聖女な妹を狙うやつは、魔王だろうと殴ります。
ここではない場所へ―2話
「……んんっ……?朝、か……」
木々の間から射す光に目を細め、体を起こす。
……そうだ。『魔国』を出て、森で野宿したんだった。
「シャル、起きろ。移動を始めるぞ」
「う、ぅうん……」
……起きねぇ……まあそれもそうか。昨日は午前の1時まで寝てないんだし、まだ眠いよな。
「……寝る時は、眼帯外そうかなぁ……?」
右目を隠す眼帯に手を当て、1人呟く。
……とある理由があって右目を隠しているのだが……衛生的に悪そうだし、寝る時は外すことにしよう。
「さて、と……ぃよっと!」
「は、ふぅ……」
シャルを寝袋ごと抱え上げ、森を歩く。
……『人国』に着いたら、どうしようか。
金はあるから、宿は借りれるだろう……が、職を探さなければならない。
無難な所で、『冒険者』だろうか……モンスターを倒すだけで金が貰えるしな。
「……俺が元『七つの大罪』ってのは、隠しとかないとな」
『魔族』の暮らす『魔国』と、『人族』の暮らす『人国』は、現在交戦状態なのだ。
正面から戦えば『魔族』の方が強いが……『人族』は頭が良い。色んな国と同盟を組んで、『魔族』に抗っている。
そんな『人国』に、元『七つの大罪』の俺が行けば……間違いなく敵対視される。
どうにかバレないように過ごすしかない。
「……ん」
「やぁ『憤怒』……本当に行くんだね」
「お前……!『怠惰』……!」
木陰から、1人の少年が姿を現す。
あどけない笑み、小さな身長……外見はとても愛らしい。
だが……こいつは『七つの大罪』の1人、『怠惰』を司る『ラプター』……今の俺には、敵だ。
「……何の用だ」
「嫌だなぁ、そんなに怖い顔しないでよ。僕はただ、お見送りに来ただけなんだし」
眼帯を外す構えを取り、いつでも戦えるぞ、と意思表示する。
対するラプターは、ニコニコと笑ってこちらを見るだけだ。
「それに……君の『魔眼』と、僕の魔法は相性が悪い……僕に君は止められない」
「……俺が『魔国』を抜け出すって、誰から聞いた」
「魔王様からさ……もしかしたら君が『魔国』を抜け出すかもって聞いて、慌てて来たんだよ?」
ラプターの口から発せられた言葉に、ますます警戒を深める。
……こいつの『見送りに来た』というのは嘘だろう……大方、魔王に命令されて―――
「あの……誤解しないでね?確かに魔王様から君が『魔国』を抜け出すって事は聞いたけど……それしか聞いてないよ?」
「嘘言うなてめぇ……魔王に命令されて来たんだろうが」
「ち、違うよ?!君、僕の事どう思ってるのさ!」
―――慌てるラプターが、両手を上げながら近づいてくる。
……嘘、ではないのか……?
他の『七つの大罪』のやつなら確実に信じられないが……ラプターは別だ。一応、信用できる性格だし。
「……じゃあ何しに来たんだよ」
「だーかーらー、見送りに来たんだってば」
「意味がわからん……敵になる俺に、なんでわざわざ―――」
「だって僕ら、友達でしょ?」
友、達……?今、友達って言ったか?
「寝言は寝て言え……俺とお前が友達だと?」
「うん……『人族』の君と、『魔族』の僕が友達なんだ」
ニッコリと笑みを深め―――ラプターの目が、悲しく揺れた。
「『七つの大罪』の人たちは、みんな個性が強い……だから、とても接しにくかった。でも君は……アルヴァーナ君だけは、気軽に接してくれた」
「……………」
「アルヴァーナ君、もし僕が魔王様から『アルヴァーナを殺せ』と命令されれば……僕は君を殺さなければならない。でも、まだ僕は命令されていない……だから、まだ友達でいさせてよ」
……こいつ、そんな風に思ってたのか。
友達……確かに、周りから見れば、俺とラプターは友達に見えるだろう。
「この先を真っ直ぐに行けば、平原に出る。その平原の先に……『人国』がある」
「ラプター……」
「僕の友達への、ささやかな気遣いさ」
悲しく微笑むラプター……俺はそんなラプターに、手を差し出した。
「アルヴァーナ君……?」
「俺らは敵になる。それは変えようのない事実だ……だからこの握手は、俺とお前が友達だった証だ」
「……うん。次に会ったときは、容赦しないからね」
「こっちの台詞だバーカ」
固く握手を交わし、俺は友達に―――友達だった少年に手を振り、平原を目指して再び歩みを進めた。
―――――――――――――――――――――――――
小さくなって行くアルヴァーナ君を見届け、『魔国』に引き返し始める。
「……魔王様から聞いたっていうのは、嘘だよ」
森を歩きながら、小さく呟く。
……昨日の深夜、誰かが魔王様の部屋にいることを察知した僕は、何かあったらすぐに対応できるように、魔王様の部屋の前で待機していた。
中に居るのが、まさかアルヴァーナ君だとは知らなくて―――
「……アルヴァーナ君の双子の妹……その子が、伝説の『聖女』だって……?!」
―――とんでもない会話を聞いてしまった。
アルヴァーナ君は魔王様と敵対する事になる……それは、中から聞こえる会話で、大体わかった。
「アルヴァーナ君が行くとしたら……『人族』の暮らす『人国』」
行動の速いアルヴァーナ君は、この夜の間で『魔国』を出ていってしまうだろう。
……アルヴァーナ君には、たくさんお世話になった。
赤の他人だった僕に、何の躊躇いもなく話し掛けてくれた。いつも1人で過ごしていた僕に、楽しい遊びを教えてくれた。そして、何より―――
「……僕の友達になってくれた」
―――意を決し、『魔国』を出た。
アルヴァーナ君はとても強い。『魔国』の外に生息するモンスターなんて、簡単にやっつけてしまうだろう。
「だから……今からすることは、僕の余計なお世話だ」
「グルルルル……!」
「ガァアアアアアアアッ!」
目の前に現れたモンスターの群れ……それに対し、僕は手を正面に出した。
「さぁ……休息はたっぷり取ったからね。『能力』をフルで発動できるよ―――『怠惰の休息』」
瞬間、大気中の魔力が僕の周りに集まる。
魔力……それは、魔法が使える者が、魔法を使うときに消費する力のこと。
人は生まれながらに、体の中に蓄えられる魔力の量が決まっているのだが……僕の『能力』には関係がない。
『怠惰の休息』は休息を取れば取るほど、大気中に存在する魔力を操る量が増える『能力』なのだから。
「さて……僕の友達が、無事に『人国』へ行くためだ。悪いけど死んでね」
「ガォオオオオオオオッ!」
「キシャァアアアアアッ!」
「―――『バーンアウト』」
眼前に、大きな火の玉が落下する。
火の玉の大きさは、町を簡単に消せるくらいの大きさ……そんなのを、まともに受けきれるわけがない。モンスターの群れは理不尽な力の前に消え失せた。
「どんどんおいで……!焼き尽くしてあげるよ!」
騒ぎを聞いたモンスターが増える……関係ない。焼き尽くすだけだ。
森のモンスターを焼き殺す作業は……夜明けまで続いた。
木々の間から射す光に目を細め、体を起こす。
……そうだ。『魔国』を出て、森で野宿したんだった。
「シャル、起きろ。移動を始めるぞ」
「う、ぅうん……」
……起きねぇ……まあそれもそうか。昨日は午前の1時まで寝てないんだし、まだ眠いよな。
「……寝る時は、眼帯外そうかなぁ……?」
右目を隠す眼帯に手を当て、1人呟く。
……とある理由があって右目を隠しているのだが……衛生的に悪そうだし、寝る時は外すことにしよう。
「さて、と……ぃよっと!」
「は、ふぅ……」
シャルを寝袋ごと抱え上げ、森を歩く。
……『人国』に着いたら、どうしようか。
金はあるから、宿は借りれるだろう……が、職を探さなければならない。
無難な所で、『冒険者』だろうか……モンスターを倒すだけで金が貰えるしな。
「……俺が元『七つの大罪』ってのは、隠しとかないとな」
『魔族』の暮らす『魔国』と、『人族』の暮らす『人国』は、現在交戦状態なのだ。
正面から戦えば『魔族』の方が強いが……『人族』は頭が良い。色んな国と同盟を組んで、『魔族』に抗っている。
そんな『人国』に、元『七つの大罪』の俺が行けば……間違いなく敵対視される。
どうにかバレないように過ごすしかない。
「……ん」
「やぁ『憤怒』……本当に行くんだね」
「お前……!『怠惰』……!」
木陰から、1人の少年が姿を現す。
あどけない笑み、小さな身長……外見はとても愛らしい。
だが……こいつは『七つの大罪』の1人、『怠惰』を司る『ラプター』……今の俺には、敵だ。
「……何の用だ」
「嫌だなぁ、そんなに怖い顔しないでよ。僕はただ、お見送りに来ただけなんだし」
眼帯を外す構えを取り、いつでも戦えるぞ、と意思表示する。
対するラプターは、ニコニコと笑ってこちらを見るだけだ。
「それに……君の『魔眼』と、僕の魔法は相性が悪い……僕に君は止められない」
「……俺が『魔国』を抜け出すって、誰から聞いた」
「魔王様からさ……もしかしたら君が『魔国』を抜け出すかもって聞いて、慌てて来たんだよ?」
ラプターの口から発せられた言葉に、ますます警戒を深める。
……こいつの『見送りに来た』というのは嘘だろう……大方、魔王に命令されて―――
「あの……誤解しないでね?確かに魔王様から君が『魔国』を抜け出すって事は聞いたけど……それしか聞いてないよ?」
「嘘言うなてめぇ……魔王に命令されて来たんだろうが」
「ち、違うよ?!君、僕の事どう思ってるのさ!」
―――慌てるラプターが、両手を上げながら近づいてくる。
……嘘、ではないのか……?
他の『七つの大罪』のやつなら確実に信じられないが……ラプターは別だ。一応、信用できる性格だし。
「……じゃあ何しに来たんだよ」
「だーかーらー、見送りに来たんだってば」
「意味がわからん……敵になる俺に、なんでわざわざ―――」
「だって僕ら、友達でしょ?」
友、達……?今、友達って言ったか?
「寝言は寝て言え……俺とお前が友達だと?」
「うん……『人族』の君と、『魔族』の僕が友達なんだ」
ニッコリと笑みを深め―――ラプターの目が、悲しく揺れた。
「『七つの大罪』の人たちは、みんな個性が強い……だから、とても接しにくかった。でも君は……アルヴァーナ君だけは、気軽に接してくれた」
「……………」
「アルヴァーナ君、もし僕が魔王様から『アルヴァーナを殺せ』と命令されれば……僕は君を殺さなければならない。でも、まだ僕は命令されていない……だから、まだ友達でいさせてよ」
……こいつ、そんな風に思ってたのか。
友達……確かに、周りから見れば、俺とラプターは友達に見えるだろう。
「この先を真っ直ぐに行けば、平原に出る。その平原の先に……『人国』がある」
「ラプター……」
「僕の友達への、ささやかな気遣いさ」
悲しく微笑むラプター……俺はそんなラプターに、手を差し出した。
「アルヴァーナ君……?」
「俺らは敵になる。それは変えようのない事実だ……だからこの握手は、俺とお前が友達だった証だ」
「……うん。次に会ったときは、容赦しないからね」
「こっちの台詞だバーカ」
固く握手を交わし、俺は友達に―――友達だった少年に手を振り、平原を目指して再び歩みを進めた。
―――――――――――――――――――――――――
小さくなって行くアルヴァーナ君を見届け、『魔国』に引き返し始める。
「……魔王様から聞いたっていうのは、嘘だよ」
森を歩きながら、小さく呟く。
……昨日の深夜、誰かが魔王様の部屋にいることを察知した僕は、何かあったらすぐに対応できるように、魔王様の部屋の前で待機していた。
中に居るのが、まさかアルヴァーナ君だとは知らなくて―――
「……アルヴァーナ君の双子の妹……その子が、伝説の『聖女』だって……?!」
―――とんでもない会話を聞いてしまった。
アルヴァーナ君は魔王様と敵対する事になる……それは、中から聞こえる会話で、大体わかった。
「アルヴァーナ君が行くとしたら……『人族』の暮らす『人国』」
行動の速いアルヴァーナ君は、この夜の間で『魔国』を出ていってしまうだろう。
……アルヴァーナ君には、たくさんお世話になった。
赤の他人だった僕に、何の躊躇いもなく話し掛けてくれた。いつも1人で過ごしていた僕に、楽しい遊びを教えてくれた。そして、何より―――
「……僕の友達になってくれた」
―――意を決し、『魔国』を出た。
アルヴァーナ君はとても強い。『魔国』の外に生息するモンスターなんて、簡単にやっつけてしまうだろう。
「だから……今からすることは、僕の余計なお世話だ」
「グルルルル……!」
「ガァアアアアアアアッ!」
目の前に現れたモンスターの群れ……それに対し、僕は手を正面に出した。
「さぁ……休息はたっぷり取ったからね。『能力』をフルで発動できるよ―――『怠惰の休息』」
瞬間、大気中の魔力が僕の周りに集まる。
魔力……それは、魔法が使える者が、魔法を使うときに消費する力のこと。
人は生まれながらに、体の中に蓄えられる魔力の量が決まっているのだが……僕の『能力』には関係がない。
『怠惰の休息』は休息を取れば取るほど、大気中に存在する魔力を操る量が増える『能力』なのだから。
「さて……僕の友達が、無事に『人国』へ行くためだ。悪いけど死んでね」
「ガォオオオオオオオッ!」
「キシャァアアアアアッ!」
「―――『バーンアウト』」
眼前に、大きな火の玉が落下する。
火の玉の大きさは、町を簡単に消せるくらいの大きさ……そんなのを、まともに受けきれるわけがない。モンスターの群れは理不尽な力の前に消え失せた。
「どんどんおいで……!焼き尽くしてあげるよ!」
騒ぎを聞いたモンスターが増える……関係ない。焼き尽くすだけだ。
森のモンスターを焼き殺す作業は……夜明けまで続いた。
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