クロノスの森

九九 零

1話「少年の家族」



魔王が殺され、忌み子としてクロノスの森に捨てられた少年の名は”佐藤(サトウ) 正木(マサキ)”。

大昔に勇者として召喚された少年です。

しかし、彼はクロノスの森で出会った家族達・・・に”シロ”と呼ばれています。

それでは、彼の家族を紹介しましょう。

『オイ、飯ハマダカ?』

人語を話す狼の形をした金属ーー”ポチ”。
一見、狼のように見えますが体表には毛の一本もなく、元は綺麗な銀色だった金属はくすんで灰色のようになり、中身の精密な機械が丸見えになっています。

「妾も腹が減ってるのじゃ」

いかにもな魔法使い風の黒い服装を着た幼女ーー”クロ”。
机に突っ伏して、椅子に座ると床まで届かない足を宙でバタバタとさせて退屈を全身で表現しています。

彼女の双眼は金色に輝き、黒い髪は机から床に垂れ下がり、もしも彼女が普通に歩く事があれば半分程を長い髪を引きずって歩く事になるでしょう。

『オデ、ニク、クウ』

床からニョキッと生えた肉の塊のような触手ーー”オデニククウ”。

床を構成する板の隙間から生えている一本の触手ですが、どこから声を発しているのか、口や耳の類はどこにも見当たりません。

一人…いいえ、一匹として同じ種族の者は存在しませんが、彼等三人が少年の家族です。

この場にいる全員が魔王の被害者であり、この地で生き抜く為に手を取り合った家族なのです。

「そもそも、ポチはなぜシロ一人で狩りに行かせたのじゃ?」

『アイツガ一人デヤルト言ッタカラダ』

「碌に薪割りすら出来ないシロ一人で行かせるのはおかしいのじゃ」

『オデ、ニク、クウ』

『ナラバ、オマエガ付イケバイイ』

「妾は夜しか行動ないのじゃ。忘れたのか?吸血鬼なんじゃぞ?太陽の光に当たったら死んじゃうのじゃぞ?」

『二日前ニ、太陽ノ下デ水浴ビシテイタ』

「そ、それとこれとは別じゃ!と、兎に角!シロは弱いのじゃ!ちゃんと見ておかなければ、コロッと死んでしまうのじゃ!何の為の役割なのじゃ!?」

『オデ、ニク、クウ』

『ウルサイゾ、オデ。少シ黙ッテロ』

『オデ…ダマル…』

『確カニ役割ヲ決メタ。オマエガ夜。オイラガ昼』

「じゃろ?だから、ポチは今すぐにシロを見に行くべきなのじゃ!」

『……分カッタ』

「くれぐれもシロを死なせるでないぞ?アヤツは妾達にとって必要な存在なのじゃからな」

『分カッテイル。死ンデイレバ連レ帰ル』

「蘇生させるのは大変なのじゃぞ…?」

『行ッテクル』

『………』

不貞腐れるクロと何か言いたげに蠢くオデニククウに見送られ、ポチはシロの元へと向かいます。

そして、程なくしてポチは戻ってきました。

「どうした?忘れ物か?」

『違ウ。シロガ飛ビ立ッタ』

「……どう言う事なのじゃ?」

『シロガ飛ビ立ッタ』

「はぁ…オデ、知っておるか?」

『オデ、シャベッテイイ?』

「うむ」

『シロ、トリ、ツカマッタ』

「うむ?」

『シロ、トオク、イッタ』

「む…?……の、のじゃあああぁぁぁぁっ!?」


ーーー


鳥に連れ去られてしまったシロは、散々泣き喚いた挙句、頭を掴まれたまま疲れて寝てしまっていました。

大空を舞い、海を越え、山を越え、どこまでも飛び続ける赤く燃える翼を持った怪鳥。

一体、彼を連れてどこまで行くと言うのでしょうか?

そんなこんなで数時間が経ちました。

「……へ?へああぁぁぁぁぁ!?高イィィィィ!!」

どうやら、シロが起きたようです。

目下に広がる広大な大地を目に入れた瞬間、半狂乱に叫び声を上げてジタバタと大暴れ。

そしてーー。

「あ…」

巨大な鳥は暴れ続ける彼を離してしまいました。

即ち、高高度の上空から彼は落とされたのです。

「イヤアァァァァァァァ!!」

グングンと近付いてくる大地。全身に襲う風圧。シロは体液と言う体液を全身から垂れ流し、心の底から声を張り上げます。

そう。恐怖の叫びをーー。


〜〜〜


それから3年の月日が経った頃。

帝国と呼ばれる国の一部にはマリューの森と呼ばれる深い森がありました。

そして、そこに一匹の獣が住み着いていました。

獣は目にも止まらぬ速さで移動しては止まり、移動しては止まりを繰り返し、時には木々を足場に高速で移動しています。

そんな獣に追われているのは、その獣よりも大きな存在。俗に魔物と呼ばれるモンスターです。

魔物の姿形は様々で、人の形をした魔物や巨大なドラゴンなんてのもいます。そして、現在、獣に追われている魔物は猪の姿をした魔物でした。

猪の魔物は、大木とも言えよう幹の太い木々を軽々と体当たりのみで薙ぎ倒し、脇目も振らず一心不乱に直進。必死に背後から迫り来る獣から逃げています。

しかし、そんな逃走劇も長くは続きません。

側面に激しい衝撃を与えられると共に大きく弾き飛ばされたのです。

猪の魔物は予想だにしなかった衝撃に反応できず、体勢を崩し、飛ばされた先の大木へと強く体を打ち付けました。

そして、ゆっくりと顔を持ち上げ、衝撃を与えた者へと恨みの篭った眼差しを向けーー生き絶えました。

最後に、猪が見たのは二本足で立つ赤目をした白銀色の獣の姿。

獣は、今夜の食材となる獲物である猪から視線を外し、遠くを見て呟きます。

「……ご飯…見つけた」

どうやら、新たな獲物を見つけたようです。

ーーニヤリと口元を空に浮かぶ赤い三日月のように歪める姿は、まるで人のようであって、人間とは掛け離れていました。





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