加速スキルの使い方!〜少年は最速で最強を目指す〜
誇れる自分の為に
俺はとにかく走った。疲れたなんて言っていられない。とにかく早く村につくために、【加速】スキルを使って立派な作物が育っている畑を突っ切って、最短距離を最速で走った。
「くそッ!一体どうなってるんだ!」
おそらく今村を襲っているのはおそらく山賊だろう。だけどこの辺りに山賊が出たなんて知らせは聞いていない。そう言った知らせがあれば必ず父さんは俺に教えてくれる。
「よりにもよって父さんと母さんがいない時に........ッ!」
父さんか母さんのどっちか一人でもいれば、山賊程度なら簡単に追い払える。昔一度逸れ山賊が襲って来た時、父さんが一人でかたずけたことがあった。その事があってこの辺りにはその噂が広まってそれ以来山賊なんて一度も来なかった。
「.......もしかして、このタイミングを見計らったのか.......?」
色々と考えてみる。けど今ここで考えたところで答えなんて出るわけない。とにかく今はみんなの安全を確認しないと。
「見えた!」
村の裏口が見えてきた。
「くっ........!こんなに炎が.......!」
村に入れば、そこは悲惨の一言だった。
あちらこちらから炎が上がり、悲鳴が一層大きく聞こえる。離れても見えるほど大きい村の真ん中にある護木が、一際大きく燃えている。
そして、辺りには血の臭いが漂っている。地面には血溜まりらしき染みがあった。
「ーーーッ!!急いで、みんなを........」
「うわぁあああああああああああああああああーーッ!?」
近くで大きな悲鳴が聞こえる。その声はゴーデンの声だ。
俺は木剣を抜刀して声のする方に向かって駆け出す。声が聞こえたのはすぐ近く。
三つ家の先まで走ると、そこには道の真ん中で涙を流し震えるゴーデンと、その前で皮鎧を着た男が、ギラリと反射する鉄剣を構えていた。
「まずい!」
俺は考えるより先に身体が動いていた。考えていたらゴーデンは殺される。
男は俺に背を向けている状態で、この状態なら気づかれることなく近づける。木剣なら頭を打てば気絶させられる。
音でバレないよう走りながらも足音を消す。
そして距離が半分になっ、たーーー
「っ!!イクス!!助けてくれぇええええええええええ!!」
(!?あの、バカがッ!)
走ってくる俺に気付いたゴーデンが、俺に向けて声を上げて助けを求めて来た。恐怖に負けて冷静さを失っている状態で、俺の意図を察せなかったんだろう。
けど、そのせいで男に気付かれた。
男が後ろを振り向く。こうなればまだ距離は足りないが、男が完全に俺を捉える前に攻撃を仕掛けるしかない。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーッ!!!」
走る勢いのまま地面を思いっ切り蹴って飛ぶ。助走が大きくあったからか、思いのほか高く飛べた。
俺はそのまま木剣を男の頭に向けて振り下ろす。
「うおっ!?」
「くそッ!」
男はギリギリのとことで俺の木剣を腕で受け止めた。だけど勢いよく振り下ろした木剣はバシイッ!!と打ち据え、その手に握っていた鉄剣を飛ばした。
「いってぇ!!」
「今だゴーデン!さっさと離れろ!!」
「ひ、ひぃいいいいいいいいいーーー!!」
男が腕を抑えて怯んでいる隙に、ゴーデンに怒鳴りこの場を離れさせる。足に力が入っていないのか転げるように逃げるゴーデンに続いて、俺もこの場を離れる。
「このクソガキッ!!舐めたことしてくれんじゃねぇか!!」
「ぐっ!!」
だけど男が俺を蹴り飛ばして俺は飛ばされてバランスを崩した。
「クソがっ!腕が折れてやがる。このガキ、ただじゃおかねぇ。散々に痛めつけてぶっ殺してやる!!まずはその両腕だ!」
右腕を折られた男は、怒りの表情で俺を見据えて迫ってくる。そして男が後ろ腰に手をやると、そこからギラリと炎の光が反射する短剣が。
(しまった!予備の武器がある可能性を忘れてた!)
奴らは腐っても戦闘のプロ。メイン武器がなくなった時の予備は持ってる可能性は充分に考えられた。
そんな後悔の念のなか、男が怒りの形相でこっちに迫ってくる。
今から立ち上がって逃げたところで、短剣を投擲されたりすればおしまいだ。
(どうする!?どうするどうするどうする!?考えろ!何か、可能性を考えろ!!)
周りの物や状況、相手の構えや武器、ありとあらゆる情報を全て可能性に変える。変えなければ俺は死ぬ!
(..........あれだ)
生き残る為の策を練る。だがもう時間がない。男がすぐそばまで迫っている。
悩んでる時間はない。
やらなければ、待っているのは死だ。
(やるしか........ないっ!!)
「ーーーッ!!」
俺は転がるようにして男の斜め横を駆け出す。男はまさか俺がここに来て動くとは思わなくて驚いている。そこがチャンス。
「ガキが調子に乗んじゃねぇぞ!!!」
男は短剣を掲げて走って来た。あれを振り下ろせば俺は確実に死ぬ。逃げる俺の背中に確実に刺さる。
だから、逃げない!
「っぁあああああああああああああああーーーーーッ!!!!」
「なっ!」
逃げると見せかけて、俺は反転。男に向かって駆けた。男もまさか逃げるんじゃなく向かってくるとは思わなかったようで、息を呑む。
そしてーーー
「ーーー【加速】ッ!!!」
前に跳躍すると同時に、【加速】スキルを発動。身体が見えない手に押されるように弾かれ、男の目の前に現れる。意表を突かれた男は目を見開くだけで反応できない。
俺はそれを狙っていた。そして見事に奇襲に成功し、俺は右手に持った剣を突き出した。
ザクッ
そんな音と共に手に持った剣の刀身が男の胸に沈んで行く。これはさっき男が落とした剣だ。
肉を断つ独特の感触があり、血が飛び散る。いつも鳥や豚なんかを捌く時と同じ感触なのに、俺はそれが気味の悪い感触だった。
「ぐぼっ........!ガハッ........!」
カランカランと男が持っていた短剣を地面に落とす。そして口から相当な量の血を吐き出した。
刺さった位置は少し左胸より。つまり心臓を捉えた。それでも男はまだ動くのか、死に物狂いの表情で俺を見る。
「て、めぇ.......!クソガキ、がぁ........!かん、たんに、終わると.......思ってんっじゃ、ねぇぞ.......!」
そう言って男が首後ろに手を持っていこうとする。まだ武器を隠し持っているのか、なんにせよこのままでは俺は反撃を喰らう。
だったら、殺られる前に殺るしかない。
「っぁあああああああああああああーーーーッ!!!」
「ぐがぁああああああああああああああああーーーーー!!!!」
グンッと持ち手を捻って無理やり剣で心臓を抉る。確実に息の根を止めるには、こうするしかない!
「あああああああああああああああああああああああーーーー!!!!」
目の前にある死の恐怖に、俺は絶叫して剣を深く突き刺す。
やがて、ガクンっと男が力を抜くと、俺に体を預けるようにして倒れた。
押しのけると男は全く反応せずその場にドサリと倒れる。ピクリとも動かず、まるで屍のよう。いや、正真正銘の屍に成り果てた男の姿がそこにあった。
「はぁ........はぁ......っ!」
荒ぶる心臓の鼓動と呼吸に、俺は肩で息をする。目の前には死体。........俺が、この手で殺した。
「はぁ、はぁ.........ダメだ。ここで倒れたら......」
ふらつく足を殴り、無理やり震えを止めて立ち上がり、男の胸に刺さった剣を抜く。
まともに手入れされていないのか、剣は刃がボロボロで状態もあまり良くないが、でも鉄の冷たい光は健在で、そこに赤い液体がたらりと流れる。
「.........お、おいイクス。その.......」
目の前で人が死んだことに怯えているのか、ゴーデンが俺に話しかけるのを躊躇っている。けど、今はそんなことどうでもいい。それよりもっと大事なことがある。
「ゴーデン、フィアたちはどこだ」
「お前まさか、助けに行くのか!?」
「ああ」
「敵うわけねぇだろ!たまたま一人倒したところで、まだ何人もいるんだぞ!?」
その通りだ。今回の敵は俺を子供だと侮って、腕を折られて冷静な判断ができていなかったから、意表をつけた。
けどいくら他の仲間も俺を子供だと侮っても、何度もそれが通用するわけがない。今回はたまたあ運が良かっただけに過ぎない。
だけど、
「だけど、俺は行く。フィアやティア、コーサやみんなを見捨てて逃げるなんて俺が許さない。それに........」
蘇るのはフィアの笑顔。ゴーデンに敗れた日、フィアは俺をカッコいいと言った。あの笑顔を守れるカッコいい自分になると、フィアに誇れるように。
「俺は、俺の誇れる俺の為に絶対にみんなを助ける」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ッ!」
変わり果てた村の中を俺は全力で走る。ゴーデンの話では襲撃して来たのはやはり山賊のようで、今は村の食料や燃料が保存してある為頑丈な食料庫と、村から少し離れた所にある教会の二箇所にみんなは避難しているらしい。
ゴーデンはこの村の襲撃と救援要請を山を越えたところにある少し大きな都市に伝えるよう、ゴーデンのお父さんに頼まれたらしい。その途中運悪く巡回していた山賊の一人に見つかったのだとか。
そしてフィアたちは食料庫と教会のどちらに避難しているのかわからないが、ゴーデンは食料庫から逃げ出したらしく、その時食料庫にはフィアたちはいなかったらしい。
そうなれば残るは教会だけ。教会にはカーフおじさんがいる。カーフおじさんはランクSの【光魔法】の魔法師。昔は魔法教会でも一流の腕だったらしく、カーフおじさんのところにいるなら少し安心だ。
「無事でいてくれ、みんな......!」
火の手が邪魔で思うように進めなかったが、ようやく教会に続く道が見えた。ここまでくれば教会まですぐーーー
「フィアおねぇちゃんッ!!」
「ーーーッ!?」
涙声の子供の悲鳴。それがフィアの名前を呼ぶ。
俺はバッと声の方へ振り向いた。
その先では黄金色の髪を熱風に遊ばせ、然と両手を広げて大男の前に立っているフィアの姿。
見ればフィアの後ろにはティアとユウ、そしてユウのお母さんが倒れている。ティアとユウがユウのお母さんに抱きつくようにして庇っており、それをさらに庇うようにフィアが大男の前に立っているのだ。
さらに奥には塀に寄りかかるようにして倒れているコーサの姿もある。
「フィア!ティア!コーサ!ユウ!」
俺は叫ぶが、聞こえていない。ここからフィアたちまでは100メートル以上離れている。ましてやあたりは喧騒に包まれているから聞こえないんだ。
そんな中、大男が背中に手を回し持ち出した。
1メートル以上はある大きな斧。刃の輝きはさっきの男の剣より数段輝いている。
そんな凶悪な斧を大男は両手でゆっくりと振り上げる。
ダメだ。
「やめろ.......」
俺は走って手を伸ばす。届かないとわかっていても、その現実を認めたくなくて、足掻くように走り、手を伸ばす。
けど、その願いは届かず、鉄の輝きは振り下ろされた。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーッ!!!!!!!!!」
『目覚めたかい』
その声が聞こえた瞬間、世界が止まった。炎も、風も、大男も、フィアも、全てが止まっている。
『本当はもう少し後に目覚めるんだけど、どうやらそうも言ってられないらしいね』
頭に直接響く声。
誰だ。お前は一体。
『ひどいなぁ。忘れるなんて。もっとも、そうしたのは僕なんだけど』
何を、言っている。とにかく戻せ。俺はフィアを。
『戻してもいいけど、それだと彼女は助からない。今のままじゃ彼女は死ぬ』
うるさい。俺は何が何でもフィア。
『待つんだ。言ったろ?今のままじゃ、彼女は助からないって。そう、今のままではね』
何が言いたい。
『君は知っている彼女を助ける方法を。自分の、可能性を』
だから、何を!
『思い出したまえイクス・アーラス!』
刹那、俺の中に膨大な情報が流れ込んで来た。膨大過ぎでなんの情報なのかごちゃごちゃで理解できない。
だけど、一つだけ理解ができたことがある。いや、俺はすでに知っているんだ。
『さぁ!その力で、世界を!全てを!ーーー加速させろ!』
そして世界は動き出しーーー
キィイイイイイイイーーーーンッ!!
「なにっ!?」
甲高い金属の音が響き、俺の目の前で驚きの声を上げる斧の大男。
振り下ろされた斧は俺の剣の坂によって滑り、俺の真横に落ちて地面を抉った。
「ちっ!お前!一体どこから現れた!」
突然目の前に現れ、斧を逸らした俺を警戒して、大男はその巨体に見合わず素早い動きで後ろへ飛んで距離を取る。
そして、後ろから聞きたかった人の声が俺を呼んだ。
「イクス!」
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コメント
ノベルバユーザー304999
タイムアルターみたいなのかな?(自分を超加速させ時間の流れよりも早く思考、動くことで回りが止まっているように見える)
ナナシ
アクセルワールド
ダンまち好きだ~!!!!(特に疾風)
かっけーな