高校で幼馴染と俺を振った高嶺の花に再会した!

御宮ゆう(ミーさん)

38.緊張

「みんな、ウォーミングアップお疲れ様。あと五分でハーフタイムだから、今からコートに移動します」

 戸松先輩の宣言と共に、部員の空気が引き締まる。
 今日の雰囲気は明らかにいつもと違っていた。
 千堂高校。
 今日の試合会場は県大会常連校である本拠地。
 ここまで勝ち上がってきた高校は、今まで北高が練習試合もしてこなかったような学校ばかりだ。
 体育館の外で軽い走り込みなどのウォーミングアップをしている最中、会場からは熱気に包まれた応援などが響いていた。
 もう準決勝なのだ、当然である。
 今日は準決勝に進む四校がこの千堂高校に集まっており、計二試合が組まれている。
 北高はその二試合目であり、今から一試合目のハーフタイムの間にシュート練習などをするところだ。

「みんな、緊張しすぎ、ほらリラックス!」

 戸松先輩が持ち前の笑顔でニッコリするが、その笑顔もどこか無理をしているように思えた。
 その横にいる藍田でさえ、表情が僅かに堅い気がする。
 みんながこんなにも緊張しているのは、何も相手が強豪校だからということだけじゃない。
 北高は元々、結果を出す部活以外は二年の冬で引退するという方針をとっている。
 そんな中戸松先輩らがバスケ部を三年間続けさせてほしいと頼んだところ、冬の大会でベスト4に入れば良しという条件が出された。
 ……夏の大会について、何も触れられてはいないのだ。
 既に北高男子バスケ部は、この大会でベスト4という結果を出している。
 だがこの大会について何も触れられてない以上、条件を満たしたかは確実ではないというのが部の見解だった。
 そもそもここまで勝ち上がるまで強豪校と当たらなかったのは運としか言いようがないし、この準決勝で負けてしまえばそれを理由に決定は見送られてしまうかもしれない。

 だが、強豪校を倒した上で決勝に行ったならどうだろうか。
 文句が言われる隙間もなく、主張が認められるに違いない。
 そのことを、ウォーミングアップ前に再確認し合ったのだが。

「絶対忘れてたほうがよかっただろ……」

 思わずそう呟いた。
 選手全員、特にスタメンがガチガチだ。
 タツでさえいつもの能天気さが影に隠れ、藤堂に至っては顔が青ざめている。
 清水主将と田村先輩も落ち着かない様子で、このままでは良いプレーができるはずもない。
 試合に適度の緊張は必要だが、こうもガチガチではボールを取ることさえ難しくなる。
 このハーフタイムで身体を動かし、少しは緊張をほぐせればいいのだが。

「藤堂、緊張しすぎ」

 思わず話し掛けた。
 同じ一年生だし、せめて二人の緊張くらいほぐしてあげたい。
 すると藤堂より先にタツが反応した。

「桐生いつも通りだなー、やっぱこういうの慣れてんの?」
「いや、まあ」

 慣れている。
 中学の頃は大会に出るたびに県大会には行っていたし、あの頃の俺は地区大会を練習試合くらいにしか思っていなかった。
 準決勝、決勝は少しスリルがある程度の練習試合。
 だが、あの頃と今は違う。

「緊張してるよ。何せ色々賭けられてる試合だしな」

 チームの勝利。
 それが第一となった今の俺にとって、勝利は以前より遥かに重要なものへとなっていた。
 しかも俺は今、エースを任されている。
 慣れないプレッシャーが多々あるのは事実だ。

「桐生でも緊張するんだ。ちょっと安心したわ」

 藤堂は堅い表情だったが、少しだけ笑った。
 三人の間にあった、張り詰めた雰囲気が緩む。

「当たり前だろ、上手く隠してるんだよ俺は」
「はは、じゃあ俺も上手く隠さねえとな」
「藤堂は足が速いし、誰よりもコートを走り回れる。その足があれば、絶対負けねえよ」
「おう、任せな」

 そう返事をする藤堂は、緊張しながらも闘志を感じさせる声色だった。
 これでハーフタイムに身体を動かせれば、普段通りのプレーを出来そうだ。

「桐生、俺は?」

 そう言うタツの顔は既にニコニコ笑っており、先ほどの緊張はどこ吹く風だ。
 先ほどの神妙な面持ちは、大方雰囲気に充てられただけなのだろう。

「知らね、ディフェンスじゃね」
「適当かよ!?」
「ははは、タツお前桐生に嫌われてるんじゃねえの」
「なわけねえだろ、桐生は俺のこと大好きだぞ!」

 タツは藤堂の言葉を否定すると、俺目掛けて突進してきた。その勢いに思わず鳥肌が立つ。

「よ、寄るな気持ちわりい!」
「ほら嫌われてる!」
「おい桐生裏切ったなお前ーー!」
「うっせえ、タツお前怖いんだよ!」

 ギャーギャーと一年生で騒いでいると、先輩たちがびっくりしたように近づいてきた。
 藍田は一連の流れを見ていたのか、クスクス笑っている。 

「なんだなんだ、気でも触れたか!」
「ちょ、主将聞いてください! 桐生が俺のこと嫌いだって!」
「おわっ、寄るな近い!」
「ぎゃー!」

 清水主将に顔面を掴まれたタツが悲鳴を上げる。
 その輪に田村先輩をはじめとする選手たちが入り、笑い声が起き始めた。

「ちょっと、ちょっと! 試合前に遊ばない、何やってんの!」

 戸松先輩が手を鳴らしてみんなを止めた時には、ほとんどいつもの雰囲気に戻っている様だった。 

「桐生くん」

 戸松先輩たちを眺めていると、藍田が声を掛けてきた。
 上は半袖、下はジャージをロールアップをしていて、蒸し暑くなっているこの時期の長ズボンは些か暑そうだと思う。

「ねえ、桐生くんてば」
「暑くない?」
「え?」
「熱中症になるなよ」
「え、うん、ありがとう」

 藍田は少し驚いた様子で礼を言う。
 心配されたことが意外だったようだ。

「……あ、そうじゃなくて。桐生くん、今日の試合のことなんだけど。千堂高校は、十中八九桐生くん一人を抑えればウチに勝てることを分かってると思う」
「まあ、ここまでくれば当然そうなるかもな」

 俺が抑えられても、他の四人のことを信じる。そんなことを言えば格好いいのかもしれないが、綺麗事だ。
 俺が抑えられたら千堂高校には絶対勝てない。
 俺はそのことを知っているし、無論チームも分かっているだろう。
 千堂高校に勝つには、俺のプレーが千堂高校にどれだけ通用するか。それにかかっている。
 そして俺は、1on1ならば遅れを取らない自信があった。

「だからね、もし千堂高校が桐生くんを止められないと判断した時。確率は低いかもしれないけど、桐生を潰してくるかもしれない。だから気を付けて」
「いや、それは多分大丈夫だって。強豪校がそんなチャチな真似しないよ」

 軽く笑いながら言うと、藍田は首を振った。

「ううん、万が一があるかもしれない。又東高の時みたいに、あの時注意しておけばよかったなんて思いたくないから」

 藍田は真剣な面持ちでそう告げる。
 その様子を見て、先週藍田が珍しく落ち込んでいたことを思い出した。
 自分の注意不足で俺が怪我をした。俺が否定したにも関わらず、藍田はずっとそう思っていたのかもしれない。
 腕は五日程度で完治して、試合前の練習では全力のプレーも試したがそれも全く問題ない。
 腕のことを伝えると、藍田は微笑んだ。

「そう。良かった、痛まないかずっと心配してたから」

 今の言葉はマネージャーとしてのものか、それとも彼女としてのものだったのか。
 そんなどうでもいいはずのことが、頭をよぎった。

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