【実話小説】出会い系シンドローム

ヒロ先生

第5章:キスと温もり

情けない話だが・・。

それまでキスを経験した事がなかった僕は、逆さまに見えるお姉さんの顔が近付いて来て首しか見えなくなるその状況が全く飲み込めずにいた。お姉さんはそんな戸惑う僕の事をあざ笑うかのように、次々と僕が経験した事の無い事を仕掛けてくる。

明らかに楽しんでいるようだった。

お姉さんの温かくて柔らかい舌が僕の唇を掻き分けるように差し込まれ、まるでパートナーを探すかのごとくゆっくりと口の中を動き回った。狭い中で逃げられる訳もなく、僕の舌を捜し当てると、さっきまで柔らかかったはずの舌が急に硬くなり、執拗に掻き混ぜるように絡めて来たのだ。
それは例えるならばミルクを注いだコーヒーを混ぜるスプーンのように、縦に動かし円を描くように表裏を変えて入念に、何度も。

キスってこういう風にするものなのか。

暫く状況が飲み込めなかった僕だったが、この執拗な「舌の絡み付く動き」を感じている間に段々と我を取り戻し、自らの感覚を理解するようになっていた。

視覚はほとんど奪われている。見えるのは顎首のラインのみ。触覚は舌が全て。嗅覚はシャンプーと思われる女性特有のいい香りが支配してる。

五感のうち三つをこの目の前の人に奪われているのだ。

残された聴覚は、うっすら聞こえたテレビの無意味な(少なくともその時の僕には)会話を拾っていた。そのとき、ふとお姉さんの舌の動きが止まった。

唇を離したお姉さんは、残った聴覚をテレビの雑音に占領させてなるものかとでも言いたげに、新たなターゲットに僕の耳を選んだのだ。

軽く耳たぶをペロッと舐めた後、さっきより更に硬く一段と細くした舌先を僕の耳へ差し入れてきた。一瞬で全身の毛が逆立つようなゾクゾクとした感覚に襲われ、急激に体温が下がった僕の耳を、今度は少し高めの温度で柔らかい舌が耳穴を構わず攻めてくる。

感覚を研ぎ澄ます為には温度差があるほうが人は敏感になるという事を身をもって教わった。これが後の僕の性経験の成長に大きく貢献する事になるとはこの時思いもしなかったが。

次の瞬間、恐らく生音で聞いたのは初めてと思われるいやらしい擬音と声が耳の中全体に響いた。

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