天魔界戦

皇神凪斗

第60話 恐怖

アルマの全身の痛覚が刺激される。それは切り傷など関係ないほどの痛みだった。
地面に叩きつけられた事など全く感じないくらいに。
「外傷はない。ただ痛みを与えるだけだ。」
内臓を痛め、動くだけでも鈍痛が響く身体で戦っていたアルマだが、限界が近づいていた。
魔法で作られた竜は直ぐに『聖剣』で弾いた。しかし、感覚的な痛みは十数秒続いた。アルマにとっては何十分にも感じられた。
その後残ったのは切り傷の鋭く小さな痛みだ。『聖剣』を握りしめ立ち上がろうとする。
「・・・あ?」
腕と脚に力を込める。しかし、震えるばかりで四肢は動こうとはしない。
アルマは別の感情が浮かび上がる。
「クソっ!!びびってんのか!?」
恐怖だ。痛みに対する恐怖。戦うことによって感じる痛みを避けるべく、身体が戦う事を拒否していた。
「動かないなら、こちらから行くぞ?」
魔法を使った本人なら理解しているはず。その不敵な笑みが苛立ちを呼ぶ。
ロキが手を前に出す。具現化した魔力が向かってくる事を感じる。
「『天の盾てんのたて』!!」
アルマの叫びと共に、正面に光が満ちる。その光は大きな盾となってアルマの身を守る。
何かが『天の盾』にぶつかった事が重音で知らされる。
「本当に厄介な『神器』だな。・・・しかし。」
ロキは素早くアルマの背後に移動する。そして、『魔剣』を振り下ろす。
「盾の弱点は背後と決まっている。」
「させねぇよ!!」
アルマが『聖剣』を強く握ると、『天の盾』はアルマの背後に移動し、『魔剣』を受け止める。
その時、アルマはロキの姿を確認する為に後ろを向いていた。
よって元々正面にあたる方向に『魔法陣』に気づくのが遅れてしまった。
「・・・『轟雷槍ごうらいそう』」
正面から槍の形をした激しい雷が向かってきた。
アルマは『聖剣』を両手で握り、なんとか身体の前に掲げる。
「『エクスカリバー』!!」
魔法は無事、弾くことが出来た。しかし、盾を大回りして魔力が左右から迫ってくる。
アルマは『聖剣』を地面に突き刺し、崖を登るように腕の力だけで身体を前に移動させる。
すぐ後ろで轟音。
アルマがロキに向かって手を前に出すと、『天の盾』はロキを遠くまで押し返す。
「やっと力が入るようになってきたぜ。」
まだ少し震えが残るが、立ち上がる事が出来た。
ロキはさっさと『天の盾』を躱し、攻撃の為アルマに向かってきていた。
アルマは反射的に、『聖剣』に魔力を溜め始める。
「『天の───』・・・落ち着け馬鹿野郎!魔力は無駄遣い出来ねぇんだ!!」
『魔装』を続ける為には魔力を少しずつだが消費する。いくら『聖剣 エクスカリバー』が魔法を無効化するとしても複数の魔法を完全には捌ききれないだろう。
『天の剣』や『天の雫』は魔法より格上の『神器の能力』である為『魔剣 レーヴァテイン』に魔力を吸収されはしない。しかし、その分魔力の消費が大きい。
さらに、ロキは『天の剣』を避け、『天の雫』も剣で弾くことが出来る。ダメージの無いまま魔力が無くなれば、ロキの魔法を全力で見に受けるだけ。勝ち目など無くなる。
「それにしたってあいつの魔力は底なしかよ!!」
さっきから具現化した魔力を破壊はしていた。破壊された魔力は空中に散って身体に戻ることは無いはずだ。つまり、ロキはずっと自分の魔力を消費し続けている。
アルマより魔法を使い、アルマより劣った身体能力をカバーするために『魔装』にそれなりの魔力を費やしている。
「何か悩み事か?お前が考え事とは珍しい、な!!」
ロキの『魔剣』を受け止める。次に、アルマの顔目がけて足が飛んでくる。
アルマは大きく飛び退いてしまう。

「びびんな畜生!立ち向かえよ俺!!」

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