スクールクエスト!

キズミ ズミ

16話 『秘密の隠れ家と同居人』






 慶稜けいりょう学園、本校舎1階の廊下を1人、歩いている。

 既に陽はすっかり落ちて窓の外は暗く、遠くに見える学生寮の明かりだけが目立っていた。

「ーーーーーーー」

 部室を出た時、時刻は21時30分だったのを覚えている。

 従来の人事部の最終活動終了時間はちょうど21時半(寮生じゃない部員は20時)と定められているので、実際この時間はオレ、つまり人事部副部長にしてみれば定時のようなものなのだが、今日はどうにも疲れていた。

「ーーーーーーーーー」

 目的の空き教室につき、スライド式のドアをガラリと開ける。カギはかかっていない。というかこの教室にカギがかかっている事自体まずもって見たことがない。

 机やイスが教室の後ろの方でまとめられているので、全体的に物寂しい様な雰囲気の教室に入り、まっすぐ教室の隅に向かう。

「ーーーーーーーーー」

 真っ暗な教室を勝手知ったる顔で歩むと掃除用具入れの前で立ち止まり、トビラを開けた。

 掃除用具入れの中は空っぽで、何の変哲もない長方形のハコだった。ただ一つ、内部の側面、入って右脇のところに、ドクロマークのボタンがある以外は。

 一見すると自爆ボタンを想起させる趣味の悪いデザインのボタンだが、正味オレくらいしか使わないので別に誰にはばかる事もない。

 オレは黙したまま、掃除用具入れに入り、ドアをパタリと閉めた。

 いつものルーティンとして、というか手段として、オレはためらいなくドクロマークに圧をかける。

 リンゴーン、とデザインとは似つかない高級マンションのインターフォンの様な上品な音を立てて、果たして掃除用具入れの床は抜けた。

 体が上へと引っ張られていく不思議な感覚はエレベーターで下の階に行くのと同種のもの。なんなら、そのものだった。

 オレは階下に降りていき、ピタリと止まるとベルがチンとなって、眼前のドアのスリットから光が漏れた。

「ーーーーーーーーーー」

 ガチャリ、とドアを開けてまばゆい光に目を細め、真正面の少女と目があった。

「ずいぶんと遅いお帰りだね。キミを待っている間にボクは何回ご飯を温め直したか。キミもレンジに入って食べ物の気持ちを味わってみるべきじゃないかな?」

 眼前の少女は開口一番、皮肉げにオレを迎えた。

 白銀の髪を腰まで伸ばし、オレを咎める様な目はルビー色で大きく、どこか据わっている。

 格好は年頃の女子にしてはいささか大胆で、上下揃いのスポーツブラしか身につけていない。

「すまん、花野光ヶ丘けのひかりがおか。人間はレンジでチンされるとただじゃ済まなくなるから勘弁してくれ」

「まったく、こんな時間まで夕食をお預けされるボクの身にもなって欲しいね。夜9時以降に食べると太るらしいんだぜ?」

 ケノヒカリガオカは透けるように白い体をどこか抱くようにして唇を尖らせた。ルビー色の瞳はオレに謝罪とお詫びを要求している。

「悪かったよ。今日は色々あってバッチリ最後まで部活をやらなきゃいけなかったんだ。着替えてくるから、ちょっと待っててくれ」

 そう言ってオレはケノヒカリガオカの横を通り過ぎて自分の部屋に向かった。


















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