと人がいたんだが……みんな、そのドラゴンにヤられた」
「へぇ……ドラゴン、か」
ドラゴン……昔魔王に頼まれて、討伐に向かった事があるが……
「……大したこと、なかったよなぁ」
……あんまり強くはなかったような覚えがある。
もちろん、他の『七つの大罪』の協力もあったが……うん、それでもあんまり強くなかったような……
「まあ、そのクエストに手を出すのは止めときな」
「わかった」
一応、素直に言うことを聞いておく。
この人は親切心で忠告してくれてるんだし……その気持ちを無下に扱う気もない。
それに……普通の『人族』はドラゴンなんて討伐できない。
俺がもしドラゴンなんて討伐したら、確実に目立つ……目立つという事は、俺が『七つの大罪』の1人だとバレる可能性が出てくる、というわけだ。
「……それにしても、さっきは冷や冷やしたぜ」
「冷や冷やって……?」
「ボウズ、『荒くれゴウ』と『壊し屋テッド』に喧嘩売ってただろ?」
ゴウにテッドって……さっきのおっさんか?
「いや、あれは―――」
「わかってるわかってる。ちゃんと見てたからな……でも、あいつらには関わらない方がいい」
「なんで?」
「強いのさ……このギルドの中で、1位2位を争うほどに」
強い?あのおっさんたちが?1位2位を争うほどに?
冗談だろ、と笑いたかったが、この男の顔を見ると……どうやら真実らしい。
「へぇ……あのおっさんたちがねぇ……」
「ああ。忠告はしたからな、気を付けろよ」
そう言うと、男はクエストボードの紙を1枚剥がし、店員に手渡してギルドを出てってしまった。
「……ま、今日はいいか」
金は持ってきているし、宿の確保を優先しよう。
「シャル、そろそろ行くぞ」
「んぐっ、ごくっ……はーい!」
飯代を支払い、俺たちは宿を探すことにした―――
「―――ちょっとアルヴァーナ!待ちなさい!」
「っと……なんだよリオンさん。俺ら今から宿探さないといけないんだけど?」
「あんたはバカなの?!『冒険者カード』を更新してたでしょ?!」
ああそうだった。すっかり忘れてた。
「悪い悪い……てかおい。そんな大声でバカ呼ばわりしなくてもいいだろ」
「言われたくないなら、これからは気を付けることね」
差し出されるカードを受け取り、俺たちはギルドを後にした。
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