加速スキルの使い方!〜少年は最速で最強を目指す〜

海月13

俺のスキル

この世界には生まれると一人につき一つのスキルが与えられる。

戦士系だと【剣術】スキルや【槍術】スキルなんかがあったり。
日常系だと【農耕】スキルや【料理】スキルなど、人は何かしらスキルを持つ。しかしその中に役に立たないスキルがある。

それは【加速】スキル。

【剣術】スキルは剣の扱いが上手くなる。【農耕】スキルは作物が育ちやすくなる。しかし【加速】スキルはただ速くなるだけ。

こんなスキルは役に立たない。ただ速く走りたいのなら馬にでも乗ればいい。

スキルで職業を選択する世界でこのスキルで活躍できる職業はない。

だから【加速】スキルは使えないクズスキルと言われる。

こんなスキルで何ができる。こんな役立たず。

そう思っていた。

あの日、【加速】スキルの可能性を見つけるまでは。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

重い。何かが俺の上にあるようで、その重さで目を少し開ける。

「兄さん。起きてください兄さん」

そう言って来たのは俺の妹のティア。肩まであるさらさらの綺麗な金髪が眩しく、大きな瞳はくりっとしていて可愛らしい。歳は9歳で可愛さの中にもちゃんと美しさもあり、身内びいきを除いても文句なしの美少女といえるだろう。

そして俺はティアの兄のイクス。ティアと同じ金髪で顔もまぁまぁといったところ。よくもまぁこんな兄にこんな可愛い妹がいるよなと不思議に思う。

「ん、..........おはよティア。今日も元気だな。あと重い」

「女の子に対して重いとはなんですか!そんなこという兄さんには村中に『兄さんは妹と一緒じゃないと寝られない』と言いふらしてやります!」」

「悪かっただからそれだけはやめてくれ......!」

そんな事を言いふらされては村で生活できない。第一たまに一緒に寝るのだってティアの方から入ってくるのに。

「ほら!早くおきてください!今日は大切な『選定』の日です!」

「て、やばい!そうだった!」

ティアに言われてすぐに俺はベットから飛び起き服を着替える。その際ティアが熱にうなされたような目でこちらを見ていたが今はそれどころではない。

選定とは15歳を迎えた子供が、その身に宿る一つのスキルに目覚めるための儀式だ。
これによって俺の人生がほぼほぼ決まると言っていい。

男なら騎士には憧れ、やはり【剣術】なんかのスキルが欲しい。
そんなスキルでなくとも、俺は料理も好きなので【料理】スキルや、【栽培】スキルなんかの日常で役に立つスキルでもいい。

とにかくそんなスキルに心が躍る。一体俺はどんなスキルがあるんだろうか。

「よし!着替え終了!悪いティア、メシを食ってる時間がなさそうだ。帰ったらちゃんと食べるよ!」

「あ!兄さん!また窓から!!」

そう言い残して窓枠を蹴り、二階まで届く大きな木に飛び乗り、そのままスルスルーっと着地。

全速力で村の教会に急ぐ。

教会続く道を走ってると、隣の家のネスばぁちゃんが畑から声をかけてきた。

「おや、イクス。もう他の子らは集まってるよ?」

「マジ!?やばい!いそがねぇと!!またね!ネスばぁちゃん!」

「あらあら、ふふふっ、気をつけるんだよ!スキル、あとで知らせにおいで!」

「わかった!」

ネスばぁちゃんに元気よく返事して俺はすぐに走り出す。
息が荒くなってきたが、これからの事を思うと苦しいどころか爽快感が込み上げてくる。

(ようやく待ち望んだ選定の日だ!これで俺も立派な大人になれる!父さんみたいな立派な騎士に!)

期待に身を任せひたすらに走る。するとようやく教会が見えてきた。

教会にはもう二十四人の子供が集まってる。

俺は急いで教会に走り込む。

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ........な、なんとか、間に合った......」

「よう、イクス随分と遅かったな?またティアちゃんに起こされたんだろ?」

俺が荒い呼吸を繰り返してると、幼馴染の男コーサがやってきた。そしてまたとか言うな。

「それはそうとよイクス!ようやくこの時がきたな!」

「ああ!どんなスキルがあるかな?」

「俺は戦闘系スキルが欲しいな。イクスもだろ?」

「父さんみたいに【剣術】スキルか、戦闘全般で便利な【体術】スキルもいいな」

「まぁ、イクスは多分【剣術】スキルだろうなぁ〜。お前の父さんメチャメチャ強いしな」

父さんはこの村の自衛団の一人で、村一番の剣士。昔は王都の騎士団にいたという話だ。

スキルは個人によって様々だが、親のスキルを受け継ぐことも多くある。その辺は研究されてるらしいが今のところよくわかっていないらしい。

まぁそんな分からないことより今は目の前の選定が重要だ。この選定で俺の人生が決まるのだから!

「おはようみんな。よし、全員揃っとるな、それじゃあ一人づつ入ってきてくれ」

神父のカーフおじいちゃんの号令で一人づつ中に入って行く。俺は遅れたので最後らしい。

そして一人目の男子が入って行って、5分くらいしたら喜びの声を上げながら出てきた。自分が欲しかったスキルだったみたいで、その場ですごくはしゃいでいる。

「すげー喜んでるな。まぁ当然っちゃ当然か」

「くそーっ、遅刻なんかするんじゃなかった。俺も早く知りたい!」

「ははーん!残念だったなイクス。俺は5番だ」

「くそぉおおーーー!!」

1人5分だとして、24人いるから合計で2時間待たないといけない。くそうっ、周りでみんなのスキルを見ながら俺は2時間も待たないといけないのかよ。コーサ許すまじ。

そうこうしているうちに続々と全員のスキルがわかってくる。大体は喜んでいるが、中にはあんまり嬉しそうじゃない奴もいる。欲しかったスキルじゃなかったみたいだが、それでも初めての自分のスキルに素直に喜んでいる。

「よっし!それじゃあ俺の番か!行ってくるぜイクス!」

「おう!行ってこーい!」

コーサの番がやってきて、意気揚々とコーサが教会に入って行く。

俺はそんな後ろ姿を眺めながら、2時間もあるので取り敢えず木陰の草原に寝転ぶ。

風が心地よくて、寝坊して睡眠たっぷりなはずなのに眠気が襲ってくる。

「ふぁ〜.........暇だな......」

うーん、コーサがいなくて暇だ。5分くらいで戻ってくるけどでも暇だ。

なんて考えていると、頭上から聞き慣れた声が。

「寝坊したのにまだ寝るの?」

「なんだフィアか」

「なんだとは何よ失礼な」

そう言って上を見ると、黄金色の髪の少女と目が合う。

彼女の名前はフィア。俺の幼馴染で、稲穂のように綺麗な黄金色の髪に、エメラルドグリーンのパッチリとした目。体型も出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる正直言って将来美人になること間違いなしの美少女だ。

そんなフィアはその整って顔を寄せて綺麗なエメラルドグリーンの瞳で俺の瞳を覗き込む。俺は少しドキッとする。

「もう、暇だからお話しようとしたのに。寝ちゃダメ!」

「うるせ〜俺も暇だから寝るんだ〜.......おやすみ」

「あっ!もう!」

フィアが何か言ってくるが無視無視。今は睡眠こそ至高。

と、目を閉じるとフィアが何やらごそごそしている。

一体何をやってるんだと思ってうっすらと目を開ける。

そして飛び込んできたのはーーーフィアの太もも。

「っ!!??」

スラリとした、しかし程よく肉つきの良い太ももに思わず目を奪われる。そしてその上の絶対領域は微妙にスカートが邪魔して覗くことのできない。

「ちょっ!おま、何やってんだ!?」

「ふ、ふふふっ、や、やーいイクスのへんたーい。そ、そんなに気になる?」

“見えそうで見えない”という状態を作り出したフィアはそう得意げに挑発してくる。けどその顔は恥ずかしいのか赤くなっている。恥ずかしいのならやらなければいい。

「お前他の奴が見てたらどうする気だ!?」

「ちゃんとイクスにしか見えないようにしてるもん」

他の奴らは反対側の草原で喋ってるし確かにこれなら見えない。

「だけどな、もしなにかあったらーーー」

と言葉を続けようとしたところで、ブワッと風が頬を撫で、フィアのスカートを捲り上げた。

「ーーーーーッ!!」

突如のスカート捲りにボッと顔を赤くするフィア。しかし俺はその顔を見ることはなく、自然とそのスカートの中に視線がいく。

そして目に飛び込んできたのは、真っ白な逆三角形と、ーーーしなやかな右足。

ゴスッ

「ぎいやぁあああああああああああああああーーーーーっ!!!!」

純白のパンツが見えた瞬間、顔面にとんでもない衝撃が走る!

「イクスの変態!!!」

「理不尽っ!!どう見ても不可抗力だろ!!」

「う〜〜〜っ!!うるさい!イクスが私の下着を覗いた!!」

「誤解だっ、『グボッ』ぬぉおおおおおおおおおおおお!!!」

顔面がっ!ひび割れるような衝撃がっ!!

悶絶する俺にフィアは容赦なく足を落としてくる。こいつ人か?

俺の悲鳴と断末魔に他の連中が何事かとこちらを向く。しかし俺はそんなことを気にしている余裕はない。なぜなら現在進行形で命の危機に瀕しているからだ!!





その後フィアも落ち着いたのか、衝撃が襲ってこなくなる。俺は目の前が明点する世界でどうにか景色を見ると、フィアが横に座っていた。

「..........おい、なにしてくれやがる」

「ご、ごめんなさい。イクスに見られたのが恥ずかしくて、つい」

つい、で俺は殺されかけたらしい。世の中もう少し命を大切にすべきだと思う。

「はぁ、とにかく今後こういうことするなよ?俺じゃなかったら死んでたぞ」

「.........イクス以外にこんなことしないもん.......」

「ん?なんだって?」

「うん!ごめんなさい!二度とこんな恥ずかし真似しない!」

「お、おう」

なんだか分からないが反省してくれたならまぁいいだろう。にしても下着をチラリと見ただけでこの仕打ちとは.......

『いよっしゃあああああああーーーーーー!!』

おっ、どうやらコーサが終わったらしい。教会の中からすげー声が響いてくる。

そしてバタンッ!と教会のドアが開きコーサが俺達の方に向かって一直線に走ってくる。

「やったぜ!イクス、フィア!!戦闘系スキルだった!」

「おぉ!!やったじゃん!」

「おめでとうコーサ!」

「それでなんだったんだ?」

「おう!今見せてやる!」

そうしてコーサがある言葉と共に右手をバッと払う。

「ーー“ステータス”!」

その瞬間コーサの目の前に半透明の板が現れる。

ステータス、これはその人の能力を数値化したもので、『選定の儀』を終えることによって開くことができる。

コーサはそのステータスが書かれた板、ステータスプレートを俺達に向けて弾くと、俺達の前にステータスプレートが移動してくる。

そこにはこう書いていた。



名前:コーサ・マルフェス
年齢:15
性別:男

筋力:60
体力:50
俊敏:50
耐性:50
魔力:50

先手性スキル
【拳闘術A】

後天性スキル
なし



これがステータス。ステータスは筋力・体力・俊敏・耐性・魔力の5つが表示され、能力値以外にも名前や年齢などの個人情報も表示される。

もっともステータスは自分しか見えず、相手に見せようと思えば思った相手にだけ見えるように可視化できる。

そして能力値以外では二つ。

それはスキル。

スキルには二つ種類があり、一つは先手性スキル。もう一つは後天性スキルだ。

後天性スキルは後から修練することで習得するスキルで、スキルにはH〜Sまでのランクがあり、後天性スキルはどれだけ経験値を積み重ねてもCランクまでしか上がらない。

逆に先手性スキルは、生まれた時点で持ったスキルで、このスキルで人生の道が決まるよ言っても良い。

なぜなら先手性スキルは最初からBランク、稀にAランク、そして本当に希少なSランクと努力では届かない領域にあるからだ。

BランクとCランクの壁は大きく、同じスキルでも先手性と後天性では全く別次元のもの。

だから先手性スキルで【剣術】スキルの人は騎士に、【料理】スキルの人は料理人にと言った具合に、スキルでその人の人生がほぼほぼ確定するのだ。

そしてコーサはAランク、しかも【拳闘術】という戦闘系スキルの中でも強いスキルだった。

「凄いじゃないか!これなら騎士団入団も夢じゃないぞ!」

「やったねコーサ!」

「へへっ!まぁな!」

予想以上の結果にコーサは大満足のようで、何度もステータスを見ている。

今のところランクAはコーサだけだ。くそぅ、ランクAとか羨ましい........。

「早く二人のステータスも見せてくれよ!」

「待ってろよ、必ずランクA以上の戦闘系スキルを引き当ててやる......!!」

「私は【栽培】スキルが欲しいなぁ〜。綺麗なお花とか美味しい野菜を育てたい」

フィアが【栽培】スキルか........。案外似合ってるかも。

そんなこんなで三人で少し駄弁っている。すると少ししてからかフィアの番がやってきた。

「じゃあ行ってくるね!」

「「行ってらっしゃい!」」

俺とコーサで送り出してやるとフィアが教会に入って行った。



ーー5分後、俺とコーサが腕相撲しているとフィアが帰ってきた。その顔はあまり浮かない表情だ。

「.........【栽培】スキルじゃなかった」

「あぁ、まぁそういうこともあるさ。それに【栽培】スキルはそこまで習得に苦労するスキルでもないから後天性スキルで手に入れればいいじゃないか。それで、先手性スキルは何だったんだ?」

「ステータス」

そうしてフィアが見せてきたのは、



名前:フィア・マグナリア
年齢:15
性別:女

筋力:40
体力:40
俊敏:40
耐性:50
魔力:100

先手性スキル
【水魔法S】

後天性スキル
なし



「「ら、ランクSッ!?!?」」

俺とコーサは同時に叫んだ。

「お、おまっ、何でこれで落ち込んでるんだ!?ランクSだぞ!?」

「だって、栽培スキルじゃないし」

「だってじゃないだろ!?ランクSの魔法系スキルとか宮廷魔法技師団や教会の神官にだってなれるぞ!?」

「私はゆっくりここで野菜とか育てていたい。私暴力苦手だし」

さっき俺の命を断とうとしていたのは誰だっただろうか?

でもそれを指摘したらまたグーが飛んできそうなので心にしまっておこう。

おっと、そうこうしていたら周りのみんながフィアのスキルを聞いて集まってきた。

ランクSは千人に一人くらいの確率で、この村でランクSのスキル持ちは神父のカーフおじさんと父さんしかいない。なのでみんな相当羨ましそうにしている。
けど本人は不服そうだがな。

「ほらほら散れ散れ。フィアが鬱陶しそうにしてるだろうが」

「へいへーい。みんな戻ろうぜー旦那が切れるぞー」

「誰が旦那か!!」

よくフィアと遊ぶからかよくこうやって茶化される。

「まったく、いい加減にしろっての。俺がフィアと結婚とかありえないだろ。な?フィア」

「.............そうね!わ、た、し、となんかありえないわよね!ふんっ」

そう言って怒って頬を膨らませてそっぽを向くフィア。フィアと俺じゃ俺がフィアの容姿に釣り合わないだろって意味だったのに、なぜ俺が怒られる.......

にしてもコーサは戦闘系のランクAでフィアは魔法系のランクSか、くぅううう!羨ましいっ!絶対に俺もランクSを当ててやる!!

そう、その時の俺はそう思っていた。

その後に起こることも知らずに。













「それじゃあ最後にイクス。お前で最後じゃ」

「よっし!」

長いこと待ってようやくやってきた俺の番。
自然と高揚する心臓の音と共に教会の中に入る。

「そこの魔法陣に入って少し待て」

杏壇の前に来ると、そこにステンドガラスを抜けた鮮やかな光が照らす魔法陣が描かれている。

いよいよだ。いよいよ俺のスキルがわかる!

俺は魔法陣に足を踏み入れ真ん中に立つ。

「それじゃ始めるぞ」

カーフおじさんが大きな本を持ってページを開き、いくつかの言葉ーー魔法を使うためのスペルーーを唱えると、途端に魔法陣が美しい白銀に光りだす。

すると途端に俺の中に白銀の光が流れ込み、身体中に力が湧いてくる。

そしてそれはあっという間に終わり、気がつけば5分経っていた。

「これで終了じゃ。さぁ、イクスよ。心の中に念じ、唱えるのじゃ」

「わかったよ、カーフおじさん」

目を閉じてカーフおじさんに言われたように心の内側に意識を向けると、右手に魔力の流れが感じ取れる。

さぁ、行くぞ

「ーー“ステータス”!!」

右手を振り、現れたステータスプレートを覗く。

そして........



名前:イクス・アーラス
年齢:15
性別:男

筋力:50
体力:50
俊敏:60
耐性:50
魔力:60

先手性スキル
【加速EX】

後天性スキル
なし



「...............................」

思わずフリーズする俺。

たっぷり待ってようやく、


「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああーーーーーー!?!?!?」

そう叫んだ。

その日俺は先手性スキルでクズスキルと呼ばれる【加速】スキルを手に入れたのだ。




コメント

  • ノベルバユーザー304999

    EX....音速か光速かな

    1
  • 蒼羽 彼方

    新しいの始めたんですね!
    魔術のほうが更新されなくてやきもきしてたけどこっちも楽しみにしてます!

    2
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