加速スキルの使い方!〜少年は最速で最強を目指す〜

海月13

入学試験

試験当日。俺たちは今日試験の行われる会場である、ファングランド王立冒険者学園を訪れていた。

それぞれの学園はそれぞれ区間ごとに分かれており、冒険者学園は王都の南側にある。騎士学園は東側。魔法学園は西側。そして北には王城がある。

今日は三学園同時に試験を行うから、騎士学園と魔法学園のも多くの受験者がいるはずだ。

そして冒険者学園の方も多くの受験者がひしめき合っていた。

「うわぁ、広い。それに綺麗」

冒険者学園は日本の大学くらいの広さはある。俺にとっては少し懐かしい気もする。外装や歩道も整っていて、道の端には花壇が置かれている。

「冒険者って荒くれ者が集まるイメージが大きいけど、どうやらそうじゃないっぽいな。ほら、上級生が誘導してる」

門の入り口では黒を基調とし青の線や刺繍が入った制服を着ている男子生徒と、線や刺繍が男子の制服と入り違いの赤で短めのスカートをはいている女子生徒が看板を持って誘導している。

しっかりと声を張って丁寧に誘導しているところを見ると、しっかりとした教育が行き届いているのはわかる。

「さて、俺たちも行くか。ティア、コーサ......コーサ?」

振り返って後ろを見る。

「.......Aランクの代表的なモンスターはーーー........冒険者組み合いでのランクの昇格条件はーー.......」

後ろではコーサがブツブツと一心不乱に本を読んでいた。2日前の元気はどこに行ったんだ......てか、目が若干狂気じみてて怖い。

「これなら試験は大丈夫.......か?」

「なんかコーサが不憫に見えてきちゃった.......」

この二日間コーサは別室でみっちりと勉強漬けだったらしい。というのもこの二日間俺とフィアはコーサに会っていない。今朝あったばかりなのだ。
食堂で会った時は誰なんだと思ったほどだ。コーサをここまでにするなんて、一体どんな家庭教師なんだろう......

そんなコーサと連れて俺たちは試験の受付を済ませる。

名前や歳なんかの簡単なものだったが、そこで先天スキルを記入する欄があったので俺は素直に【加速】と書いた。流石にランクはEXじゃなくてSだけど。
でも俺の記入用紙を見て受付の人もビックリしてたけどね。まぁもう慣れた。

試験開始は1時間後。でも今から入っても大丈夫なようなので、ここで2人と別れる。それぞれ試験会場が違った。

「それじゃあ筆記試験が終わったらあの噴水前に集合ね?午後の実技試験の為にお弁当作ってきたんだから!」

ティアの手には大きなバスケットがある。朝食堂の調理場を借りて作ってくれたらしい。これは頑張らないとな。

「それじゃあまた後でな2人とも!」

「うん!またね!」

「........冒険者ギルドでの依頼発行と依頼受注はーーー」

.........よし!行くか!!

俺はなるべくコーサを見ないように会場へ急いだ。







「それでは始めてください」

試験開始と共に受験生が一斉に用紙をひっくり返してペンを持つ。
懐かしな。この感じセンター試験を思い出す。あの時は俺も緊張したな。

試験内容をザッと一通り最後まで見る。試験の時間配分や解ける問題、解けない問題の判別は基本中の基本だ。

一通り見たけどどうやらどれもそこまで難しい問題はない。これなら全部解くことができそうだ。

『次の植物の生育条件を答えなさい』

これは簡単な薬草の生育条件を答えるだけだ。冒険者になりたての新人冒険者が受ける薬草採取なんかのクエストでよく見かける代表的な薬草ばかりだ。

(えーっと。回復ポーションによく使われるヒルカ草は日当たりの良い高所で。解毒ポーションのカルメン草は日の当たらない湿った場所っと)

『ロックウルフの特徴を答えなさい』

これも新人冒険者がよく受ける討伐クエストで見かけるモンスターだ。

(毛がネズミ色で若干硬い程度だが、尻尾の毛は岩のように硬く尻尾の毛を飛ばして攻撃してくる)

『次のうち最もーーー』

その後も比較的簡単な問題や計算問題が続き、特に悩むことなくスラスラと進んでいく。計算は日本の大学までの数学を終えている俺にとっては楽勝だった。

そしてとうとう最終問題だ。

(えーっと、最終問題は.....)




『スキルをあなたはどう考えますか?』




今までとは違って答えのない問題。これはその人がどう考えるかを知るための記述式問題。まさか最後にこんな問題が来るとは思わなかった。

少し考えて俺はペンを手に取り、

「.............」

そしてーーー





「試験終了です!受験生の皆さんは用紙を置いて教師が用紙を回収するまでその場で待機していてください」

「ふぅ〜。意外と早かったな」

結局全部終わった頃にはすでに終了5分前だった。他の受験生は頭を抱える者ややりきった満足げな表情の奴もいる。

「それではこれより2時間の休憩を設けます。次は実技試験がありますので、昼食を食べた後戦闘準備を整えて受験生の皆さんは闘技場に集合してください」

そう言って試験監督の先生は出て行った。他の受験生は速さと外に出て行く。俺も早くフィアとコーサと合流しないと。

そういえばコーサは大丈夫だっただろうか?







「しゃああああああああーーーッ!!!終わったぞぉおおおおおおおおおーーーッ!!」

うん。大丈夫そうだ。

外に出ると大声で叫んでるコーサが見えたので取り敢えずシバいて黙らせる。

「どうだったんだ試験?」

「おう!キャスリンさんに教えてもらったところがほとんどだったぜ!これなら絶対に大丈夫だ!」

ほう、家庭教師は女性の先生だったのか。コーサがこれほど自信満々に答えるんだから、相当の腕利き教師なんだろうな。一度会ってみたいもんだ。

「それでイクスの方は?」

「俺もバッチリだ」

「だろうなぁ〜。で、この後どうすんだっけ?」

「2時間後に闘技場って案内あっただろうが。聞いてないのか」

「おう!言ってた気がするけど聞いてなかった!」

もう一発殴るべきだろうか。

「はぁ、先に昼飯だな。フィアと合流しないと」

フィアの試験会場の方が噴水に近いからきっともういるだろう。

そう思って少し早歩きで校舎を曲がって噴水のある広場に向かう。
すると、噴水前でなにか人だかりができているのが見えた。
どうやら誰かが言い争ってるみたいだ。

そして嫌な予感もする。

「あ、イクス!」

コーサが呼びかけてくるが、俺は人だかりを縫うようにして走る。

噴水近くまで来るとすぐにわかった。

「もう!しつこいです!」

フィアの声だ。そしてフィアの前には太った男がいる。外見的に俺たちと同じ歳で受験生だろう。だが、身なりがやけに綺麗だ。

「良いではないか!私はチュンデル家のフット・チュンデルであるぞ!私のものになればお前みたいな平民ではできない暮らしをさせてやるというのに!」

どうしたことか相手はどうやら貴族のようだ。身なりがいいのも貴族の息子だからだろう。

冒険者学園にどうして貴族の息子がとか。チュンデル家とか。気になるところはいくつかあるが、今はどうでもいい。
あいつはなんて言った。

「だから嫌です!私はあなたの妻になんかなりません!!」

「なんだと!下手に出ていればこの平民めっ!!私はクローレス大鉱山の領地を収める大貴族だぞ!!ええい!とにかく私が妻にすると言ったら決定だ!!」

フットとか言う貴族の息子は顔をブタみたいに赤くしてフィアに詰め寄る。

そしてその脂ぎった手でフィアの腕を触ろうとして、

「ふざけるなよお前」

その手を掴んで強引にフィアとフットの間に入る。フットは突如現れた俺に目を見開いていたが、俺がフットの腕を握り締めると悲鳴を上げて腕を振り払った。

「いだだだだだっ!?お、お前誰に手を上げていると思っている!?私はチュンデル家の嫡男フット・チュンデルであるぞ!!」

「だからどうした。お前こそフィアになに手ェ出そうとしてんだ。しかも、フィアを強引に連れ去って妻にするだと?........ふざけたこと抜かすんじゃねぇぞッ!!!」

殺気混じりの大声で俺は睨む。父さんの剣圧に比べてあいつの怒声など虫ケラ以下だ。まだまだ未熟な俺の圧でも吹き飛ばせるくらいに。

「ひ........っ!?」

俺の圧にフットが声を竦ませる。俺の怒声に周りで見ていた野次馬も同じようにすくみあがっていたが、唯一フットの後ろでは控えていた従者と思われる老紳士は全く反応を見せなかった。

「フィア。大丈夫か?」

「う、うん。平気。ありがとうイクス」

幸いフィアの身には何もないようだ。さて、じゃあ後はこのブタ野郎をブン殴るだけか。

「ひいいいいいいい!?!?来るな!来るな!!私はチュンデル家の長男であるぞ!?私に手を出せばどうなるかわかっているのか!?!?」

なんか言ってるが聞く耳を持たない。一発くらいブン殴らないと気が済まない。

そうして俺はフットを一発ブン殴る為に一歩踏み出すと、ーーー


「ーーー待ちたまえ」


一つの声が響く。騒がしいこの場所であってもよく通る芯のある男の声。

その声が聞こえた方向を見ると、人垣が割れて1人の男が歩いてくる。

歳は同じくらい。スラッとした体格に、見る人を魅了するような銀髪と甘いマスクの男子。身なりも白と金の上等な生地だと一瞬でわかる服装。動作一つ一つに滲み出る育ちの良さがわかる。

そんな男は俺たちのところまで来ると立ち止まり口を開く。

「今の会話聞かせてもらった。いきなり女性を連れ去ろうとするなどあまりにも横暴が過ぎるのではないか?フット卿?」

男がそういうと呼ばれたフットはみるみる青ざめていき、慌ててこうべを垂れる。

「こ、これは!シドニス閣下!!ご機嫌麗しゅう.......!!」

「閣下って.......もしかして......」

四大公爵家の一つじゃないか!?

四大公爵家は国王や王族の次に偉い立場で、実質この国の行政や軍事を扱う四つの公爵家のこと。

そんな大物がどうしてこんなところに。

「フット卿。貴殿の振る舞いは目に余るものがある。貴族たる者がその権利を振りかざし、民を脅すなど許されることではない。ましてはここは国の定めた国立機関。貴族の権利を振りかざすことは、学院は一切認めていないはずだか?」

「そ、それは.......」

「まさか学院が貴族を裁けるものかとでも思っていたのか。ーーーふざけるのも大概にしろ。貴族の格を下げるような言動は謹んで即刻立ち去れ」

「は、はいっ!!」

シドニスと呼ばれた男の言葉にフットはすぐに立ち上がって去って行った。従者の老紳士もお「大変お騒がせいたしました」と一言俺たちに言ってフットの後を追った。

「まったく。奴の言動は前々からどうにかせねばと思っていたが、今回のは行き過ぎだ。厳重に警告しておかねば」

「あの、あなた様はもしかして......」

俺は少し躊躇いがちに言うと「ああ、すまない」とこちらを向いて優雅に挨拶をする。

「私はシドニス・フォウ・クロマティス。クロマティス家の次男だ。今回はフットが迷惑を掛けた。謝罪する」

「いえ、勿体無きお言葉」

俺は顔を伏せその場に片膝をつく。本当なら俺みたいな平民が言葉を交わせるような存在じゃない。
父さんに習った騎士形式の礼ではあるが、しないよりかはマシだ。

俺に続きフィアと合流したコーサも同じようにする。

すると閣下は慌てて言葉をつなぐ。

「表を上げてくれ。ここでは皆同じ冒険者学園を目指す受験生という立場。それにさっきも言っただろう?ここでは貴族の立場も関係ないと。私.....いや、僕のことはシドとでも呼んでくれ。親しい人はみんなそう呼ぶんだ」

「......そう言うことなら。わかりました」

「敬語もなしだ」

「じゃあこれでいいか?シド」

「うんうん!僕のその方が友達って感じがしていいな」

あまりにもアッサリとシドと俺が呼んだことに周りは騒然とし、未だ膝をついているフィアとコーサも唖然とした表情だ。

だけどシドの方は嫌な顔一切せず、むしろ喜ばしそうに俺の手を握る。

多分四大公爵家という立場から誰もがかしこまって友達のように接する人間がいなかったんだろう。今のシドの口調や表情も歳相応の笑みを浮かべている。

俺は貴族制度のない日本に住んでいたから公爵というのもあまり実感がない。それでもちゃんと貴族制度については理解している。他の人に比べ少し貴族に対して臆さないだけだ。

「そうだ、よければ君の名前を聞いてもいいかい?」

「ああ、そうだった。俺はイクス・アーラス。こっちはコーサとフィア」

「ッ!コーサ・マルフェスです!」

「フィア・マグナリアですっ!」

ガチガチに緊張していた2人がはっと名前を名乗る。

「よろしく。アーラスくん。マルフェスくん。マグナリアさん」

「俺たちのことは名前でいいよ。俺たちもシドって呼ぶんだから」

「じゃあそうさせてもらうよ」

コーサとフィアは何か言いたげな視線を向けていたが無視だ。

そうこうして周りの注目を集めていると、1人のメイド服を着た女の子が現れた。

「あっ、シド様!こんなところに居たんですね。突然居なくなられると困りますっ」

歳は俺たちと同じくらいか。長い金髪に同じく金の瞳。少し童顔だが全体的に纏う洗礼された雰囲気が高い教養を受けているのを感じさせる。

「すまない、サーシャ。少し友達と話をーーー」

「え!シド様にお友達が!?嘘ですよね!?」

「お前にはもう一度教養というものを教えてあげようか」

「い、痛い痛い!?シド様痛いです!?」

なんだかいきなりコントみたいなやりとりが繰り広げられた。シドがサーシャと呼んだ女の子の頭をグリグリしている。

「うぅ〜......いたいですぅ........」

「いきなりごめん。彼女はサーシャ。僕の従者だ」

「さ、サーシャと申します。シド様の専属従者でございます。以後お見知り置きを」

さっきまでの涙目はどこに行ったんだと言わんばかりの優雅な一礼。

そしてぴょこっと動く、ネコの耳。
驚いたことに彼女は猫の獣人らしい。

それに何よりまさか貴族のそれも公爵家の人間の従者が獣人ということに俺は驚いた。

昔は人間と多種族で争いがあったため、今では相互不可侵条約によって平和が維持されているが、未だに多種族を良く思わない人も多いと聞く。

そんな中で獣人を従者にするというのは聞いたことがない。

俺たちに対して普通に接したり、サーシャを側に置くことなどシドはかなり特異な立ち位置にいる。

「サーシャさんでいいか?俺はイクス。たった今シドと友達になったばかりだからよろしく」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!よかったぁ、シド様お友達が少ないから学園に入学してボッチになるんじゃないかと心配していたんですよぉ。なにぶん公爵という立場と奇抜な考えのお方ですのでなかなか他の同い年の貴族の方とも折りが合わずーーーって、いひゃい!?いひゃいですぅ!!」

「余計なお世話だ!!それにサーシャ、お前僕のことそんな風に思っていたのか!」

「ほ、ほんなことはいですよぉ〜!」

頬っぺたとむにーっするシドとされながら必死に抵抗するサーシャを見ているとなかなか仲のいい主従関係だな。

「そ、それより!昼食の用意ができてますから早く行きましょう!せっかく朝早く起きてシド様の受験合格を祈りながら作ったんですから!」

「わかった。それじゃあすまなかったイクス、コーサ、フィア。僕はもう行くよ。3人の合格祈ってる。次は入学式で会おう」

「またな。シドも頑張れよ」

こうして俺とシドは硬い握手を交わして別れた。





午後はいよいよ実技試験。評価の200点もが決まる試験だ。気を抜けない。フィアの弁当も食べたし気合い十分だ。
.........パイが無くて本当に良かった。

途中、フィアは別の会場なので別れた。魔法使いは魔法使い用の試験があるみたいだ。

そんなわけで俺とコーサは闘技場にいる。
周囲をグルリと囲む高い客席と柱が立っている。なんでも柱は結界の支点らしく、客席への衝撃や魔法をかき消す力があるらしい。

そして闘技場には十数個のコートが作られている。新しく作られているところから見て試験に関係するんだろう。

闘技場には多くの受験生が集まっている。その中にはシドの姿もあった。立場上近寄りがたい存在な為か周りが避けているのですぐわかった。
なんか若干悲しそうな顔してるぞ。大丈夫か。

「おい、イクス。あいつ.....」

「ああ......」

コーサに促された視線の先にはあのブタ、フットもいた。俺に対して嫉妬や怒りの視線を向けてきているのが丸わかりだ。

『それではこれより実技試験を始めます。試験内容は本校代表生徒とそれぞれ一対一の模擬戦を行ってもらいます。勝敗によって合格不合格の判定はありません。試験官が戦い方を観察して、それによって点数をつけます。それではくじ番号に従ってそれぞれのコートに別れてください』

闘技場に入るときに引いたくじによると俺は3コート。コーサは6コートだった。

「それじゃあな!行ってくるぜ!」

あれほど筆記試験で疲弊しきっていたのはどこへという様子でコートへ行った。あの調子なら大丈夫だろう。父さんと母さんの特訓を乗り越えたコーサならやれるはずだ。

俺も自分の心配をしよう。相手は学園の代表だ。

俺の相手は体格の良い戦斧を持った男だ。正直戦斧にはいい思い出はないが、逆にこれはあの時の経験が活きるチャンス。

俺の前には何人かの受験生がいて先に戦斧使いの生徒と戦っている。せっかくの機会だから戦闘を観察させてもらおう。情報収集は戦闘の基本でもあると父さんから教わった。

戦斧使いの生徒はその巨体から繰り出すパワーのある一撃が厄介だが、スピードはあの時の山賊のリーダーほどではない。

だけど戦斧を扱う小手先の技術は生徒の方が上なようで、普通なら戦斧を振りにくい間合いでも器用に戦斧の柄の先を使ったりして攻撃を防いでいる。

「こっちの方が厄介かもな.......。スピードとパワーだけならそれ以上の速度で動けば良かったんだけど」

どうやらこの試験。なかなか簡単にはいかないようだ。

「では、次。イクス・アーラス」

「はいっ!」

試験官に呼ばれてコートに入る。前の受験生はコート外まで吹き飛んだけど大丈夫か?

「よろしくお願いします」

「よろしく頼む。私はグロン・サークレッド。冒険者学園3回生で生徒総会の副会長を務めている。君が入学することになれば再び会うこともあるだろう。それでは試験を始めさせていただく」

なんだか武人のような堅物だ。それに3回生ということは最高学年か生徒総会ってのはおそらく生徒会のようなもので彼は副会長。相当の手練れか。

「それでは両者構え!」

俺は腰後ろの鞘から二本の剣を抜く。ここの学園は治療設備も完備されていて怪我を気にせず試験に挑める。一応刃引きはしているが本気で打ったら骨折くらいはする。

一方副会長のサークレッド先輩もその巨大な戦斧を構える。身長と同じくらいの戦斧を片手で持つとは大した筋力だ。

「それではーーー始めッ!!」

まずは小手調べ。俺は加速は使わず身体能力のみで走る。攻撃が当てずらい地面すれすれを這うように素早く動く。

「ふっ!」

右に行くと見せかけて一気に左に回り込み二本の剣を交差するように振るう。サークレッド先輩の視線は右に誘導されたので左からの俺の動きについていけてない。

「ぬっ!?」

だかそう簡単には終わらず。咄嗟に背を逸らして攻撃をかわすと戦斧を薙ぎ払う。

「危ねっ!?」

ゴウッ!と空気を抉り取る一撃を戦斧の下に滑り込むようにして回避。前髪が数本持ってかれた。

戦斧の一撃一撃は振ってから次の一撃への連結が遅い。しかも今の一撃は咄嗟の判断で振り切った大振り。仕掛けるなら今がチャンス。

「おおっ!」

剣の間合いに持ち込めれば二刀流という手数の多いこちらに有利。今はとにかくガンガン攻める!

【斬撃加速】と【処理能力加速】、で【双剣術】のステージを強引にあげる。

「速いっ!」

相手はおそらくランクAの【斧術】スキル。ランクSほどの絶対的なセンスや技術の差がないからだ。ランクSの領域はそれくらい違う。

「はぁあああああああッ!!」
「ぉおおおおおおーーッ!!」


俺の双剣と戦斧が激しくぶつかる。ガキィイイイイインッ!!と甲高い音を立てて火花を散らす。

ぶつかった衝撃で一度離れる。まずい、今までの攻防で剣に小さなヒビが入ってる。俺の攻撃速度とサークレッド先輩の戦斧のパワーに剣がついていけてない。

一方サークレッドの先輩戦斧は刃こぼれ一つない。サークレッド先輩の筋力に耐える特注品の戦斧だろう。
このままでは武器破壊で俺が負ける。

だったら、

「シッ!!」

一瞬【加速】を使い鋭く跳びかかる。

「なにっ!ッ!!」

矢のような速度で飛び込んでくる俺に流石にサークレッド先輩も反応が遅れた。速さなら誰にも負けない。

俺は二刀を振り上げて上から強襲する。

「甘い!」

サークレッド先輩は戦斧の腹で俺の剣を受け止める。

ガキィイイイイインッと再びぶつかる両者の刃。そして、俺の二振りの剣が弾かれ空中へ舞い上がった。

サークレッド先輩は勝利を確信した目。

俺は剣を弾かれたことによって身体はーーー弾かれてはいなかった。

前に倒れるように戦斧の下に潜り込む。

「なっ!?」

そこでサークレッド先輩が驚く。そして気づいた。俺がわざと剣を手放したということに。

戦斧を掲げて今のサークレッド先輩の胴はガラ空き。

「ぬっーーーぉおっ!!」

しっかりと腰を落として踏み込む。力の流れを意識して腰を捻り右拳を突き出す。

父さんやコーサのような一撃ではない形だけの一撃だけど、撃ち込む所によっては十分!

ズンっと重い一撃。だけど硬い!まるで岩を殴ったような硬さが腕に返ってくる。父さんやコーサなら完全に力を加えるんだろうけど、俺にそんな芸当はできない。

だが確実に腹に入り手応えも感じた。これなら......

「かっ........!!ーーーッツ!!」

倒れない!?

サークレッド先輩は数歩下がるだけで倒れない。いくら俺の技術が未熟とはいえ、確実に腹に入ったし普通の大人でも倒れるくらいの力はある。

それなのにサークレッド先輩は二本足で立っている。顔をしかめて体を少し丸めてるからノーダメージってわけではないだろうが驚異的な耐久力だ。

「っ!見事な一撃だ.......。闘いに慣れているな。まだスキルを得て数ヶ月だろうに」

「両親が厳しいもんで」

「アーラス。もしや君の父親はあの【宝竜騎士】ヴィラン・アーラスか?」

宝竜って多分というか確実にラフネスのことだろう。父さんの二つ名は聞いたことがないけど、名前は合ってる。

「ええ、まぁ」

「なるほど。まったく、今年はとんでもない者が入ってくるものだな」

「入れるかどうかはこの試合次第ですけどね」

俺は地面に刺さっている二本の剣を引き抜く。

だがサークレッド先輩は逆に戦斧を地面に突き刺すと、腕を振る。

「いいや。これでおしまいだ。試験官も評価は終わっているようだしな。それにお互いにこれ以上戦うのは得策ではないと思うが?」

実際その通りだ。打ち込んだ右腕が痛い。軽く骨にヒビが入っている可能性がある。どんだけ硬いんだあの腹筋。

「それではこれでイクス・アーラスの試験を終わります。サークレッド君は一度治療室で治療を受けて来てください。試験は控えの生徒と交代でお願いします」

「ありがとうございました」

尊敬の念を込めて礼をする。お陰でいい勝負ができた。

「こちらこそありがとう。いい勝負だったぞ。ぜひ入学したらこの続きをやろう」

「もちろん。望むところです」

先輩が手を差し出してきたから俺も握手で応じる。

こうして俺の試験は終わった。さて、コーサとフィアの方はどうなっただろうか?二人なら多分大丈夫だと思うが、とりあえず腕の自己治癒能力を加速させて治療しながら待つとしよう。




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